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霊感ケータイ  作者: リッキー
紗代
255/450

139.素性


信濃へと向かった光と芳子の一行が宿屋に泊まっていた。


「ここが、今日のお薦めの宿屋ですね・・・」


「老舗と言う感じでしっかりとした店構えですな。」


紗代から書いてもらったガイドブックのような旅の覚え書きを頼りにしながら道を進んでいる二人だった。


「紗代様のお薦めは・・大津の鮒ずしでありますな・・

 甘くはござりませぬが、一度、食してみたいと思うておりました。」


「なるほど・・・」


この時代、現代の様な鮒ずしなどあったのかどうかは定かではないが、古い文献には平安時代に塩と米で作られたものが存在していたらしい。

発酵させて、保存食として使われていたのであろう。


おそらくは、鮒にまぶしたご飯を保存用に塩漬けにしていたら、発酵して、臭いはひどいが、保存がきいた・・というのが元の姿だと思う。



期待していた夕飯が終わり、湯屋で入浴した二人。すっかり、旅の疲れも癒された感じだったが・・



「な・・なんと・・・」


「布団・・・並べてありまするな・・・」


女中が布団を敷きながら、芳子に話しかける。


「仲のいい兄妹の方々に粗相のないようにと言われまして・・・」



「兄・妹・・・・!!!!」


その言葉に、絶句した芳子・・

実際は、芳子の方が3つも光よりも年上なのだ。14歳、現在の中学3年になったばかりの光と高校3年の17歳の芳子・・


男女二人が並んで寝る事よりも、光より年下に見られていたのがショックだった・・・

確かに、精神年齢は、光よりも幼いのだが・・・


「光殿・・私・・立ち直れませぬ・・・」


「芳子殿・・・」

それ以上は何も言えない光・・








それでも、気を取り直そうと必死の芳子・・


「光殿!

 私、妹でもようござりまする!」


どういう意味なんだろう?

一緒に寝ても良いって事なんだろうか???


「いや・・おのこ女子おなごが、共に寝るというのは・・・」


途方にくれてしまう光。

でも、少なからず、芳子は光の事を想っているのだろうか?



「大丈夫です!

 私は、光殿を信じております故!」


な、何を信じているのだろう??

夜、襲わないという事なのだろうか?

でも、光君だって、中3なら歴とした思春期、真っ盛りなんだぞ~。



「では、こうしましょう!

 布団の間に、衝立ついたてを置くというのは!」


「いえ!その様なモノ、必要ありませぬ!」


何か、芳子さん・・・かなり積極的なのですが・・・(わ~わ~)

ますます、混乱してしまう光・・・


「我が叔父上と、光殿の母上様が婚儀に至れば、我らも、歴とした親戚関係になりまする!

 それこそ、私めにとって、この上ない幸せ!

 望月の君様が叔父上と結ばれる事を、ずっと夢見ておりました!」


何だか・・それって、かなり赤の他人に近いのですが・・

親戚と言っても、光君と芳子さんでは、血は全く繋がってないのですよ・・・


しかも、光君は頼光の子・・・








それを聞いた光が、目を細める。


「それがしもでございます・・・

 私も、母上とヤスマサ様が一緒になれば、

 良いと思うておりました。

 息子の言うのも、何ではありますが・・・


 母上は、ずっとヤスマサ様を慕ってきたのです。


 私は・・・

 母に喜ばれずに生まれてきた身・・・

 私など、生まれてこなければ・・・

 ヤスマサ様とも、縁を結ぶことができましたでしょうに・・」


「光殿・・」


その答えに、言葉を無くす芳子・・・



「私めは・・

 幼少の折りより、


 ずっと・・

 自分が生まれてこなければ良かったと・・

 思うておりました・・・」








    ・

    ・

    ・

    ・


ドドドドオドドドドオドオドド・・・・・



高野山の奥にて・・・


滝に打たれ、精神集中の修行をしている光・・

5歳頃だろうか・・

その小さな体、一身に怒涛に降り注ぐ滝水を受けている。



「まだまだじゃ!!

 雑念に溢れておる!!」


滝の脇に立って、指導をしている望月の君。

険しい表情で、厳しい言葉を浴びせている。


その水の勢いに負けて、倒れ込む光・・

微動だにしない望月の君。


「うう・・・母上・・」


「母上など、ここには居ない!

 自らの心と向き合うのじゃ!

 助けも乞うてはいかぬ!」


その言葉に、キッとなり、少しずつ立ち上がる光・・

何とか頭を、水の打つ際まで体勢を整え、再び滝行を続ける。







高野山・・・

度々、この物語にも登場するが、


現在の和歌山県伊都郡高野町にある山々の総称である。

平安時代前期に弘法大師空海が修行の場として開いた、比叡山と並ぶ日本仏教における聖地・・・。


ただし、空海の開いた「真言宗」は、密教の思想を色濃く残している。


どちらにせよ、この時代、寺院や神殿は、現在の大学と同じレベルの学力、技術を誇っていた。

宗教的な役割もさりながら、学問や医療、建築などの技術の粋が集まっていたのである。


「学校」という概念が無い分、こういった寺院がそういう役割を担い、

各地にある護国寺、国分寺などは、政府レベルでの分署にもあたり、地方を治める重要地点となっていた。


そして、

望月の君も、この高野山にて陰陽師の修行をしていた経緯もあり、

大納言に仕えている時期にも度々、ここを訪れ、情報交換をしていたようだ。


「光」に関しても、幼い頃から秘めている霊力を認め、この地での修行を決意する。







半日も滝行を行い、身も心も疲れかえっていた幼い光・・

何とか歩いているといった様子だ。


母の後ろをおぼつかない足取りでついていく・・・



「おっ母さん、今日はたくさん取れたねえ!」

「そうねえ!おじいちゃん達に早く見せたいわね・・」


ふと見ると、農家の親子が楽しそうに歩いて行くのが見えた。

山菜採りの母親が籠をしょって、その後ろを支えながら、おしゃべりをしながら家路へと急いでいた。


 親子・・


普通ならば、あのように仲むつましく暮らすのだろうか・・

その親子も、ほぼ今の光と望月の君と同じくらいだった。


望月の君も、その様子を横目で覗っていたが・・・


「光・・・」


「はい・・母上・・・」


「そなたは、私と、さるお方の間に生まれた・・

 あのような・・平和な家族の暮らしとは程遠い世界で、私達は暮らしていた・・・」


「さる・・お方・・

 私の父上ですか?」


その言葉に、すぐには答えられなかった望月の君・・・







「私と、その方は・・・

 やり方や道は違えど、

 その目標は同じもの・・・


 国を治めるため・・ 

 あのような、平和に民が暮らせる国を

 作り上げたかったのじゃ・・・」


「ならば、その方は、

 立派な、お方なのですね!


 私の父上は!」

その円らな瞳を見つめる望月の君・・・ぽつりと言う・・


「似ておる・・

 そなたに、そっくりじゃ・・・」


そう言って、キッと険しい表情となった望月の君・・

思いついたように振り向いて、足早に歩いて行く。


「母上・・・」


頼光・・父親の面影を残した光・・

光の顔を直視するたびに、望月の君に、頼光に犯された時の屈辱が込み上げてきた・・


ヤスマサの身の安全と引き換えに、主である大納言をも裏切ってしまった事・・

それゆえ、光の顔をまじまじと見ることは避けていた望月の君・・・


その仕草を見て、自分を嫌っているのだと思い込んでしまう光だった・・


母の後を追いながら、先程の親子をチラッと見る。



父親の顔も分からず、

母親から毛嫌いされている身の上とは、

全く違う










望月の君の身を寄せている寺へと戻ってきた望月の君と光。


「只今、帰りました!」


「ほう・・今日はだいぶ長い修行でしたな・・光様・・

 さあ!奥に夕食の支度が出来ております。」


寺の住職が優しく迎えてくれた。


「望月の君様・・・」


奥の部屋へ戻ろうとしていた望月の君を呼び止める住職。


「どういたしました?」


「少し、お話があるのですが・・・」


「はい。後ほど、伺います。」


着替えの服に身を包んでいたものの、体が冷え切っている光。

裏口の框に座り込んで、しばらく動けなかった。

小さいながらに、長時間の滝行は厳しいものがあったのだ。




庭を眺めていると、外から、勇ましい姿をした僧侶の一団が入ってきた。

それぞれに先端の刃に白い布を被せた長い棒を携えている。


「自警団」・・


自ら、寺院を守る為に組織されている武装した僧侶達・・

裏口に腰掛けている光に気づく。


「おう!そこに居るのは光ではないか!

 どうしたのじゃ!!」


疲れかえっている光に声を掛ける。


「た・・滝行で、疲れたのでございます!」


たじたじの光・・


大の大人が、しかも武器を持って威勢のいい態度なのだ。


「ほう!滝行とは、また、大変な修行じゃっな!」

「幼き時から陰陽師の修行か・・それはご苦労なことじゃ」


腰につけている脇差に目が行く光。


「これが、目に付くか!」


「はい」


「どれ・・見せてしんぜよう・・」


興味津々の光・・脇差を抜いて見せる一人の僧侶・・

鈍く、鋭く光る短刀・・幼い光にとって初めて・・、その刃がとてつもなく綺麗に見えた。


興味深く、その刃に見入っている光・・

まるで、吸い寄せられるかの如く、一心に見つめる。










「何をしておる!!!」


奥から声がする。

見ると、望月の君が血相を変えて、こちらに叫んでいた。


「これは・・望月の君様・・」


僧侶達が頭を下げ、その場に伏せる。


「光!そのような、刀を、見るではない!」


「母上?」


「そなた達も、光に刃物を見せてはならぬ!

 修行の身の上ゆえ、雑念の多き、刃物は心を荒らす。」


「は!真に、申し訳ございませぬ!

 以後、気をつけまする。」


そう言って、庭のほうから本堂のほうへ歩いて行く僧侶達・・・

修行中とはいえ、なぜ、刃物から遠ざけれるのか不思議に思っている光。


 



 



住職の部屋へと赴く望月の君。


「望月様・・大納言様から書状が参っております。」


「して・・何と?」


「はい・・

 都では、新たな帝が即位されましたが、

 今まで関白を支えてきた頼光様がお亡くなりになられたことで、

 軍勢を引っ張っていく雄々しき者が見つからぬという事です。」


「そうでしょうね・・

 頼光・・

 あれだけの軍勢を率い、統率を利かせ、

 自らも先陣に立てる程の腕を持ち、

 政にも、諸外国との交易にも精通した者は

 おりませんでした故・・」


「関白様にしてみれば、

 亡き先の帝との代償としては

 大きな存在を失ったわけですな・・・」


「関白殿も、

 亡くなられた帝や、茨木の君様と

 手を携えて、政に精を出して頂けたなら・・

 このような事にはならなかったものを・・・」



「それは、過ぎたるが故に

 言える事でござりまする・・

 あの御方も、先代の帝の意思を継いでおられるのです。

 先の帝を敵対視するのも無理もない話です。

 茨木の君様とは、水と油の如き仲・・・」



茨木の君の父である先々代の帝は、血縁関係のある次の帝の策略によって、命を落とした。

関白は、その先代の帝に仕えて、政の要を任されていたのだが、

帝の病死によって、状況が一変する。


子供の居なかった先代の帝に代わって、白羽の矢が当たったのが茨木の君の子であった先の幼き帝であった・・

先々代の帝の意思を継ぐ茨木の君は、関白と全く考えが違っていた。


民の事を考えて、温情豊かな政を志す茨木の君・・


 しかし、政を支える財政は、度重なる飢饉もあって、逼迫する方向へと導いてしまった。


国益と繁栄を目指す関白は、庶民より、搾り取る年貢を高め、


 民からは「悪政」と噂されてはいたが、

 飢饉に備える食料の備蓄と、国土の開墾、

 また、中国を始めとした諸外国との交易を押し進める事で、

 財源確保が順調に回復しつつあった。


どちらが、政として最適なのかは、わからないが、真っ向から対立する政への姿勢が、後の悲劇を生む。










「都でも、悪しき噂が広がっているという事です・・」


話を続ける住職。


「悪しき・・噂・・とな?」


「はい。

 政に苦しめられている都の民や、

 先の帝の怨念がはびこり、再び「もののけ」が姿を現わしていると・・・」



「もののけ・・か・・」


それまで、都を脅かしていたのは、関白を中心とした帝抹殺に向けた謀略の自作自演であった。

正体は、頼光の息のかかった妖術師であり、人間だった。


しかし、


昨今、都を脅かす勢力は、酒呑童子を中心とした「妖怪」である。

先の帝が亡くなられてから5年の歳月が経っていたが、

その間に丹波の山で力を付けていた酒呑童子が、いよいよ都へと攻めてくるという噂がたっていた。


「伊吹丸・・

 いよいよ都へと上って来るか・・


 都は

 まだ、軍を統率できる武将は・・


 ・・・・・


 まさか!」




「さよう・・

 そのまさかです。


 先の東方遠征にて手柄を立てた、

 ヤスマサ様に妖怪討伐の白羽の矢が立っておるのです。」



「何とも!

 そのような・・・!


 それは、この上なく・・・

 忌々(ゆゆ)しき・・ 事・・」


越後の国で、竹馬の友であった伊吹丸とヤスマサ・・

都で幼き帝を支えている時は、二人とも仲の良い同志であった・・

それが、敵対する間柄になるとは・・何とも皮肉なものだった。









「それで、

 ヤスマサ様は・・何と・・?」


「何度か断わってはおるようですが・・・」


「そうであろうな・・・

 その役目は、ヤスマサ様には、酷な事態すぎる・・

 相手は妖術を使う猛者共・・」



「妖術に精通した者が不足しております・・・

 都に在籍する陰陽師に収集がかかったようですが・・

 力のある者が少ないようで・・


 相手が、妖怪であればなおさら・・

 都を後にする輩も、多々あると・・」



「ヤスマサ様に、勅命が下るのも、時間の問題か・・・」

なにやら、考え込んでいる望月の君・・・


「望月様・・・?」







「ヤスマサ様を、御支えせねば、ならぬようです・・・

 近く、都へ上るとしましょう・・」



「そのお体では!

 頭の腫瘍が再燃したと、お聞きしました。

 妖怪との対決になれば、お命とて・・」


「これも、宿命でしょう・・

 初めて伊吹丸と出会った時から、

 ヤスマサ様の身を危険にさらす存在だと・・

 感じておりました。


 いずれは対決をしなければと・・

 覚悟はしておったのです。


 それ以上に、

 ヤスマサ様を魔の手からお守りせねば・・


 イクシマ様は、もう、この世にはおられないのです・・・」





「住職・・

 お頼み申したき事があります。」


「何でしょう?」


「光の事です。」


「光様を?」



「私が、京に上った折りには、

 あの者を、陰陽師として育ててほしいのです。


 あの者は、私の霊力以上の能力を持ちます。

 上手く、その力が使えれば、私に代わって、

 ヤスマサ様を御支えする事ができましょう・・・」


「その事で、

 光様の事で、話したい儀もあり申した・・・」


改めて住職が話し出す。


「光の事で?」


「さよう・・・

 望月様は、光様に辛く当たっておることが多く見受けられます。


 陰陽師としての修行を進めたい一心だと理解はしておりますが・・・

 光様を見る、御目が、少々、気になるのです。


 あの頃の歳頃ならば、

 母親との愛情を欲する時期・・


 そして、

 先ほどの、件ですが、

 刃物に対して、必要以上に注意を払われておいでですが・・」


「父親の血です・・・

 あの者には、半分、好んで人を斬る者の血が流れておるのです。


 刃を見る時の、あの者の目は

 父親の・・人を危める時の目にそっくりになる。


 人を人と思わぬ、修羅の目になるのです。


 いえ・・

 あの者の顔を見るたびに、

 父親の影を見てしまう・・・・・」


「望月様・・・」


「あの者に、剣術を教えては、なりませぬ・・

 それが、いずれ、他人を犠牲にし、

 己の家族や、愛する者までも、不幸に道連れにしてしまう・・・」



望月の君は、光が父親の頼光や伊吹丸と同じ、滅びの道に落ちる事を懸念していた。

そして、その予見は、現実のものとなる。



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