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霊感ケータイ  作者: リッキー
五里霧中
154/450

38.別れ


人との別れは、知らないうちにやってくる・・



準備など、できるものではない。




その日が来る事が分かっていても・・



来ない事を願って、日々を過ごす。




魂は永遠に続いても



寿命は永遠ではない。



別れは必ず訪れる・・




そして・・














夜中・・




 トゥルルル・トゥルルル



市営住宅の一室に鳴り響く電話の音・・

ヒロシの自宅。



「はい・・」


ヒロシの父が受話器を取り、応対する。


「わ・・

 わかりました!

 直ぐ行きます!」


少し動揺している父の声・・

部屋で寝ているヒロシが起こされる。


寝ぼけ眼のヒロシ・・


「どうしたの?お父さん・・」


「母さんが!」


病院からの呼び出しだった。

響子の容態が急変したという・・・







病院


集中治療室に移されている響子。

酸素マスクが口に添えられ、心拍数を計測する機器や薬剤投与のチューブが体から伸びている。


苦痛が襲っているらしく、呼吸が粗い。

ヒロシと父が駆けつける。


「響子!」

「お母さん!」


ハアハアと息苦しく、意識が朦朧もうろうとする中、家族の姿を見つけて、返事をする響子・・


「あなた・・ヒロシ・・・」


傍に駆け寄るヒロシ達・・

父を見つめる・・


「直人さん・・」


「響子・・」

見つめ合う二人・・

最期の時だと、お互いに覚悟し合う・・


父は、この部屋に入る前に、主治医から容体を詳しく聞いていた。

モルヒネを投与して、最後に意識のあるうちにこの世の別れを交わすようにとの事だった・・


マスクを自力ではずして、話し始める響子・・


「直・・人・・さん・・」


「響子・・」

少し笑みをもらす響子・・苦しい状態には変わりはないが・・









そして、少し、硬い表情となった・・


「ごめんなさい・・


 私・・



 まともな


 あなたの、奥さんが


 務まらなかった・・」




「何、言ってるんだ!」




「ずっと、病気で・・


 家の事・・


 全然できなくって



 ごめんなさい・・」



涙が溢れる響子・・




「そんな事ないよ!」




「短い間だったけど・・



 迷惑かけまくりだったけど・・



 私・・



 あなたの



 妻で・・



 ずっと



 そばに居ただけで・・



 幸せだった・・」




「それは、俺だって同じだ!


 君と一緒に居れて・・


 ヒロシだって


 生まれたし!


 幸せだった!



 看病だって、


 家の事だって


 全然気にしてないよ!」





「嬉しい・・



 私・・



 やっぱり



 あなたと



 一緒になれて



 良かった・・」










「お母さん!」




「ヒロシ・・


 ごめんね・・


 お母さんは、



 もう



 逝かなきゃなの・・」




「やだよ!


 逝っちゃ・・やだ!!」



泣きじゃくるヒロシ・・

ヒロシの小さな肩に手を添える響子。


「ヒロシ・・


 あなたは


 優しい子・・


 どんな人とも

 仲良くなれる・・


 そして・・


 あなたは・・


 強くなれる・・


 私と


 お父さんの


 子だもの・・ 


 それに・・


 私は


 ずっと・・


 ヒロシとお父さんを見守っているわ・・」


「お母さん!!」







「笑って・・



 最後に・・



 私に



 笑顔を見せて・・」




「うう・・!」


その言葉に、頬を伝う涙をぬぐうヒロシ・・

母の最期を覚悟して・・

涙をこらえる・・


そして・・





母に向かって、


笑顔を見せた・・



今にも涙が吹き出しそうな笑顔…




その笑顔を見て、安堵の表情となる響子・・

上を向いて、そっと目を閉じる・・











「ああ・・








 私は・・







 幸せ・・



 です・・








 生まれてきて・・





 良かった・・」



その言葉を最後に、静かに息を引き取った・・


 ピーーーー



心電計のアラームが鳴り響く。

医師や看護婦が病室に入って来て、処置をする。

響子の体から計測機やチューブが外される。


「ご臨終です・・」

主治医から告げられる。


「お母さん~!!!!!」

「響子~~!!!!!」


横たわる体に泣き崩れる二人・・

まだ、体は生温かかったが、

もう、動かない・・







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