28.アプリ再び
ポン・・ポロロロン・・
携帯から着信音が流れる。Hijiriさんのゲームでの書き込みの着信音・・
メールアドレスは交換したものの、直接のコンタクトは、あれ以来、送ってこなかった。
ゲーム上での書き込みは続けてはいたけれど、前ほど頻繁ではなくなっていた。
やはり、後ろめたさもあるのだろうか・・
元気にしてますか?
イベントのレアが揃ったので、送ります
Hijiri
そのメッセージに直ぐには、答えられなかったけれど、
気を取り直して、返事を書き込む。
いつも、ありがとう。
大切に使うね(*^ ^*)
でも、
元気
じゃないデス(T_T)
Aisa
そうだね・・・
今日は特別な日だものね・・
Hijiri
Hijiriという人は、愛紗の近くにいる人らしい・・
剛君の法事の事は知っていて、当然なのだろう。
法事の間も、ゲームにinしていたようだったので、
剛君の身内でもないらしい・・
知っているの?
当たり前だよね・・
Aisa
知っているよ。
でも、
触れないで欲しいって
言われたから・・
Hijiri
もう、これ以上、剛君の事に触れて欲しくないと言ったのは、愛紗さんのほうだった・・
でも・・
公園のベンチに座っていると、昔、
この場所で、剛君と過ごした時間が脳裏に浮かんでしまう・・
どうしても、
忘れる事のできない・・日々・・
そして、
なぜか、次のメッセージを打ってしまっていた・・
ねえ・・
『霊感ケータイ』の本物って
知ってるの?
Aisa
法事の時に出会った不思議な少女が持っているという『霊感ケータイ』・・
亡くなった人を見る事も出来、話す事も出来るという・・
半信半疑で聞いていたが、ふっとその事を思い出したのだった。
知っている。
Hijiri
Hijiriという人は、本物の存在を知っている・・・
お寺の女の子が持っているわ
Aisa
知っています。
その『霊感ケータイ』を
作ってみたのが、
私のアプリです。
Hijiri
誰が持っているのかも、知っていた・・
何でも知っている Hijiri・・
凄いのね。
アプリが作れるなんて・・
Aisa
大したこと、無いですよ。
まだ、
CG処理した画像を
カメラ映像に乗せてるだけですから・・
Hijiri
見せて欲しいの
あなたの
アプリを・・
Aisa
え?
それは、
どういう事ですか?
Hijiri
CGでもいい・・
剛君の
姿を
見たい
Aisa
しばらく、メッセージが返ってこなかった。
Hijiri という人も、迷っているのだろうか・・
わかりました。
設定を解除します。
5分後くらいに、作動させて下さい。
Hijiri
ありがとう
Aisa
携帯を見つめる愛紗さん・・
アプリで、剛君の画像が見れるように、再設定してくれるという・・
彼女に、破棄するようにと言われたアプリ・・
でも、
剛君の姿を、もう一度、見たいという、念が強かった。
5分以上、時間が経ったのを確認して、
携帯にアプリをダウンロードする。
ピ・・
アプリを作動させる。
何のためらいも無かった・・・・
『霊感ケータイ Ver0.95』
タイトルが表示される。
「バージョンが上がってる?」
呟く愛紗さん。
だが、そんな事は、どうでもよかった・・・
剛君に会いたい一心・・
カメラを作動させて、ベンチの自分の座っている横を見る・・
そこには、
まだ、中学生の頃の、少し、子供っぽさを残した、
剛君の姿が、
映し出されていた。
服装は、黒い中学の制服ではなく、
愛紗と同じ高校の男子の制服・・
CGで処理された映像?
そんな感じは、微塵にも感じさせない。
自然な・・
肌や髪の毛の細部に渡るまで、
生きている人・・
そのもの・・
携帯電話越しではあるけれど・・
そこに剛君が
活き活きと
こちらを向いて、微笑んでいる。
「剛・・
君・・」
愛紗さんの目に、うっすらと涙がにじんでいた。
映像への感動というよりも・・
剛君に再会した喜び・・・
何気なしに、手を差し伸べてみた・・
「あ・・」
携帯画面の剛君の体にスッと手が素通りする。
それは、その通りなのだろう・・
実体はないのだから・・
それでも、懐かしい面影・・
触れる事はできないが、
実際に剛君を見ているような錯覚さえあった・・
その時・・
アプリの表示画面に、メッセージが出てきた。
バージョンアップ可能です
『霊感ケータイ Ver1.05』
亡くなった方からのメールを
受信できます。
ダウンロードには通話料金が
発生しますのでご注意くださ
い。
尚、通話時に消費される
ライフpt※は3分で1ptです。
※ライフpt:1日に消費される
エネルギーより換算
[バージョンアップ]
「バージョン・アップ?」
そのメッセージに呟く(つぶやく)愛紗さん・・
メールを受信できるというが・・
ライフptが気になる・・でも、ここに書かれている限りは課金は発生しないようだった・・
そのまま、バージョンアップをクリックする・・
ピ・・
しばらく、ダウンロードの画面に切り替わる。
1分もしないうちに、新たな画像に切り替わった・・
『霊感ケータイ Ver1.50』
「バージョンが上がった?」
作動させると、先ほどの画面とは変わりはしなかった。
ただ、最下段にメッセージボックスのような欄が出来ていた。
「ここに、メッセージが入るの?」
剛君が、こちらを見ている。
が・・・
ブルルル・・・
バイブレーションがかかる。
画面の下の空欄に、
「メールが届いています」
という表示・・
そのボタンを押すと・・
元気だった?
剛
「え?
何で・・
剛君の名前が・・
メッセージなの??」
いきなり届いた、剛君からのメッセージ・・・
バージョンが上がって、ここに映し出される人からのメッセージが届くのだろうか・・
それは、おそらく、コンピューター上のデータから引っ張り出してきているのだろう・・
若しくは、Hijiriさんが代わりに発信でもしているのか・・・
いずれにせよ、
亡くなった人の映像を見て、更に、メッセージまで届くようになった。
そして・・
メッセージも返せるようだった・・・
「返信・・できるんだ・・・」
メッセージを打ち込む愛紗さん・・
うん。
いや、元気じゃ・・
ないかな・・
愛紗
え?
何で?
オレが居なくなったから?
剛
そうだよ・・
何処へ行ってたの?
愛紗
ちょっとね・・
でも、
また愛紗に会えて
嬉しいよ
剛
そのメッセージと共に、剛君の表情が笑顔になる。
メッセージと連動しているのだろうか・・
私も・・
ねえ、
私の夢・・・
覚えてる?
愛紗
ああ。
忘れないよ。
一緒に
世界を見るって
約束したよね・・
保証するって
剛
「え?!!」
愛紗さんは、一瞬、目を疑った・・・
剛君と交わした約束・・
そんな、はずがない・・
自分と剛君の二人だけの約束だったはずだった・・・
Hijiriは、そこまで知っていたのだろうか?
少し、恐ろしくなった愛紗さん・・
「ゴメン!」
携帯のスイッチを切る。
慌しく、公園のベンチを離れ、小走りに家へ急ぐ愛紗さん・・
「そんな・・
何で、剛君との約束の事・・」
帰りの道中、何故か、めまいがしたのだった・・
精神的な疲労?剛君の法事や公園での出来事・・
色んな事で頭がいっぱいになっていた・・




