79.朝食で
次の朝、広間で、朝食を一緒に食べている部員と博士達。
御善には、心なしか料理の量が多く盛られている感じがした。
宿からの口止め料なのかも知れないと、一瞬思ったものの、「好意」だと受け取る事にした今西達・・
男子部員は、何故なのかは分からないだろう・・
博士の隣で話をする今西。
「昨日は、ご迷惑をおかけしました。」
「いや・・私も、探偵ごっこの様な遊びが出来て、いい想い出になりました。」
「え?探偵ごっこ?」
弥生ちゃんが反応した。
「大人のお遊びだよ・・」
「ふ~ん。弥生も見たかったな~。」
「我々も、色々な現象を研究していますが・・
大半は、こうした詐欺まがいなのです。」
「大半が・・詐欺・・」
「人が人を騙す行為・・
それは、許しがたい行為でもある・・
騙した方は優越感に浸れるのだろうが・・
騙された方は、悔しい想いをしなければならない・・」
「そうですね・・・」
「でも・・
騙された方も、騙されたと思わない方が幸せな事もあるのです。」
不思議な事を言い出した博士。
「幸せに・・なれるんですか?」
「『座敷童』・・それは、実態はどうなのか分かりませんが、
見た人は、幸せになれると言われています。
この宿に泊まりに来た人の中には、
怖いもの見たさで来る人も居れば、
苦しい、不幸な人生から脱却したいと・・
そういった人もいるのです。」
「でも・・騙されたってわかれば、残念でしょうけれど・・」
「いえ・・そういう人たちは、藁をも掴む想いで来ている。
仮に、この宿の詐欺に合い、・・騙されて『見た』としても・・
その人にとっては、幸せの糸口・・きっかけになるかも知れないのです。
幸か不幸かは、心の持ち様・・
それまで抱いていた心の蟠り(わだかまり)が払拭され、
それからの生き方が変われば、それは、その人にとって大きな転機ともなり得ます。
ひょっとしたら、その転機より先は、幸せになるのかも知れない。
結果として、その人が幸せになれば・・
また、一瞬でも心の休まる時があるのならば・・
それは、まぎれもなく、本当の『座敷童』を見たことになる・・
それが、子供の扮した偽物だったとしてもね・・」
「そ・・そうですね・・・
『座敷童』を見れば、幸せになるって・・
そうとも考えられますね・・」
「昔、私が小さかった頃・・
お祭りで、よく『見世物小屋』というのがあった。
屋台の並ぶ一角に、四方を塞がれた小屋が設けられ、
その中に、「蛇女」とか怪しいモノが居て、それを覗くだけの催し物だった。
ほんの一瞬だけ見るだけだけれど、子供心に、大きく焼きついた物です。
珍しいモノ、恐ろしいモノ・・そういったモノを見てハラハラ・ドキドキしたものだ・・
今にしてみれば、それは、誰かが仮装していただけの・・
大人が子供を騙して、お金を取ると言った商売だったと・・
良く考えればバカバカしいモノを見ていたものだと思うのですが・・・
その時に見た、旋律・・好奇心と興奮、想像力を掻き立てる・・そういった日常と違った経験ができた。
そういう意味では、
騙される事で、色々教わったわけですから・・
見世物小屋自体は、私にとっては良い思い出になっているのです。
現在は、TVや色んなメディアがあって、情報が溢れているけれど・・
昔は、娯楽も少なく、お祭りや集会など・・
楽しめる機会はそういう時しかなかった・・」
「そうですね・・
今は、色々楽しいモノが手軽に入ります・・」
「我々の時代は、自ら飛び込んで行かなければ、情報は来なかった。
自分から進んで、楽しいものを追い求めて行った・・
無い物は、工夫して、自分で作る。
子供の頃から、
創造力や応用力が養われて行ったのです。
今は、情報が向こうから来る時代なのです・・
何もしなくても入ってくる。
多大な量過ぎて、入ってくる情報を仕分ける必要がある・・
そういった中で育つ子達に、
果たして、創造力や応用力が身に着くのか・・
そういう危機感があるのです。」
「今と昔・・どっちが良い時代なんでしょうね・・・」
しみじみと話し込んでいる博士と今西。
「今回の事は、我々の心の中に仕舞っておきましょう・・
ただし、この世界では、こういった「騙し」の行為もあるという事を心に停めて頂きたい。」
「偽りの・・行為・・ですか・・。」
「今も昔も、人を騙して楽しむ人はいるのです。
そういったモノの中から、本物を見抜く目・・
真実を見抜く目を養っていって頂きたい・・」
「はい。頑張ります。」
今西も博士との出会いが無ければ、おそらく、この宿で座敷童を見たという事を間に受け、報告書を書いていたであろう・・・
そういう意味では、彼にとって、今後の部活の活動を深めていくに当たり、いい機会であった。
「何ですか~?さっきから博士と二人で、別世界になってますが~」
楓ちゃんが、朝食を済ませたらしく、話に割り込んできた。
「ああ・・色々と話し込んでてね・・いいお話を聞かせて頂いたよ。」
「ふ~ん。いいな~。」
「今西君、今日のスケジュールは?」
幸子さんも時間が気になっているようだった。
「いけね!そろっと準備しなきゃ!バスに乗り遅れる!」
「おお・・こんな時間か、私達も急ごうか・・」
朝食を済ませ、荷物をまとめる一同・・




