24.ゴーストバスター部
音楽室
拓夢君からの手紙を読んだ千佳ちゃん・・・
読むや否や・・
「形勢不利だ・・・」
「千佳ちゃん・・」
彼女が不安な表情を浮かべている・・
「そうね・・あの博士が来てから、
この部活も影が薄くなってるしね・・・」
先生が呟く。
「先生・・」
弱気な先生を見る僕・・
先生が続ける。
「雑誌の取材も来てるし、変なアプリも、かなり有効らしいって話だし・・
何か、この部活も、本当に潰されるのかもね・・」
「珍しく弱気ですね~」
沙希ちゃんが聞き返す・・
代わりに千佳ちゃんが答える。
「あの教頭も、かなり今回は力入れて来てるから・・・」
「そうね・・教務室に居るのが辛いわ・・
先生方の話題は向こうの部活ばっかりなんですもの・・・」
「それは・・大変ですね・・」
「わかる?千佳ちゃんも、本当はオカルト研究会に行きたいんじゃないの?」
「そうですね・・。
タクムも向こうに拉致されてるし・・
ユーレイ博士も居るし・・
憧れの今西さんまで向こうの味方なんですから・・
・・興味ある・・ 」
「はあ~」
「私達って・・」
「不運・・」
ため息をつく先生と千佳ちゃん・・・
漫才コンビもここまで意気消沈しているとは・・
「あはは・・先生・・千佳ちゃん・・」
「ちょっと、しっかりしてください!」
勢いよく沙希ちゃんが先生と千佳ちゃんに迫っている。
「え~?」
千佳ちゃんは、どうでもいいような顔をしているが・・
「先輩たち、それでいいんですか!?」
「だって~・・」
「ねぇ~」
顔を見合わせる先生と千佳ちゃん・・
「『頭は生きているうちに使わなきゃ』って言ったの先生じゃないですか!」
「う!・・痛い所を・・」
間が悪い感じの先生。
「先輩だって、『あの教頭の下には付きたくない』って言ってたじゃないですか!」
「そ・・そうだっけ・・」
頭をポリポリとかいてる千佳ちゃん・・
とぼけてはいるが・・
「変な研究している博士が来たって、
雑誌の取材とか来てたって、
そんなの関係ないと思います!」
珍しく、沙希ちゃんの熱が入っている。
「私、この部活は、他と違って、
温かさがあるって思ったんです!
タクム君が居るからってのもあったけど・・
もっと違う・・
魅力があるって・・」
「魅力??」
「いつもは、ほんわかとしていて、いいんだと思います!
あんなに、研究熱心にしてたら疲れてしまいますよ!
私達は、研究しているんじゃない・・
本物の『霊』を相手にしてるって・・
除霊や悪霊退治を、
本当にやってる・・
のほほんとしていても、
いざとなれば、
やる時はやる!
そんな部活だって思ったんです!」
「沙希ちゃん・・」
先生が熱意に動かされているようだった・・
「それには、
いつも、焦っていてはいけないんだって・・
温かい心で、迎え入れなければ、『霊』だって寄り付かない。
部長さんも、副部長さんも、
先生も、先輩も・・
みんな、優しいから、
温かいから・・
でも、
強い。
悪霊にだって負けない強さを持っているんですよ!
私、
それが、
この部活の魅力だって・・
思ったんです。
だから、
入ったんです!」
「沙希ちゃん・・・」
千佳ちゃんが、沙希ちゃんを見つめる・・
僕も彼女と目を合わせた。
僕たちは、
そんな仲だったのか・・・って・・
「そうね・・
私達、
あの博士に翻弄されて、
大事な事を忘れていたのかも知れないわね・・」
先生が、沙希ちゃんの言葉で気づく・・
「この部活の・・魅力か・・」
千佳ちゃんも考えている・・
でも、
何かに気づいた千佳ちゃん・・
「え?
って事は・・
あんた、
この部活に入ったの?
仮入部って事だったけど!」
「あ!」
慌てて、口を塞いでる沙希ちゃん・・
「えへへ・・
そういう事に・・
なるのかな・・・」
にっこりと笑ってる沙希ちゃん・・
「う~ん・・
じゃあ、やんなきゃね!」
「え?」
「新入部員の歓迎会よ!
拓夢君の時もやったじゃない!」
先生が思い出している。
「あ!ホットケーキ・パーティーか・・」
「そう言えば、まだ勝負がついてなかったわね・・
千佳ちゃんとの、フライパンさばき・・」
「そうですね!今回も、負けないですよ!」
ライバル同士の先生と千佳ちゃん・・
「あ、私、今回はフルーツと、ホイップクリームをトッピングします!」
彼女の甘党も全開だった・・
何だか、方向が違っているような気もするのだけれど・・
パチパチ・・・
どこからか、拍手の音がする。
「さすがです!
ゴーストバスター部!!
噂通りの部活ですね!」
男の人の声がした。
振り向くと音楽室の入り口に、背の高い大人の人・・
見覚えがある。
ダウンジャケットを着て、サングラスを掛けていた・・
博士と一緒に来た雑誌社の・・・
「この学校に、もう一つ、
本格的に浄霊をしている部活があるって聞いて・・
興味が湧いたんです。」
「あなたは・・」
「初めまして、
月刊オカルトの今西と言います。
美奈ちゃんは初めてじゃなかったね!」
・・・『美奈ちゃん』?
ちょっと馴れ馴れしい人だなって、ムッとした僕・・
彼女の方を見ると・・
「今西さん!」
何なんだ?
この反応は~!!!
目がハートになってるぞ~!!
突然のライバル登場なのか?
「あはは・・
ちゃんとおみやげは持って来てるよ!
はい!」
雷おこしと人形焼の袋を見せる今西さん。
「やった~!東京名物だ~!!」
彼女の過剰反応は、これだったか・・・
今西さんも、この手法で彼女を手なずけているのか??
そして、
「今西さん!
ファンなんです!!
サイン下さい!!!」
やはり、目をハートにしている千佳ちゃん・・
恐るべし、今西さん・・
短い時間で、既に二人の女子の心を掴んでいた。
音楽室の中央に並べられた椅子に座り、僕たちの会話に入ってくる今西さん・・
おみやげの品々を開けている。先生と沙希ちゃんがお茶道具を取りに家庭科室へ向かった。
「校長先生から、お話は聞いてます。
合宿所とか、校舎の霊のお払いとか・・
悪霊とも対決してるって・・」
「はい!
悪霊退治してます!!」
千佳ちゃんが嬉しそうに返事をしてる。
「あの、悪霊と対決しているのか・・」
「え?知っているんですか?」
僕が聞いてみる。
「ああ!俺たちが高校の頃・・
美奈ちゃんのお母さんたちと、
この学校で対決したんだ・・」
「え?」
それは、初耳だった・・
僕のお母さんと彼女のお母さんでコンビを組んで、悪霊と対決したという話は聞いていた・・
でも、今西さんも加わっていたとは・・
「じゃあ・・僕のお母さんも・・知っているんですか?」
「君が、ヒロシ君か・・」
え?僕の名前を知っている?なぜ?
「陽子から聞いたよ・・
あの悪霊を退治したのが、君だって・・
そして、ゴーストバスター部の部長もしてるって・・」
「は・・はい・・」
彼女のお母さんから、話を聞いているらしかった。
でも、それほど、大したことはしていないのだけれど・・
ちょっと、恥ずかしくなる僕・・
「似てるね・・」
「え?」
「一橋に・・、
いや・・
君のお母さんの面影がある。」
「そ・・そうですか?」
僕にとって、お母さんは、僕にとっての『母親』という一面しか知らない。
それ以前に、何をしていたのかという事も、僕には見当がつかなかった・・
「あと、、
君が、あの携帯を譲り受けたって・・」
「霊感ケータイを知っているんですか?」
「ああ・・
あれは・・
俺の・・
友人が持っていたものだ・・」
遠くを見つめている今西さん。
彼女から、この携帯を所有していた、前の持ち主は、この携帯で命を断ったと聞いている。
その、前の持ち主が、今西さんの友人・・
その友人から、彼女たちが譲り受けたという事なのだろうか・・・
僕は、ポケットから、霊感ケータイを取り出す。
「これです・・」
そのまま、今西さんに手渡す・・
古ぼけた携帯電話・・
手に取って、懐かしそうに見ている今西さん。
「香織さん・・・」
「カオリ・・さん?・・」
「ああ・・
前の持ち主だよ・・」
「あの時の、人ですね・・」
彼女が話に加わってきた。
前の持ち主は、女の人だったのか・・
彼女は、その人を知っているようだった。
「この携帯は、死者と通話をすることができるけど・・
生体エネルギーを消費する・・
扱いに注意しなければね・・」
「はい・・
その通りです・・」
「ヒロシ君は、使いこなしてますよ!
不必要に通話時間を長くしないようにしてるみたいです。」
彼女の言うとおり、僕は、長電話を避けて、
通話しない時は、通話を切りながら使っている。
滅多に使わない様にもしているけれど・・
出来れば、メールに切り替えてもいる。
「そうか・・
この携帯は、両刃の剣だ・・
便利な使い方もあるけれど、
一歩間違えば、危険な道具・・
悪魔の・・」
「え?」
「あ、いや・・
ちゃんと使いこなしていれば、問題ないよ!
ただ、
注意しておかなければならない事がある・・
この世での『命の存続』への『迷い』があれば・・
この携帯を使って、
自らの命を断つこともできるんだ・・」
「迷い・・ですか?」
「ああ・・
俺の友人は、
その迷いに憑かれて
命を断った・・」
携帯を握りしめる今西さん・・
過去に何があったのか・・
今西さんにとって、その女の人が、大切な人だという事はわかった・・
そして、その人を亡くしてしまった無念・・
その想いがひしひしと伝わってきた。
霊感ケータイ・・
それは、僕の思っている以上に、恐ろしい道具なのかも知れない・・




