66.母と沙希ちゃん
沙希ちゃんが、駅の方面へと帰りの道を歩いていく。
女の子一人・・
いや・・
僕のお母さんも同伴していた。
見えないけれど・・・
沙希ちゃんにとっては、初めての経験だった。
幽霊と一緒に歩いて帰るなんて・・
沙紀ちゃんには、霊感ケータイを貸し出していた。
不安で一人でいるよりも、相手であるお母さんとコンタクトをとった方がお互いに理解し合えると思ったのだ。
沙希ちゃんにとっては、酷な事だったけど・・
「い・・居るんですよね・・・」
恐る恐る、声をかける沙希ちゃん。
誰も居ないし、声もしない・・気配も全くない。
僕と同じく、霊感の無い沙希ちゃん。
お母さんとのコンタクトには、霊感ケータイしか手段はないが、
沙希ちゃんのOKが出るまでは、話しかけない様に頼んでいた。
それまでは、沙希ちゃんの恐怖感との戦いになっていたのだ。
「あぁ~・・
やっぱり怖いです・・」
童子四天王の襲撃から守るとはいえ、
僕のお母さんとはいえ、
相手は、この世に生きてはいないのだ。
それでも、この事態を打破しようと、勇気を振り絞る沙希ちゃん・・
恐る恐る、霊感ケータイのスイッチを入れる・・・
ピ
カメラモードに切り替える。
辺りを霊感ケータイ越しに見回す。
後ろまで、振り向いたとき、
白装束に身を包んだお母さんが、
ボウッっと浮かんでいるのが映った・・・
薄らと笑みを浮かべている・・・
「ヒィ~~!!!!」
頭を抱えて、その場にしゃがみ込む沙希ちゃん。
いくら、お母さんと言っても、その映像はショッキングだった・・・・
「やっぱり・・
やっぱり!!
沙希・・怖い!!!」
涙目の沙希ちゃん・・恐怖の余り、ガクガクと震えている。
無理もない・・・
普通、幽霊の姿を見れば、誰だって同じ反応をすると思う。
前に、音楽室で、童子を見た事はあるけれど、皆も居たし、ほんの一瞬だった・・
涙を流している沙希ちゃんが、勇気を出して、話し始める・・
「でも・・
でも・・
部長さんの・・
お母さんなんですよね・・
知らない人だけど・・
部長さんのお母さんなら・・
少しは
安心できます。
お
襲わないで
下さいね・・・」
霊感ケータイを再びお母さんの方へ向ける沙希ちゃん。
先程の方向に、やはり、お母さんが浮かんでいる。
少し、心配そうな表情だった・・・
沙希ちゃんが、自分が、怖がっているから、不安にさせているんだって思った・・
「だ・・大丈夫です・・
い
いいですよ・・」
その合図と共に、霊感ケータイの着メロが流れる。
チャラララ・チャラララ
ピッ
メールにお母さんのメッセージが入っている。
沙希ちゃん・・怖い?
響子
「はい・・やっぱり・・怖いです・・・」
ごめんなさいね・・ヒロシに付き合わせて・・・
響子
「い・・・いえ・・・自分からあの部活に入ったから・・」
この辺りには、童子四天王は居ないみたいね。
私が帰り道を守るから、安心して・・
でも・・
まだ、私が怖いのよね・・・
響子
「そ・・・そこは、何とか・・慣れます!努力します。」
うふふ・・沙紀ちゃん、頑張り屋なのね・・
響子
霊感ケータイ越しに、微笑むお母さんの映像が映っていた。
少し、安心する沙希ちゃん。
良く見ると、優しそうなお母さんの表情だった。
「部長のお母さんなんですね・・・」
ええ・・五年前に、他界しました
響子
「辛くなかったですか?」
辛かった・・
小学3年生のヒロシを残していくのは・・辛かった
響子
「でも、ずっと見守っていたんですね・・」
そう・・
私は、家族を見守って来た・・
あの子が立派に成長するまで・・
でも
あの子は、既に、ちゃんとしてるわ・・
響子
「はい。私、部長さんは頼りになるって、思ってます。
あ・・
つかぬ事をお聞きしますが・・・」
何かしら?
響子
「旦那さんが先生と結婚して、どう思われてますか?」
うう!沙希ちゃん・・大胆ねぇ・・・
(いきなり、それを聞く??)
響子
「あの・・( )の中身って、考えてる声ですか?」
え?そんなの出るの~~?
(うっそー・・ごまかす事ができないワケ?)
響子
「また、表示されてますよ・・」
霊感ケータイって・・・私達に不利な道具なのね・・・
(何で、そんな機能付いてるのよ~~)
響子
「私の前では、嘘はつけないですね・・・」
仕方ないわね・・
実際・・直人さんと静江さんが付き合ってるのを見るのはショックだったわ・・
響子
「う・・・浮気の現場をスクープってやつですか???」
でも、
私は、死んでいる・・・
仕方ない事だって
思っているわ・・・
生きている人には、生きている人の人生があるんだもん・・・
それに・・
家族が揃う事が、大切だって思っているの・・
響子
「家族が・・揃う・・」
私が死んでから、5年間・・
直人さんも、ヒロシも、私の死から立ち直る事が出来なかった・・・
皆の前では、明るく振る舞っていても・・
私が居ない生活は、
悲しみに暮れた毎日・・
そんな姿を見ているのが
辛かった・・・
そんな中で、
静江さんとの出会いは、
私達家族にとって、明るいものだった・・
この人なら、
直人さんとヒロシを幸せに導いてくれるって・・
思ったの・・
(悔しいけど・・)
響子
「そう・・ですか・・・」
ヒロシや、直人さん・・静江さんは・・
最愛の家族の・・死を乗り越えて、
新しい生活を踏み出している。
わたしと、翔子ちゃんのお父さんも
応援しようって
誓い合ったのよ。
響子
「え?ええ~???
ひょっとして、お母さんと、先生の旦那さんって・・・
できてるんですかぁ~???」
うう・・そこで、そうくる?
(す・・鋭いわね・・この子・・)
響子
「あの・・心の声・・表示されてますよ~」
ヒエ~ ど・・どうしましょう!
(こ・・この子のペースにはめられてる気がするんだけどぉ~)
響子
「うふふ・・それは、聞かない事にします。
でも
何だか、お母さんと、上手くやれそう!」
よ・・よろしくね・・・!
(ふう・・よかったわ・・)
響子
何だか、この二人も・・良い味出してきたような・・・・




