37.病院で・・
病院
「ただ今~」
「あ、ママ、お帰りなさい!」
「お帰りなさい。雨宮さん」
「あ・・ただ今、帰りました!」
翔子ちゃんと響子の話し込んでいる所へ、雨宮先生が学校から帰って来る。
まだ若いお母さんといった感じだ。
「楽しそうね・・翔子・・。」
「うん!お兄ちゃんと話してたんだ~!」
「お兄ちゃん?
あ・・
ヒロシ君が来てたんだ・・」
「うん!もうすぐ運動会なんだって!」
「そうか・・
翔子も出たかったでしょう?」
「うん・・
でも、仕方ないよ。」
「あれ?
ヒロシ君は?」
「お兄ちゃん、夕食の準備があるって!」
「へぇ~・・いつもながら、感心するわね・・」
「うん!
やっぱり、翔子、
お兄ちゃんのお嫁さんになりたいな~
いいでしょ~?
お兄ちゃんのお母さん?」
いきなり、親の方を落とそうとしている翔子ちゃん・・
「あはは・・お嫁さんね・・」
笑って聞いている響子。
「御免下さい・・」
そこへ、陽子達一行が入ってくる。
その異様な空気に、大部屋に居合わせた患者や付き添いの人たちも身構えた。
陽子、今西、美奈子の3人なのだが、何か普通の人の空気と違うのだ。
「あ・・陽子!
ミナちゃん!
お久しぶりね」
懐かしい陽子と再会した響子。今西が隣に居るのに気づく。
「今西・・君?」
「ああ!久しぶりだ。一橋!」
「もう何年も会って無かったわね・・
そうか・・
明日は・・」
ベットの脇に置いてある小さなカレンダーを見て呟く響子。
「ああ・・幸子の命日だよ・・」
「もう15年も経つのね・・」
「早いものさ・・」
そんな会話を聞いている美奈子は、息もできずに、青ざめた表情だった・・
「お母様・・
ヒロシ君のお母さん・・」
陽子の腕の裾を引っ張る美奈子。
廻りに聞こえないように、小さい声で話す。
美奈子にはわかった・・
響子の寿命が、残り少ない事を・・
いや・・
既に、死んでいてもおかしくない体なのだ・・
オーラはボロボロで、つぎはぎだらけのような状態・・
ここまで、生きていられたのが不思議なくらい・・
生きながらえる措置を誰かがしていたとしか思えない。
「ええ・・
分かっているわ・・・」
陽子が美奈子に向かって答える。
そして・・
響子の肩に手を触れる陽子・・
「陽子・・」
見上げる響子。
「お母様・・
何を?」
「私は、響子に面会する度に、こうやって私のオーラを注ぎ込んでいたのよ・・」
延命措置として、陽子自らのオーラを響子に分け与えていたという・・
山奥で修行をして霊力を高め、貯まった分を響子のオーラに加える事を繰り返してきた・・
幸子さんと同じ寿命だったのを、何とか生きながらえさせてきた陽子。
その手を掴む響子。
首を横に振る。
「陽子・・
私は、もう・・
覚悟はできているわ・・」
「響子・・」
「あなたの体も、もうボロボロのはずよ・・
もう、これ以上、あなたに負担を掛けたくないの・・」
陽子の目に涙があふれていた・・
「響子・・あなた・・」
肩に触れていた手を放して、涙をぬぐう陽子・・
美奈子に向かって、ニコッと笑う響子
「美奈ちゃんね・・
元気そうね・・」
「は・・い・・」
「ヒロシも元気よ・・
さっきまで居たんだけど・・」
「今は、ヒロシ君に・・
私、会えないんです。」
「え?何で?」
「それは・・」
「修行中だからよ・・
今は、一切の物欲、色欲の念を断つ時期なの・・」
陽子が説明している。
「そんな・・!」
「ヒロシ君が居たら、美奈子は同席できなかった・・
でも・・
好都合でした。
美奈子・・」
「はい。お母様・・」
「あなたの本心を、響子に・・
ヒロシ君のお母さんに告げて・・」
「お母さん・・」
響子に近づく美奈子。
「私・・
今、あの悪霊に対抗するための修行をしています。
この対決が終われば、私も自由の身になれますが・・・
私は・・
自分の運命を知ってしまった・・」
「それは・・」
「この戦いで、私は、命を落とすかも知れません。
いえ・・
わたしは・・
戦って・・
死ぬ・・。
でも、
それは、
ヒロシ君のためになるならば
本望だって思っています。」
「美奈ちゃん・・」
優しく手を頭に添える響子。
そのとたんに、涙があふれ出てくる美奈子・・
「そう思ってたんです!
そう思ってたんだけど・・
わたし
やっぱり、
ヒロシ君のお嫁さんになりたい!」
今まで抑えていた心を、露わにした美奈子・・
幼稚園の時に、ヒロシとの結婚を約束したが、
修行の為に離れ離れになった美奈子・・
ヒロシへの想いを胸に、母と共に、苦行に身を挺していた日々・・
感情を抑えられなくなって響子の胸に飛び込む。
「生きたい!
生きて・・
一緒に・・
ヒロシ君の・・
傍に居るだけでいいです!
私・・
わたし・・!」
やさしく、抱きかかえる響子。
涙が一筋、頬を伝っている。
「わかった・・
わかったわ・・
美奈ちゃん・・」
その光景を、見つめている翔子ちゃん・・そして雨宮先生・・
ベットの脇にある棚から、なにやら箱を取り出す響子。
箱を開ける
温泉饅頭
「これは?」
美奈子が涙目で聞いている。
「甘い物は、女の子の霊力を高めるのよ・・
私も密かにやってたの!」
ウィンクをする響子。
「甘いもので?」
「辛い時とか・・
怖い時とか・・
これで、救われたわ!
修行中でも、これはいいんでしょ?陽子?」
「そ・・そうね・・」
コクリとうなずく陽子。
「お母様・・」
「私に、美奈ちゃんの力になれる事は何一つ無いけど・・
これを・・
辛い時に、食べて・・
私や
ヒロシだと思って・・」
「お母さん・・」
「私は、もうすぐ
この世を去ります・・
残していく家族や・・
友人の事が気がかりだけど・・
私は
皆を
守り続ける。
姿や形は無くても・・
私が見守っている。」
今西を見つめる。
「別れはつらいけれど
みんなと・・
掛け替えのない
仲間と
この世を共に生きてきた事を
誇りに思っています。」
陽子を見つめる響子・・
「陽子・・
私は
あなたと過ごした日々が
一番
楽しかった
辛い事もあったけど
一緒に
青春を
駆け抜けた
あの時・・
私にとって
輝いている想い出・・
あなたは
私の
太陽だった・・」
「響子・・」
「ヒロシをお願い・・
あの子は
さびしがり屋・・
私も、もっと一緒に居たかった。
教えてあげたかった・・
あの子は・・
いつか
皆を支える存在になります。
その日まで
支えていて欲しい
それだけが
私の・・
無念・・」
涙が溢れてくる響子・・
泣き崩れて、陽子と共に抱き合う・・




