58.変容
「嘘よ!
やっぱり、何かしたのよ!!」
豹変したようにお父さんに食って掛かるユミちゃん。
「ユミちゃん!」
「私にはわかるわ!」
「何が、分かるって言うんだ!!」
怒り出すお父さん。
その時、お父さんの後ろに、男の人の影が浮かんでいた・・・
ハッとなるユミちゃん・・
恐怖の目でお父さんの方を見る。
「何だ!その目は!!!」
「男の人よ!!
この間の・・
お父さんの後ろに・・!!!」
不気味な笑みを浮かべる中年の男の人の『霊』・・
先日、博士が消したはずの『霊』だった・・
「変な事を言うなーーー!!」
ビシーーーーー!!!
平手を打つお父さん・・
「キャーー!!!!」
が・・それを受けたのは、お母さんだった。
お父さんの一撃で、床に飛ばされた。
「おまえ・・!!!」
「お母さん・・!!」
驚いているユミちゃんとお父さん。
「子供には手を出さないで!」
かばったお母さんの頬が赤く染まる。
そして・・
そのお母さんの脇に、女の人の『霊』が浮かび上がっていた・・
悲しげな
この世の者でない、生気のない表情の中年の女性・・
「お・・・お母さん!!!」
恐怖の目で二人を見るユミちゃん。
「どうしたの?ユミちゃん!」
お母さんが、近づくと、その『霊』も一緒に近づいてくる。
憑依されているのだろうか・・・
「いや・・いや!!!」
「ユミちゃん!」
「来ないで!!来ないでーーーー!!!!!」
居間のドアを開けて、廊下に出るユミちゃん・・
目の前の階段に、蠢く白い動物・・
トン・・
トン・・
「う・・ウサギが何で・・」
階段の上を見る・・
階段の登りきった廊下に・・
昼間、ウサギ小屋で見た黒い影・・
表情は見えないが、こちらを見下ろしている。
目線を下にそらすユミちゃん。
廊下の突き当たりが目に入る。
その先に、
数人の大人の人の影がこちらに向かって歩いてくる・・
背筋が凍るユミちゃん・・
「ユミちゃん!!どうしたの!!」
お母さんが居間から出てくる。
その肩に、女の人の姿が憑いて来ている・・
「イヤ!!イヤーーーー!!!」
玄関の方へ走り出し、
靴も履かないで、ドアのカギを開けようとする。
ガチャガチャと恐怖で手がこわばり、上手く、鍵が開からない・・
後ろを振り向くと、先ほどの廊下から歩いてくる影が近づいて来た。
ガチャ!!
鍵が開いた。
ドアを勢いよく開いて、外に出る。
ポーチに躍り出たユミちゃん・・
逃げようとするが・・
目の前に、
ボウッと暗闇に浮かび上がる・・
女の子の姿・・
昼間の踏切の少女が立っていた。
ウサギのぬいぐるみをかかえている少女・・
薄らと微笑む。
「キャーーーー!!!!」
悲鳴を上げるユミちゃん。
「大丈夫か!!」
「え?」
耳を疑うユミちゃん・・
その声は、聞き覚えがあった・・
男の人の・・
「博士!!」
少女だと思った場所に、博士が立っていた。
涙目で博士の胸に飛び込むユミちゃん・・
「博士!!博士!!!」
しっかりと、抱きかかえる博士。
「もう大丈夫じゃ!
心配いらん!」
慰める博士・・
「博士!この間の男の人の『霊』が、まだ消えてなかったんです!」
「ふむ・・ワシのは携帯用だからな・・
今日は、本格的なモノがある!」
「え?」
「大平君!」
「はい!!」
背中に何やら装置らしき箱を担いだ大平さんが現れた。
装置のスイッチを入れる。
ピピピピ・・・
「かなりの反応があります!!」
「うむ・・
消磁モードに切り替えるのじゃ!」
「はい!!!」
ピィーーーーーーー
「ユミさん・・
消磁モードでは、『霊』の位置がわからん・・
ワシらの目になってくれるか?」
「はい!!!」
博士の腕に抱かれながら、周りを見回しているユミちゃん・・
「何ですか!あなた方は!?」
「博士!」
玄関から心配して出てきたお父さんとお母さん・・
「何?あなたが博士??
私の娘を放してください!!」
お父さんの声など、聞いている余地も無いユミちゃんだった。
「博士!お父さんの後ろに!!」
「ふむ・・大平君!!」
「はい!」
手に持った検針器のようなものを、お父さんに向ける大平さん。
「な・・何ですか!!!」
お父さんの肩から後ろにかけて、装置をかざす。
「そこです!!」
スイッチを入れる大平さん。
ピヨーオオオオーーーー
その機械音と共に、すーーーっとかき消されていく男の人の『霊』・・
「あれ?
肩が軽くなった??」
お父さんが不思議がっている。
「お父さん!
今まで、あなたの周辺に、『霊』が転写されていたのですよ!」
「え?『霊』が??」
「博士!お母さんの肩にも!」
「大平君!!」
お母さんの『霊』も除去する大平さん。
「ここは、『霊』の通り道の様です!
私の後ろへ控えていてください!」
博士の後ろへと廻るように促す。
「何を、得体の知れない事を!!
あなた方は、何なんですか!!」
未だに、博士を信用できないお父さん。
「あなた・・」
「博士!玄関から出てきました!!」
「かなり、反応があります!」
お父さんを宥めようとしているお母さん。
それには構わずユミちゃんが霊を探査し、大平さんがそれを確認した。
「ふむ・・出力を20dB増やすのじゃ!」
「はい!!」
「博士!右です!!!
お父さん!お願いだから、こっちへ来て!!」
邪魔になっているお父さんを呼ぶユミちゃん。
「あなた!
ユミの言う事を信じて!!」
「お前まで・・?」
「お父さん!!」
お父さんのすぐ後ろまで、迫っていた無数の影・・
「イカン!!」
簡易計測機を見ていた博士が叫ぶ。




