61.成績
博士が僕たちの学校に来てから10日が経とうとしていた。
始めのうちは珍しく、意識していた生徒も、日に日に、当たり前の光景のようになっている博士達の探査作業だった。
オカルト研究会の存在感が大きくなるとともに、
僕達、ゴーストバスター部は、噂にも上がらなくなってきていた。
まあ、
博士が来る前も、それほど、頻繁に話題にされていたわけではないけれど・・・
「おはよう!ヒロシ君!」
「おはよう。」
僕と彼女のいつもの挨拶。
毎日、顔を合わせるだけで十分だ。
眼鏡をかけ、冴えない姿の彼女
・・いや・・
最近は、少し、違っていた。
いつもの大き目な髪止め1つではなく、少し小さめのバンド(?)2本で、ツインテール姿になっている。
これはこれで、可愛いのだった。
ツインテールだと、翔子ちゃんを思い出してしまう。
童子四天王の攻撃が、いつ、繰り出されるのか、細心の注意を払う必要がある。
髪止めも霊力を抑える能力を、少し軽くするため、この髪型になった。
ああ・・・
これで、眼鏡がなければ、ホントに可愛いんだけどな~。
「どうしたの?
じろじろ見て・・・
何かついてる?」
「え?
あ・・眼鏡とったほうが、
カワイイんだけどな・・・って・・」
ニッコリとほほ笑んだ彼女。
やっぱり、カワイイ・・・
「うふふ~
仕方がないよ~。
これがないと、見え過ぎるんだもん・・」
『見え過ぎる』・・
彼女は霊感があるので、眼鏡を取ると人の周りに居る守護霊や背後霊、地縛霊やら浮遊霊が見えてしまう。
通常、暮らしている時に見る人間だけでなく、3倍から4倍の人なのか人でないのか
わからないモノでごちゃごちゃの世界に見えてしまうのだ・・
霊感もありすぎると、それはそれで、困った事になってしまう。
「もったいないよね・・
ミナは可愛いのにさ・・・」
「えへへ~。
ヒロシ君に分かってもらえれば、それで良いよ~」
うむ・・こんなオノロケの展開で、この巻の後半が始まっていいのだろうか・・
「こら~!!
そこの二人~!
朝っぱらから、イチャイチャして~!!」
後ろから、声がする・・
「あ、千佳ちゃん。おはよう~。」
「おはよう・・
全く、あんたたちは平和そのものだね・・」
「あはは~。
だって、私は、ヒロシくんと居ればいいんだもん!」
「わかった、わかった!
この幸せ女が・・
ヒロシ君!
あんた、中間テストは良かったんでしょうね~?」
「え??」
いきなり、何で、テストの結果の事を聞くのだろう??
「『え?』・・じゃないわよ~!
テストが悪ければ、放課後、補習授業なんだから・・
部活に出れないでしょ~??」
そ・・そうだった・・
夏休みからの猛勉強で、多少成績が上がったとはいえ、まだまだ赤点すれすれの僕なのだ・・
「大丈夫だよね~。
ヒロシ君。
先生がついているんだから。
家庭教師が家にいるようなものだもんね~」
うう・・
僕の父と同じような事を言ってる彼女・・
そこは、一抹の不安が残るんだよな・・・
昼休み、渡り廊下に貼りだされた中間テストの成績発表を見に行く・・
既に、人だかりができていて、成績の良し悪しでお互いの評価を言い合っている・・
意外に良かった人、
悪かった人・・
ドキドキする・・
今まで、成績が悪いのが当たり前だった僕にとって、成績発表など別世界の人間だった。
中学二年生の2学期の成績が、高校受験の内申点に響くとは聞いてはいたけれど、
彼女と同じ高校へ行くには、今までの成績ではとても入れなかった。
夏休み以降の勉強成果が、どこまで効果を発揮しているのか・・
そして、部活動が今まで通りに出来るのか・・
このテストの結果で左右されると思うと、ストレートに圧し掛かる・・
3年生の成績欄が目に入る・・
1番は
「水島未来」・・
拓夢君のお姉さんだ・・
さすが・・学校一の秀才と言われるだけある。
オカルト研究会の副部長を務め、生徒会の3役でもある。
僕など、足元にも及ばない、雲の上の存在・・
・・の先輩が、僕の目の前に居た・・
「ヒロシ・・・君・・・」
「先輩・・・」
見つめ合う僕と先輩・・
ああ・・
雲の上の先輩だ。僕なんて、全く眼中にないんだろうな・・・
「ど・・
どうだった?
成績・・」
???先輩が僕の成績を気にするのか???
「いや・・
これから・・
見る所です・・」
「そう・・」
何故か、顔を赤らめている先輩・・どうしたんだろう?
それにしても、この間を何とかしなければ・・・
って言うか、何で、そう思ったんだろう?
「あの・・
博士の研究は進んでるんですか?」
あれ?何で、博士の事なんか聞いているんだろう?
第一、博士の研究に関しては、オカルト研究会の極秘事項・・
ましてや、敵方の部活の部長なのだ・・
僕には、すんなり教えてくれるはずはない・・
「ええ・・
進んでいるわ・・
『霊感ケータイ』ってアプリが効果を発揮している・・」
えええ??
何で、教えるの??
「それは・・
凄いですね・・」
「ええ・・
怖いくらいに・・」
そう言った先輩の表情は何やら悲しそうだった・・
「あの・・
ヒロシ君・・」
「何でしょう?」
「その事で・・
相談があるのよ・・
放課後・・
空いている?」
「え?」
何なのだろう?この展開は・・・
お互い、敵同士なのに・・情報の交換をするのか?
「あ・・
はい・・・・」
思わず、承諾してしまった・・
「じゃあ・・
屋上で待ってるわね!」
小走りに去って行った先輩・・
僕にとっては、雲の上の存在の先輩・・
蛇に睨まれたような・・何も抵抗もできない僕・・
先輩の言うなりになってしまった・・
そ、そう言えば、僕は、目的があったのだった。
中間テストの発表・・
2年生の欄を見る。
成績の悪い僕は、下から数えた方が早かった。
まあ、30位くらいから見ればいいだろう・・
ドキドキしながら、見てみる・・
40位を通り越しても僕の名前が無かった・・
うう・・学年が150人の我が学校では、上位は狙えないわな・・・
50位も60位も通り越す・・
80位・・中間にも居ない・・
100位・・・
120位・・だんだん、落ち込んできた・・
やっぱり・・下から数えた方が早かったか・・・
あれ?
150位より下にも居ないぞ・・・
もう一度見てみるが、なかった・・・
ひょっとして、
番外????
それとも、30位より上なのか???
まさかね・・・
万が一の可能性がある。
20位くらいに彼女の名前があった。千佳ちゃんの名前もある。
やっぱり、2組は成績いいんだよね・・
3組は、成績の悪い人だけを集めたという噂もある。
先生も大変なクラスを受け持っているのだ・・
え?
その時、目を疑った・・
15位に僕の名前がある・・・
え? え? えええ???!!!
時間が凍りついてしまった僕・・・・・・・・




