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霊感ケータイ  作者: リッキー
謎の少女
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十五.音楽室にて


それから2日間、雨宮先生の姿は学校に無かった。


娘さんの告別式があったらしい。





彼女とあの後、話す機会があった。


ひょっとしたら、僕達は余計な事をしたのではないか・・


あのまま、そっとしておいたほうが、あの親子のためだったのではないか・・


ちょっと罪悪感にさいなまれたのだった。





放課後、


音楽室からピアノの音が流れるのが聞こえてきた。



 先生が戻ってきたらしい。



そのピアノの音に引き寄せられるように音楽室への階段を登っていく。





彼女も来ていた。


相変わらず学校ではメガネとポニーテール


音楽室の扉を前に、中へ入ろうか迷っている様子だ。



「ヒロシくん・・」



同じことを考えたのだろうか・・


先生に謝らなければならないって・・


僕が静かに音楽室の扉を開ける・・


音楽室の中央に置かれたグランド・ピアノに向かって一心に弾き続ける先生の姿があった。


黒いドレスを着た雨宮先生。


喪服姿も色っぽい・・・


ほのかに線香の匂いがする。




ピアノの楽譜の脇に、小さな写真立て・・


こちらに気づいたらしく、ピアノがピタッと止まる。


「あなた達・・

 来てくれたの?」


「はい」


「この曲はね、

 あの子が一番好きだった曲なの。」


翔子ちゃんの写真の隣の楽譜に書かれた・・


 クロード・ドビュッシー作曲


 「月の光」



写真に向かって、先生がつぶやく・・


「あの子が、

 一番・・

 好きだった・・


 曲・・」


あの子の顔が笑っている。


「先生、

 私、謝ろうと思って・・・」


彼女が話し始める。


「謝る?」


「本当は、

 翔子ちゃんと・・

 もっと一緒にいたかったんじゃないかって・・」


その言葉に、写真を見つめて、物想いにふける先生・・

僕達も、その写真を見つめる。


如何に、寝たきりとはいえ、

意識が戻らないとはいえ、

ずっと、傍にいるだけで、

一緒に居るだけで、

先生は幸せだったのではないか・・・


その幸せな時を、

僕たちは、

いきなり終わらせてしまった・・


しばしの沈黙・・・








先生がポツリと言う・・






「ええ、


 ずっと


 一緒に居たかった・・」



そう言うと、ピアノから立ち上がった。



ゆっくりと、音楽室の片隅にある棚の方へと歩いていく先生・・




「いつかは、

 こうなるって、


 分ってた・・


 いずれ、

 肺炎や合併症で


 死ぬ運命だったし・・」



棚の引き出しから、なにやら取り出す先生。


 白い箱・・


「その時は、


 只、


 死んで行くだけだったけれど、


 最後に


 あの子の声が聞けただけでも


 幸せだと思っているの・・・」



白い箱を開ける・・



「こ、

 これは・・!

 長野の「幻の温泉」の銘菓――!」


白い箱の中の温泉饅頭に驚いている彼女。


「ふふ、

 これはほんのお礼よ!」


微笑んだ先生。


「私こそ、

 謝らなければならないわ・・

 ゴタゴタに巻き込んでしまって

 ごめんなさい・・


 それに・・・」


先生が僕のほうを見る・・


「最後の最後で、

 あの子は女の子の幸せを味わえた・・」


女の子の・・


  幸せ?


「恋をすること・・


 それだけでも


 幸せだったと思う・・




 ありがとう・・・



 ヒロシくん・・」



その言葉を聞いて、僕も救われたような気がした。

隣を見ると、彼女があの箱の中身を出して、眺めている・・


 人の話も聞けよな・・・



「あ、

 それから・・・


 あの携帯の番号、

 控えておいたわ・・・」


「へ?」


「え?いつの間に・・・」

僕も彼女も寝耳に水といったところ・・


「寂しくなったら、

 そのケータイ、

 私にも貸してね!」


にこっと笑う先生。

女の人って強かだ・・・


「それから、ヒロシくん!」

改まって僕の方を向いた先生。


「はい。」


「明日は授業参観よね・・

 楽しみにしてるわよ!」


微笑んでいる先生。

どういう意味だろう?

なんかヤバそう・・


そう言えば父がいつもより張り切っていたのだった・・

それも怖い・・・


再び、ピアノに向かう先生。

あの子の好きな曲が流れはじめる。


明るく振舞っている先生だけれど、夕日に照らされて涙が一粒、頬に光っていた・・


早く元気になって欲しい。


そう思った・・・




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