72.不思議な親子
そんな、やり取りを横目に、ちょっと違った雰囲気の声がした・・・
「お父さん。早く早く~。」
「ああ・・ちょっと待ってくれよ・・」
先ほど、一緒にバスに乗った親子だった・・・
同じバス停で降りていたとは・・・
リュックサックから、何やら機材を出して、作動をさせるお父さん。
ピピピ・・・
「あ、お父さん・・反応が出てるね~」
「う~む・・これは強いな~」
「さすが、心霊スポットと呼ばれてるだけあるね~」
そう言って、何食わぬ顔でトンネルの中へ入って行った・・・
その姿を、単に見守るだけの今西達・・
只者ではない???
このトンネルでは親子の霊が出るという・・
ひょっとして、今のが、その親子の霊なのか???
でも、こんな白昼、くっきりと幽霊が見えるワケもなく・・
まだ、トンネルに入る前なのだ。
「ねえ・・あの親子・・どっかで見たことない?」
幸子さんが、今西に尋ねている。
「う~ん・・確かに・・・」
「部長!どうでも良いけど、入るんですか?入らないんですか?」
楓ちゃんに急か(せか)される。
「う!入る!!
皆!行くぞ~!」
恐怖と不安にかられながら、トンネルに入る一同だった。
しかし、意外に今西も怖がりなのだな・・・
トンネルの中は薄暗く、入るにしたがって闇に向かっていく感じがした。
真っ暗な空間の向こう側にはポツンと出口の明かりが見える。
冷ややかで、肌寒い。
上を見れば古めかしい蛍光灯の照明が天井を仄かに(ほのかに)照らす。
コンクリートの割れ目からしみだす地下水がシミになり、半分固形化して鍾乳石の様になった突起からポタポタと滴り落ちている。
壁には、年代物の落書きがちらほら見える。
峠を挟んで集落同士の往来が少なくなり、滅多に車も通らない寂しいトンネルなのだ。
今にも、何かが出てきてもおかしくない雰囲気だった。
恐る恐る、足元や壁を懐中電灯を照らしながら進むオカルト同好会の面々。
幸子さんにしがみついている楓ちゃん・・
ピチョ・・
「ギャー!!!!!」
今西の背中にしずくが落ちる。思わず驚いた今西。
トンネル内を悲鳴が反響する・・・
「もう~驚かさないで下さい!」
「面目ない・・・」
楓ちゃんに言われて、たじたじの今西だった。
しかし・・・
前の方を見てみると、先ほどの親子が、楽しそうに歩く後姿が見えていた。
ここが「心霊スポット」というのは知っているようだったが、恐怖の微塵も無いこの親子・・
いったい何者なのだろう?
ピピピ・・・
お父さんの持っている機械の音が鳴り響いている。
「ここが、一番反応があるみたいだね~」
「うむ・・入り口から55mくらいかな・・」
地図を懐中電灯で照らして位置を確認している。
立ち止まって、何やら調査をしている所へ、今西達一行が追いついた。
「あの・・・この場所の調査をしているんですか?」
今西がお父さんに訊ねる(たずねる)。
暗い中で、その声に答えるお父さん。
「はい。電位の調査をしています。」
「電位?」
「電場の乱れを測定してしるのですよ。」
「電場の乱れ・・ですか・・・」
「ひょっとして、雁金博士ではないですか?」
楓ちゃんが思い出して今西に囁いた。
「そうか!『ユーレイ博士』??」
今西が歓喜の声を上げる。
その声に、一同が反応する。そして、親子も・・・・
今西の呼び名に一番反応したのは、お父さんの隣に居た小さい女の子だった。
ムッとして今西をにらみつけている。
「弥生・・そんな顔するんじゃない!」
「だってぇ~!」
「失礼ですが、雁金博士ではないですか?」
今西が改めて、聞いている。
「はい。如何にも、電磁気学研究所の雁金ですが・・・」
「こんな所でお会いできるなんて!奇遇ですよ!
僕たち、大ファンなんです!」
「ほう・・」
「『オカルト同好会』の合宿で、心霊スポットを巡っている道中なんです。」
「そうでしたか・・このトンネルは有名ですからね・・」
そう言っている博士の後ろに、先ほどの少女が隠れて、こちらの様子を覗っている・・
少女の動向が気になる今西・・
「ああ・・この子は、弥生と言います・・・
今日は、プライベートで、私と計測旅行に来ているんですよ。」
「計測旅行?」
「はい。心霊スポットと言われる場所の荷電分子量の測定が目的です・・・
でも、半分はこの子との旅行が目的です。日頃、何処にも連れて行ってあげられないから・・」
ピィー・ピィー
博士の持っていた計測器が反応している。
「お父さん!凄い反応だよ!」
「これは!未だにない反応だ!」
「その反応って・・何なんですか?」
「ふむ・・これは荷電分子の量が多いという事だ!
我々の定義している『霊』が存在する!」
「『霊』??」
「幽霊の事ですか?」
「いや・・我々の言う『霊』とは、一般に心霊とされるものとは違う!」
ここで、また、延々と博士の理論の説明が始まると・・読者に、
『またか!』
と言われそうなので、省略します・・・・
「そんな・・理論が存在しているんですか?」
「そう!私の理論は、見えないモノを見る理論!」
「見えないモノを・・見る・・・」
「計測できないモノを、あたかも『存在する』などと言って、人を騙す輩が多いのだ。
だから、いつまで経っても、『心霊現象』と不思議だとか怖いとかいう概念が捨て去れない。
事によっては、宗教じみた方法で、人から財産を巻き上げる霊能者まで出てきている。
人を・・見る事の出来ない人を・・弱い心に付け込んで、
不幸にする者もいるのだ!
人は・・平等にあるべき!・・
人は・・人なのだ。それ以上でも、それ以下でもない!」
一昔前に、『お布施』と称して、霊能者の所に財産を要求し、除霊を行う商売もあったという。
そういう例は、極、稀なのだろうけれど、決まって、人を人と思わない見方をする・・
「見える」という事が、人よりも秀でた才能・・能力・・他の人よりも優れている・・
そういった慢心に陥った時、人を指導するべき人は、逆に堕落や崩壊の方向へと導いてしまう・・・
逆に、見えていても、ひた隠しにする霊能者も多い。
「修行の妨げになる」
という理由で、黙っている事になる。
また、人から、そういう目で見られるのを嫌う性格の人も居るのだ。
人生相談等をし始めると、色々な人が頼って来ることになる。
それは、「霊」が、「見える」自分を頼って来る事と同じ事なのだろう・・
いや・・生きている人の方が達が悪い場合もある。
良く指導をしたはずなのに、上手く行かなければ、逆恨みをかう事もあるのだ。
世の中には色々な人がいて、その性格は千差万別・・
トラブルメーカー的な人と付き合う事が多くなりがちで、精神崩壊を起こす場合もある。
一般の、「見えない人」と別の面での悩み、苦労を背負う事となる。
それが・・霊能者に課せられたカルマなのだろう・・・
「見えても」「見えなくても」それは、五十歩百歩・・
人としての修行があることには変わらない・・
まあ、中には、陽子の様な献身的な(?)霊能者もいるのだけれど・・・
「お父さん!この上が怪しいです!」
弥生ちゃんが計測器を操作しながら、博士に、荷電分子の濃い方向を指示する。
「うむ!行ってみるか・・」
「え~?行くんですか?」
「そう!確かめる事で、何が原因なのかを考察できるのだ。
それが科学だ!!」
幻滅している今西。
お構いなしに、器材を抱えてトンネルの外へと走りだす博士。そして弥生ちゃん。
「凄いな・・『心霊現象』に科学のメスを入れているのか・・」
そのスタンスに感心している今西・・
「部長!この事も計算してスケジュール組んだんですか?」
楓ちゃんが信じられない展開に興奮している。
「いや・・
でも、これはウチの部にとっては、いい機会だ!
みんな行くぞ!」
部員達を引き連れて、後を追う今西・・
これが、今西と博士、楓ちゃんの出会いだった・・・




