44.リレー
「はあ・・はあ・・」
ヒロシが足を止めた。
走り続けて、呼吸が荒い、
ようやくたどり着いた目的の場所・・
「ここは・・・」
必死に、後を追ってきた美奈子がつぶやく・・
学校のグランド
歓声が沸き立つ学校のグランドで、運動会が開催され、大勢の人だかりでいっぱいだった。
「次は、3年生のクラス対抗リレーです」
場内アナウンスが流れる。
クラスの皆が、集まっているトラックのスタート場所まで、たどりつくヒロシ。
その姿に、皆が気づく。
「ヒロシ!」
「お前・・何で!?」
「お母さんのお葬式じゃ・・・」
「皆で練習していたリレーだ・・
最後までやりたいんだ・・
メンバーもケガしたって・・」
まだ、息が荒い状態で答えるヒロシ・・
「ヒロシ・・お前、アンカーできるか?」
昨日の友達が声をかけてくる。
「え?オレが?」
来て早々・・急にアンカーに選ばれるヒロシ・・
その提案に動揺していた。
「お前が、一番、練習で頑張ってたからな・・」
「そ・・それは・・」
確かに・・
お母さんが応援に来ても、恥ずかしくない様に人一倍練習していたのだ・・
そんな姿を、友達は見ていた。
「ああ・・
ヒロシしかいないよ!
あれだけ練習してればな・・」
「でも・・
大変なんだよね・・アンカーって・・」
「いつもの練習通りにやればいいんだよ!」
「俺たちが、先に離しておくからさ!」
一抹の不安は残るが・・
友達から後押しされ、やってみようと決心したヒロシ・・
「わかった!
やってみるよ!」
「ああ!
頼んだぜ!」
校舎へ体操着を着替えに行くヒロシ。
「位置について!
ヨーイ」
パーン!!!!!
第一走者が一斉に走り出す。
リレーが始まる。
この日に備えて、皆で練習してきたリレー・・
第一走者が、カーブを曲がって、直線に入る。
次の走者が、走り出す。
スタートダッシュ・・
その、走者を追いかけながら、バトンが手渡される。
このバトンの渡し方を何回も練習した。
リレーで最も重要な部分・・
「走れ~!!」
歓声が沸き立つ中、次から次へとバトンが渡されていく・・
親たちが大声援を送っている。ビデオカメラを回す大人たち・・
ヒロシのクラスは、
始めのうちは、友達の言葉通り、
他のクラスをリードしていたが・・
徐々に追い抜かれていた。
ヒロシの心臓は、バクバクと言っていた。
これまで、確かに、練習はしていたが、昨日は葬儀の為に出れなかった。
そして、食事を抜いていたので、思うように走れない。
アンカーを任されたが、期待通りに走れるかわからない・・
でも、この日の為に、ずっと練習をしてきたのだ。
病院へ通いながら、ベットに寝ているお母さんに報告しながら、
ずっと、お母さんとお父さんが運動会へ応援に来てくれることを
願っていた・・
お母さんが見に来ても、恥ずかしくない様に・・
また、来ないとしても、その成果を病院で報告もしたかった。
そのために、人一倍練習をしてきたのだ。
友達の言うとおり、練習通りにすれば、結果が出せると思っていた。
不安と自信・・
様々な想いが入り乱れる。
「ヒロシ君・・・」
観客に紛れて、その姿を見つめる美奈子・・
トラックの向こう側で、前の走者にバトンが渡された。
最後から2番目まで順位が落ちている。
前の2人が走り出し、
自分の番が来た・・・
後ろまで走って来ている気配を感じ取り、
前へ走り出す。
手を、後ろに差し出す・・
パシ!!
バトンが渡される
その合図と共に、勢いよく走りだす。
足だけが、宙に舞うような感じがした。
思うように進めない・・
「ヒロシ~!!!
ガンバレ~!!!」
皆から声援が飛ぶ。
カーブにさしかかり、バランスを崩す。
「あ!!」
「ヒロシ君!!」
思わず、目を閉じる美奈子・・
「まだまだだ!!!」
何とか気力で、バランスを保ったヒロシ・・
カーブから、直線に戻ったとき、
前の走者を一人抜いていた。
「ワーーーーーーーー!!」
歓声が響き渡る。
直線の奥に、ゴールの紐が張られていたのが見えた。
「あと一人!!」
目の前に迫っていた。
追い抜こうとして、スパートをかける。
が・・
足が絡んでしまう・・
食事を取っていなかったためか、バランスが崩れるヒロシ・・
ズサー・・・
「あーーーーーー!!!」
皆の声がする・・
前に転んでしまうヒロシ・・
立ち上がろうとするが・・
既に、他のクラスの走者が抜いてゴールの寸前まで走っていた・・
膝をすりむいてしまったヒロシ・・
血がにじんでいる・・
最下位になってしまった・・
何とも情けない・・
だが・・
「ヒロシー!
最後まで頑張れ!!!」
クラスの皆から声援が飛ぶ・・
いや・・
気が付くと・・
「頑張れ~!!!!」
観客の全ての声が、ヒロシを応援していた。
「みんな・・・」
その声援の通りに、
起き上がるヒロシ。
目の前に転がっていたバトンを拾う・・
ゴールを目指して・・・
再び、前を向く・・




