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霊感ケータイ  作者: リッキー
悪霊
25/450

二十四. 悪霊との対決

僕と彼女が校舎の3階にたどり着き、


教室に入ろうとしたとき、急に中が騒がしくなった。


蛍光灯が点灯したり、消えたりしている。


「ポルターガイスト現象!」

彼女が叫ぶ。


「ポルターガイスト?」


「こんなにすごいの・・

 初めてだわ・・」


教室の椅子、小物が大風にでも吹かれているかのごとく、飛び回っている。


これが世に言うポルターガイスト!

悪霊退治もクライマックスといったところか・


思わず脚がすくむ。

こんな相手に、僕たちで歯がたつのだろうか・・


不安がよぎる。


「ふう・・・」

彼女が深呼吸をした。

こんな時に、よく落ち着いて居られるものだと感心した。


「大丈夫?」

僕が尋ねる。


「うん!

 修行の成果を試す時が来たわね!」


かなりの自信があるようだった。

そして、教室の中に向かって、立ち尽くす彼女。


何やら唱えている。


「色即是空、空即是色・・・」

良く聞くと、般若心経のようだ・・


すると、今まで激しく飛んでいた机や椅子がぴたっと止まった。

修行の成果なのだろうか・・


点滅していた蛍光灯が消えて

騒がしかった教室が、急に静かになった・・・


それも不気味だった。


「ヒロシ君。行くよ!」


「うん。」

頷く(うなずく)僕を確認した彼女。


 ガラ!・・


僕が教室の扉を開ける。







静まり返った教室。

思わず息をのむ。


 トッ・・・


彼女が教室の扉から一歩踏み出した。

僕も恐る恐る彼女に続く。


暗い教室。

今夜は月が出ているはずなのに、真っ暗闇だ。

先程までポルターガイスト現象によって、大小のモノが宙を舞っていたはずなのに。


「いる!」

彼女が小声で呟いた。


「ノウマク サンマンダ バサラダン・・」


彼女が何やら呪文を唱えている。


何が起きているのか・・

僕は霊感ケータイをカメラモードにして辺りを見渡した。

彼女の呪文と共に、教室の床のあちこちから霧のようなものが立ちこめているのが分かった。鈍い褐色の煙だ。

その煙が少しづつ教室の中心に円を描いて回ってきている。


「グウウウウウウウ・・・・」


不気味な声が霊感ケータイから聞こえてきた。


「ヒロシ君!霊感ケータイのスイッチを切って!

 生体エネルギーを消耗するわ!」


「うん。」


ピッ


僕はケータイのスイッチを切った。

何も見えなくなってしまうが、彼女の言うとおり、さっきのうめき声を受信しただけで、少し疲れが溜まってきていた。通話機能を使うと生体エネルギーを消耗してしまう。スイッチを切っておかないと、悪霊の方から一方的に通話してくるのだ。


「マカロシャダ サハタヤ ウン タラター カンマン!」


呪文と共に、サッと右手を横に伸ばした彼女。

二本の指をピンと突き立てている。


ババッ


その手を素早く、何かを振り払うように横に振る。

何が起こっているんだ?


「ハッ」

バン!

かけ声と共に両足を床に踏ん張った彼女。








ガサガサ・・・・・


辺りに風が吹き始めた。

さっきまで、シンと静まりかえっていたのに、急に騒がしくなった感じがする。


「姿を隠しても無駄よ!」

彼女が教室の中心に向かって叫んだ。

風がさっきよりも強くなっている。


教室の中心に渦が舞っているのが分かった。


「あれは・・・」


「悪霊が動き始めたわ。

 さっき攻撃が来たけど、跳ね返したわ。」


悪霊からの攻撃が来た?

霊感ケータイを作動できないので全く分からなかったが、彼女には見えているらしい。


「オン コロコロ センダリマトウギ ソワカ!」


ビシッ!

彼女が床に向かってサッと手をかざす。


「結界を敷いたわ。

 これで悪霊の攻撃を防げる!」

結界?

守備系の技で防御をするのか?1週間の修業で色んな技を覚えて来たのだろうか。

さっきにも増して頼もしく見える。


教室内の空気が更に慌ただしくなっている。

バサバサと床に散乱した教科書やノートがめくれている。


「南無大師返照金剛!」

ババッ


再び、右手を横に突き出した彼女。

その手を教室の中心の、空気が渦を巻いている場所へ向かって投げ出す。


ギン!

鈍い音がして火花が一瞬光った。


バリバリバリバリッ

今度は、彼女の周りで何かが弾ける音がする。

悪霊からの攻撃なのか?


「その程度の攻撃で、私の結界は破れない!」

彼女が教室の中心に向かって叫んでいる。

やはり、この教室に悪霊が居るのか。

激しい応戦が彼女と悪霊との間で繰り広げられているようだ。


バサバサ!

床に散乱していた教科書やノートが風に煽られて宙を舞い始めた。

ポルターガイスト現象だ。

怒りのエネルギーに満ちている。


「霊体エネルギーでは叶わないと思ったらしいわね。」

彼女が不敵な笑みを浮かべながら呟いた。




ババババッツ

無数の教科書やノートが強風で飛ばされて彼女の周りに打ち付けられる。

バリアが張られているが如く、ノートがはじき返されている。


「実体攻撃をしても無駄よ!

南無大師返照金剛!」

ビシッビシッ


ギン!ギィン!

彼女の攻撃が続く。教室の中心でその攻撃を跳ね返す音がする。

ポルターガイスト現象に怯まずに(ひるまずに)悪霊と対決出来るなんて。

凄い!エクソシストを間近で見ている。







ビューゥゥゥ!・・・

教室内の空気が更に荒れて大嵐のようになっている。

ズ・ズ・・

強風によって周辺の机が徐々に動き出している。机を動かす力が働いて周りの空気も動いているのか・・

悪霊のエネルギーも凄まじい。



ゴオオオオオオオオ・・・・・・!

竜巻のような突風で無数の机が宙に浮いて舞っている。


「マズいよ!

 あんなのが当たっら!」

思わず恐怖で叫んだ僕。


「大丈夫よ!お母様の力も持って来てる!」


「お母様?」

彼女が差し出して見せたお札。

山で修業をしていたと聞いているが、指南をした彼女のお母さんの力が込められているのか・・


バシッビシッ!


ガン! バン!

お札を左右に振る彼女。

こちらに向かって飛んで来た机が跳ね返されている。

凄い!これなら勝てるかもしれない!


ビシッ バン!


何度も机が彼女をめがけて飛んできたが、ことごとく打ち返されていく。

いや。飛んでくる机も量が減っている。

その勢いも衰えて来ているようだった。



「力を大分消耗してきたようね。

 ヒロシ君。私の後ろに隠れて!

 大技を出すわ!」


「う・・うん。」


彼女の言うとおりに、後ろに身を潜める。

その動作を確認するやいなや


「ボーディ スヴァーハ!!」

呪文と共に目一杯上に上げた両手を教室の中心に向けて振り下ろした彼女。


パキィーーーー!!!!!


バリバリバリバリ!

教室の中心で無数の閃光がほとばしる。

彼女の言う「大技」なのか?



その瞬間、教室内を騒がせていた強風がピタッと止んだ。







暗い教室・・



シーンと静まり返っている・・・



「ハァ・・ハァ・・」

彼女の息が荒い。

先程の技で霊力も大分消費したように見える。


「やったの?」

恐る恐る、僕が聞いてみる。


「う・・うん。

 大半の霊気は浄化したはずだけど・・」


この学校の霊を取り込んで、かなりの霊気だった。

残るは悪霊本体のみだという。




「あそこに、一体の霊が居る・・」



彼女が、教室の真ん中に、霊が居るとつぶやく・・



 ピ・・



僕は霊感ケータイのカメラを作動させ、彼女の指さす場所の方に向けてみた・・




うつむき加減の女の人が映し出されている。




いや霊?




どこかで見た覚えがある・・





「母さん?


 何で?」




忘れもしない・・


あれは僕の母だ!


白装束に身を包んだ母の姿がそこにあった。




「そんな・・・


 私の結界を破るなんて・・」




思わず動揺し、恐れを口に出した彼女。



その顔は恐怖に満ち溢れていた。



いったい何が起こっているのだろう?








僕はケータイを見ながら、恐る恐る、近づいていく・・




悪霊の正体は僕の母だったのか?




そんなはずは無い。





やさしかった母、父を最後まで見守っていた母・・





僕は、放心状態に近く、その母の方へと引き寄せられる。




本当に、母なのか、確かめたかった・・




そして、何が起きているのか・・








「ヒロシくん!危ない!」





 バシィ―――――!!!





「うっ!」




僕をかばった彼女の体を何かが貫いた。



見る見る力が抜けていく・・






「ごめん、守れなかった・・・



 ヒロシ君・・逃げて・・」





彼女が、がっくりと倒れ込む。



僕の腕の中で気を失う彼女・・・






突然、



霊感ケータイから不気味な声が鳴り響く。




「残念だったな!


 この女は私に取り込まれていたのだ・・!」




悪霊の声?




霊感ケータイのカメラ映像を見る・・



何とおぞましい光景か・・



母の姿が、あの恐ろしい悪霊の姿に変わっていく・・








母が悪霊に取り込まれているという



彼女も瀕死の状態だ。



僕一人でどうしろというのか




  絶体絶命!・・



ぐったりした彼女を連れて逃げられるのか?


相手は彼女でも歯が立たなかった悪霊なのだ。


焦りで頭がいっぱいになった。


霊感ケータイで悪霊の姿は見えても、対抗する手段が無い・・




いや・・



ある。



彼女を抱えた手を見る・・


手首に巻いた布切れ、般若心経の書かれたタオル・・



・・・ 魔除けなの ・・・

 もしもの時はこれで逃げて・・



彼女の言葉を思い出した。


そう言えば、あれから悪霊が襲ってきていない。

彼女の気の入ったタオルがあれば、悪霊もうかつに手を出してこないのか?


魔除けのタオルがあれば、逃げられるというのか?


でも、ここは3階だ。

廊下からしか外に出れないし、二人が逃げられる確率は、ものすごく低いだろう。


辺りを見回しても、何も居ない。

心で感じようとしても、僕には霊感が全く無い


どうすれば・・・


焦りで教室の出口が遠くに感じた。


    チャラララ・チャラララ


その時、霊感ケータイが鳴った。

ケータイに母の電話番号表示されている。


悪霊に取り込まれた母からだ。


ピ・・


僕は通話ボタンを恐る恐る押した。


「・・・ヒロシ

 ・・・ごめんなさい、


 あなたの周りにいたら、

 この悪霊に捕まったのよ・・」


母の切ない声が聞こえてきた。


「母さん!」









悪霊に取り込まれていても、会話ができるのだろうか?

そして、母を信用してもいいのだろうか?


「私が、何とかして動きを止めるわ!

 その間に逃げて!」

悪霊に取り込まれていても、母の意識はあるようだった。


悪霊の動きを止める?

僕達を助けるのか?


「母さん、

 悪霊は何処に居るんだ?」


「あなた達の後ろよ!」


ケータイのカメラでそっと後ろを覗いてみる。




僕たちの直ぐ後ろにうごめいている。


背後から襲おうとでもいうのか・・


その鬼気迫る形相・・


この世のものではない・・



「早く、逃げて!!!!」


母が悪霊の動きを止めるというが、そんな事ができるのだろうか?


だが、


確かに悪霊の動きが変だった。

僕たちの後ろで、襲いかかろうとはしていたが、それ以上、動けないようだった。


悪霊に取り込まれながらも、その動きを封じようとしているのか?


この間に、彼女と一緒に逃げられるのか・・・


その時である。

霊感ケータイから、悪霊の声がする。


「この女達!

 いちいちワシの邪魔をしおって!」


「息子は渡さない!」


「母さん!」


母と悪霊との会話が霊感ケータイから流れてきた。


悪霊が、激しい動きで辺りを動き回り始める。


ケータイでその姿を追う僕・・


母の抵抗を阻止するかのように、メチャクチャに動いている。


「息子は・・渡さない!!」

母も必死に抵抗しているようだった。



「ち!

 あくまで逆らうならば、

 こうだ!!!」


 バシィーーーーーーーーー!!!!!!


母が悪霊の体から放たれる!


床に打ち付けられる母。


 「うう!!!」

床に倒れる母の姿・・












「母さん!

 よくも!!!!」


霊感ケータイ越しに、悪霊を睨みつける僕・・


「ははは!

 このワシにどう立ち向かうというのかな?!」

あざ笑う悪霊の声が霊感ケータイから聞こえてきた。


確かに、僕には、何の力も無い・・

床に倒れた母を見つめるだけで、彼女を抱えて、どうしようもない。


  ・・どうすれば!・・


辺りを見渡しても、何の方策も浮かばない。




 カーーーーー!!!



その時、

霊感ケータイ越しに、窓の外が急に明るくなった。



「何だ?この光は!」



悪霊が叫んでいる。


悪霊にとっても予期せぬ事態なのだろうか?



   味方・・

   なのか?


窓をすり抜けてスーッと光が教室に入ってきた。


「おにいちゃん!」



あの子だ!

雨宮先生の娘さんだ!


更に、もう一つの光が教室に入って来た。

娘さんのお父さんも一緒に駆けつけてくれたらしい・・




悪霊の周りを二つの光がグルグルと回り込んだ。

その光に翻弄されている悪霊。


「何だ?この二人は!」


    ガッ!!!


次の瞬間、左右の光が悪霊の両手を取り押さえた。



「おにいちゃん!早く逃げて!」



押さえつけてはいるものの、振り落とされそうになっている。

二人に、そんなに力があるわけでもない。



「ハハハ!そんな非力で何をしようというのだ!」


遊ばれているような感じだった。

必死に抑えようとしているが力が及ばない。



  バシッーーー!!!


「グ!」

次の瞬間、

悪霊の動きが止まった。

今度は、何が起こったのだ?




「ヒロシ!逃げて!」

母が悪霊の足元にしがみついている。

3人で、必死に悪霊の動きを止めている。



  逃げる??



その時・・

僕の手に巻きつけてある般若心経の書かれた布切れ・・

彼女の気の入ったタオルを見つめる。


「僕に

 できることは・・」


霊感ケータイで母と通話しているため、僕も疲労していた。


一回きりのチャンスだろう。

これを逃したら、もう後は無い!







「僕も、


 戦う!!!」



手に巻いてあった布を両手で力いっぱい引っ張り、悪霊の顔をめがけて飛び掛り、布を巻きつけた!



「ギャーーーーーー!!!!!!!!!」


霊感ケータイから悪霊の叫び声が聞こえる。



  やった!


上手くいったようだ。


悪霊に巻きつけた布切れが宙を舞う。


右往左往している、もだえ苦しんでいるようだ。


その隙に


彼女を連れてこの場を去ろうとした。

音楽室ならば彼女の敷いた結界が張ってある。


あそこまで行けば安全なはずだ!


彼女を背負い、教室から出ようと、廊下の方へ向かう。


こちらも霊感ケータイを使用したので、かなりダメージをくらっている。

疲労が激しく、頭がクラクラする。


一歩二歩踏み出すのがせいいっぱい









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