67.バージョン1.41
駅前の通りに差し掛かり、人通りも多くなってきた中を歩いていく沙希ちゃん。
学校帰りの学生や会社帰りの大人たちが増えてきている。
僕のお母さんとも仲良くなったようだ。
「この踏切の向こうに、家があるんですよ」
かなり距離があるのね・・
響子
「いつもは、部長さんに送ってもらってたし・・
あ・・
ひょっとして、
カップルに見られてたのかな~。」
あはは・・沙紀ちゃん・・本命がいるんじゃなかったの?
響子
「そ・・そうですね・・
拓夢君とは、ずっと一緒に帰ってたのに・・
学校では会ってるけど、
監視が厳しくて・・・」
オカルト研究会の監視?あの部活も手ごわいわね・・
響子
「はい。最近、アプリも作ったみたいで、
研究も進んでるって言ってました。」
アプリ?携帯電話の?
響子
「『霊感ケータイ』アプリって言うそうです。」
霊感ケータイ・・・ヒロシのモノと同じ機能があるのかしら・・
響子
「いえ・・まだ、博士のデータを映し出すだけみたいです。」
ブツブツと霊感ケータイに流れるメッセージを読みながら、独り言を言っている感じの沙希ちゃん。
端から見ると、「変な子」と思われても、不思議ではない。
でも、ちょっと立ち止まった沙希ちゃん・・
すぐ目の前の、信号機待ちの一人のOLらしき人が、携帯電話を手に、眺めまわしている姿があった。
その画面には、向こうの景色がカメラで映されていたが、
その中に、奇妙な白い物体が浮かんでいる・・
それは、博士やオカルト研究会の部員が学校で使っているアプリに似ていた。
でも、
博士のデータは学校内しか測定していないはずなのに・・・
「お母さん・・あのアプリ・・・」
ええ・・霊感ケータイのアプリっていうヤツ?
響子
「あんな感じで、白いモノが映されるって・・言ってました・・
でも、何で、こんな場所まで・・・」
博士が、学校外でも測定しているって事?
響子
「いえ・・そんな事はないと思います。
ずっと、博士は、学校しか居なかったし・・・」
じゃあ・・あれは・・・何?
響子
「分かりません・・・」
ちょっと、見てくるわ・・待っててくれる?
響子
「はい・・少しくらいなら・・
大丈夫だと思いますけど・・・・」
童子四天王の襲撃も恐れていたけれど、そのアプリが気になる沙希ちゃん。
お母さんが、そのアプリを偵察に行くという。
ピヨ・・・ピヨ・・・ピヨ・・・
信号機が青に変わり、一斉に通行人が歩き出す。
沙希ちゃんは、その場に止まり、お母さんの帰って来るのを待っていた。
お待たせ!
響子
「お帰りなさい!どうでした?」
確かに・・あの白いモノは、地縛霊の場所を示していたわ・・
表示タイトルには「霊感ケータイ Ver1.41」って書いてあったわ・・
響子
「1.41・・・バージョンが上がってますね・・
やっぱり、学校のモノと同じ様です。」
オカルト研究会だけの開発じゃなかったの?
響子
「そのはずだと、思うんですが・・
学校外にも出回っているんでしょうか・・・
でも、地縛霊の計測なんか、誰が、いつの間にしていたんでしょう?」
何だか、大変な事になっているのかも知れないわね・・
響子
「気になります。
拓夢君が居れば、色々分かるんですけど・・」
沙希ちゃんを家まで送ったら、私も調べてみるわ・・
響子
「お願いします。お母さん。」
二人の心配している通り、事態は深刻な状況になっていた・・
お寺
彼女の家・・無事に送り届けた僕だった・・
住職が迎えてくれた。
「やあ。ヒロシ君。娘をありがとう。」
「いえ・・どういたしまして。」
「あ、ヒロシ君、寄ってかない?」
彼女が誘っている。
「え?でも・・」
「ああ~。私、今日の除霊で疲れちゃった~。
癒してほしいな~」
わざとらしい表現の彼女。住職が呆れて見ているんですが・・・
「こら!美奈子!はしたない!」
「は~い。」
「じゃが、ヒロシ君・・・寄って行かんかね?」
手のひらを返したように、住職が寄って行けと言っている??
「え?」
「話したいこともあるんじゃ・・」
住職が話したいこと?いったい・・何だろう??
本堂に3人が入ってくる。
十一面観世音菩薩の安置されている本堂だ。
座って話し込む。
「さて・・ヒロシ君・・」
「はい・・」
「霊感ケータイなるアプリが街で広がっているというのだが・・
知っておるかね?」
あのアプリが広がっている・・初耳だった。
「いえ・・
あ・・でも、博士の使っているのは知っています。」
「博士?」
「はい。今、学校の『霊』の調査をしている博士なんですが・・
そのアプリで、計測したデータを見れるって・・」
「そうか・・」
「どちらかというと、表示用のアプリみたいなものですね・・」
「表示用?」
「博士の計測したデータだけを見れるみたいです。」
博士の使っているアプリは、磁場の歪を、表示するだけのものだった。
空間上に白い塊が映し出されるとの事・・
僕の持っている霊感ケータイのように、姿がはっきりと見えて、コンタクトを取る事もできない。
それは、拓夢君からの情報で分かっていた・・
「う~む・・・
ワシの聞いておるものと違うようだ・・」
「違う?」
「機能としては、通話ができないだけで、君の持つ『霊感ケータイ』と同じ様なものだと聞いている。」
「同じようなモノ?」
「霊を見ることが出来、メールで話し合えるらしい・・」
「そんなアプリがあるんですか?」
僕は、ハンバーガー屋で見かけた女子高生の持っていた携帯アプリを思い出した・・
あの時は、所持していたお姉さんが、破棄すると言ってくれたのだけれど・・・
「でも、お父さん・・そのアプリ、本当に霊が見れるの?」
彼女が聞いている。
「うむ・・見れるらしいのじゃ・・・・
亡くなった人を見れるという・・
それが、本物でなければ・・良いのじゃが・・・」
『霊感ケータイ』のアプリが、世の中に広まっているという・・・
何やら事件が思わぬ方向へ進んでいるような気がした。




