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霊感ケータイ  作者: リッキー
オカルト同好会
189/450

73.探査


トンネルから出て、前の広場を真っ直ぐ走る弥生ちゃん。


ガードフェンスギリギリの所で立ち止まって、クルッと後ろを向いた。

こちらの入り口から向こう側の入り口が直線に並ぶ位置に横へ移動する。


ズンっと足を踏ん張ってトンネルの方を見据える。


「50m位でした。」


「うむ・・49mだった。そこでナビを頼む。」


走りながら、歩数で計算をしていたらしい。


「はい!」


地図を取り出して、トンネルの部分を見る弥生ちゃん。

博士は、トンネルの脇の方から山を登り始めた。






今西の一行が、トンネルから出てくる。

既に、博士がかなり上に登っているのに驚いている。



「もう、あんな所に・・

 幸子!荷物を頼むよ。」


「わかったわ。」


弥生ちゃんの立っている近くに荷物を寄せる部員達、幸子さんが荷物の番に残った。

ちらっと幸子さん達を見たが、直ぐに博士の方を向いた弥生ちゃん。


今西と楓ちゃん、他の部員が山を登り始める。



「どうだ~?」


博士が山の方から弥生ちゃんに声をかけてくる。


「右に4mだよ~。距離20m~。」

「わかった~。」


トンネルの出口から弥生ちゃんが博士に指示を出した。

その通りに進んでいく博士。


その様子を見ながら後を追って登る今西と楓ちゃん、部員達。


「凄いですね・・あの子・・」

楓ちゃんが弥生ちゃんの指示に感心している。



「ああ・・

 あの場所で、博士に方向と距離を指示している・・」

今西が解説する。









「目見当で、距離なんかわかるんですか?」





「あの子の居る場所は、トンネルの延長線上だ。


 こっちの出口から向こう側の出口が重なって見える位置に居れば、


 方向を見定めることが出来る・・・



 距離に関しては、走っている最中に『歩数』で見当をつけていた。


 あとは、地図上の等高線と実際の地形の補正を行っているんだろう・・」





測距技・・


昔、主に大砲を撃つ時に、飛距離を計算するのに用いた技法・・

測量に近いものがある。


測量や土木技術に関しては、Civil(民間)とGabament(軍事)の2種類があるが、

昔から土木技術は軍事でも民間でも重要な技術だった・・


時間を優先する軍事技術的な「測距技」としては、現在ではGPSと光学線を利用した測定法が一般的だが、

それ以前は、「目視」による計測が行われていた。


第二次大戦時期には、双眼鏡による測距儀(こちらは儀・・機械である)が用いられていた。

その原理は、人間の立体視を利用して、角度を割り出し、目標までの距離を計算するもの・・


測距儀で距離を割り出し、「捨て弾」を撃って、実際の射撃用に補正をかける。

この1発目の当たりをつけるのには、ある程度、正確な距離を割り出す必要がある。


大戦以前は機械など存在せず、目見当で目標の位置を割り出していた。

前段階で地形図から大まかな全体像をとらえ、実際は目視による『経験上』の距離感に頼る・・


半ば、『勘』に近い・・

かなり原始的のように思われがちなのだが、意外に人間の能力は正確なのだ。


高度経済成長期、日本の国土の各地にトンネルを掘る工事が行われたが、

山を見るだけで、その現場が掘削しやすいのか、支障になる水が出るのかが瞬時でわかる人も居たという・・

「経験」や「勘」も、そう捨てたものでもないのだ・・



この弥生ちゃんに関しても、日ごろから、「距離」に関して注意していたのかも知れない。

日頃から地図を眺めまわして、道路の向こうから、こっちまで、何mあるのか・・

そういう遊びをしていると、知らないうちに身に着く能力もある。






 カシャ


楓ちゃんが立ち止まり、博士の後姿をカメラに収めている。

胸に携えていたライカ製のカメラ・・


「凄いの、持ってるよね・・早乙女さん・・」


「はい。お父様から、譲ってもらったんです。」


お父様・・・楓ちゃんの家は、市内でも有数の名家・・ライカ製のカメラなんて、はした金で買えるんだろう・・

ライカは今でも、マニアの間では人気だが、精度や耐久性もピカ一の名器だ。


厳しい寒さの中でも十分使用に耐えられる。

冒険家の故・上村直己氏も、愛用のライカ製カメラを手放さなかったという・・

実際、楓ちゃんはお父さんから、譲ってもらったというよりも、半ば強引にくすねた状態なのだったが・・




 カチャ・・


 ジーーージーーー


今西も、ポケットから出した使い捨て用カメラフィルムで、撮影をしている。


「使い捨てカメラですか・・・」


「ああ・・

 安い使い捨てカメラだけどね・・

 オレの場合は、3個ぐらい用意しているよ・・」


「3個・・ですか?」


「通常の風景用のコダック、パノラマ用と高感度撮影用のフジさ・・

 ストロボ撮影用にも2つくらい使うかな・・」


デジカメが広まる前、手軽に撮影できて、フィルムの交換も必要のない使い捨てカメラが一時期、一世風靡をしたのである。

今西の場合、使い捨てカメラの特性を生かして、その場、その場で切り替える方法を用いていた。

使い捨てカメラも、各社色々なモノが出回っていた。


その中でも、各社特有のポリシーを持って開発、販売を行っていたが、

その特性を活かして色々な環境下での撮影に対応できる。


ストロボ撮影時も、充電時間を考慮して、2個のレンズ付きフィルムを交互に用いる荒業を使っていた・・


適材適所・・柔軟な考え方を持つ今西と

より良いモノをとことん使いこなす楓ちゃん・・


二人の考え方の違いが、カメラにも表れていた・・



















トンネルの出口の前で、博士の登った山を見つめる弥生ちゃん。その側で荷物の番をしている幸子さん。


 

  ピーー ピ・ピ・・


笛を吹いて合図を送る弥生ちゃん・・

既に、博士の姿は豆粒のように小さくなっていて、直接の声では指示できなくなっていた。


そんな弥生ちゃんに、幸子さんが話しかける・・・


「す・・すごいのね・・」


「私ですか?」


「ヤヨイ・・ちゃん・・って言ったけ・・・」


「はい。」


「雁金博士の娘さんなんですね・・」


「お父さん・・」


俯く(うつむく)弥生ちゃん・・先ほどから今西を警戒していた感じがあった。

『ユーレイ博士』と呼んだのに抵抗があるようだった。


「ごめんなさいね・・」


「え?」


「さっき、私達の部長が、『ユーレイ博士』って言ってしまって・・」


「もう・・

 慣れっこです。

 気にしないで下さい・・・」


「でも、研究熱心なお父さんね。」


「はい。お父さん、いつも遅いから・・

 今日は特別に旅行に連れてきてもらったんですけど・・

 結局、研究になってますね・・・」


「そう・・・なんだ・・・」


「あ、気にしないで下さい。

 私、ああいうお父さんが大好きなんです。

 皆は、変人扱いしてるけど・・」


「素敵だと思うわ!

 変人だなんて思ってない。」


「ありがとう、ございます。」


少しだが、打解けた感じの、二人だった。





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