表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊感ケータイ  作者: リッキー
五里霧中
149/450

33.早乙女家

夕方、日も暮れて、教頭先生の家。


「早乙女」という表札が、門に掲げられている。


古い洋風の門。

左右に背丈より高い石で築かれた門柱があり、アーチ格子の門扉が取り付けられている。

門柱には蔦が絡まって、古くから、この地に家が存在している事が見て取れる。


門の奥には、庭が広がり、洋館風の「豪邸」が構えている。

そう・・教頭先生の家は、市内でも有数の「銘家」なのだ。



そこに宿泊している博士の一行だった。

学校での研究活動をしている間は、博士達がこの豪邸でやっかいになっていた。




「それでは、また、明日、お願いします!」


お辞儀をして、門を後にする片桐さんを大平さんが見送る。

雑誌社の片桐さんは取材が終わると、駅前のホテルで宿泊している。


博士達が学校に来てから、もう1週間近くになるが、そこまで密着取材をするほどの重要な内容なのだろうか・・











食事の時間となる。


暖炉のある広い洋間の中央に、長テーブルが置かれ、椅子が並べられている。

洋間の広さは40帖以上はあろうか・・


上座のテーブルの一番奥にご主人が座っている。その脇に奥さん・・教頭先生のご両親である。

もう60歳は過ぎているのだろう。髪の毛に白髪が目立つ。


2~3席を置いて、教頭先生と、その前に対面して博士と大平さんが座っている。

それでも、まだ空いた席が並ぶ・・


テーブルの上には、夕食用の皿とナイフ、フォークが並べられ、部屋の入り口にはメイドさんらしき人が立っている。


ワゴンで部屋に運び込まれる夕食の料理。

料理がテーブルに並べ始められ、ご主人が一言、教頭先生に話しかける。


「楓・・

 一人暮らしは、どうだ?」



「はい・・

 お父様・・

 何とかやってます。」


学校では生徒や教師たちを引っ張っていく役の教頭先生も、実家ではご両親の「娘」なのだろうか・・

大人しく座って、返事もどことなく恐々しい・・


「そうか・・・

 そろそろ、身を固める決心をつけて欲しいのだが・・」


「それは・・」


「お前も、もう、いい年だ・・

 見合いの話も、少なくなっている。」


「誰か、良い人でもいるの?

 楓・・」

お母さんが話に入る。


「い・・

 いえ・・・」







「ならば、そろそろ、見合いの話を進めさせてくれんか・・」


「それは・・」

そのぎこちない対応に、お母さんが察する。


「やはり、

 心に決めた人がいるのね・・」



「楓!そうなのか?」

驚いているご主人。


「・・・・・・」

俯いて黙っている教頭先生。


「楓・・

 我が『早乙女』は由緒正しい家柄なのだ。

 この血筋を絶やすわけにもいかぬし、

 この家を継ぐ者は、ある程度の相手でないと、いかんのだ・・」


「それは!」

キッとご主人の顔を見る教頭先生。


「あなた・・」

張りつめた空気が流れる。


「ごほん!」

博士が、咳をする。一同が、ハッと我に返る。






「お話の途中、他人の私が口を挟むのは、恐縮ですが、

 早乙女君は、よくやってくれてますよ・・


 私の生徒としても、優秀です。

 教員としても、類ない才覚を有している。


 若くして、学校の重要な役職を担っているのも、

 彼女の実力が認められているが故です。


 なかなかない、逸材ですぞ。」


「はあ・・」

半信半疑で返事をするご主人。


「彼女は、目標に向かって一心になる性格もあります。

 今は、そこに、全力を注ぎたい気持ちが沸々と感じられます。

 身を固める話は、その後でも良いのではないでしょうか?」



「あなた・・」



「ふむ・・

 大学時代の恩師が

 そう、おっしゃられるならば・・

 仕方ありますまい・・ 


 だが、楓よ・・

 もう、私らも歳なのだ。

 先も長くは無い・・

 良く考えて欲しい・・」


「はい・・

 お父様・・」


重い空気が漂う中、食事が始められる。

教頭先生も、色々と問題をかかえているようだ・・







夜・・


テラスで一人、たたずむ教頭先生。

ワイングラスを片手に一人星空を眺めている。


「寝付けんかね・・

 早乙女君・・」


「博士・・」

博士が、教頭先生に話しかけてきた。


「済まんね・・

 研究の場や宿泊の手配までして頂いて、

 君の力にも成れんかった・・」


「いえ・・

 いつもだと、あそこで、喧嘩になるんです。

 止めて頂いて、ありがとうございました。

 十分、お力添えを頂いています。」


「ふむ・・

 ここに来て、ワシの研究も、ずいぶん進んだような気がする。

 それも、君のおかげだよ」


「ありがとうございます。

 博士から、そう言われるのは、光栄です。


 あ・・

 ご一緒にいかがですか?」

空のグラスを差し出す教頭先生。


「うむ・・

 頂戴しようかのう・・」










博士にグラスが渡され、教頭先生が瓶を傾ける。

コポコポと音を立てて注がれるワイン・・


教頭先生に向けて、小さく、グラスを掲げ、一杯、口をつける博士。


「ほう・・

 これは上物だね・・」


「御口に合いましたでしょうか?」


「ふむ!

 美人からの酌は、

 また格別だからのう・・」



「まあ!

 ご冗談を!」

顔を赤らめる二人。


「でも、変わりましたね・・

 博士も・・・」


「うむ・・

 昔は、ここまで情熱は持てなかったのう・・

 以前のワシは、単に研究を進めているだけじゃった・・」


「そんな事は無いと思っていました。

 ちゃんと、ご自分の研究に誇りを持って、臨んでいましたよ。」


「他の目から見れば、そんな風に見れて取れたかも知れんがの・・

 実際は、迷っていたのだ・・」


「それは、初耳ですわね・・

 博士程のお方が・・」


「人間、誰しも、悩みがあるものじゃよ。

 それが、自分の道である場合は特にな・・


 じゃが・・

 ここ何年かの出会いが、ワシを突き動かしておる・・」


「出会い?」


「ああ・・

 あれは、5年くらい前の事だ・・・」


星空を見渡して、話し出す博士・・





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ