64.意外な展開
視聴覚準備室
オカルト研究会の部室である。
ガラ・・・
未来先輩が扉を開ける。
「ただ今・・戻りました・・・」
「お帰り。お姉ちゃん!」
入り口の近くの机で、パソコンを開いていた拓夢君が先輩の入って来るのに気づく。
拓夢君が声をかけるが、少し元気のない様子だった。
「どうしたの?」
涙で赤くはれた目・・・
「泣いてたの?」
ハッとして、返事をする先輩。
「い・・いえ・・
目にゴミが入ったのよ・・・」
「ふ~ん・・」
先輩の言葉を、すんなり受け入れる拓夢君。
窓際の机に座った先輩。
「はぁ・・・」
中庭を見ながら、ため息をつく・・・
その、ため息の意味が分からなかった拓夢君だった。
「あ、お姉ちゃん!」
「なに?」
窓の外を眺めながら、生返事をする先輩。
「明日は、博士が少し、都合が悪くなったって・・・」
「そう・・・」
オカルト研究会としては、博士の研究の第二段階が開始されるという事で、期待していたのだが、
装置の不調で、明後日以降に延期になったという事だった。
先輩としては、日が伸びるだけ、好都合だったが・・・
そんな事は、どうでもいいような感じだ。
不思議に思った拓夢君が、声をかける。
「ねえ・・お姉ちゃん・・・」
「なぁに!?
さっきから!!!」
振り向いて、怒鳴る先輩。
周りに居た部員が振り向く。
「え?」と驚く拓夢君。
先輩が、こんなに怒ったことは無かった。
そして、先輩自身も、自分のとった行動に、驚いていた。
「あ・・
ごめん・・・」
そう言って、再び窓の外を見つめる・・・
先輩の脇に座る拓夢君。
小声で、先輩に話しかける。
「どうしたの?お姉ちゃん・・・」
「タクム・・・
わたし・・
変・・
なのよ・・」
自分が「変」だと洩らした先輩。
泣いていたような感じもあったし、何かが変だとは思ったけれど・・・
「何が・・
変なの?」
「わからない・・
何もかもが・・・」
『何もかも・・』拓夢君にとっては、オカルト研究会で行われている行為そのものが変だと思っていた。
博士の研究への全面協力。
博士の理論と、霊の世界の否定
「霊感ケータイ」アプリの開発
ゴーストバスター部を認めず、敵対している事
拓夢君を監禁している事・・
ある程度の理解を示している先輩であったが、副部長なので、部活の方針を曲げるわけにもいかない・・
その板挟みになっている事に悩んでいる先輩。
拓夢君もうすうす感じていた。
「部長と会ったの?」
「何でそれを?!」
驚いている先輩・・
「やっぱり?」
拓夢君は適当に言っただけだった。
いや・・・
拓夢君も、そういう悩みを打ち明けるならば、第一にヒロシに相談しようと思っていた。
顔を赤らめている先輩。
「僕が、お姉ちゃんだったら、
博士の霊の消去が行われる前に、
浄霊をしてもらう・・」
「ええ・・
その通りよ・・・」
「安心した!」
「え?」
「やっぱり、僕のお姉ちゃんだよ!」
「タクム・・」
「僕も、部長たちに、情報を流したところだよ。
早めに手を打たないととんでもないことになる。」
「え?でも、どうやって?」
開いているパソコンを見つめる拓夢君。
「ネット経由は、教頭先生にサーバーを監視されているだろうから・・
メールは使えないよ。
何を検索しているかも、見られてると思う。」
「そうね・・Hijiriさんの目が行き届いているでしょうから・・」
「他の方法で連絡を取っているんだ。」
「そう・・・
でも、
最期の頼みの綱は・・
あの部活しかないなんて・・
皮肉なモノね・・」
「うん。
あの部長は頼れるよ!
霊感は無いけれど、
ちゃんと、『霊の世界』を感じとっている。」
「それは・・・
『霊感ケータイ』を持っているから?」
「いや・・
あの人は
霊感ケータイが無くっても・・
『霊の世界』を感じ取れると思う・・・」
「私達みたいに・・
霊感が無くても?」
「うん!
何故だかは知らないけれど・・
部長には
僕達
霊感のある人達にないモノを持っているんだ・・
引き付けられるって言うか・・・」
「引き付けられる?」
「わかんないけどね!
さて!
僕もちょっと、ひとっ走りしてくるよ!」
そう言って、机を立ち上がる拓夢君。
もしもの時に備えて、夏休みから体力作りにジョギングをしてきたのだった。
「ええ・・
行ってらっしゃい!」
笑顔で見送る先輩。
部屋を出ると同時に、一人の監視役の部員が付いて行った・・・
「引き付けられる・・・
か・・・」
再び窓際で中庭を眺めながら、ポツリと言う先輩・・
「さ~て!まずは階段下の少女から行ってみましょうか~!!」
気合いの入った彼女。
紅白の巫女姿に御幣を構えて、髪止めも眼鏡も外している。
美少女バージョンの彼女。
そして、白装束に身を包んだ千佳ちゃん。
ドリンクを持った先生に、ホットケーキを抱えた沙希ちゃん。
そして、結界用の塩や水、酒、米をお盆に乗せて、僕が続く。
その異様な光景に、廊下を歩いていた生徒たちも唖然としている。
「あの可愛い子・・・誰??」
「あんな子・・この学校に居た?」
「ゴーストバスター部??
スゲー!!
オレも入りて~」
「何バカな事言ってるんだよ!練習練習!」
「って、先輩だって、見てるじゃないですか・・」
「うるせ~!」
すれ違う生徒たちが口々に噂する・・
美少女バージョンの彼女は最強!!
颯爽と歩く彼女が、北側校舎の1階の階段下の空間で足を止めた。
いざ!除霊儀式!!
と、僕の抱えた枡から塩を一掴み・・・
パッと撒こうとした時!!
「あれ???
居ないんだけど・・・・・」
動きの止まった彼女・・。
「え?・・
そんな事って・・」
僕がポケットから、霊感ケータイを取り出す。
ピッ
スイッチを入れ、カメラを作動させる。
階段下の三角の空間を映す。
居ない・・
何度も周りを探してみた。
つい、この間まで、博士と遭遇するまで、居たはずなのだ。
「ミナ・・・
地縛霊が動く事って・・
あるの?」
「いえ・・
地縛霊は、移動しないよ・・
その場所に念が強いから・・」
「じゃあ・・
居なくなる原因は・・?」
「う~ん・・
一つは、成仏した時・・
もう一つは・・
誰かに憑依した時・・
かな・・」
憑依・・・
誰かに取り憑いて行ったのだろうか・・・
若しくは、僕たちが来る前に、既に博士が消去していたとか・・・
色んな状況が考えられる。
「でも・・
あの霊は・・
ちょっと危ないかな・・・」
「危ない?」
「うん・・・
無視して、関係が無ければ、何も危害を加えられないけど・・・
波長が合うと・・・」
「波長が合う?」
「憑依されて、あの子と同じ境遇になるかも・・・」
「それって・・?」
「あの子・・
自殺したのよ。」
事故に合ったり、自殺した場合、あの世からの「お迎え」が来ないと言う・・・
その場所に念が強くなり、その場所に居つく事になる。
そして、
他の人を、同じ境遇にして死に追いやると、ようやくあの世へと行くことが出来る。
ただし・・行き先は地獄なのだ。
交通死亡事故の多発している場所では、このような地縛霊が存在する事がある。
その霊と同じ波長になった時、吸い寄せられるように、同じ境遇へと導かれる。
その事故で死んだ場合、前の霊と入れ替わり、新たに、その霊がその場所に居つく事になる。
命を取り合う事が繰り返されるのだそうだ。
「・・・どうすれば・・」
「う~ん・・
わからない・・・
気を付けてみている事しかできない・・・
今は・・
それどころじゃないし!」
そうだった。
僕たちは、一つの霊にこだわっているほど、余裕は無かったのだ。
階段下の少女は気になるけれど、次の霊の除霊に向かわなければならなかった・・・・
それが
重大な事件へと発展する。




