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霊感ケータイ  作者: リッキー
母と父と
21/450

二十.  父と母と・・


次の日・・


彼女から渡された「霊感ケータイ」・・

僕の部屋の机の上に携帯電話を充電して置きっぱなしにしていた・・


うっかりしていたのだ・・

これが大事件に発展するなんて思ってもみなかった・・・


・・このケータイで

  命を断った人が居る・・


彼女からあんな話を聞いて、ちょっと気味が悪くなったのだ。

学校に持っていくのに何となく抵抗を感じていた。





その日の夕方である。

ボクは勉強のために図書館へ・・



  ガタン


早めに帰ってきた父。

重いドアを開けて、靴を脱ぎ、居間へ向かう。


玄関から廊下を歩いていると、ボクの部屋のほうで、携帯電話が鳴っていた・・



 チャラララ・チャラララ


僕の部屋のドアを開けて、机の上に充電中の携帯電話を見つける。


僕は中学生だから、まだ携帯電話を勝手に契約して所持する事はできないはずだった。

そんな僕が持っている携帯電話と言えば・・


「霊 ・ 感 ・ ケータイ?」

父がつぶやく。


授業参観の日に先生との会話で出てきた、あの不思議な携帯電話が目の前にある。

ケータイの表示画面には、母が生前使っていた携帯電話の番号が流れていた・・


「そんな・・!


 まさか・・」


 ピッ。

携帯電話を握り、恐る恐る通話ボタンを押す父・・


「もしもし・・

 あなた?・・」


懐かしい母の声が聞こえてきた。


「響子・・・

 なのか?」


    ・

    ・

    ・

    ・



ガタン・・


重いドアを開け、僕が帰ってくる。

夕食を作らねばならない時間になり、図書館から急いで帰って来たのだ。


玄関の足元を見ると、父の靴が脱いであった。


「お父さん、帰ってたの?

 メシ作るね~」


居間の方へ声をかけるが、返事が返ってこない。


どうしたのだろう?


靴があるという事は、既に家に帰ってきているはずだ。

疲れて寝ているのだろうか??


玄関を上がり、廊下を歩いて行く僕。

寝ているのならば、起こさない様にと静かに居間の方へ向かう。


だが・・


僕の部屋のドアが開いているのに気づいた。


父が勝手に入ったのだろうか?

いくら親子でも、勝手に入られるのは、ちょっと不満だったが、ある事に気づいた。


そう言えば、

霊感ケータイを机の上に置きっぱなしだったのだ・・・


何か不安がよぎる・・・


部屋の中を覗いてみる。


薄暗い僕の部屋・・



いつもの通りの僕の部屋・・


何の変りもない。




だが、


机にはケータイの充電器のみが置かれていた。


父が持ち出したのだろうか?




 パチ・・



部屋の照明のスイッチの紐を引いた。

薄暗い部屋が明るくなる。


足元を見ると、



机の手前の床に倒れこんでいる父の姿!

その手には「霊感ケータイ」・・・


「前の持ち主は、

 この電話で命を絶ったのよ・・」



彼女の言葉が脳裏によぎる・・




    まさか!




父に限って、自ら命を断つ事などない!


横たわる父の傍に駆け寄り、鼻の先に手をかざす。

息はしている・・


握られているケータイの通話は切られていた・・

長電話ではなさそうだった・・


だが、霊感ケータイで通話をしていたらしく、生体エネルギーをかなり消耗してぐったりしている。



  どうしよう!



心で叫ぶ僕・・


その時・・


 チャラララ・チャラララ


霊感ケータイの着信音が鳴り響く・・・

父の手から、霊感ケータイを取ると、携帯電話の表示に母が生前使っていた電話番号が流れている・・


 お母さんからだ!


 ピッ・・・

恐る恐る通話ボタンを押す。


「もしもし、ヒロシ?」


懐かしい母の声・・

彼女との出会い以来、霊感ケータイで二度目の声を聞いた。


「お母さん!」


母に答える僕・・霊感ケータイで母に話すのは初めての事だった。


だが・・


「救急車を呼んで!

 早く!」

慌てた様子の母の声が聞こえてくる。救急車を呼んで欲しいらしい。

父に何が起きたのか心配になった。


「お父さんは、どうなってるの?」


「その電話で、私と話をしていたら

 急に倒れたのよ!!」 


父は霊感ケータイで母からの電話を受けて、話しているうちに疲労して倒れてしまったらしい。


この部屋に居るというのだろうか?

彼女の話では、半年前は僕の近くに居たらしいのだが・・


それよりも、今は、父が心配だ。


「この電話で通話すると疲労するんだよ!」


「そうみたいね・・

 でも、

 お父さんのことは心配しないで・・

 あなたとも長くは話せないわ! 

 切るわね!」



 ツーツー・・・


通話を切った音がする。

お母さんにも、この電話が生気を吸い取ることが分ったらしい・・・

僕にも、ドッと疲れが押し寄せてきていた。短時間でも霊感ケータイで通話すれば疲労してしまうのだ。


だが、今は緊急事態だ!

一刻も早く、父を病院へ連れて行かなければ!


居間にある電話へと向かう。


「119・・」


こわばって振るえる指でやっとの思いで、救急車を呼んだのだった・・・










暗いモヤのかかる空間・・

父はヒザを抱えて一人、うずくまっていた。


ここは、何処かもわからない。


先程まで母と話していたら、急に目の前が暗くなり、気が付いたら、この場所に佇んでいた。


不安になり座りだして、もの想いにふけっていた父・・



母が病気で亡くなり、残された僕を抱えて途方に暮れていた日々・・

家事と仕事を両立させながら、何とか生活を送っていた。


再婚の話もあったけれど、断り続けてきた父・・

母の事が忘れられなかったのだ。


僕が家事を手伝うようになり、生活も廻りだしていたが、成績が落ちているという。

僕も母が居ないというコンプレックスを抱えているのは、薄々感じていた父・・


父と僕の二人だけの生活では、何事にも限界があった。

祖父たちが見兼ねて、父に見合いの話を持って来ていたが・・・


このままの生活を続けて行けるのか・・

新たな生活を始める時期にきているのか・・


父の心の中でも、母の事は、整理が付いていない・・・



「響子・・・


  オレは・・


   どうすれば・・・」


背中を丸めて、呟く父・・・




その背中が、軽くポンと叩かれる・・



  「あなた・・・」



はっとなり、後ろを向く・・

懐かしい母の姿があった・・



「響子・・

 何処に行ってたんだよ?」


父は母が死んだことなど、理解していた・・

でも、どこかに居ると、ずっと思っていたのだろう・・


涙ぐむ、父・・


「ずっと、アナタを見守っていましたよ・・」


優しい表情で答える母・・


「オレ、どうすればいいんだろう?」


「一人で、辛かったのね・・」


「ああ、辛かった・・」




「ごめんなさい・・私・・」


うつむく母を、父が抱き寄せる・・・


「君が謝ることは無い・・

 寿命だったんだから仕方が無いって思ってるよ・・

 いや、仕方が無いって言い聞かせてきた・・


 君のところへ行こうと、何度も何度も思ったよ・・


 でも・・

 ヒロシもいるし・・

 生活を諦めることもできない・・」


「出来ることなら、私も帰りたい・・・」


それは、叶わぬ願いだった・・・





父の顔を見つめる母・・・


「ねえ!

 もう、

 答えは出てるんじゃない?」


母の問いに戸惑いながら答える父・・


「でも・・

 オレはまだ・・、

 君のことが忘れられない・・」


「ありがとう・・

 でも、

 今のままでは生活は無理よ・・」


「それは・・」


俯いて視線を反らす父に母が続ける。


「今のアナタには・・

 心の支えが必要よ・・

 くじけそうになったときの心の支えが・・

 私の写真を見ているだけでは解決しないのよ!」


その言葉に、直ぐには返答が出来なかった父・・


だが、しばらく考えて、答える。


「そうだな・・

 もう・・


 オレだけの力では・・

 無理なのかも知れない。」


父の手から、ゆっくりと離れる母・・・


「私は、


 アナタが幸せになれればいいって・・


 願っているわ・・」



離れて行く母に向かって、手を伸ばすが届かない。



「響子!!


 オレ・・


 幸せになれるんだろうか?」


遠ざかって行く母に叫ぶ・・


「大丈夫・・

 私は、いつまでもアナタを見守っていますよ・・・」

微笑む母・・

そして、その姿がスーっとモヤの中に消えていく・・



父の伸ばした手が空しく空を掴む・・

母の消えて行った場所を見つめ続ける父・・



「響子・・」








暗いモヤの中、

どこからか、僕の声が聞こえてくる。


「お父さん!

  お父さん!」


はっと目が覚める父・・


「ヒロシ・・」


父が返事をする・・心配そうに見つめる僕の姿が目に映る・・

今まで見ていたのは、夢だったのだろうか・・


夢にしては、鮮明にはっきりと覚えている。

母を抱いた感覚が、微かに残っていた。


「ここは?・・」

僕に訊ねる父。


「病院だよ。

 ずっと気を失っていたんだ。」


見渡すと、病院の救急看護の部屋・・

ベットに寝かされている父だった。


「そうか・・

 オレは、霊感ケータイで・・

 響子と・・」


呟いた父が、僕の隣に、女の人がいるのに気づく・・


「あなたは!・・」




雨宮先生の姿があった。


この病院にあの子のお礼を言いに挨拶に来ていた時に、偶然、父が救急車で担ぎ込まれたのだった。


「良かった・・!

 心配したんですよ!」

父が意識を取り戻し、笑みを浮かべた先生・・


「ご心配を・・

 おかけしました・・」


気まずくなったのか、目線を反らした父を見つめ続ける先生・・・



 ひょっとして・・


 僕って邪魔者??



そう思って部屋を出ようとした僕に気づいた先生。


「ヒロシ君?

 何処へ行くの?」


「え?

 あ・・

 ああ・・

 

 望月さんに電話してきます。

 父が気がついた事、連絡しなきゃ・・」


呼び止められて、それらしい言い訳をした僕。


「そ・・そうね。

 お願いするわ。」


どうやら先生も納得した様子。

何とかやり込めたと安心し、部屋を出る僕。





病室に父と先生の二人が取り残される。

ずっと向こうを見続けている父に、改まった感じで話し出す先生。


「話はヒロシ君から聞きました。

 霊感ケータイで、奥さんと話をしていたって・・・・」


先生は霊感ケータイで通話すると、生体エネルギーを消費することを知っていた。

先生も娘さんと通話する体験をしている。そのまま話し続ければ命を失う危険もあるという事も・・・・


「はい・・・

 響子と・・

 話をしました。」


向こうを見ながら答える父・・


「そうですか・・・

 懐かしかったでしょうね。

 ずっと、会えなかったのですから・・


 私も、娘と話をした時は、

 懐かしい想いと・・

 嬉しい想いと・・

 同時に悲しい想いも湧いて・・

 複雑な心境でした。


 それほど長くは話せなかったけど・・」


自分の体験を淡々と話す先生に、急に振り向いた父。


「私は・・

 一瞬、

 息子を残して、響子の元へ行こうとしたんです・・」


「お父さん・・」


父が堰を切ったように先生に告白する。


「あの電話で会話を続けていれば、

 響子の所へ行けるって!


 あのまま、生体エネルギーを消費すれば、

 あの世へ行けるって!


 今の生活を捨てて・・

 ヒロシさえも捨てて行こうって


 苦しみもの無い世界へ行けるって!

 楽になれるって・・!


 あの一瞬、そう思ってしまった!」


目を硬く閉じて、打ちひしがれる父。

やはり、父は死のうと思って霊感ケータイを使ったのだろうか・・


スッと、先生の手が父に伸びる。


「そんなの!

 当たり前ですよ!!!」


父の両肩を掴んだ先生が叫ぶ。


「え?」

意外な答えに、あっけに取られた父。


「そんなの、

 当たり前です!!


 私だって、

 あのケータイであの世に行こうと思ったんです!


 娘の元へ!

 亡き夫の元へ行こうって!


 家族の居ないこの世に一人で居たって・・

 何の楽しみも

 未練も無い!


 何を幸せに暮らせばいいのか!

 悲しみに打ちひしがれているくらいなら、


 いっそ、死んだ方がマシだって!


 でも・・


 でも!


 最期の最後に・・

 娘が、それを拒んだんです!」


先生の目に涙が溢れていた。

必死に父の肩を掴んで迫る。


「娘さんが?」


「『ママには幸せになって』って・・!

 娘が望めば、

 そのまま、あの子の元へ行けたのに!」


「雨宮さん・・・」

落ち着きを取り戻した父。


「死んでも尚・・

 私の生を・・

 望んでいるんです!


 あんな・・

 優しい子を

 手放したくなかった!!


 愛おしい我が子を!!

 私が代わりに・・


 死ねれば・・

 良いって!」


父の肩に掴まりながら泣き崩れる先生。

先生の肩にそっと手を伸ばした父・・



「私も・・

 同じです・・・」


「え?」

父の顔を見上げた先生。



「響子に、通話を切られてしまったんです・・・

 このまま、

 響子の元へ行こうって思った瞬間・・


 響子の方から、拒絶されました。

 『まだ、こっちへ来てはいけない』って・・

 『自分のカルマを克服しない限りは、まだ修行をしなければならない』って・・・」



「修行?」


「人には、その人、その人に与えられた修行が用意されているという事でした。

 そのカルマを克服するために、人は生きているんだって・・


 響子には響子のカルマがあり、

 娘さんや旦那さんにも、この世でのカルマがあった・・


 『死ねる』って事は、

 そのカルマを克服できた証なんだって・・・」



「カルマを・・

 克服できた・・

 証・・?」


コクリと肯いた(うなずいた)父が話を続ける。


「私のカルマは、まだ達成されていない。

 それは何かと、響子に訊ねたんですが・・

 それを見つけるのも、カルマの一つなんだって答えが返ってきました・・」


「カルマを探す事も・・

 その人の・・カルマ・・」


涙がいつのまにか止まっていた先生に、父が少し笑みを浮かべて話し出す。


「響子が一つだけ、ヒントをくれたんです。」


「ヒント?」


「はい。

 本当はヒントも教えちゃいけないって言われたんですが、

 今回は特別だって・・」


「今回は・・

 特別・・?」

不思議な話の転回に興味を示す先生。

母から聞かされたカルマのヒント??


「『生きている幸せ』を、まず探せって・・」


「生きている・・

 幸せ?」


その時、ある事を思い出した先生・・・


「そう言えば・・・

 娘が死ぬ前です。


 ヒロシ君に、

 『生きている幸せって何?』って・・

 聞いていたって・・言ってました。」


「それは・・・」


「偶然なんでしょうか?

 私達の・・

 カルマなのでしょうか?」


不思議な感覚で満たされる父と先生・・・



「あの・・・」

父が再び、先生を見つめてポツリと言う。


「はい・・・」

先生も改めて父を見つめる。


「これも何かのご縁です。

 お互いにカルマを探し合えば、


 その・・・

 少しは楽になると思うんです。

 独りで探すよりも・・」


「そうですね・・

 同じ境遇なら、

 見えない事も、見えそうです。」


お互いに見つめ合う二人・・・

気が付けば父が先生の肩を抱いている形になっていて、急に意識して顔を赤らめる。



「あの・・」

父から話を振る。


「はい・・

 何でしょうか?」

自然に答える先生・・


「これから・・

 お茶でも・・

 飲みに行きませんか?」


恥ずかしそうに、先生を誘う父・・


「え?」


「その・・・

 今日の・・

 お礼です。」


理由を少し考えて、それらしく誘ったつもりだったが、どこかぎこちない・・


そんな父を見て、


「はい!」

笑みを浮かべて答えた先生。

何の「お礼」なのかは、分からないけれど・・・











「ふうん・・・

 良かったね!

(チっ・・負けたか・・1000円損した!)」


公衆電話の先で、彼女が答えた・・


「ひょっとして・・、

 こうなる事を予測して、オレに霊感ケータイを渡したの?」


「まぁね!

 私は、お父さんを信じてたよ!

 お母さんもいるしね!」

得意そうに答えた彼女。

でも、どこまで信用していいのか怪しいところもある・・・


「でも、雨宮先生が病院に居たのは偶然だったのかな・・

 何か、話が出来過ぎてるんだけど・・」


「うふふ!

 偶然は、必然・・」


そう言いかかった時、


  ガチャ・・・


 ピー ピー ピー


あ、テレホンカードが切れちゃった・・・

長距離電話だと、あっというまに消耗してしまう・・


でも、彼女の声をもっと聞きたかったな・・

なんだか寂しいとも感じていた僕だった。


実際は1日しか会っていないだけなのに・・・

もう何日間も会っていない様な気がした。


それは、出会ってから、ほぼ毎日顔を合わせていたからなのだろうか?



 こんな気持ち・・


 初めてだった・・・


厳しい修行ってどんななのだろう?

早く帰ってこないかな・・・







その夜・・


父と先生の二人で夜中の街中を喫茶店を探して、さ迷い歩いていたらしい・・


どうも帰りが遅いと思ったら・・


真夜中に開店している喫茶店なんて、あるワケがない。


いい大人が・・


時間を考えろよな!





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