47.訪問
都内の駅
駅前の人通りの激しい商店街をしばらく歩いていた博士・・
信号機のある十字路で立ち止まり、上を見る。
電線の隙間から覗く青空を見つめながら、ため息をもらしている。
「ふう・・」
何やら、難しい顔をしている博士・・
あまり気が進まない様子だった。
住宅街の一角にある公園を通り過ぎ、1、2件進んだところで、ポケットからメモ紙を一枚取り出す。
「この辺りか・・」
洋風の小さな家が立ち並び、その表札に目的の住所を発見した。
『中野』
「ここだな・・」
家の前に立ち止まり、少しの間、呼び鈴を押すのをためらっていた・・
「博士・・ですか・・?」
後ろから子供の声がする。
振り向くと、小学校中学年くらいの女の子が立っていた。
ランドセルをしょって、学校から帰宅したところのよう・・
「ユミさん・・・ですかな・・?」
「やっぱり、博士だ!
わぁ~
来ていただいたんですね!!」
笑顔を見せ、喜んでいる女の子。
可愛らしい・・
博士にとっては、女の子を訪ねるなんて初めてだった・・
「おうちの方は?」
「あ・・、まだ帰って来てないんです。」
ランドセルの脇にくくりつけてあった巾着袋から鍵を取り出して、ドアを開ける少女。
もあーんと中から熱気が出てくる。
暑そうな室内・・
「凄い、熱気ですね・・」
「ふむ・・」
「ちょっと待ってて下さい。」
玄関にランドセルを置いて、家じゅうの窓を開ける少女。
1階は防犯上の雨戸になっていて、暗かった部屋が開けると明るくなる。
一人で家の窓を開けるのが何の抵抗も無く、慣れている様子。
「お上がり下さい。」
少女に勧められて家に入る博士。言われるがままに居間に通される。
ソファーに座ると、冷えた麦茶の入ったコップを渡された。
「はい。博士!」
「どうも・・」
窓を開けたての部屋は、まだ、熱気がこもっている。
汗が噴き出る感じだったが、麦茶を飲むと、冷たく、心地よい。
「本物の博士に来て頂けるなんて、光栄です!」
少女が改めて感動している。
博士にとっては、ほんの少し時間が空いたので訪ねてみたという軽いものだったが、少女にとっては重大な事だった。
「そんなに喜んで頂けるとは・・」
「博士の記事を雑誌でよく、読んでます。」
机の脇に置いてあったマガジンラックから、「月刊オカルト」を取出し、見せる少女。
付箋が挟まっていて、博士の記事が、直ぐに出てきた。
「ほう・・
今西君の雑誌をねぇ・・」
「博士の記事は、欠かさず読んでるんですよ。
『霊』の世界を科学的に探究するなんて、
凄いな~って・・」
「そうですか・・
私の専門は、本当は『電磁気学』なんですが・・
最近は、どうも、今西君に霊の研究ばかり勧められててね・・」
少女がこの上ない笑顔で見つめている。
霊の事よりも、博士の方が興味対象のような感じでもある。
憧れの人が目の前に居る・・そんな感じで心をときめかせている様子だった。
「そうそう・・」
ポケットから今西からもらった手紙を取り出す博士。
「この手紙を読んで、気になったんです・・」
「私の手紙を読んでもらったんですか?」
「はい。
内容に興味があってね・・」
少女からの手紙・・
それは、時々、「ユーレイ」のようなものが目に入り、悩んでいるという事だった。
「どんな様子なんですか?
詳しくお聞きしたいのですが・・」
その手紙の話になってから、急に少女の表情がこわばっていた。
何かにおびえているような感じだ。
それまで、明るく振る舞っていたのが、急変している事に気づく博士・・・
「あ・・あの・・・わたし・・
見えるんです・・・」
言葉に詰まりながら、話す少女・・
「見える?」
「幽霊が見えるんです・・
普段、生活している時も・・
見えないはずの・・
そこに居ないはずの
人みたいな・・
ボウっと・・
透明な・・
影が蠢いているんです。」
「ほう・・
影が蠢いている・・・
それは・・
どんな時かな?」
「分からない・・
見える時は、良く見えるんです。
それが、どういう時かは・
決まってなくて・・」
「ふむ・・・」
泣きそうな表情になっている少女・・
先程まで、活発な子だと思っていたのに、急におどおどした感じになっている。




