51.うさぎ小屋
再び
月刊オカルト編集社
「一体全体、私を呼び出して何だって言うの?!」
応接コーナーにて、陽子が今西に迫って問いただしている。
またか・・という感じの陽子・・
「いやぁ~
ごめん、ごめん・・」
今西は、あまり気にしていない・・
ほんと・・ノー天気な人だ・・
「実は、
例の博士に手紙が来てね・・」
「博士~??」
以下、今までの説明をする今西・・
・
・
・
「そう・・そんな事が・・」
「どうも、あの奥さん・・
何か、隠している事があるような気がするんだ・・」
「一度、その家を見たいトコね・・・」
「ああ・・住所はあるよ・・」
「帰りに、その家を見てくるわ・・
ところで・・」
「え?」
「まさか、この件で、私とあの博士を対決させようって魂胆じゃないでしょうね・・」
「あはは・・
バレた??」
「当たりまえでしょ?!
見え見えなのよ!!
あんたの考えそうな事よ!」
「博士に全てお任せしようと思ったんだけどね・・
奥さんが来なければ、すんなり行ったんだけど・・」
「もう!
手に負えなくなったら、すぐ私に頼るのは止めてよね!」
「ごめん!
この穴埋めはするからさ・・」
平謝りの今西・・
この男も・・無責任な面がありすぎる・・
「どれだけ、穴があるか!!数えた事ある??」
「あ~そういえば、この間もだったっけ・・・」
ヒンシュクの目で見ながら、諦めの表情の陽子・・
「ふぅ~・・
あなたにも困ったモノね・・
博士にばれないように、
調べておくわ・・」
「スマナイ・・」
陽子さん・・・ご苦労様です・・
博士の研究室
「大平君・・
今日も少し早めに上がるよ・・」
「はい。
実験は続けておきます」
「よろしく頼むよ・・」
博士が、帰宅の準備をし始める。
大平さんがポツリと聞く。
「ところで、博士・・」
「何だね?」
「この間の電話の件ですが・・・
雑誌社の方が、
『霊』を消去して頂いて・・・
喜んでおられたと・・」
「うむ・・
ワシの簡易計測装置に反応があってな・・」
「興味深いですね・・
私にお手伝いできる事は?」
「今の所は、ワシだけで十分じゃ・・
実験も中断させるわけにもいかんしな・・
じゃが・・」
何かを思いつく博士・・
「はい・・?」
「気になる事がある。
調べてもらいたい・・」
「喜んで!」
「すまんな・・
いつも、手間をかけて・・」
「いえ。
やりがいがありますよ!」
「ふむ・・」
何やら指示をして、研究室を後にする博士・・
陽子と博士のそれぞれが、女の子の件に関して、双方思う所があるようだった・・
ユミちゃんの通う小学校。
「さようなら~」
「またね~」
放課後、下校の生徒が挨拶をし合っている。
「今日のウサギ小屋の当番は中野さん達だったわね・・」
「はい。先生!」
勢いよく答えるユミちゃん。
ユミちゃんともう一人の友達が、校庭にあるウサギ小屋へと向かう。
校舎の脇の、広場にあるスペースに、3帖くらいの比較的大きな小屋が建っていた。
他に同じ大きさの鳥小屋も併設されている。
コッコッコッコ
鶏の鳴き声が聞こえる。
動物の匂いがほのかに香る。
丸波のトタン屋根と外部に面する部分は金網が張ってある。
中に10羽程のウサギが蠢いていた。
4年生全員で飼って世話をしているのだ。
床には、キャベツの葉が散乱していて、その餌を片付けたり、水をやったりするのが当番の仕事だ。
金網が張られた戸を開けて、中に入るユミちゃん。
「だいぶ、散らかってるね・・」
「この子達、元気が良いからね・・」
餌の葉っぱを集めだすユミちゃん。
小屋の外で、飛び出た葉っぱや落ち葉を竹ぼうきで掃いている友達・・
作業をしていると、女の子数人が外に居る子を呼んでいる。
「ミカちゃん、先生が呼んでたよ~。」
「あ、はい。
ユミちゃん、ちょっと行ってくるね!」
「うん・・」
黙々と作業をしているユミちゃん・・
水飲み用のタライの水を足し、小屋を出ようとした時・・
金網のドアの鍵がかけられている事に気づいた・・
「あれ?ミカちゃん・・閉めてったのかな・・?」
先生に呼ばれたというので、帰って来るのを待つことにした・・
ウサギを一羽抱いてしゃがたんでいるユミちゃん。
「遅いね~。ミカちゃん・・」
ウサギに餌をやりながら、待っている・・
10分程経ったが、戻ってくる気配がない・・
少し、焦ってきたユミちゃん・・
金網に手を握る。
「誰か・・・
誰か居ませんか~?」
外の誰かが気づいて、開けてくれないか頼もうとしたが、小屋の周りには、人気が全くない・・
寂しい場所なのだ。
「誰か~!」
誰も来ないウサギ小屋に、一人閉じ込められてしまったユミちゃん・・・
先程、ユミちゃんと一緒に当番をしていたミカちゃんと、呼びに行った女の子数人のグループが、校門から帰って行く・・
「あはは・・
あの子、今頃、慌ててるだろうね~」
「ミカもワルよね~」
「あの子には、『ウサギ小屋』が似合ってるのよ。
家を建てて引っ越してくるなんて、100年早いのよ」
「いい子ぶってるしね~」
「男子には人気だからね・・ちょっとイラつく・・」
「でも、あの子、霊感があるって・・・」
「変な目で見られると、気味が悪いわよね~」
「自分だけ、特別だって、思ってるんじゃない?」
そんな話をしているのを、聞いている先生・・
「ユミ・・ちゃん・・?」
小屋に閉じ込められているユミちゃん・・
「誰か居ませんか~?」
涙目になっているユミちゃん。小屋の周りには誰も来る気配がない・・
その時・・・
バサバサ
コココッコ
隣の鳥小屋の鶏が騒ぎ出す。
何か嫌な気配がした・・・
ウサギ小屋の奥の方で、微かな気配を感じ取ったユミちゃん。
「え?」
恐る恐る振り向く。
ウサギが数羽、固まっている場所に、黒い影がうっすらと浮かんでいた・・
小屋の陰で、暗くなっているのではない・・
「何か」が、そこに居る・・
ボウッっと・・薄気味悪い気配が、その影から醸し出されている。
なんとなく、
人の形に見える・・
こちらを向いて、ニコっと笑っているような・・・
背筋が凍るような感覚に襲われたユミちゃん・・
「い・・
いや・・・!」
金網を握りしめて、助けを呼ぶ。
「誰か!!
誰か!助けて!!!」
必死に外に呼びかけるが、誰も来る気配がない・・
後ろの影が、少しずつ、こちらに近づいてくるのを感じた。
「誰か!!」
金網を掴む手から、血がにじみ出て来ていた。
影の方を振り返る。
直ぐ目の前まで、来ている影・・
「嫌!!いや~!!!」
その時、
「ユミちゃん!!!!」
「先生!!」
先生が駆けつけてきた。
小屋のカギを開けて、ドアを開く。
小屋から飛び出し、必死になって、抱きついてくるユミちゃん。
「大丈夫?中野さん!!」
「先生~!!!」
先生の胸で泣きじゃくるユミちゃん・・・




