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霊感ケータイ  作者: リッキー
五里霧中
157/450

41.陽子と響子


お寺


公園で話していたら、真夜中に近くなってしまった。

美奈子がお寺に帰って来る。


薄暗い本堂を覗くと、ヒロシが響子の亡骸なきがらに添い寝していた・・

母の体は冷たくなっている・・


先程まで、活き活きと話していた相手だったのに・・



泣きつかれて、母の脇で力尽きて寝ているヒロシ・・

頬に涙の跡・・


「ヒロシ君・・」


美奈子は、本堂の片隅にある押入れから毛布を持って、ヒロシと母にかけた・・

修行中の為、それ以上は何もできない美奈子・・


もう少し、その場に居たかったが、本堂を後にする。











本堂の脇にある住宅部分の一室に、美奈子と陽子の部屋があった。

ほんの4畳半ほどの小さな部屋・・


布団が敷いてあり、既に陽子が寝ていた。

陽子の毛布の中にもぐりこむ美奈子。


気づいて、目を開ける陽子。


「美奈子?遅かったわね・・・」


普通・・

自分の子供が居なくなったら、探し回るのだろうけれど・・

そういう気配が全くない。


信頼しきっているのはいいのだが・・本当に親なのか??



陽子の隣に、ちょこんと顔を出す美奈子。


「ヒロシ君のお母さんと、話していました・・」


「そう・・」



普通・・

亡くなったはずの人と話していたなんて、驚くのだろうけれど、

この親子の場合は、全く違う。


相手が生きている人だろうと亡くなった者だろうと関係ないのだ。



「まさか・・

 私の悪口言ってたんじゃないでしょうね?」


「う~ん・・

 そんな話もあったような~・・」

とぼけている美奈子。


「全く・・

 響子にも困ったものね・・

 解放されたから・・

 自由にその辺をうろついてるんでしょ?」











「そんな事ないわよ~~!!」

陽子達の寝ている上に、白装束姿の響子が現れる。


普通・・

『幽霊』って言うんだろうな・・


幽霊を見れば、驚くんだろうな・・普通・・

陽子と美奈子には、そんな様子は微塵もなかった・・



普通でない、この人達・・



「私達、

 ちょっと疲れているんだから、

 寝かせてよ!


 昼間は、散々だったんだから・・」


「そうですね・・

 あの博士と言い争いになってましたよね・・

 あ、

 でも、

 今日、

 ディズニーランド見たんですよ~!」



「博士~??

 ディズニーランド~???」


響子の死よりも、昼間の博士との対談の方が大変だったらしい・・

美奈子には、ディズニーランドの方が印象深かったのか??



普通・・

そんな博士との対談なんて、忘れるほどの重大な出来事になっているのではないだろうか・・

響子も、それには、怒りを露わにする・・


「あのね~!

 今日は、私が死んだのよ!

 そんな博士なんてどうでもいいでしょ~~!?

 (ディズニーランドも・・)」


むくっと起きる陽子。


「うるさいわね!

 人間、いつかは死ぬのよ!


 あの博士、

 私や『霊の世界』を全面否定したのよ!!

 こんなに腹立たしい事がありますか!!


 やっと忘れかけてたのに、

 思い出させて!!」



「いつかは死ぬ~??

 いったい、私の事、何だと思ってるのよ~!!


 美奈ちゃん!

 さっきの言葉、撤回よ!!」


「え~~???」

驚く美奈子・・この二人の会話についていけない・・







「こんな時間まで、

 何、噂話してたのよ!」



「あなたの事よ~!!」


「やっぱり?

 こんな夜遅くまで!

 美奈子を連れまわして!


 人間は疲労するのよ!

 夜は寝るモノなの!」


「んもう!

 せっかく、やわらかくなったって思ったのに!」


「何~??

 私は、もとから、やわらかいでしょ~??」



「誰も寄せ付けないオーラが出てるって・・」

美奈子が一言添える・・


「何~~!!!???」


「その通りでしょう~??」


顔を突き付けている陽子と響子・・

今にも手が出そうな勢い・・


「お母様・・お母さん・・喧嘩は止めてください!」

美奈子が止めに入るが・・・。



 







「ふふ・・」



「うふふ・・」


不気味に笑い出す二人・・

異様な空気に包まれる・・


一体・・何が始まるのか・・???

固唾を飲んで見守る美奈子・・







「久しぶりね・・響子・・」


「そうね・・陽子・・」


二人とも笑顔になっている。


「え?え?え~?」

何が起きているのか分からない美奈子・・


「ずっと・・

 こんな喧嘩・・

 できなかったものね・・」


「昔は喧嘩ばかりだったものね・・」


「すっきりした?」


「ええ!

 やっぱり

 私たちは・・

 こうでなくちゃ・・


 調子狂うわよね~」


「あなたは、闘病生活が長かったから・・」


「ええ・・あなたにも

 迷惑かけたわね・・」


「それは・・

 私にではなく、

 家族の方たちに言ってね!」



「別れの時に言ったわ・・

 言い足りないくらいだけど・・」


「そうね・・」


冷静になってみると、美奈子が固まっていた・・

いったい、この二人は・・・


「ごめんなさい。美奈ちゃん・・

 驚いたでしょ?」


「は・・はい・・・」


普通は、幽霊を見た事で驚くのだろう・・

しかし、幽霊と喧嘩して、仲直りしている・・

まあ、別に幽霊である必要は全くないのだが・・

陽子と響子の仲は、生死など問題ないという事に驚いているのだった・・



「ま・・

 今日は、このくらいにして・・


 私達、家族の時間なんだから

 ゆっくりさせてね!」


「はいはい・・

 ごめんなさいね・・

 じゃあ、また・・」


そういって、スーっと姿を消す響子・・


まさに・・

幽霊だった・・・


その場所を見守る二人・・



「さて!

 私達も寝ましょうか!」


「は・・・

 はい・・

 お母様・・・」


どこまでも、マイペースな陽子だった・・・










あらためて布団に入る陽子と美奈子。

先程までの騒ぎが嘘のようにシーンと静まり返っている。


二つの布団は敷いてはあるが、

美奈子が陽子の毛布に入ってくる。


陽子の胸に顔をうずめる美奈子。

目を細める陽子。


こうしてみると、昼間の修行に厳しい陽子ではなく、

親子そのもの・・・


「お母様・・」


「どうしたの?美奈子・・」


「ヒロシ君のお母さんから聞いたんです・・」


「また、変な話?」


「いえ・・

 私とヒロシ君が生まれた時、

 喜んでもらえたんだって・・」



「そうね・・

 あの時は、響子とも口を聞かなかったけどね・・

 あなた達を生んで、ほっとしたわ・・

 ちゃんと、

 私達も

 子供が生めたって・・・


 もう、

 ダメだって思ってたから・・」










「その体で、

 私を生んで頂いたんですね・・


 もう

 ボロボロなのに・・」


美奈子には、陽子のオーラが見えていた。

高校の時の妖怪との対決で負傷していた・・


響子もボロボロだったのだけれど・・

響子の言葉通り、陽子の方がもっとボロボロの状態だったのだ。


何とか、修行で霊力を高め、日々暮らす事はできるのだが、

今西からの除霊の依頼は、かなりの負担がかかる・・


それでも、相手の幸せを思い、どうしても除霊に向かっているのが、

陽子の今の姿なのだ・・


そして、

そんなボロボロの状態で、出産するなんて、まさに、命を捨てるような行為だという事は、

美奈子には痛いほどわかっている・・


それでも、自分を産んでくれた陽子・・

そして、死を覚悟でヒロシを生んだ響子・・・


陽子の胸に顔をうずめながら、肩が小刻みに震えている美奈子・・

その肩をやさしく抱く陽子・・


「生んでみたかったのよ・・」


「え?」


「私達・・

 先が分からない・・

 いつ、この世を去るのか分からなかったけれど・・


 その命を

 次の代に繋ぎたかった・・


 いえ・・

 新しい命を見たかったの・・


 自分たちが

 生きた証を・・」



「生きた・・

 証・・」








「せっかく、お腹に宿った命・・

 その命が、この世に出でて、


 生きる喜びを味わいたくて

 うずうずしている・・


 そんな姿を見たら・・

 世の中のお母さんは・・

 自分の命と引き換えに生もうとすると思うわ・・」


「お母様・・」


「私達は、

 母親になって・・


 初めて

 人間の営みの

 素晴らしさ・・


 命をつなげる喜び・・


 命の尊さを

 感じる事ができた・・

 それまで、命の輪なんて、概念みたいなものはあったけど・・


 実際に、自分が出産することで、

 本当の意味を教わった・・


 あなた達が生まれてきて、

 私は本当に嬉しかった!」


「お母様・・

 私もです・・


 私・・

 本当に

 生まれてきて


 お母様の所に

 生まれて


 良かった!」


「美奈子・・」


しっかりと抱き合う二人・・










「あなた達は・・


 私達の

 希望・・」


「ヒロシ君のお母さんも・・

 同じ事を言ってました・・」


「そう・・

 美奈子には、私がまだ、いるけれど・・


 響子は短命で終わってしまった・・


 残されたヒロシ君は・・

 私が見守ってあげなきゃね・・


 響子の分も・・」


「いえ・・

 お母様は、

 私だけ、見ていてください!」


「え?」

その意外な答えに、動揺した陽子だった・・・


「ヒロシ君は・・

 私が

 守ります!


 お母さんの分も!


 さっき、

 一緒に決めたんです!」


「美奈子・・」


美奈子を強く抱きしめる陽子だった・・・



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