35.帰郷
メモを取っていた助手の女性と、カメラマンが部屋を出るのにすれ違いざまに、今西が入ってくる。
「いやぁ~。ごめんごめん!」
謝り口調の今西。
「今西君!どういうつもり?
私は、どうしても会って、依頼したい人が居るからって、
ここまで来たのに!」
「すまない!オレの手違いで、急にこの場で会う事になってしまったんだよ!」
そんな偶然な感じに思えないのだが・・
「前にも言ったけど、
この世界は、『遊び』で関わったら、大変な事になりかねないのよ!」
「分かっているよ~。
でも、ずっとあの博士に会ってもらいたくて!」
どこまで、分かっているのか・・
怪しい眼差しを向ける陽子・・
「今まで、変な研究者ばかりだったじゃないの!」
「いや・・
あの博士は、今までにない理論を持つ研究をしているんだよ!」
それまでの平謝りの姿勢から、一変して、急に態度を変える今西。
「今までに無い理論?」
「ああ・・
『霊』そのものは否定しないんだ・・。」
「『霊』を否定しない?
でも、私とは考え方が違ったみたいだけど・・」
「確かに・・
博士の独特な思想で『霊』が定義されている。
俺たちの関わってきた概念とは全く別物だけどね・・
科学的に『霊』の存在を証明しようとしている・・
いや・・
見えない世界を、『見よう』としているんだ。」
「見えない・・世界・・・」
「ああ・・
望月達、霊能者にしか見えない世界・・・
それを、見ようとしている。
これが成功すれば、霊感が無くても『霊』が見えるようになるかも知れない。」
「霊感が無くても・・
『霊』が見える・・」
霊能者は、『霊』を感じる事ができ、コンタクトを取る事ができる。
普通の人は、霊感が無いため、『霊』を感じる事も、見る事も、話す事もできない。
そこに『居る』はずのないモノ・・『見えない』モノ・・
霊感が全くない人が、その『霊』が見えるようになれば・・
人類にとって、新しい分野が切り開ける事になるのだろう。
今西は、その可能性を博士の研究に見出していたのだった。
「帰りは、家まで送るよ!」
「今西君が?」
「ああ・・週末は、なるべく家に帰っているんだ・・
都心の生活は、生気を吸い取られるみたいでね・・
それに・・
明日は・・」
「そうね・・
明日は、幸子の命日だったわね・・」
「ああ・・」
窓の外のビル街を見つめる今西・・
その姿をみつめる陽子・・
高校の時、最愛の人を亡くした思い出が脳裏をよぎる・・
「わぁ~~東京タワーだ~~」
首都高を走る自動車の後部座席から窓の外を見ている美奈子。
「ミナちゃんは、東京タワー見るの初めてかい?」
運転している今西が、話しかける。
「うん!
テレビでしか見た事ないよ~
わぁ~」
田舎から出てきた美奈子にしてみれば、都心のビル群や雑踏は初めて見る光景だった。
「あはは・・
ミナちゃん、初めてか~。
じゃあ、お台場とか、ディズニーランドとか通って行こうか~」
「え~?
ディズニーランド~???
凄~い!」
後ろの席ではしゃぐ美奈子と対照的に、陽子は助手席で物想いにふけっていた・・
「どうしたんだ?望月・・
浮かない顔して・・」
窓の外を見ながら、呟く(つぶやく)陽子・・
「響子が・・・」
「響子?一橋の事か?」
「ええ・・」
「そう言えば、一橋、結婚して息子さんが居るって聞いたけど・・」
「白血病なのよ・・響子・・」
「え?
それは・・・」
「幸子と同様・・
あの妖怪との戦いで、負傷したのが原因よ・・
あの子・・
体にかなりのダメージを負っていたわ・・」
「そうか・・・」
幸子さんは妖怪との戦いで短命でこの世を去った・・
それと同じ事が、響子にも迫っている・・
「あと・・僅かの命・・・」
「え?分かるのか?」
「ええ・・
この間、病院で会った時・・
感じたわ・・」
そのまま、口を閉ざす陽子・・
入退院を繰り返していた響子。
ヒロシが小学3年生のこの年、この世を去る運命なのだ・・・
「ねえ!
お母様!
今日は、お父さんのお寺へ行くんでしょ?」
「ええ。」
「ヒロシ君に会えるかな~」
山奥の神社での修行の日々が繰り返される中、
美奈子にとっては、久しぶりの実家であった。
「そうね・・
会えるといいわね・・」
「ヒロシ君って?ボーイフレンド?」
今西が美奈子に聞いている。
「うん!
ミナ、ヒロシ君のお嫁さんになるんだ~!」
「あはは!
そうなんだ~!
ぞっこんなんだね~」
「うふふ~。
ヒロシ君に会いたいな~」
「響子の子よ・・」
陽子が教える。
「え?」
「さっきの話の、響子の息子さん・・」
「それは・・・」
「可愛そうにね・・
響子を見てると、居た堪れない・・・」
ハンドルを握りながら、前方の景色を見つめる今西・・
「あ~ディズニーランドだ~」
ディズニーランドが、横を通り過ぎる・・
何も知らずに、はしゃぐ美奈子・・




