91.階段下の少女
北側校舎を探し回っていた僕の所へ、沙希ちゃんが走ってくる。
「部長!!」
「沙希ちゃん・・どうしたの?」
ハアハアと息が荒い。血相を変えて走って来た沙希ちゃん・・
「水島先輩に、階段下の少女が取り憑いているって・・
副部長から連絡があったんです!」
「何だって!?
あの霊は!」
彼女から、階段下の少女が危ない存在だと聞かされていた。
除霊の初っ端から、居るはずの場所に居なかったのだ。
何処へ行ったのかと不思議に思っていたけれど、先輩に取り憑いていたとは・・・
「じゃあ・・
先輩が・・・」
「はい。自分と同じ境遇に陥れるって!」
それは、一大事だ・・
先輩が自殺に追い込まれるというのか・・
確かに、一連の出来事によって、先輩が精神的に追い込まれている・・
「沙希ちゃん!皆に知らせて!」
「はい!」
千佳ちゃんと拓夢君へ知らせに行く沙希ちゃん。
しかし・・・何処へ行ったのだろう?
不安と心配の念が募る・・・
その時・・・
僕の脳裏に、ある場所が浮かんだ・・・
先輩の・・
秘密の場所
僕は、屋上の塔屋の上に向かった。
塔屋にかかった梯子を昇ると・・
うずくまっている先輩の姿があった・・
ずっと心配して探していたのが見つかり、一安心した・・
「先輩!」
「ヒロシ君・・・」
涙目の先輩・・・
梯子から塔屋へ移ろうとした時・・・
「来ないで!!!」
「え?」
「それ以上、近づいたら、ここから、飛び降りるわよ!!!」
立ち上がり、塔屋の端へと向かう先輩・・
何か、思いつめているようだった・・・
一つ間違えば、落下して、本当に、地面へ叩きつけられてしまうだろう・・
梯子につかまったままの僕・・・・
先輩の目は、何かに取り憑かれているかのように・・平静を失っていた・・・
「私は・・
私は・・・
裏切り者なのよ!!
教頭先生に『裏切り者』って言われた・・
もう・・
おしまいよ!!!」
「先輩・・・」
「あなたにも、可愛い彼女が居る・・
二人とも、お似合いのカップル・・
入り込む隙もない・・・
私は・・
何故・・
あなたを好きになってしまったのか・・・
彼女にも・・叶わない・・・」
絶望の縁に追い込まれている先輩・・
感情が高まり、今にも飛び降りそうな勢いだった・・・
僕が塔屋へと移る。
先輩の足が一歩・・後ずさりをする。
「先輩・・待って下さい!」
「もう・・ダメよ!!!
私なんて・・生きている価値は無いのよ!!」
「ダメな事なんかない!!
皆の事を考えた上で、僕に相談したんじゃないですか!!
除霊をして欲しいって!!!
その答えは、立派ですよ!!
部を超えて、博士や部員・・霊の事を考えて出した答えなんだ!!
間違ってなんかいない!」
「でも・・・教頭先生には受け入れてもらえなかった・・・
結果として、あの部を裏切ったのよ・・
取り返しのつかない事を・・してしまったのよ!!」
「だからって・・
自らの命を断つことはないですよ!!!
いつか分かってもらえます!!」
気づかれない様に、説得しながら、少しずつ前へと迫る僕・・
「そんな・・
教頭先生には・・
辛い過去を背負っている・・
霊能者から受けた絶望を・・
ずっと引きずっているのよ・・・
その想いは・・
解ける事はない・・・」
「教頭先生だけが全てではないと思いますよ!」
「いえ・・・
私には・・
教頭先生も
博士も
見捨てることが出来ない・・
あの人たちは・・
悪い人じゃないのよ!
純粋に
『霊』を科学してきた・・
それを
評価してほしいのよ!!」
それほどまでに、教頭先生達を想っていた先輩・・・
二つの部活の狭間で、ずっと悩んでいたのだった・・・
「先輩・・・」
僕には、次の言葉も浮かばなかった・・・
その時・・・
「フフフ・・
もう、言葉も出ないようね・・・・」
この口調は、今までの先輩とは様子が違う・・
あの少女が乗り移っているのか?
「君は・・階段の下に居た・・・」
「その通りよ・・
あなたは、いつも私の側まで来ていた人ね・・・」
悪霊との対決の祭に、毎日、霊の位置をチェックしていた時、必ず訪れた場所だ。
僕は無視するようにしていたけれど、相手は気づいていたらしい・・・
「先輩をどうるすつもりだ!」
僕は、先輩に憑依した少女の霊と対峙する。
「この子は、私と同様・・
失恋の挫折に陥っている・・
私が味わった、あの人との失恋を・・
そして、彼に裏切られた無念を・・
生きる気力も無くなって、私はここから飛び降りたのよ・・」
「同じ事を・・
させようと言うのか!」
「そうよ・・
私は彼から二股を掛けられていたのよ・・
付き合っている彼女が居るのに、
私にも気があるようなことを言ってきた・・
私に希望を持たせておいて・・
裏切られたのよ。
あなたと同じようにね!」
「う・・!」
その言葉は、翔子ちゃんを助けに黄泉の国へ行ったときにも、老婆に同じ事を言われた・・
返す言葉も無いのだ・・
「この子はね・・あなたが好きで仕方が無かった・・
あなたの事を思って、眠れない日もあったのよ!
そんなあなたには、彼女が居た。
この子が、どんなに背伸びをしても、追いつけない彼女が・・
そして、
あなたの部活を助けたい・・自分の部活との板ばさみに遭っていたのよ・・
どうすれば、あなたの役に立つのか・・
ずっと考えていたのにね!
どうせ、捨てられる運命だと知っていても・・」
「僕は、先輩も守りたい!
ただ、それだけだ!」
「男はいつもそう・・・
自分の好みだと思えば、何人でも自分のモノにしようと思っている・・
純真な子は、騙され易いのよ・・
私もそうだったようにね・・・」
「だからって、先輩を道連れにする事はないじゃないか!」
「ウフフ・・
この子が、今度は、階段下に留まる事になるのよ・・
私は、ようやくあの世へ行ける・・
あの人が教えてくれたのよ!」
「あの人?」
「熊の格好をした優しい人・・」
熊の格好・・童子四天王か?
この階段下の少女を使って先輩を殺そうとしているのか?
「そんな事をしても、あの世へは行けない!
行ったとしても地獄だ!」
「ウフフ・・それはどうかしらね・・・」
その言葉を残して、先輩が我に返る・・
あと、数メートルという所まで近づいてはいたけれど・・・
その事に気づいた先輩。
「近づかないで!!!それ以上近づくと、本当に死ぬわよ!!」
「死ぬ???」
僕の心にその言葉が突き刺さった・・・・




