62.意外な反応・・
音楽室
ワイワイと声が聞こえる。楽しそうな雰囲気の部室・・
既に彼女や先生、千佳ちゃん、沙希ちゃんが来ているようだった。
拓夢君は相変わらず、オカルト研究会に監禁中だろう・・
ガラ・・
戸を開ける僕。
皆が静まり返る。
一斉に僕を見る皆・・
何なんだ?
この反応は・・??
「おめでとう~!ヒロシ君!」
「ヒロシ君!すごいじゃない!見直したよ!」
「ああ~尊敬します~」
「さすが、部長ね!!」
皆が、僕を褒めまくっている??
初めての事だった。
まるで、珍しい生き物でも眺めているかのような視線・・
「教務室でも、話題になってるのよ!」
「え?」
「まあ・・確かに!
今まで、赤点すれすれだった低空飛行のヒロシ君が
今回、学年でもトップクラスに上がったわけだし・・」
千佳ちゃんが解説を加える。
「ヒロシ君の親となって、直々に指導しているんではないかと、
教員の間で噂になってもしょうがないですね~・・」
「そ・・そうなのよ
スルドイわね・・千佳ちゃん・・」
真剣な表情の先生・・
そんなに、僕の成績が上がった事が、おかしいのか????
「でも、ヒロシ君はちゃんと自分で勉強してたんだよね~」
彼女がフォローしてくれている。
「うん・・」
「そう!私も保証する!」
先生もフォローするが・・
当の本人が保証しても、何の証言にもならないような・・
「う~ん・・怪しい・・・」
まだ、疑っている千佳ちゃん・・
「ひどいよ~。まるで、ヒロシ君の成績が上がったらまずいみたいじゃない!」
「今までが今までだったからね~」
「ううう・・・」
何だか・・
成績上がっても、肩身の狭い想いをしなければならないのだろうか・・
僕は・・
そんな僕を、見ながら、皆が、ニヤっとなった。
「って・・冗談よ~。
ちゃんと、勉強した分だけ、自分に返ってきたんだよ。
ヒロシ君が努力してるのは、みんな見てるんだよ!」
急に態度が変わる千佳ちゃん。
「そうですよ~
やっぱり、部長さんだって、皆で噂してたんですよ~。」
「千佳ちゃんも意地悪よね~」
「あら・・脅かそうって言ったの、先生じゃないですか~」
「あはは・・そうだっけ!」
何だ・・そうだったのか・・
内心、ほっとした僕だった。
「ヒロシ君の成績が上がったのは、教務室でも話題になってるのは事実なのよ・・
特に教頭先生が意識しちゃって・・」
先生が付け加えている。
そうか・・成績に敏感な教頭先生だ・・しかも1組担任も掛け持ちだから、
僕に抜かれた生徒も抱えて、ショックなのだろう・・
でも・・
そんなに、僕の成績が上がった事が、珍しかったのか????
「そうですね・・
ただでさえ、ウチの部は目の敵にされてますからね・・」
そうか・・
僕の結果は、思わない所で、ジャブになってたのか・・
そう言えば、さっき、未来先輩が話しかけてきたのも、何か策略の上なのかな・・
『霊感ケータイ』についても相談したいと言っていたけど、
話にのっていいのかどうか・・
少し、不安になった僕だった。
放課後
未来先輩の待つ屋上へと向かう僕・・
足取りが重い・・・
色んな思惑が交差するのだ。
今まで、雲の上の存在だと思っていたけれど、
急に僕に近づいてきた先輩・・
でも、前の保健室での出来事も気になっていた。
僕に助けられたって、僕を見直していた様にも思えた。
その時は、何だか、好いていてくれているような表情になっていたし・・・
うう・・
そう言えば、翔子ちゃんの時に、彼女と『もう浮気しない』って誓ったのだった・・
他の女の人と恋に落ちたらどうしよう・・
いや・・
いくら成績が上がったとはいえ、15位だ。
トップクラス・・
学年でも3位くらいにならなければ、意識されないのではないか??
それに
僕と先輩は、事実上、敵同士なのだ。
個人的に会う事も、本来あってはならない事なのだ。
う~ん・・
どうしたものか~・・・・
ガチャリ
屋上の重いドアを開ける。
階段室に貯まっていた、モワンとした空気が解放され、
青空がいっぱいに広がっていた。
さわやかな風が吹いている。
下の方から、グラウンドで部活をしている生徒たちの声がする。
あれ?
先輩の姿が無かった。
ひょっとして、騙されたのかな・・
そう思って、辺りを見回す。
でも、居ないのだった・・・
狐につままれたような・・
不思議に思った僕だった。
「ここよ!」
上から先輩の声がした。
「え?」
見上げると、塔屋の上に立っている先輩。
スカートの中がちらっと見えた・・・
意識して、手でスカートを押さえる先輩。
二人とも赤くなる。
塔屋の脇にある梯子から登ったらしい。
女子なのに大胆な・・・
「登って来て!」
「はい・・」
梯子を恐る恐る上る僕。
階段を登り詰めると、そこには、畳4枚分くらいの空間。手摺など無い・・・
「うふふ・・
ここ、私の秘密の場所なの!」
「え?」
「悩み事とかあると、ここに来るのよ。
ほら!」
先輩が指さす。
大空の下、街が広がる絶景のロケーション・・
小高い丘の向こうに、青い海が見える。
爽やかな風・・・・
先輩の髪とスカートが揺れる・・
見つめる先輩も、可愛らしかった・・・
いつもは、雲の上の存在なのに、こんなに近くに居る・・
ちょっと意識してしまった。
何か、話をして、ごまかそう。
「そうですね・・学校にこんな所があったんだ・・」
「そうでしょ?
ちょっと危ないんだけどね・・」
大風でも吹けば、落ちそうな感じもした。
と思ったら・・
ブワッ!!!!
急に、風が吹く。
先輩のスカートがめくれる。
「キャ!!」
スカートを押さえて、咄嗟に(とっさ)、僕にしがみつく先輩。
抱き止める僕・・・
しばしの静寂・・
先輩の肩を抱く僕・・・
こわばっている先輩・・
「大丈夫ですか?」
「う・・
うん・・
ちょっと驚いた・・・」
心臓がバクバクと鳴っている。
先輩も、おそらく、そうだろう・・・
「ちょっと・・・
座ろうか・・・」
「はい・・」
その場に座り込む先輩。
僕も、その脇に座った。
女の子座りをして、色っぽい先輩・・
塔屋の狭い空間に、僕と先輩しかいなかった・・
お互い、意識している感じがある。
何か、話をしないと・・・
「あの・・
相談があるって・・・」
僕から話を切り出した。
「ええ・・」
ほのかに流れる風が、先輩の髪を揺らす。
その髪をなでている先輩・・・
グラウンドを眺めながら、ポツリと言った・・・
「博士の研究も第二段階に入るのよ・・・」
「第二段階?」
それは、オカルト研究会にとって、機密事項なのじゃないのか?
そんな事を教えて、どうしようというのだろう?
「今まで、校舎内の『霊』が何処にいるのかを調べていたの・・」
『霊』の位置を調べていた?
彼女の作った地図を思い出した。校舎のどこに、どんな霊がいるのかを調べた地図・・
博士が、妙な装置を使って、学校中を調べていたのは、それが目的だったのか・・
そして、第二段階に入るというが・・・
「霊を調べて、どうするんですか?」
「除去よ・・」
「除去???」
「博士の装置には、『消磁モード』というのがあるのよ・・
それで、『霊』をかき消そうというの・・・」
彼女が、前に、悲鳴に似た声を聞いたという。
『霊』が消されていくような感覚になったというが、
学校中の『霊』を消そうというのか・・・
初めのうちは、全校の『霊』を除霊しまくろうと意気込んでいた彼女だったが、
博士の装置で、その意欲も消えてしまった・・・
あれ以来、悲鳴のようなものが聞こえず、安心はしていたのだけれど、
いよいよ、博士も本腰を入れて、この学校の除霊(?)を行おうというのか・・・
「そんな事・・
できるんですか?」
「ええ・・
あの博士の理論は、
ある程度、真髄を行っている・・
『霊』の存在も、
浮遊霊とか移動している霊は見れないけれど、
地縛霊は、アプリで見れるようになったわ。」
地縛霊が見れる・・・・
それは、僕の持つ霊感ケータイを使わなくても、全く霊感が無い人でも、『霊』が見れるようになったという事・・
前に、『霊感ケータイ』というアプリが存在し、実際に使っている人も見た。
博士の研究は着実に
「見えない世界」を「見れる」ようにしている。
そして・・
その霊を、今度は消し去ろうという大胆な行動へと移行しつつあるのだ。
「見えるモノは・・
今度は、消して見たくなるのかもね・・・」
「でも、そんな事をすれば・・・」
「ええ・・
どんな事態になるのか・・
分からないのよ・・」
「誰も、それには、疑問を持たないんですか?」
「博士にとって『霊』は『自然現象』でしかない・・
死んだ人の魂とか、霊の想いとか・・
そういう概念は無いの・・・」
今まで、僕が接してきた霊を思い出す。
それぞれ、亡くなった人たちの想い・・そういった『念』のようなモノが、それぞれあった。
念の強さが、現世で生きている人たちに、色々なメッセージを送っている。
病気で亡くなった人、事故で亡くなった人・・
空襲で亡くなった人達や戦争で命を落とした人・・
人生で目標を達成した人、
無念にも、志半ばで亡くなった人・・
家族や、近くに居る人たちに送るメッセージ・・
そういう『想い』がそれぞれの『霊』には、あるのだ。
「じゃあ・・
先輩はどうなんですか?」
その問いに、少し考えていた先輩だった。
「私は・・・」
「私には、分からないの!
どうしたいのか・・
どうしていいのか・・・
オカルト研究会にとって、博士の研究が進むのは喜ばしい事・・
博士の理論が、正しいって証明されれば、
『霊』については
人間にとって、どういう物なのかが・・
定義される。
それが、目的だった・・
でも、
本当の世界がある・・
『霊の世界』・・・
一歩足を踏み入れるだけなのに・・
いえ、
一歩踏み入れる事が・・
それが、どういう事になるのか、
全然考えていない事が・・
恐ろしい・・
でも
私には・・
止められないのよ!!
私は・・
私は・・
どうすればいいの??」
涙目になって訴えている先輩・・
先輩の方が、僕よりも霊感があるはずなのだ。
小さい頃から、拓夢君と霊の世界を見てきている。
そして
どういうものなのかも、直感で分かっているはずだ。
僕よりも、一歩も二歩も先を行っている先輩だ。
そんな先輩に、アドバイスなんて・・
僕ができるわけがなかった。
でも
必死になっている先輩を、
なぜか・・
「助けたい」・・
って
思った・・・
「わかりました」
「え?」
何故か、そう答えていた事に驚いた先輩。
「博士に除去される前に、『霊』を除霊します。」
「除霊を?」
僕に除霊ができるわけではない。
彼女にしかできない事・・
それを提案してしまった。
しかも、何ら抵抗することなく・・
「消される前に、
霊を成仏させれば、
それで、済む事だと思います。」
「そんな事が・・
出来るの?」
彼女は、妖怪との対決で、霊力が弱まっている。
『浄霊』をするには、彼女にかなりの負担がかかる事は明白だった。
でも
それをやらなければ、
どんな事態になるのか分からない。
「出来るか、どうか・・
わかりません・・
でも、
誰かがやらなければって・・」
「そんなに簡単に決めていいの?
この情報だって、
あなた達の部活をハメるためかも知れないのよ・・!
私と・・
あなたは・・
敵同士なのよ!
そんな私を・・」
「前にも言ったけど・・
『霊』を前に、敵も味方もありませんよ。
僕は
先輩を信じます。
真剣な
目をしてたから・・・
僕は
困っている人を
放っておけないんです。
いや・・
困ってる『霊』も・・
かな・・・」
ちょっとおかしな表現になったので、自分で少し笑ってしまった。
でも、先輩は・・・
「ヒロシ君・・・」
先輩の目が潤んでいる。
見つめる先輩。
「ありがとう・・・・」
自然に、その言葉が出てきたように思えた。
「私・・
何か・・
おかしい・・」
「え?」
「こんなに・・
素直になった事って・・
ないの・・・」
「素直な・・事が?」
「ええ・・・
私・・
ずっと
自分より成績が下の人や・・
男の人を
下げすましてきた・・
負けたくないって・・
どこか
一線を引いていた・・」
「僕は成績悪いから・・
先輩の眼中に入らないって・・
思ってました。」
「そうよ・・
初めはそうだったの・・
でも、
今まで見てきた人と・・
あなたは違うのよ・・・
なぜ?」
なぜ・・と聞かれても、それに答える言葉も無かった。
僕自身も、先輩からそう言われるなんて思っても見なかったし・・
でも、成績が今回上がった事を想いだした。
ひょっとしたら、それで、見る目が変わったとか???
「今回・・成績が上がったから・・・ですか?」
「あんな、
学年15位くらい、
全然気にしてないわ・・」
うううう・・・
はっきり言われてしまった~。
学年15位
『くらい』・・・・
しかも、『あんな』という形容詞まで付け加えられた・・
そうだよ、
そうだろうよ・・
低空飛行だった僕には、初めて上に上がった気分だったのに、一気に突き落とされてしまった・・
トップクラスの人から見れば、
15位『くらい』ですよ~。
こっちは必死で勉強していたのに~!!!
「成績なんて関係ないって・・
思ったのは・・
あなたが
初めてなの・・」
え??それって・・・どういう事????
「私を・・
助けてくれた時・・
あの変な霊から・・
私を
身を挺して
守ってくれた・・
私は
敵なのに・・
あんなに、あなたの事
散々に、けなしたのに・・
あなたは・・」
「先輩・・」
「この・・
感情は・・
何?
あなたと居ると
なぜか
心の中を
打ち明けてしまうの・・
一緒に・・
居たい・・
って
!!
・・・」
そう言った時、先輩はハッと自分の気持ちに気づいたようだった・・・・
「これ
って・・
あなたが・・
好き
って
こと?」
放心状態で、自分の心が信じられなくなっている先輩・・・
何を言ったのかも・・
僕にとっては・・・
事実上の
告白
先輩が僕を見つめている。
綺麗な・・先輩・・・
硬い・・
雲の上の存在だと思っていた先輩だったけれど・・
恋をしている女の子の目は・・
とても
可愛かった・・・
思わず
抱きしめてあげたいと思った。
二人っきりの
校舎の屋上の塔屋の上・・・
誰も来ない
先輩の秘密の場所・・・
目の前に居る先輩は
学校でも成績はトップクラスのエリート・・
オカルト研究会の副部長として、校内でも成績の良い人たちを束ね、取り仕切きりながら、
生徒会の3役もこなしている。
まさしく、一般の生徒にとって雲の上の存在なのだ。
その
先輩が・・
僕に・・
いや
僕を好きだと言う・・・
何かの間違いだと思ったけれど・・
現実に僕の前に、
直ぐ側に・・
先輩が居るのだ・・・・
しかも
他の誰にも見せた事のないような・・
可愛い表情で
僕を見つめている。




