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霊感ケータイ  作者: リッキー
二つの部活
141/450

25.天職


「でも、ヒロシ君なら使いこなせると思うよ。

 何しろ、一橋の息子さんなんだからな!」


僕のお母さんの名前が出てきた。


「あの・・」


「ん~?何だい?」


「僕の・・

 お母さんって・・

 どんな人だったんですか?」


「一橋・・か・・

 そうか・・

 君は、お母さんの事・・」


「僕が小学校3年生の時に他界しました・・

 幼稚園の時から病院通いだったから・・」



「済まない・・

 お母さんの事を思い出させてしまってたんだね・・」


「あ・・

 いえ・・

 時々、会ってますから・・」


「え?」


意外な返答に、今西さんの方が驚いている。


そう。

最近になって、僕は何度かお母さんに会っている。

彼女や霊感ケータイのおかげ・・影響なのだろうか・・

それは、一般にはありえない体験なのだけど・・





「あ・・

 声とか聴いてるし、メールでもやりとりしたし・・

 あの世でも・・」


「あの世??」


「何度か、行ったことがあります。」


「ふむ・・

 それも、オレにとっては、興味がある内容だな・・


 ニアデス体験とかに近いのかな~。」


オカルト雑誌の編集者である今西さんにとっては格好のネタなのだろう。

そっちに目を向けられるのも少し抵抗はあったが・・



「まあ、そんなものです。

 黄泉の国へも行ったし・・」


翔子ちゃんを助けに、黄泉平坂から黄泉の国へと言った事もある。

僕は、いつの間にか、普通では考えられない体験をしていたのだ・・


「そうか・・

 お母さんに会ったのかい?」


「はい。

 元気にしてました」


亡くなった人が、元気にしているというのも、変な話なのかもしれないが・・

確かに、元気そうではあった。


「君も、凄い体験をしてるんだね・・」


今西さんも、僕の発言に驚いていた。

僕は、いつの間にか、『霊の世界』にドップリとつかっていたのだった・・










「皆さ~ん。お茶を持ってきましたよ~」


沙希ちゃんと先生が家庭科室から戻ってきた。

おみやげのお菓子に釘づけだった彼女も待ちきれない。


「待ってました~!早く食べようよ~。」


「はいはい・・この甘党も待ちくたびれたようね。」

千佳ちゃんが突っ込む。


「だって~!

 この店の人形焼って一日10箱しか作ってないプレミアなんだよ~。


 老舗中の老舗なんだから!

 名物おばさんの愛情の塊よ!


 カステラに染みこんだ餡子の絶妙なハーモニーは、最高なんだから!

 これに、お茶が加わると、更に甘さが増すんだよ~」


彼女が必死に説明している。


「副部長!「放課後牛乳」もありましたよ!」


沙希ちゃんが差し出す。


僕の学校では、給食ではなく弁当が基本だったが、昼食の時間に牛乳を配る事になっていた。

育ち盛りの生徒達に、より成長してもらおうという事で昔から導入されている。


昼食時間に余った牛乳が大型冷蔵庫に保管してあって、放課後に希望している生徒に配られるシステムがあったのだった。

生徒の間では「放課後牛乳」という名前で親しまれていた。

牛乳が嫌いで昼休みの時間まで瓶を見つめてじっとしている生徒には興味もない話なのだろう・・


「え!牛乳もあるの~??」


「何?餡子と牛乳って合うの?」

千佳ちゃんが突っ込む・・


「何言ってるのよ~!

 餡子と牛乳って、私的には、ベスト・マッチなんだから~!!」


彼女の甘いものに対するこだわりも、かなりのものだった・・

 





お茶が配られ、椅子に腰かけてお菓子を食べている部員達・・

今西さんを囲って、話が盛り上がっている。


「君の、お母さんか・・」

先ほどの話の続きなのだろうか・・


「一橋は、優しかったな・・

 陽子に比べるとね・・」


「え?お母様ですか?」


「お母さんには、内緒だよ!

 陽子は、厳しくて勝ち気な女の子だったよ。

 活発で、すぐに飛んでいくタイプだったな・・


 一橋は・・

 その逆かな・・


 引っ込み思案な所もあったけど、

 仲間を守る強い意志もあった。

 優しい面もあったから、皆には好かれてたな・・」


「じゃあ、お母様より、

 ヒロシ君のお母さんの方が人気があったんですか?」


「うん・・

 密かに男子の間では、

 狙ってたヤツも多かっただろうな・・


 可愛かったし・・」


「何か・・分かるような・・気がします・・」

納得している彼女・・


「え~?

 じゃあ、今西さんも密かに狙ってたんですかぁ?」

千佳ちゃんが聞いている。


「ああ・・・

 いやっ・・

 僕には付き合ってる子がいたから・・」


「彼女ですか~?

 いいな~。」


「ひょっとして、さっきの・・

 カオリさん・・

 ですか?」

僕が尋ねる。


「いや・・

 香織さんは、最近、会った人だ・・

 俺の付き合ってたのは・・・」


周りを見る今西さん・・ 

気づくと、皆の目が集中して興味の対象になっていたのだった・・・


「な・・何で、俺の高校の時の彼女の話になってるんだ???」



「あはは!

 だって、ヒロシ君のお母さんがモテるって言ってたから。」


「今西さんの馴初めも聞きたいな~」


「千佳ちゃん、あんまり大人をからかうものじゃないわよ・・」

先生が静止する。



他人の恋話になると喰い付くほど興味を示す・・

女の子って、恐ろしい・・







改まって高校の時の話をする今西さん・・


「俺と彼女で、オカルト同好会って部活を作ってたんだよ。

 不思議な現象の取材をしたり、科学的に解明したり、色んな活動をしていたんだ。


 その時、

 陽子と一橋の「霊感コンビ」を知ったんだ。


 同じ学校に、本格的に除霊とかしてる女の子たちがいたって聞かされて、

 初めは、交流を断られてたけど、次第に打ち解けるようになったんだ。」


「ふ~ん・・

 ウチの部とオカルト研究会みたいなものですね・・」


「そうだな・・

 あの時は、オレが陽子達の後を必死に追いかけてたけどね・・」


「情熱的なんですね~」


「ああ・・

 不思議な現象の事になると、

 無我夢中で、その事ばかり考えていたよ。」

遠い目をして答える今西さん。



「ああ~!

 やっぱり今西さんだな~。

 憧れます!」




「あはは・・

 何か、そう言われるとね~。」


「だって!

 ずっと憧れてたんですもの!


 『オカルト』関連の第一線で働いている人が

 目の前に居るなんて!

 感動ですよ!」


千佳ちゃんは、今西さんのファンだという。

今西さんの記事は切抜きで保管しているという熱の入りようだ。


この部活に入ったのも、「オカルト」関連に興味があって、彼女とも知り合いとなったのがきっかけだ。


『類は友を呼ぶ』とでも言うのか・・

今西さんとの接点ができた事は、千佳ちゃんにとっても絶好の機会だろう。

感動で、体中の毛穴が開いているような感じだった。


「そうだな・・

 高校の時、そんな活動してたから、

 今の職場から誘いがあったんだよな・・」


「わ・・

 私も、

 研究して、成果を投稿すれば、

 今西さんと一緒に仕事ができるでしょうか?」


「あ・・

 まあ、


 一緒に出来るかはわかんないけどね・・

 でも、

 待ってるよ。」


「はい!頑張ります!」


何だか、千佳ちゃんに、火が付いたような感じがした・・





「そうだよな・・

 俺は、『天職』に恵まれたのかもかもな・・」

今西さんがポツリと言った・・


「『天職』・・ですか?」

千佳ちゃんが聞いている。


「人には、「天職」というものがあるんだよ。

 生まれついて、その人に合った職業がある。


 昔は、「家業」であり、親の仕事を受け継ぐのが当たり前の時代だった。

 「家業」が「天職」だった時代・・


 働いている親の背中を見て、それがどんな仕事で、どんな苦労があるのかも、子供の頃からずっと見て育つと・・

 体のつくりや、直感的なものも、その子の遺伝子に組み込まれていく。

 親が得意な分野は、その子供にも得意な分野となるはずなんだ。


 でも・・

 現在の、職業は、技術が主体ではなく、「売り方」が重視される。

 代々受け継がれてきた職業に就くことが難しい時代となっている。」



「はい・・今は、

 親の職を受け継ぐ子って、少なくなってます・・」

先生がうなずいている。









「今は、自由に職種を選べる時代だ。

 色々な職業に就いて「転職」を繰り返し、自分に合った職業を見つけていく・・


 生まれつき備わった「天職」に就く事は難しいけれど・・


 どんな職業でも、長続きさせるには、

 その職業に対して、どれだけ情熱がもてるかという事にかかっているような気がするよ・・

 

 一度、転職してしまうと、そこで、「仕事を辞める」癖がついてしまうのも事実だ・・

 何かにつまずいて、失敗したら、「リセット」でもできるかのように簡単に辞めて、次の職種を探す・・


 それでは、目的に対して「頑張る」という意欲が薄れてしまうような気がする。

 俺の職場でも、若い人が辞めていくのを何人見て来た事か・・」


「もっと、頑張れば、次のステップに行けるのでしょうけれど・・」


「大半の上司は、それを期待しているんですよ。

 失敗しても、やり直せる人間なのか・・

 仕事への意気込みがあるか・・

 そういった面を見ている。


 別に、辞めさせようとしているわけではない・・」 



「でも・・

 辞める人が・・

 多いのですか?・・」


「悲しいけどね・・

 一度失敗すると、それ以上は行けない人が多い・・


 『ゆとり教育』で育ったので・・

 って言い訳にしてる子も多いよ・・」



「それは・・

 耳が痛いです・・」


先生のせいではないのだろうけれど・・






「何かを「頑張る」事は、中学生くらいの頃から、実践してほしいんだ。

 それは、大人になっても社会に出ても同様だ。

 部活でも、ゲームでも、勉強でも何でもいい・・


 何かを極めるために頑張る事・・


 目標を決めて、そこへ到達するように努力する事・・


 それは、将来的に自分にとって、大きな励みになり、人間として成長するための原動力となる。


 仲間もできるだろう。

 当然、敵も出来る。


 応援してくれている人たちの温かい手も見えてくる。

 それらが、「天職」を継続するための、大事な要素ともなる。」



「『天職』を見つけるための・・

 準備・・

 ですか・・」


「そう!

 人生には、何一つ無駄は無い。

 今やっている事は、必ず、役に立つ時が来る。


 苦しい時に、自分を磨く。

 苦境にも耐える力を身に着ける・・

 仕事の楽しみを知る・・

 そうやって、最終的に、自分に最も合った「職」を見つける・・。


 「天職」を見つける道のり・・


 それは、

 ひょっとしたら、世の中に生きる人の「カルマ」のひとつなのかも知れないね・・」



「カルマ・・

 ですか・・


 でも、私・・

 そのカルマに挑戦してみます!」

千佳ちゃんが、何かを決心したらしい。


「ああ!

 頑張ってね!

 応援してるよ!」


千佳ちゃんにとって、良い人生の先輩・・

そんな人が・・

自分の道しるべ的な人物が現れたようだった。


そういった、自分の目指すべき人に出会う事は、

なかなか無いのだろう・・







「さて!

 じゃあ、我が家で、

 新しい部員の歓迎と行きますか~!」


先生が沙希ちゃんの歓迎会を宣言した。


「やった~!」


「は~い」


「良かったね沙希ちゃん!」


「はい!」


部活も切り上げ、先生のマンションへと移動しはじめる。



「あ・・

 オレも・・

 一緒に・・


 同席しても・・

 いい

 カナ・・?」


顔を赤らめる今西さん。


「はい!大歓迎です!」

千佳ちゃんが答える。皆の意見も同じだった。


「何か、この部活、

 一度、雰囲気を味わったら、離れられないね・・」


「そうでしょ~?」


「でも、オカルト研究会や博士は大丈夫ですか?」


「ああ・・

 片桐に任せてあるよ。

 オレが行くと

 頼ってしまうだろうから・・」



「じゃあ、先に行っててくれる?

 私、教務室で早めに帰るって断わって来るから・・」


「先生も大変ですね・・」


今西さんが、先生を哀れ見ている。


「いえ・・部活の会議だって言えば済みますよ。

 あの部活に対抗するためだって・・」


最近下火のゴーストバスター部に、憂いの目を向ける先生方も少なからずいるらしい・・


「先生も、上手くやりますね~」


「長年、生きてると、知恵がつきますよ!」


そう言って、教務室の方へ小走りに去っていく先生・・









僕たちは、音楽室の戸締りを確認して、正面玄関へと向かう。


今西さんを囲んで、和気あいあいと話しながら歩く部員達・・









その様子を、壁際に隠れて見つめる人がいた。



「今西さん・・・」



教頭先生の握りこぶしに力が入る・・


見られてはいけない人・・・




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