74.祠
「ここか・・・」
博士が目的地についた。
ピ~~
口笛を鳴らして、弥生ちゃんに合図を送る。
「あ・・着いたみたい・・・」
トンネルの出口付近に居た弥生ちゃんが気づく。
「お姉ちゃんも行きますか?」
幸子さんに聞く弥生ちゃん。
「いえ・・私は、ここで荷物を見なくちゃだから・・・」
「じゃあ、私達のもお願いします!」
「はい。
行ってらっしゃい!」
にっこりして、送りだす幸子さん。
今西と楓ちゃんが博士に追いついた。
博士は既に周りの調査をしている。ナタで草木を刈っている。
「博士・・・これは・・・」
今西が訊ねる。
「ふむ・・・これは、古い祠だな・・・」
そこには、古く、朽ちてしまった祠があった。
樹齢数百年くらいの大木が何本か立っていて、その根元には雑木が生い茂っている。
博士が草を刈って、その全容が現れてきた。
崩れ落ちた石造りの祠・・
苔むした屋根の部分や、壁、土台の部分・・
「山に人が入らなくなって、久しい様だ・・
ここは、昔は峠で、多くの人が往来していたのだろうが・・・」
「これが・・
古い祠が・・
原因だったのですか?」
「ふむ・・・
祠というのは『イヤシロチ』の場合が多い・・・」
「イヤシロチ?」
イヤシロチ・・・
遥か昔に書かれた『カタカムナ文献』に出てくる。
この世のモノが「陰」「陽」で大別される場合、その状態は「蘇生型」「崩壊型」のどちらかに分類される。
「蘇生型」の状態だと、モノが腐らず、長持ちする。蘇生型の微生物が活発に活動し、発酵を促す。
逆に、「崩壊型」の状態は腐敗が進むのだ。
「蘇生型」の特性を示す「イヤシロチ」、「崩壊型」の性質を持つ「ケカレチ」が存在する。
昔から、神社や墓地、神聖な場所の場合が多いが、そういった場所は決まってイヤシロチであるという。
「イヤシロチ」と「ケカレチ」は地形的に交互に現れ、「イヤシロチ」が直線上に結ばれる線となる。これが『レイライン』として知られている。
昔の人の知恵・・経験上の知識には、現代科学を絶するモノがある。
「昔は、下刈りをして、山を整備することで、その土地が活性化しておったのだ・・」
「活性化・・ですか・・」
「イヤシロチは、その土地の性質上、空気中にマイナスイオンとプラスイオンの両方が多大に分布する。
そこにあるモノを活性化する性質がもともとある土地だ。
地下の水脈に、その性質が転写され、麓から出る泉の水は、飲めば健康になるが、
トンネルが掘られ、どこかで、滞留してしまった水は、腐敗する可能性もある・・
今まで、蘇生型だった水脈が、何らかの原因で、その効果が得られなくなれば、
止まった水が徐々に悪性に転じてくるだろうな・・」
「その原因が、この祠の崩壊・・・ですか?」
今西が博士に確認する。
「いや、祠は、単なる『形』・・象徴でしかない・・
この山を整備する行為自体が無くなることが・・
山が荒れたことが原因だろう・・
トンネルが通って人の行き来が便利になると、都会への人口流出が始まる。
元は、この辺りに住んでいた人も、徐々に都会へと移り住んでいく。
そうなると、森を整備する人も必然的に少なくなって、手が回らなくなるだろう・・
よって、山の整備が行き届かなくなって、山が荒れる要因の一つになる。
そして、トンネルの工事事態もな・・・
さっきも言ったように、水が滞留すると腐敗型へ移行してくる傾向がある。
水質が悪化した場所には、悪い性質が転写された荷電分子が貯まりやすくなる・・
負の感情の記憶・・苦しい事、悲しい事などの記憶が集まりやすくなるのだ・・」
「それが、ここで、『幽霊を見た』という現象に繋がるのですか・・」
「そう・・
『霊媒師』のように・・脳に影響を受けやすい体質の人が存在する・・
そういった人が幻覚を見たり、幻聴を聞いたりするのが俗にいう「心霊現象」ととらえている・・・」
「凄い!やっぱり、『ユーレイ博士』だけありますよ!」
「ふふ・・私の専門は『怪奇現象』ではないのだけれどね・・」
そう言って苦笑いする博士。
本来の研究と別の面で有名になってしまったのは皮肉であろうか・・
「お父さ~ん」
山を登ってきた弥生ちゃん。
「お?弥生か・・」
「原因は、分かったの?」
「うむ・・
この祠の周りの状態からして、山が荒れている事が直接の原因だな・・
トンネル工事で水脈を堰き止めたのも原因として考えられる。
人の健全な営みが途絶えてしまった・・
そんなところかな・・」
「そう・・」
そう言って、祠の石を拾い集め始めた弥生ちゃん・・
祠のあった場所に、石をかため、手を合わせる。
「昔は、みんな、お祈りしたんでしょうね・・・」
「うむ・・
昔の人たちは、山を大切に・・
いや・・生活の糧を恵んでくれる大事な存在として崇拝していたのだ・・
そういった文化が失われているのは、悲しいものだな・・」
部員全員で、その場の草を刈り採って綺麗にしたところで、祠に花を添えて、その場を後にしたのだった・・・
山を降りて、トンネルの前で待っている幸子さんと合流する今西達・・
「遅かったじゃない~。」
「ゴメン。
ちょっと後始末に時間がかかってね・・・」
「ふ~ん・・
ま、いいか・・
ところで、宿泊場所まで、歩いていくんでしょ?
時間はあるの?」
腕時計を見る今西。
「ゲ!もうこんな時間か?
みんな、走るぞ~!」
「え~????」
「では、博士、機会があったらまた、お会いしましょう!
記事が出来たらお送りします。」
「はい期待しております。」
ニコッと微笑む博士。
「お姉ちゃん、さようなら!」
「またね。弥生ちゃん!」
幸子さんと弥生ちゃんが別れの挨拶を交わしている。
山道を小走りに降りていく部員達・・・
「何か、バタバタしてる人達ですね~。」
「うむ・・こっちは、ゆっくり行こうか・・」
「うん。」
歩き出す博士と弥生ちゃん・・




