50.相談
月刊オカルト編集室
事務所に届いた自分宛の封書を開けて読んでいる今西。
あの女の子からの手紙だった。
「へぇ~。あの女の子の所へ、博士が訪問したんですか~。」
覗き込んだ女性スタッフが声をかける。
「ああ・・
博士が『例の装置』で『霊』を消したそうだ・・」
「それって、凄いですね!
スクープじゃないですか~。」
「そうだな・・
いい記事になれば良いがな・・
あ、そうだ、博士にお礼を言っておかなきゃ!」
思い出したように、電話機をとる今西。
博士の研究室へかける。
「あ、大平さんですか?
月間オカルトの今西です。
いつもお世話になっております・・」
丁重に博士へのお礼の電話をする今西だった・・
電話が終わるなり、事務所の入り口から声が掛かる。
「今西さ~ん。
面会の方ですよ~。」
「え?俺?」
見ると、あの女の子のお母さんが会釈をしている。
今西にとっては初めて会う人だった。
事務所まで来て、いったい、何の用なのだろう・・・
事務所の一角に設置された応接間にて、二人が話し込む。
「中野ユミの母ですが・・」
「ああ・・あの女の子の・・」
「先日は、色々と娘に良くして頂いたのですが・・」
「はい。
博士なら、ちゃんとした研究所を構えておられるので、ご安心ください。」
「その事ですが・・
もう、私達家族に、関わって頂きたくないのです・・・」
「はあ・・・」
急に、手を引いて欲しいと言ってきたお母さん。
聞けば、あの後、女の子と父親とで口論になったそうである。
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夜、お父さんが帰って来て、昼間の話をしたが、
感心するどころか、怒られてしまう女の子・・
「何だって?
うさん臭い大人なんか、滅多に家に入れるモノじゃない!」
「お父さん!ひどいよ!
博士はウサン臭い人じゃないよ!」
「あなた・・
あの人は、この家に居た『霊』を消したって・・」
「お前まで、そんな事言うのか?
第一、この家は、変な『霊』が出るような所じゃない!」
「でも、あなた・・
ここは・・」
「ここは、俺たちの土地だ!俺たちの家だ!!
ローンをかかえて、必死に働いて、ようやく買ったマイホームだ!
そんな事で!!」
「『そんな事』って・・私には『見える』のよ・・
この家には、『霊』がいっぱい居るのよ!」
「何だと!?」
「昼間の男の人だけじゃない・・
まだ、居るのよ!」
「そんなの・・
幻覚か何かだ!
オレは見た事ないぞ!」
「あなた・・この子の気持ちもわかってあげて!」
お父さんの前に出て、女の子をかばうお母さん。
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お母さんの話を聞いた今西さんが、
「そうですか・・そんな事が・・」
「博士のご好意は嬉しいのですが、
これ以上は、私達の家庭の問題に入ってこられそうで・・」
「まあ・・
プライバシーの問題もありますからね・・
でも・・
娘さんは、どう言っておられるのですか?」
「はい・・
それが、すっかり、博士の虜になったようで・・」
「そうでしょうね・・
今まで、誰も本気にしてくれなかった上に、
理解する人が現れ、更に、その『霊』を消す事ができたのですから・・」
「主人とは、口も聞かない状態です・・」
「一家の主であるご主人よりも、
得体の知れない博士の方を信用している・・
奥さんは、どうされたいのですか?」
「私は・・」
考え込んでしまうお母さん・・
今西がポツリと言う・・
「その・・
娘さんの話だと、
まだ、その家に、無数に『霊』が居るという事ですが・・
そんな状態のまま、博士や私達が手を引いても良いのですか?」
「それは・・・」
悩んでいるらしく、どう答えていいのか分からない様子のお母さん・・
何やら、その家庭や家に、問題がありそうだと思い始めていた今西だった・・
「う~ん・・」
自分のデスクに座って、考え事をしている今西。
女の子のお母さんが帰ってから、その家族の事が気になっていた。
関わりを持たないで欲しいと言って来たお母さんに対して、
事実上は、そのまま維持で・・という感じになってしまった・・
引くでもなく・・
押すでもなく・・・
何とも、ややこしい展開である。
事務所の天井を見つめながら、考えている今西・・
雑誌のネタとしては、十分だった。
『霊』が見える少女・・
『霊』を消す装置を開発した博士・・
そして・・
「そうかぁ~!
困った時は!・・・」
何か、ひらめいたようだが・・
嫌な予感が・・
夕方。
山奥の神社・・
リーン・リーン
「はい。望月です!」
美奈子が電話を取る。
「お母様~。
今西さんから電話です~。」
『困った時の陽子頼り』・・
困ったものです・・




