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霊感ケータイ  作者: リッキー
母と父と
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十八.  お母さんのお墓にて


「さて、夕食の準備でもしますかね~。」


夕方になり、祖母がはりきりだす。

しこたま買い込んだ大きなビニール袋を台所へ持っていく。


「あ、お義母さん、ボクがやりますよ!」

父が慌てて祖母を止めるが、


「たまには、楽々してなさいよ」


「はあ・・」


まな板の上で包丁がトントンと音が鳴り出す。

慣れているという感じで、手際がいい・・


それを観ている父・・


なにやら考えている。

祖父は、その父の様子を眺めながら、笑みを浮かべている。



祖父たちが来て、急に家が明るくなったような気がする。

いつもは僕と父だけの二人の食事だ。

そうそう会話の話題があるわけでもない。


学校やら勉強やらの話題が尽きれば、あとはTVを見るだけ・・

祖父と祖母の会話も、何だか懐かしい話題が多いのも事実・・


普通の家庭ならば、これが極当たり前なのだろうか・・

母が生きていれば、色々な話題があって楽しいのだろうか?





日が暮れて夜も深まった頃、祖父が、父の杯にお酒を注ぎながら、語りかけてきた・・


「直人君・・

 娘が他界して、もう5年にもなるね・・・」


「はい・・」


「君が娘のことを、まだ想っていてくれるのは嬉しいけど・・

 ヒロシや、君の今後も大事にしないと・・」


「はあ・・・・」


何を言いだすのかと、うなずきながら、けん制する父・・



「君もまだ若い!まだやり直せる年代なんだよ!」


「はい・・」


「・・・と、

 言うことでだ・・・」


   ジャーン!


いきなり祖父の態度が急変した。

見開きのカバーで飾った写真を数枚取り出して、父に迫る・・・



「ワシの周りに年頃の娘がたくさんおるんじゃ!

 どうだ?この娘は・・?

 ベッピンじゃろ~??」


「お・・

 お義父さん!・・」


「それとも、何か~?

 いい人がいるのかねぇ?」


たじろぐ父。

楽しそうな祖父・・

写真を指差しながら、この娘はあーだとか、こうだとか説明している・・・


祖母が見かねて、


「あなた・・・

 もう、いい時間ですよ」


「おう、そうだな・・」


「あ、布団ひきましょうか・・・」


父が気を利かせる。


押入れを開ける・・

詰め込んだ荷物がドサドサと落ちてくる・・・・


まるでマンガだ・・



「あ、

 あはは・・」


「こんな状態じゃ~ね~。

 早く次の人、もらわなきゃ~な~。」


醜態をさらし、面目の無い父・・

一本取ったと意気揚々と祖父・・


祖母が止めを刺す・・


「駅前のホテルを予約してきましたので・・

 お気遣い無く・・・」


二人暮らしに、これ以上負担させまいと、気を使って来たようだ。


「じゃあ・・

 そこまで送ります。」


なんだか、がっくりきてる父・・

大人って大変だ・・・



市営住宅の階段を下りて玄関先まで送る、僕と父・・


「直人君!

 さっきの話、ちゃんと考えててくれよ・・」


「はい・・・」


手を振って見送る僕と父・・

街灯に照らされて、とぼとぼと歩いていく祖父と祖母・・・


遠くで祖母が祖父の肩をたたくのが見えた・・



「見合い話・・・

 もってきたの?」


「ああ・・」


「どうするの?」


「再婚の話はおじいちゃんたちが賛成ならば、周りも反対はしないよ・・

 本当はどう思っているのかわからないけど・・」


「お父さん・・・」

少し心配になって父に訊ねる。


「オレ、母さんのことが、どうしても忘れられないんだ・・

 振り向けば、まだ居るような・・

 そんな感じがするんだ。」


「僕もだよ・・」


このことについては、僕も父も同意見だった。

5年も経ったとはいえ、母のことは絶対に忘れられないし、大きな存在なのだ。



「でも、ダメなんだよな・・・

 いつまでもこんなことじゃ・・」


見合い写真を見ながらつぶやく父・・

まだ、母のことを忘れられない父なのに、周りは再婚を望んでいる。


そっとしておいてほしいのに・・

僕と父の生活が安定しないのを気遣ってのことなのは薄々気が付いてはいるのだ。


僕の成績が落ちているのも、理由の一つなのだろうか・・・

僕さえ、もっとしっかりしていれば・・・





次の日、


僕は遅れている勉強を取り戻そうと、図書館へ向かう。


父は、昨日彼女に渡しそびれた「お布施(?)」を届けにお寺に向かった。

お墓参りと彼女のお父さんの見舞いも兼ねている。


本来は、今日が母の命日なのだ。

僕は、図書館への道中に墓参りを済ませた。


父は、一人で行きたいということだった・・

なんか、最近考え事が多いのか・・


悩んでいる様子もある。

僕のことも問題のひとつなのだろうが・・





午前中に家の用事を済ませた後、おもむろにお寺へ出かけた父。

お寺の境内に入り、お墓の林立する墓地へと向かう。


母の墓前でロウソクを灯し、線香を焚く。

線香の煙が漂ってくる中、数珠を取り出して手を合わせる。


しばらく、合掌したまま、考え込んでいた父・・

墓を見つめる・・・


「ま、

 悩んでいても、仕方ないか!」


気分転換が早いのが父の良い性格でもある。

くよくよしているよりも、明るくしているほうが好きらしい。


ヒザに手を突き、勢い良く立ち上がる・・


すると、前のお墓からも立ち上がる影が・・・

すらりと伸びた髪の喪服姿の女性・・


 雨宮先生。


娘さんと旦那さんの墓前らしかった。


「アッ」


「あ・・」


お互いに驚き、声をあげた・・



しばしの沈黙・・

見つめ合う二人・・



まさか、僕の家のお墓と雨宮先生の家のお墓が背中合わせになっているとは思わなかった。

何とも奇遇な事だった。


その直後・・


「あらぁ~、

 ヒロシくんのお父さんと雨宮先生じゃないですかぁ~」


二人が振り向くと、お寺の縁側に眼鏡とポニーテール姿の彼女が立っていた。


「も・・望月さん・・」

先生が答える。


「さぁさ、お二人共、お上がり下さい!」

本堂へ上がるように勧める彼女。


きょとんと、顔を合わせる二人・・。

その場に居てもしょうがないと思い、父が声をかける。


「行きますか・・」


「ハイ・・」





お寺の本堂に、彼女と父、先生の3人が入ってくる。

畳の上に置かれた木魚と座布団、その前に鎮座する十一面観音像・・

この間と同じ風景。


「ちょっと、待っててくださいね。

 お茶出しますから・・」


奥の方へ小走りに下がる彼女。


残された父と先生。

また、顔を見合わせる。


「最近、良く会いますね・・」


「そ、そうですね・・」


辺りを眺める父の目に仏像が入ってくる。


「この観音様、煌びやかですね・・」


「ええ、何て美しいんでしょう・・」


僕もこの観音様に目を奪われたのを覚えている。

絢爛豪華な飾りをまとった観音様なのだ。

その目は半眼に開き、慈悲の心で溢れているようだった。


その眼差しに引き込まれるように見入っている父と先生。

時が止まったような感覚に満たされる。


「お待たせしました。」


お茶の道具を持って彼女が奥から戻ってくる。

一緒に住職も入って来た。


「ああ、ヒロシくんのお父さん、

 この間はありがとうございました」


杖をついて歩いてくる住職。

まだ、この間のケガが尾を引いている様だった。


「あ、いえ、・・

 その後、体調はどうですか?」


杖を見せる住職・・


「この通りですよ・・

 自分の不注意で、この有様です。

 面目ない事です・・

 でも、御蔭様で、大分よくなりました。」


更に、先生の前に来て頭を下げる住職。


「皆様には大変ご迷惑をおかけしました。

 私が急に法要に出れなくなった為、美奈子に代わりに行ってもらったのですが・・

 上手くできたかどうか・・」


「いえ・・望月さんも立派にお経を読んでましたよ。

 大変でしたね・・」

先生の娘さんの法要にも彼女が駆り出されたようだった・・


それで、昨日は慌てていたのだろうか?



一同が挨拶を済ませ、畳の上に座り、彼女がお茶を出す。

皆がくつろいだところで、ご住職が話し始めた。


「このお寺のご本尊は、十一面観世音菩薩様です。

 オン・ロケイ・ジンバラ・キリク・ソワカ・・・


 梵名は アバローキテーシュバラ


 この世で困った事があれば、一切を投げ出して、その困った人に耳を傾ける。

 十一の顔と、本来は千の手があり、悩みを救ってくれるという、ありがたい観音様です。

 救世観音とも呼ばれています。


 西洋では、こういう教えがある・・

 神は姿を変えて、我々の目の前に現れ、救いの手を差し伸べると・・


 ある時は老人だったり、また、ある時は子供だったりと様々な姿だと言います。


 私には、あのギックリ腰の件で、あなたが神に見えました。

 ありがたい事です・・


 姿を変えて救いの手を差し伸べる・・

 十一面観音の顔が多くの人を表しているように・・


 この世の人たちが救ったり、救われたりすることが、すなわち今生の観音様なのではないかと思ったのです・・」


う~ん、さすがお坊さんだけあって、ありがたい話だな~・・


「十一面観音ですか・・

 あやかりたいものだ・・」

父が住職の話を聞いた感想を言う・・


「私の娘も、観音様のそばへ行っているのでしょうか・・?」

先生が訊ねた。


「どうでしょうね・・

 私は、あの世へ行って見ているわけでもないので、何とも言えませんが、

 娘さんの、この世での行いや、残された人達の供養が報われると思いますよ。」


実際はどうなのかわからない。

それでも、住職の言葉に安堵の表情になる先生。

何かを言ってもらえるだけでも、救われる。


「私の悩みも、救ってくださるのでしょうか・・」


父が思い悩んでいる感じで、ぽつりと言った・・

それに答える住職。


「霊は過去にしばられ続ける・・

 人は未来を切り開く事ができるのです。」


いつもの言葉だ・・


「そして、「魂」というのがあります。」


「魂?」


「この世に生きるものは、全て魂があります。いや、物にも宿ることもある・・」


その話は、初耳だ・・


「魂は減ることも、増えることも無く、まんべんなく回り続ける・・

 輪廻とでも言いましょうか・・


 そして、魂は永遠です。

 永遠に「愛」を授けてくださる」


「永遠の、「愛」・・」


「娘さんの「魂」も、奥さんの「魂」も、永遠の「魂」に姿を変え、我々を見守っていくでしょう・・

 この世に残された者達に、分け隔てない愛情を注ぐ・・

 『慈悲の心』というものです」


「慈悲の心・・・」

父が呟く。


「翔子・・」

先生の目に涙が溢れていた・・


「小さな魂は、その身を持って、命の大切さを教えてくださりました。

 残された者は、悲しい別れかも知れませんが、それを乗り越えて、

 未来を切り開くことで、その魂にご恩を返す事ができます。

 命の大切さを教えてくださったご恩に報いることができるのです。」

   

「未来を切り開く・・・」

父も何かを感じたようだ。


「この世に生きる人達には、今生を行き続ける限り、未来が、希望があります。

 お二人共、よく精進してこの世の修行を成し遂げて下さい。

 御仏の慈悲がありますように・・」




夕方が迫り、辺りが薄暗くなり始める。


本堂を出て、お寺を後にする父と先生。

山門の前で、彼女と彼女のお父さんに見送られる。


「ありがとうございました」


「また、おいでください・・」


「はい」


父と先生を見送る、彼女と彼女のお父さん・・・











その姿が見えなくなってから・・・












「お父さん・・・

 あの二人・・


 どっちに賭ける?」



「う~ん、


 一緒になるのに1000円!」


「何も無いのに1000円!!」


こ、この親子は・・

いったい・・・・・





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