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霊感ケータイ  作者: リッキー
五里霧中
151/450

35.帰郷



メモを取っていた助手の女性と、カメラマンが部屋を出るのにすれ違いざまに、今西が入ってくる。


「いやぁ~。ごめんごめん!」

謝り口調の今西。



「今西君!どういうつもり?

 私は、どうしても会って、依頼したい人が居るからって、

 ここまで来たのに!」


「すまない!オレの手違いで、急にこの場で会う事になってしまったんだよ!」

そんな偶然な感じに思えないのだが・・


「前にも言ったけど、

 この世界は、『遊び』で関わったら、大変な事になりかねないのよ!」


「分かっているよ~。

 でも、ずっとあの博士に会ってもらいたくて!」


どこまで、分かっているのか・・

怪しい眼差しを向ける陽子・・


「今まで、変な研究者ばかりだったじゃないの!」


「いや・・

 あの博士は、今までにない理論を持つ研究をしているんだよ!」


それまでの平謝りの姿勢から、一変して、急に態度を変える今西。








「今までに無い理論?」


「ああ・・

 『霊』そのものは否定しないんだ・・。」


「『霊』を否定しない?

 でも、私とは考え方が違ったみたいだけど・・」


「確かに・・

 博士の独特な思想で『霊』が定義されている。

 俺たちの関わってきた概念とは全く別物だけどね・・


 科学的に『霊』の存在を証明しようとしている・・


 いや・・

 見えない世界を、『見よう』としているんだ。」



「見えない・・世界・・・」


「ああ・・

 望月達、霊能者にしか見えない世界・・・

 それを、見ようとしている。


 これが成功すれば、霊感が無くても『霊』が見えるようになるかも知れない。」


「霊感が無くても・・

 『霊』が見える・・」



霊能者は、『霊』を感じる事ができ、コンタクトを取る事ができる。

普通の人は、霊感が無いため、『霊』を感じる事も、見る事も、話す事もできない。


そこに『居る』はずのないモノ・・『見えない』モノ・・

霊感が全くない人が、その『霊』が見えるようになれば・・


人類にとって、新しい分野が切り開ける事になるのだろう。

今西は、その可能性を博士の研究に見出していたのだった。



「帰りは、家まで送るよ!」


「今西君が?」


「ああ・・週末は、なるべく家に帰っているんだ・・

 都心の生活は、生気を吸い取られるみたいでね・・


 それに・・

 明日は・・」


「そうね・・

 明日は、幸子の命日だったわね・・」


「ああ・・」

窓の外のビル街を見つめる今西・・


その姿をみつめる陽子・・

高校の時、最愛の人を亡くした思い出が脳裏をよぎる・・










「わぁ~~東京タワーだ~~」

首都高を走る自動車の後部座席から窓の外を見ている美奈子。


「ミナちゃんは、東京タワー見るの初めてかい?」

運転している今西が、話しかける。


「うん!

 テレビでしか見た事ないよ~

 わぁ~」


田舎から出てきた美奈子にしてみれば、都心のビル群や雑踏は初めて見る光景だった。


「あはは・・

 ミナちゃん、初めてか~。

 じゃあ、お台場とか、ディズニーランドとか通って行こうか~」



「え~?

 ディズニーランド~???

 凄~い!」


後ろの席ではしゃぐ美奈子と対照的に、陽子は助手席で物想いにふけっていた・・


「どうしたんだ?望月・・

 浮かない顔して・・」


窓の外を見ながら、呟く(つぶやく)陽子・・


「響子が・・・」


「響子?一橋の事か?」


「ええ・・」


「そう言えば、一橋、結婚して息子さんが居るって聞いたけど・・」


「白血病なのよ・・響子・・」


「え?

 それは・・・」


「幸子と同様・・

 あの妖怪との戦いで、負傷したのが原因よ・・


 あの子・・

 体にかなりのダメージを負っていたわ・・」


「そうか・・・」


幸子さんは妖怪との戦いで短命でこの世を去った・・

それと同じ事が、響子にも迫っている・・


「あと・・僅かの命・・・」


「え?分かるのか?」


「ええ・・

 この間、病院で会った時・・

 感じたわ・・」

そのまま、口を閉ざす陽子・・


入退院を繰り返していた響子。

ヒロシが小学3年生のこの年、この世を去る運命なのだ・・・






「ねえ!

 お母様!


 今日は、お父さんのお寺へ行くんでしょ?」


「ええ。」


「ヒロシ君に会えるかな~」


山奥の神社での修行の日々が繰り返される中、

美奈子にとっては、久しぶりの実家であった。


「そうね・・

 会えるといいわね・・」


「ヒロシ君って?ボーイフレンド?」

今西が美奈子に聞いている。


「うん!

 ミナ、ヒロシ君のお嫁さんになるんだ~!」


「あはは!

 そうなんだ~!

 ぞっこんなんだね~」


「うふふ~。

 ヒロシ君に会いたいな~」


「響子の子よ・・」


陽子が教える。


「え?」


「さっきの話の、響子の息子さん・・」


「それは・・・」


「可愛そうにね・・

 響子を見てると、居た堪れない・・・」

ハンドルを握りながら、前方の景色を見つめる今西・・


「あ~ディズニーランドだ~」

ディズニーランドが、横を通り過ぎる・・


何も知らずに、はしゃぐ美奈子・・


 


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