70.教頭先生の過去
家庭科室に、教頭先生と先輩の姿があった・・・
「どうしたのですか?
今日のあなたの質問は、
私達の部の足並みを惑わしかねない発言です。」
重い口を開く先輩・・
「心配になったんです・・
最近の教頭先生や博士の研究が進み過ぎている感じがして・・
少し
恐ろしくなったんです。」
「恐ろしい?」
「何も考えずに、突き進んでいる感じがして・・
それを止める術も・・
危険な事なのかどうかも考えていないような気がして・・」
「今、私達の行っている研究は、人類にとって未知の領域への第一歩なのです。
この研究が成功すれば、博士の研究に飛躍的な成果が得られる・・
そのために、私達は、一丸となって協力する必要があります。
危険かどうか・・
それは、やってみなければ、分からない事もあります。
原子物理学の祖がそうだったように・・。」
キュリー夫人・・20世紀初頭・・原子物理学が進む一方、その実験には危険が伴った。
いや・・
当時、放射性元素や放射能は無害かどうかもわからなかった。
原子分解の実験や検証が行われる中、その研究者は日々、放射能を浴び続け、
白血病や癌で短命で終わっている。
キュリー夫人やパウリ・・研究熱心だった人達ゆえに、第一線で活躍し、積極的に放射能を浴びた結果である。
人類の科学の飛躍と引き換えに、多大な犠牲を払った原子物理科学・・
その当時、放射線は危険だという警鐘を鳴らした者が居たのだろうか・・
例え、危険だと分かっていても、その実験を続け、探究し続けたのだろうか・・
そして、
オカルト研究会としても、この博士の研究による成果の役に立てば、多少の犠牲は本望なのだろうか・・
いや・・
躍進している人たちにとって、目的が全てであり、危険だと言われても、現実として見ない傾向がある。
だが、
未来先輩には、「危険」だという事が、直感で分かっていた。
それは、「霊感」を持つが故・・
「見える」が故に、危ないという事が想像できていた。
「見えない人達」にとっては、それが、危険かどうかもわからない・・
その「答え」を聞かせたとしても、
それを本当の事だと思わないだろう・・・
「私は・・
オカルト研究会の副部長です。
部員の安全を第一に考えなければならない・・
危険な行為は、
部員には避けたいんです。
私は
私は・・
間違っているでしょうか?」
涙目で訴えている先輩・・
「さすが副部長ね・・・
安心しました。」
「え?」
「あなたの、役割として、
部員の安全を考えるのは当然です。
躍進に対して、恐怖感を覚えるのももっともです。」
「教頭先生・・」
「私も、同じような事を言った事があるの・・・」
「教頭先生が?」
「あれは・・・私が高校の頃よ・・・」
教頭先生の・・過去?
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プルルルルルルル
駅のホーム。電車の発車するベルの音が鳴り響く。
「う~ん。部長たち・・遅いな~・・・」
麦わら帽子に大きなド近眼メガネ、肩にライカ製カメラを携え、
重い荷物をしこたま担いだ少女が腕時計をチラチラ見ながら呟いて(つぶやいて)いる。
「オタク系女子」と一目で分かる怪しい格好の少女。(作者は好みだけどな~)
教頭先生・・
早乙女 楓
16歳 高校1年 春。
『オカルト同好会』でゴールデンウィークを利用して新入部員歓迎の2泊3日の心霊スポットめぐりを企画したのだった。
が、
部員数名は集まっているものの、部長・今西と副部長・幸子がまだ来ていない。
集合時間は過ぎている・・・
「遅い!あと10分で、電車は出てしまう!」
搭乗する電車のドアの前で、部長たちの来るのを待っている楓ちゃん・・




