80.過去
部員達が荷物を抱え宿の前に集まっている。
女将さんをはじめ、旅館のスタッフ一同が揃っていた。
あの女の子も見送りに出ていた。
楓ちゃんが話しかける。
「『座敷童』さん!」
ビクっとなる女の子。
「ごめんなさい・・私・・・」
「いいのよ。気にしないで!
あの時は、驚かされたけど、良く演じきっていたわ・・・
本物みたいだったもの・・」
「本物?」
「うん。どこで覚えたのかわからないけど・・
素人だと、ああはいかないわ・・
布団の上で飛んだり跳ねたり・・
多分、本物が出るときって、ああいう風に出るんだって・・
思ったの。」
「わからないけど・・
自然に、ああいう仕草をしてました。」
「見たことないの?」
「ええ・・
あ、
でも・・・」
「でも?」
「小さい頃、一人で寝てた時に・・
見たかも・・
その時の様に・・していた・・・」
「やっぱりね!この旅館には居るんだよ・・
『座敷童』が!」
『座敷童』・・それは誰でも見れる、会えるモノではないという・・
小さい子供・・特に、童心の澄み切った優しい心の持ち主にしか、姿を現さないという・・
この旅館の女の子にしても、楓ちゃんにしても、本物なのか偽者なのかは別として、『座敷童』を見たことには変わりは無かった。
「今度は、本物を見に来るよ!」
「はい!」
二人が握手をしあう。
それを見て、女将さんが・・・
「どうも、お騒がせをしまして・・・」
「いえ・・楽しい余興が見れましたよ。
あの子の言った通り、この旅館には『座敷童』が居るようですな・・
私も、是非、見てみたいものです・・
次はちゃんとした機材を用意させていただきましょう。」
「はい。お待ちしております。」
今西が部員達に挨拶を促す。
「ご厄介になりました。」
「またの御出でをお待ちしております。
道中、お気をつけて・・」
「ありがとうございます。」
そう言って、旅路を急ぐ一同・・
『座敷童の居る宿』を後にしたのだった。
駅のホーム
旅館からバスで駅まで移動してきた一行。博士たちも一緒であった。
博士と弥生ちゃんは上下線別の方向である。
オカルト同好会は次の目的地へと急いでいた。
博士と今西、幸子さんが別れのひと時を過ごしていた。
「博士、ここでお別れですね・・」
「うむ。また、会う機会を楽しみにしているよ。」
「はい。今回のレポートが出来たら、お送りします。
あ・・
座敷童の件は、伏せておきますが・・」
「部長!早くしないと乗り遅れますよ!」
楓ちゃんが呼んでいる。既に電車に乗り込んでいる部員たち・・
「わかった!すぐ行くよ!」
弥生ちゃんと幸子さんが別れの挨拶をしている。
「お姉ちゃん、また会えるかな~」
「う~ん。わかんないけど、博士と今西君、気が合うみたいだから、会えるかもね!」
「じゃあ、オレたち、電車が出るので・・」
「また会おう。今西君。」
「はい。博士もお元気で!」
「お姉ちゃん、さよなら!」
「さようなら・・」
読者の皆様には、既にご承知であろう・・
弥生ちゃんと幸子さんは、これが最後の別れとなった。
弥生ちゃんは交通事故によってこの世を去り、
幸子さんに至っては数ヶ月も経たないうちに悪霊との対決が行われ、命を落とす。
電車に乗り込んだ部員達・・
幸子さんが今西に話しかける。
「ねえ。次は何処へ行くの?」
「うん・・今日は強行軍になるよ・・・」
「え~??昨日もかなり、強行軍だったけど・・昨日以上?」
地図を広げる今西。
「そう・・だね・・距離がかなりある・・かな・・・」
その地図を見る幸子さん・・2日目の目的地が5・6個、印してある・・
「こ・・これ、全部回るの?1日でぇ~!!」
「え?だって、色々行きたいジャン・・」
「だからって、ハードスケジュールじゃ、身が持たないでしょ!
行き先、削れないの?」
「みんな、予約しちゃってるからな~。」
「あ~、今西君にスケジュール組ましたのが間違いだったわ!!」
そんな様子を見守る部員達・・
今西と幸子さんのやり取りは、半ば、掛け合い漫才をしているようでもある。
はじめの内は、揉め事の様に聞こえていたが、これが二人のコミュニケーションなのだと、
慣れてきたようだった。それはそれで、心地よい・・
仲のいい二人・・
そんな二人を見つめていた楓ちゃん・・
この時は、二人の仲に入る隙が無いことに、少し憤りを感じていた・・・
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「あの時が一番面白かった時期かな・・・」
家庭科室・・
教頭先生が懐かしそうに高校時代の思い出を話していた。
「今西さんとは、高校からのお知り合いだったんですか・・」
意外な事実に驚いている未来先輩。
「ええ・・部長と副部長・・
あの二人は、本当に仲が良かったわ・・
見ていて気持ちの良いくらいね・・・
私の入る隙は無かった・・・」
「教頭先生・・ひょっとして・・・」
「ええ・・部長の事が好きだった・・
高校も、わざとランクを下げて、入ったのよ・・
でも、今西さんには、彼女が居た・・・」
「諦められなかったのですか?」
「・・・
諦められなかった・・・
今西さんと一緒に活動をすればするほど・・
あの人が好きになっていったわ・・
そして・・・
副部長の・・幸子さんが・・憎くなっていった・・・
目障りな存在・・
あの人さえ居なければ・・
今西さんは私のモノ・・・・
そういった念が強くなっていった・・・」
「教頭先生・・・」
「嫉妬心っていうのかしらね・・・」
先輩の脳裏にヒロシと美奈子の事がよぎった・・・
日に日に募るヒロシへの想い・・・
そして・・・
常に一緒に居る、彼女の美奈子・・・
確かに・・
美奈子さえ居なければ・・・・・・
「でも・・・
霊能者の、あの二人と出会うことで、全てが変わってしまった・・
平和だった私達の部活が・・・」
「あの二人?」
「ええ。あの二人は忘れないわ!
望月 陽子 と 一橋 響子・・・」
「望月?!」
その名に驚く先輩・・
「霊能者で、校舎の除霊をしていたという噂は聞いていたわ・・
その人達とコンタクトを取り出してから、部長達は変わった・・・」
再び、高校の頃を思い出す教頭先生。
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初めの頃は、霊感も無く、陽子たちからは、相手にされていなかった今西も、
その熱意から少しずつ認められるようになった。
今までの心霊スポット巡りで、「想像の世界」で終わっていた部活の活動と裏腹に、
本物の「心霊」の世界を相手に本格的な除霊を行う陽子たち・・
その姿を追うようになり、部員達からも反発の声が上がっていた・・・
オカルト同好会の部室で部員達がささやきだす・・
「最近、部長達、全然方向違いのことしてるみたいなんだけど・・」
「そうだよな・・、研究してる内容も、あまり認めてくれていないよな~」
「いったい、どうなってるんだ?」
「あの霊能者達の影響だと思うんだけど・・
どう思う?早乙女さん・・・」
楓ちゃん・・合宿の活躍以来、部長や副部長と肩を並べる位まで皆に認められるようになってきていた。
部長と副部長の居ない間は、留守居のまとめ役となっていたのだ。
「私も・・
合宿みたいな事がしたい・・
博士との交流も続けていきたいし・・・」
「そうよね~。今の動きは、博士の研究と逆の事やってるんだもんね・・」
「霊」に科学的にメスを入れている博士と「霊の世界」で除霊を行っている陽子達・・
この二つのスタンスの違いが、オカルト同好会をも二分していた。
どちらかと言えば、博士の方向に近かったオカルト同好会・・・
「このままじゃ、部活辞めようかな~」
「そうよね・・つまらないものね・・」
退部をほのめかす部員も出てきた。
「待って!
私に・・少し、時間をちょうだい!」
「早乙女さん・・・」
部員達の動きを部長に伝え、理解してもらって、何とか繋ぎとめようとする楓ちゃん・・




