77.体験
女の子たちの部屋・・
博士が部屋を出てから、直ぐに今西の部屋を片付け、男部屋と女部屋に分かれて寝たのだった。
昼間の疲れが出たのか、皆、ぐっすりと眠っている。
どれくらい時間が経ったのだろうか・・
シーンと静まり返った暗闇の中で・・
パチ
パチ
何かの音に目覚める楓ちゃん・・・
ラップ音なのだろうか・・
人の気配がしている。
寝ている布団の周りを、
誰かが歩いているような・・・
誰かがトイレに起きたのだろうか・・
だが、
いっこうに布団に入る気配がないのだ。
「副部長ですか~?」
枕元に置いた眼鏡を取ろうとした楓ちゃん。
が、
何か柔らかい物に手が当たる・・
少し冷たい・・・
肌の様な触感・・
足?
上の方を目をこらしてみる・・
外からの僅かな明かりで闇に浮かび上がっている・・・
こちらを見下ろしている
女の子の顔・・
昔の羽織を着て、
長い髪の毛が垂れ下がっている・・
「!!!!!」
とたんに、身動きが出来なくなってしまった楓ちゃん。
恐怖のあまりに、体が凍りついているのだろうか・・・・
必死に動こうとするが、体が言う事を聞かない。
これが俗に言う
金縛り
なのだろうか・・・
幽霊が出る時、体が固まって動かない事が良くあると聞いてはいた・・
動けない楓ちゃんをあざ笑うかのように、
女の子が周りを飛び跳ねている。
音もせず、軽々と舞う女の子・・
恐怖感でいっぱいの楓ちゃん・・
脂汗が流れ出ているのが自分でもわかった・・
動こうとしても、全く動けない・・・
必死に目をつむる。
「もう、帰って!!」
心に念じた。
その念に気づいたのか・・
それまで、楓ちゃんの周りを走りまわっていたのを止め・・
いずこかへと姿を消した・・・・
「キ・・・
キ・・・・
キャーーーー!!!」
動けるようになって、ようやく悲鳴を上げた楓ちゃん。
その声に気づいて、とっさに起き上がる幸子さん達女子部員。
部屋の明かりを点ける。
「ど・・どうしたの?」
「で・・・
で・・・・
出たんです!!!」
「え?」
「ざ・・しき・・・わらし・・・」
「座敷童を見たの?」
「はい・・
今・・
私の上で・・・」
バン バン バン
入り口のドアを叩く音がする。
「どうした~?悲鳴が聞こえたけど!」
今西が心配になって部屋まで来ていた。
カギが掛かって入れない。
幸子さんが、ドアのカギを開けると、なだれ込むように入って来た今西。
「大丈夫か?」
「部長~!!!」
女子部員に介抱されていたが、泣きだす楓ちゃん・・
何が何だかわからない今西。
「何が起きたんだ?」
「早乙女さんが座敷童を見たって・・・」
「え?座敷童を~!」
部屋を見渡す。ドアの鍵はかけられていたので、外部から誰も侵入できない。
ガラ!
窓を開ける。
その下は、断崖絶壁・・・谷に面していて、ここからの出入りは、まずできないだろう・・
隣の部屋の窓までも距離があった・・・
密室状態・・・
楓ちゃんに聞くと、小さな女の子・・
ロビーに貼ってある絵に良く似た昔の羽織を着た女の子が、今まで布団の上で飛び跳ねていたという・・
「押入れか?」
バ!!!
押入れの扉を開いても、そこは壁に囲まれた物入れだ。
女子の荷物以外は何もなかった・・
誰も隠れてはいない・・・
外部から侵入できる経路は全くないのだ。
そんな女の子など、隠れる場所も無い・・・
ならば・・
本当に、幽霊?
ここでいう、座敷童が出たのだろうか・・・




