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霊感ケータイ  作者: リッキー
紗代
253/450

137.出立


「それでは、行ってまいります!」

芳子が張り切っている。


「芳子様、道中、くれぐれもお気を付け下さい。

 本来は、私が行かなければならない所を・・」


紗代は心配の様だった。


「いえいえ、紗代様には、ヤスマサ様の元に居て頂きたい故、

 ここは、私らにお任せください!」



芳子が張り切っている反面、気負いしている光・・

門まで送りに来ている望月の君をチラッと見る。


「それでは、行ってまいります・・」


芳子と光・・珍しい組み合わせであるが、二人で、門を出て、一路、信濃を目指した。







ルンルン気分で街道を歩いていく芳子。


「楽しそうですな・・芳子殿・・」


「はい!

 紗代様に、道中での寄る所を書いて頂きました。」


「寄る所???」


胸元から、幾重にも折られた紙を取り出す芳子。

それを広げると、街道沿いの甘いものが食べられる場所、見どころが細かく書いてあった。


「街道沿いで、お薦めの場所を書いて頂きました。

 色々と御馳走になりましょう!」


至福の喜びに満ちている芳子・・


「それだけ、詳しく書いてあれば、

 あの御方も、本物なのでは・・・」


「え?どういう意味でしょうか?」


「あ、いや・・

 本物の「通」ではないかと・・」


「そうですよね~。ホント、楽しみです!」


脳天気な芳子と一抹の不安の残る光であった。











ヤスマサの邸宅。


縁側から庭を眺めている紗代・・

そこへ赴く正子。いつもの町娘風の着物ではなく、屋内での艶やかな着物を着ている。


慣れない様子の正子・・


「紗代様・・

 どうかなさいましたか?」


「これは、正子様・・・」


「芳子も信濃へ向けて旅立ちました・・

 紗代様のご両親への挨拶、上手く行くと良いのですが・・」


「本来は、私が行くところ・・

 誠に、申し訳なく思うております・・」


「ご心配なく・・

 紗代様に教えて頂いた「お薦め」の喰い処を回れると・・

 芳子も張り切っておりました故・・」



「さようでございますか・・

 芳子様も、甘いものがお好きなようで・・」


「本当に・・!

 あの者の甘党にも、困っておるのです。

 よく、肥え太らないとヒヤヒヤしておるのです。」


クスクスと笑っている二人。打解けている感じがした。














「そこに居ったか・・ 正子・・


 紗代様も御一緒で・・」




そこへ、和泉の君が向こうの廊下から歩いてくる。

正子同様、艶やかに着飾っている。



「これは、和泉の君様・・」

半歩引いて身を正し、和泉の君に頭を下げる紗代。

紗代に軽く会釈をして正子の方を見る和泉の君。


「どうじゃ、新しく仕立てた着物は・・」

正子に訊ねる和泉の君。


「はい。少々、きつうございますが・・」



「そなたは、動き回ってばかりだからのう・・

 たまには、そうやって女子おなごらしく、いと慎ましくした方が良いのじゃ・・」



「私は、動いていたほうが、気が楽です。」


正子の返答に半分、呆れた顔の和泉の君・・




「それでも、正子様は、やはりお姉さまでございますね・・

 清楚で落ち着いておられます・・」

見かねた紗代が正子のフォローする。



「それは、見た目ばかりじゃ・・

 いつも、我らに心配ばかり掛けよる・・・

 この間も、鬼火の山まで入って、童子と一戦交えたと聞く・・


 女子おなごのする事ではないわ・・」


さりげなく先の事件を責める和泉の君。


「その説は・・

 ご心配をおかけしました・・・」

ペコリと頭を下げる正子。こんなに素直なのも珍しい・・

いつもならば、反発して、口げんかになってしまうのだった。







「それにしても、紗代殿は、誠、イクシマにそっくりじゃ・・・


 生き写しにでも会っている様じゃの・・」





「イクシマ様・・・ですか・・・」



紗代は、イクシマの話を薬師寺の道中で、ヤスマサから聞かされていた。




「私と、イクシマは越後に居た時からの幼馴染じゃ・・

 兄上達と、良く、野山を駆け、遊んだものよ・・」



「和泉様・・が・・ですか?」

和泉の君の昔話に、驚く紗代。


「母上・・人の事は言えぬではないですか!」


「ふふ・・そうじゃのう・・・」


和泉の君にとって、越後での想い出が懐かしく思えていた。

幼いイクシマを連れた伊吹丸・・兄と一緒に、遊んだ日々・・










  ・

  ・

  ・

  ・


遠い昔・・


越後の国・・・


田んぼの脇の水路で、何やら眺めているイクシマ。


「イクシマ・・何を見ておるのじゃ?」


和泉が不思議そうに聞く。


「オタマジャクシにございます。」


「オタマジャクシ??」


「はい。蛙の子でありまする。」



「蛙の子????

 跳んだり、跳ねたりする、気持ちの悪い生き物か??」


「気持ち悪くは、ありませぬ。

 ご覧ください。」



恐る恐る覗く和泉。

黒い丸い体に尾ひれのついた生き物が、無数に泳いでいる。


「ほう・・これは、魚のようなモノじゃな・・・」


「可愛らしゅうございます。」


「でも、これが、あの蛙になるというのか?

 足も生えておらぬが・・」


「大きくなると、足が生えて来るようです。

 手も出て来るとか・・」


「この尾ひれはどうなるのじゃ?」


「そのうちに、取れてしまうのでしょう・・」



「幼いうちは、水の中か・・

 いずれは、野原を飛び回り、自由に動き回れるのじゃな・・・」


「はい。ぴょんぴょんと跳べるのです。

 気持ちの良い事でありましょう!」









「さようか・・・

 私とは、全く逆じゃのう・・・」


表情が曇っている和泉・・


「和泉様?」


「私は・・

 いずれは、どこぞの家の殿方の所へ、嫁に行かねばならぬ・・

 そこでは、このように、自由に動ける身では無くなるのじゃ・・

 都での暮らしは華やかだと聞くが・・

 家の仕来たりや戒律も厳しいと聞く。


 お子を産むだけの・・

 道具として扱われる家もあるとか・・・」 


「それは・・

 辛いものですな・・・」



「蛙が羨ましく思える・・

 私も、自由に・・・

 想っている人の所へ嫁ぎたいものじゃ・・・


 伊吹様・・」




「和泉様は・・・伊吹丸様の事が・・・」


「慕とうておる・・・

 好きで好きで・・たまらぬ・・

 夜も寝れぬ事もあるのじゃ・・」


瞳が潤みだす和泉・・


「私と、同じでございまするな・・・」


「イクシマ?」


「私も、ヤスマサ様の事をお慕い申しております・・

 それは、

 叶わぬ、願いではありますが・・・

 一緒に居たいと・・

 思うております。」



「そうか・・・

 我らは、似たようなものじゃの・・・」


「はい。

 女子おなごは切ない生き物でございますな・・」


越後の野原で、二人、苦い笑みをもらしている和泉とイクシマだった・・・








「おう!和泉ではないか。」


「お兄様!」


「ヤスマサ様!」


山寺で、剣術の稽古を終えたヤスマサと伊吹丸が歩いてくる。


女子おなご二人で、何を話しておったのじゃ?」

伊吹丸が聞いてくる。


「別に!女子は悲しゅう生き物だと申しておったのです!」

イクシマが答える。


「ほう・・女子がのう・・」

顔を合わせる伊吹丸とヤスマサ。


「では、おのこに生まれてきたかったのか?」

伊吹丸が聞いてくる。


「え?」


「女子が嫌なら、男であれば良いのか?」


「それは~~・・・」


ヤスマサを見つめながら、考え込むイクシマ。


「何じゃ・・はっきりせぬな・・」


「女子の方が、いいに決まってます!」

怒り声のイクシマ。


なぜ、怒っているのか分からない伊吹丸。

先程は女子が嫌と言っておきながら、女子の方が良いという・・


「伊吹様!あまりイクシマをいじめないでください!」


見兼ねた和泉が、伊吹丸に注意を促す。


「え?ワシは、男が良ければ、男に生まれれば良いと言うたまでじゃが・・・」


「伊吹様~!!!怒りますよ!!

 イクシマも女子なのですから!!」


無神経な伊吹丸に、和泉が赤い顔をして怒り出す。なぜ、怒られているのか分からない。









見兼ねたヤスマサが仲裁に入る。


「ふふ・・まあ、そう怒るな。和泉・・

 男には男の役割や幸せに思う事がある。


 女子には、女子の幸せもある。

 それぞれ、違うのも無理はないのじゃ。」


「男の幸せ?ですか?」


「ああ・・

 男は、家を守り、国を守らねばならぬ。

 帝に仕える事こそ、最高の誉、幸せじゃ。」



「そうですな!

 我々も、そのために修行を積んでいるのでござる!」

伊吹丸も息を合わせる。


「さようでございますか・・

 女子とはかなり違いまするな・・」

和泉の君がポツリと言う。


「では、女子の幸せとは何なのじゃ?」

和泉に聞き返すヤスマサ。


「女子は、

 好きな方と仲睦ましゅう暮らし、

 赤子を生み、子を育てるのでございます。」


「好きな男とのう・・・

 伊吹丸と暮らしたいのか?和泉は?」


いきなり、本命を言われた和泉。顔が赤くなっている。


「もう!お兄様も意地悪でございまするな!!」


「なんじゃ!本当のことじゃろうが!」


「知りませぬ!」


何故、怒られているのか分からないヤスマサ。


「ほんに・・女子という物は、分からぬ生き物じゃ・・」


「全く・・男って分からない人達ね・・!」









 

  ・


  ・


  ・

再び、京の都。ヤスマサの邸内・・


「ふふふ・・男と女子か・・・」

和泉の君が思い出し笑いをしている。


「どうなさいました?母上?」


「うむ?

 幼い日々は・・・幼かったと思うておったのじゃ・・」


「幼い時は・・幼いでしょうな・・」


当たり前の様な事を言われて、戸惑っている正子・・


「イクシマも一途であった・・

 兄上への想いを伝える為、

 はるばる越後から都まで登って来たのじゃ・・


 女子が男を想う心は

 何よりも、大きな力を発揮するモノじゃ・・」


「大きな力・・ですか・・・」


「私は伊吹丸様に・・

 イクシマは兄上の事を想うておった。


 今思えば、

 叶わぬ思いであったが、


 女子が恋をする事は、

 人の育つ道で、必ず通るのじゃ・・


 そなたも、もう19じゃ・・

 思いを寄せる御方の一人や二人はおろう?」


「はあ・・

 幼き頃から、陰陽師の修行をしておりました故・・

 男との出会いは・・・」



「ふむ・・つまらぬのう・・

 例えば、光殿とかはどうなのじゃ?」



「光???

 何で、私が、光殿をお慕いせねばならぬのですか?

 あの無骨者が・・!」










「ハッーーーークショイ!!!」


特大のくしゃみをした光。


「どうしたのでございまするか?光殿・・」


不思議に思った芳子が聞いている。


「いや・・誰か私めの噂でもしておるのかと・・・」


「噂とな・・・

 何か悪い事でもしたのであろうか・・?」


「何やら、背筋がむずがゆく・・・」


街道を歩きながら、何とも言えない気分の光・・




  ・

  ・ 

  ・


  ・



再び、ヤスマサの邸内。和泉の君と正子、紗代の3人で恋心について話している。



「さようか・・

 光殿には、魅かれるモノが無いか・・」


意気消沈している和泉の君・・


「では、芳子はどうなのであろう?

 そなたよりは、乙女の心もありそうじゃが・・・」



「芳子にござりまするか?

 あの者の頭の中は、「甘いもの」でいっぱいにござりまする!」















「ブエーーーーックショイ!!!」


大きなくしゃみをする芳子。


「どう、なされました?芳子殿??」


「うう・・・誰か、私めの噂でもしておるのでしょうか・・・

 何やら・・背筋が・・ゾクゾクっと・・・」


「芳子殿の・・噂ですか・・・」

途方に暮れている光・・


「今宵は、早めに宿屋へ泊まるとしましょう・・・

 どうも調子が悪く・・・」



「さようでございますな・・」


次の宿場で泊まる事を決意した二人・・










「何とも、色気の無い姉妹であるな・・・」


諦め加減の和泉の君・・



「まぁ、まぁ・・恋心と言うのは、常に出でるものでもござりませぬ。

 正子様や芳子様にも、しかるべき時に、良き出会いがありましょう・・」

紗代がなだめている。


「ふむ・・しかるべき時とな・・」


「はい。殿方との出会いは、まだ、これから何度もありまする。

 正子様も、それまで、女子の嗜みを、よく身に着ける事にございます。」


「はぁ・・女子の嗜みでございまするか・・」

正子にとっては、一番苦手な分野だった。


「私は父上の元で育てられた故・・

 女子の嗜みよりも、男の仕来たりの方をよく、存じております・・

 馬の乗り方や、弓矢の打ち方・・」

和泉の君の居ない間、大納言の邸内では男児のように育てられた正子だった。



「そうであったな・・・

 そなたとは、最近になって、ようやく一緒に暮らせるようになったのだからのう・・」


重い表情となる和泉の君。だが、一人頷いて(うなずいて)自分に言い聞かせるように語り出す和泉の君。



「さればじゃ・・


 さようであるが故に、そなたに女子の躾をつけねばならぬのじゃ・・

 済まぬ事をしたと、思うておる・・・


 私が、ずっと見ておれんかった故・・

 空白だった時を取り戻したいのじゃ・・


 親子としての・・時間をな・・・」



「母上・・・」

和泉の君は、先の帝討伐の折りに、大納言の元を離れることを決意して、兄ヤスマサと共に熊野の山へと向かった。


大納言に、二人の子供・・まだ稚児だった正子と芳子を預けて・・


そこで、最愛の伊吹丸との決別の時を迎えた・・

ヤスマサの目の前で、自ら妖怪と化した伊吹丸。


その事実を知り、都へは戻らず、高野山にて単身、供養の道を辿っていた。

亡くなった先の帝や茨木の君、熊野のナカヒラ一族の霊を、ひたすら弔っていたのだ。


そんな折り、ヤスマサの妖怪討伐の話が舞い込み、

伊吹丸との対決に備えて、ヤスマサの元へと戻ってきた和泉の君であった。

  

あわよくば、妖怪と化した伊吹丸を改心できればと、こころの隅に思っていたのだった・・


そして、ヤスマサの邸内で、離れ離れになった正子、芳子と再会する。


幼ない頃から、霊力に秀でていると見抜いた大納言によって、

正子達は、陰陽師としての修行を積んでいた。


ヤスマサの補佐として、大納言から陰陽師として遣わされた、正子と芳子・・。












「母上・・伊吹様・・という御方は?」


「伊吹丸様か・・・あの御方は、とうに亡くなられた・・・」


「亡くなられたのですか?」


「そうじゃ・・

 先の帝の討伐の際・・


 熊野の砦にて、火に巻かれて亡くなられたのじゃ・・

 イクシマと一緒にな・・・


 あの時は、親しかった御方達が次々と亡くなられたのじゃ・・」



「それは・・

 悲しゅうございましたな・・・」


空を見上げて、呟く和泉の君・・・



「今は、再び、もののけの蔓延る世となってしまった・・・

 伊吹丸様は、このような都を、どう思うておられるのかのう・・


 誰よりも、美しい都を慈しんで(いつくしんで)おられたものを・・


 幼き先の帝や茨木の君様・・

 あの御方たちの慈悲に溢れた政が、懐かしい・・・


 伊吹様・・・」


「母上・・」


和泉の君の想いとは裏腹に、空はからっと晴れ、山々には青々と木々の葉が芽吹いている。


いつになく、穏やかな日であった・・・




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