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霊感ケータイ  作者: リッキー
ファーストコンタクト
171/450

55.一人娘


人にはそれぞれ、『鬼門』と呼ばれる方角、時刻、人、モノが存在する。


ディザスター・・災い・・

不幸に陥るきっかけになるもの・・

そういった事象が存在する。


触れてはならない、また起きてはならない事柄に遭遇し、不幸の方向へと転換する事がある。



風水や八卦でいう所の『鬼門』は北北東の方角を差し、その反対の『裏鬼門』は南南西を差す。

鬼門と裏鬼門は相対し、中心から直線が引くことが出来、その直線自体を「鬼門線」と称する。


この直線上に様々な、出来事が起こるという。


災い・・不幸・・


そういった、事が起こりやすい。











夜、ユミちゃんの家・・


未だ、博士がユミちゃんの勉強に付き合っていた・・


 ガチャ・・


「ただ今~」

玄関のドアが開く。


「あ、お母さんだ~」


バタバタと廊下へと走って、迎えに出るユミちゃん・・

男物の靴が揃えてある事に気づくお母さん。


「ユミ・・」


「あ、博士が来てるんだよ~」


又か・・という表情のお母さん。どちらかというと、こんな時間まで博士が居る事を懸念していた。


「済みません。また、お邪魔してしまって・・」

博士も玄関まで、迎えに出てくる。


「博士・・

 私は、昨日、編集社まで行って、御断りしたんです・・

 もう、これ以上、立ち入らないで頂きたいって・・」



「え?お母さん・・」

お母さんの言葉に、悲しい表情になるユミちゃん・・





「そうでしたか・・

 それは、当然であります。


 得体の知れない者が、ずけずけと他人の家に上がり込む事は異常です。


 ましてや、一人娘のユミさんに、

 何かあったら・・と心配になるのが、

 ご両親として、当たり前の事です。」


「博士・・

 ご納得されているのでしたら・・」



「それが・・・

 納得できんのです!!」

激しい口調になる博士。


「え?」


「そこまで、ユミさんの事を心配しているのなら、

 守ってあげるのが・・

 話を聞いてあげるのが、家族の・・

 ご両親の役目ではないのですかな??」



「それは・・」


「昼間、この子は、大変な目に合っている・・


 いつ、現れるか分からない・・

 得体の知れない現象に悩まされているのです。


 お母さんの帰りを、ずっと、この家で・・不安な中で待っている・・ 


 それでも、

 あなたがたの役に立ちたいと、

 献身的な・・健気な(けなげな)態度で、あなた方を迎えている・・


 この子の気持ちを・・

 察して頂きたいのです。」


無言に俯く(うつむく)お母さん・・


「博士!!お母さんを責めないで!」

涙目になって訴えているユミちゃん・・

首を横に振っている・・


「すみません・・

 つい・・

 興奮してしまった・・」


「・・・・・・」


博士が、ポツリと呟く・・


「私にも、一人娘が居るのです・・

 いや・・

 居たのです・・」


「え?」

その意外な事実に、耳を疑ったお母さん・・

そして、ユミちゃん。


「この子を見ていると、

 つい、娘の事を想い出してしまって・・


 すみませんでした・・」



靴を履いて、玄関を出る博士。

軽くお辞儀をして、ドアを閉める。



 ガチャ!


「博士!」

ドアを開けて、出てくるユミちゃん。


振り向く博士・・・


「あの・・

 その・・

 博士の・・

 娘さんは・・・」


娘さんの事を尋ねたユミちゃんに笑顔を見せる博士。


「交通事故でね・・


 もう

 この世には居ないんだよ・・」


「博士・・・」

歩いていく博士の背中を見送るユミちゃん。


その場に、座り込み、伏せるお母さん・・











電車に揺られている博士。

窓の外を見つめながら、物思いにふける。


「弥生・・」


ポツリともらす・・博士の・・娘さんの名前?




  ・


  ・


  ・

  ・

  ・



「お父さ~ん。お帰りなさ~い」


「ただ今・・」

小さな弥生ちゃんが、博士を出迎える。


アパートの玄関。


「ほら~。今日、漢字テストがあったんだよ~。


答案を見せる弥生ちゃん。


   55点・・・


「ふむ~。もう少し、勉強せんと、いかんな・・・」


「でも、弥生、漢字、苦手なんだもん~。」


「小学校も低学年から苦手な科目をつくっちゃイカン!

 お父さんが見てあげよう!」


「え~!!!

 やだよ~。」


漢字ドリルを片手に、弥生ちゃんの脇で指導する博士・・

必死に書き方の練習をしている弥生ちゃん・・





「ねえ・・お父さん・・」

弥生ちゃんが聞いてくる。


「なんだい?」


「お父さんって、『ユーレイ博士』なの?」


「え?」


学校で『ユーレイ博士の娘』と言われて、いじめられていた弥生ちゃん・・


得体の知れないテーマに挑んでいた博士ではあったが、一般には受け入れられず、

奇異な存在だと周りに噂されていた。

時々TVやオカルト雑誌でも紹介されていたが、まともには取り合ってもらえていなかった。


それでも、弥生ちゃんは、立派に研究をしているお父さんだと、尊敬していたのだった。



「わたし、『ユーレイ博士の娘』でも、いいよ・・

 お父さん、熱心に研究しているんだもん。

 最高のお父さんだよ!」


「弥生・・」

頭をなでる博士。


「えへへ~」



そして・・・












「弥生!!弥生!!!」




交通事故に合い、病院に担ぎ込まれた弥生ちゃん。


ベットの脇で、必死に弥生ちゃんの名を叫ぶ博士・・






「お・・父・・・さん・・」


「弥生!!!」


「いつか・・

 研究が・・


 成功するよ・・・・


 頑・・


 張っ・・


 て・・」


笑顔で、寝むるようにこの世を去る弥生ちゃん・・・


「弥生~~!!!」




  ・


  ・

  ・

  ・










「ふむ・・・」


真っ暗な闇に浮かぶ、無数の灯りが流れていくのを見つめている博士だった・・



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