68.先輩
拓夢君の家
未来先輩と拓夢君が一緒に帰って来る。
「ただいま~」
「只今、帰りました・・・」
誰も居ない家・・
「まだ、お母さん達、帰ってきてないみたいだね・・」
「そうね・・」
「あ、僕、シャワー浴びるよ。
汗かいちゃったし・・」
「そう・・
私は、ご飯、温めるわ。」
拓夢君がシャツを脱ぎだして、脱衣場の方へと向かう。
先輩は、台所の方へ・・
シスコンの拓夢君にとって、今の状況の方がいい環境だった。
今まで、相手にされなかったお姉さんと、一緒に帰宅ができ、二人だけで食事が出来るのはこの上ない幸せ・・
部活でも話す機会が増えている。共通の話題が提供されているのだ。
その後姿は楽しそうでもあった・・・
シャワーを浴び終わって、タオルを羽織って出てくる拓夢君。
頭を拭いている姿が、目に入る未来先輩。
見つめられているのに気づく拓夢君。
「? どうしたの?」
「え?
ああ・・
タクムも、ちょっと、たくましくなったかな・・って・・」
「えぇ~?僕??」
「うん・・
前は、運動もしてなかったから、
ヒョロヒョロだったし・・」
「そっか・・
毎日、鍛えてるから・・」
腕を曲げると、少し、力瘤が出来るようになっていた。
そんな様子を、目を細めてみている先輩。
でもハッとなって我に返った。
「下着くらい、着なさいよ~!」
「は~い。」
居間の机に、夕食の皿を並べ始める先輩。
隣の部屋で、シャツと半ズボンを着てきた拓夢君。
まだ、湯気が体から出ている。
ご飯を茶碗に盛っている先輩の後ろ姿を見ながら・・ポツリと言う拓夢君。
「何か・・さ・・」
「え?何?」
「あ、
いや・・
何か・・
新婚生活ってこんな感じなのかなって・・・」
拓夢君の言葉に、顔を赤らめる先輩。
「もう・・
変な事、言わないでよ!」
ご飯を並べる先輩。
「いただきま~す。」
「いただきます」
ご飯を食べ始める二人。
共働きの拓夢君の家では、時々、ご両親の居ない時があった。
そんな時は、二人で食事を始めている。
「ねえ・・お姉ちゃん・・・」
「なあに?」
「部長達・・除霊を始めているのかな・・・」
「・・・・
わからない・・・
でも、あの人は・・
約束を守ると思う・・・」
「約束・・・
したんだ・・・」
「うん・・」
先ほど、ヒロシと密かに会っていたことは聞いたが、約束まで交わしているとは思わなかった。
「お姉ちゃん・・
後悔してない?」
「え?」
「オカルト研究会の・・
やろうとしている事と・・
逆の事をしているって・・」
ご飯茶碗を片手に、それを見つめて考え込んでいた先輩だったが・・
「そうよ・・
私は、
部活を裏切ってしまった・・・」
そう言って、俯く(うつむく)先輩
「ねえ・・
お姉ちゃん・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
先輩は、そのまま黙ったままだった。後悔の念が強いようだった。
本来、相談をするならば、オカルト研究会の部長や顧問の教頭先生なのだ。
でも、
部の方向は変えられない勢いがあった。
相談しても、無駄の様な・・
「僕がした事にすれば良いんだよ。」
「え?」
拓夢君を見上げる先輩。
「たぶん、教頭先生にも、除霊した噂は上ると思う。
オカルト研究会にしか分からない機密事項を、
情報を洩らす人と言えば、
ゴーストバスター部に肩入れしている僕以外には居ないって・・
思うだろうから・・」
「タクム・・・あなた・・」
「そうなったら、僕がすべてを引き受けるよ。
お姉ちゃんが洩らしたなんて、決して言っちゃダメだよ!」
「そんな!
あなただけに・・!」
「僕は、お姉ちゃんが好きだよ・・
だから
お姉ちゃんは、僕が守る。
決して、誰にも
傷つけさせない!」
「タクム・・・」
「僕には、今の部活を追い出されても、行くところがある・・
でも、
お姉ちゃんには、今の部活も・・捨てられないし・・
部活としても、お姉ちゃんが必要なんだ。」
その言葉に、何も言えない先輩。
箸を止めたまま、考え込んでいる。
確かに、部としても副部長である先輩が無くてはならない存在だった。
そして、その地位も捨てられない・・
いや、副部長として、今まで精一杯務めてきた先輩にとって、
今や切っても切れないものになっていたのだ。
その部活の方向と別の事をしてしまった・・
「裏切り行為」
それを、全ての責任を背負おうという拓夢君・・
姉として
副部長として・・
そして
人間として
それが、許される行為なのかどうか・・・
悩む先輩。
「ごちそうさま・・・」
先輩が席を立つ。
「あれ?
まだ、全然食べてないじゃない・・」
「食欲がないの・・・」
そう言い残して、2階の自分の部屋へ行く先輩。
見守るだけしかできない拓夢君だった・・・
先輩の部屋
照明も点けずに暗い部屋の中、
制服も着替えずに、胸のネクタイを取っただけで、ベットに横たわる先輩・・
毛布を握りしめて、顔をうずめている。
肩が小刻みに震えている。
「う・・ううっ・・・」
泣いている先輩。
ベットの脇にある棚の引き出しを開ける。
写真を一枚、取り出す先輩・・
ヒロシの写真・・・
いつの間に撮ったのか分からないが、胸から上のアップの写真。
微笑んでいる・・
「私・・
どうすれば・・・」
胸に写真を抱いて、横たわる・・
頬に熱い涙が伝っていた。
写真を目の前にかざす先輩・・
涙で溢れた目で、見つめる・・
「やっぱり・・
愛おし・・
い・・・」
目を閉じて・・
そっと、
口づけをする・・
その先輩の姿を
見下ろす白い影・・
「フフ・・・」
薄らと微笑む・・
階段の下の少女




