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霊感ケータイ  作者: リッキー
ユーレイ博士 来る!
136/450

20.ハイサーチ

1年1組のクラス。午前の授業中。


生徒が黒板に向かって、熱心に先生の授業を受けている中、拓夢君が窓の外を見ている。


窓の外には、テニスコートが広がり、その脇の植樹帯で、博士と大平さんが、何やら装置で計測をしている。


千佳ちゃんの持って来ていた雑誌に載っていた雨傘を改良した大掛かりな計測器。

不思議そうに付き添う片桐さん。カメラで撮影しながら取材をしている。


全校生徒が、その異様な光景に注目していた。






外を見ている拓夢君の背中を指でつつく後ろの女子・・


振り返ると、小さな封筒が手渡された。


「何だろう?」

心で呟く拓夢君。

見回すとクスクスと笑っている女子達。


その後ろを見ると、沙希ちゃんがウィンクしている。

前を向いて、机の下で、その封筒を開く。




 ガンバレ~!

   サキ



 しっかりね・・

   千佳



 一人じゃないよ

   ミナ



 頼むよ

   ヒロシ 



 頑張ってね!

    雨宮




部活の皆が応援してくれている。

ニヤッと笑って、もう一度沙希ちゃんの方を振り向き、目で合図をする。


手を小さく振る沙希ちゃん。


自分は一人ではないって・・思った拓夢君。


オカルト研究会の部員の監視の中、連絡の手段として、こうした古典的な手段が効果的だったとは、意外だ。

先生が音楽の時間を利用して女子に根回しをしてくれていたらしい・・


昨日の放課後、千佳ちゃんと沙希ちゃんが居なくなったのは、仲の良い友達を尋ねて交渉していたのだった。

女子達に人気がある先生と、女子同士のネットワークの作戦だ。





拓夢君がなにやら書いている。


封筒を、気づかれないように後ろの女子に渡す。

戻ってきた封筒を開いた沙希ちゃん。




 まかせておいて!

      タクム




どこの誰からか届いたメールでやりとりをするよりも、相手の顔の見える相手との文通は、安心する。








 キーーーーーーーン!!!!!!!!!!!

 ドクドクドクドク!!!!!!・・・



突然、変な音が拓夢君を襲う。

高音と重低音が重なった聞きなれない音だ・・



「何だ??」


だが、教室を見渡しても、その異常に気付いていないようだった。

何も起きていないのか、黒板に向かって先生の授業を受けている。



  自分だけ???



耳を手で押さえてみても、その音が弱まる兆しが無い・・

頭の中に直接響いているようだった・・



博士の方を見る。先ほどと同じく計測器を操作している。






同じ現象は、他の教室でも起こっていた・・


2年2組でも・・


「何?この音!!」


千佳ちゃんが叫ぶ。でも、他の皆は全く何も無い様子だ。


自分だけ?

脳に直接響いてくる耳障りな音・・

周りの生徒が、不思議そうに千佳ちゃんを見る。



だが、一人だけ、違った・・



「う!」

口を押えている彼女・・

今にも吐きそうな感じだ。

あまりにも苦しく、身動きができないようだった・・



千佳ちゃんが咄嗟に先生に向かって・・


「先生!望月さんが、苦しそうです!」


「どうした、望月・・

 大丈夫か?


 宮脇・・

 保健室へ連れて行ってくれるか。」



「はい!」



顔が青ざめた彼女をかかえて、教室を出る千佳ちゃん・・


「大丈夫?」


「・・・ダメ・・」


肩を支えて、やっとの思いで、保健室にたどり着く。










保健室


そこには、未来先輩も来ていた。

口をハンカチで押さえて、青ざめているが、彼女よりは軽傷のようだった・・


「あなた達・・」


「先輩・・」


「この音が・・聞こえるの?」


「はい・・大丈夫ですか?先輩・・苦しそうですが・・」


「何とか・・でも・・望月さんの方が・・苦しそうだけど・・」



体が小刻みに震えている彼女・・

見た目でも重症だという事がわかる。


保健室に入ると、そこには、何人かの女子が集まって来ていた。

彼女よりも軽症の様だが、耳鳴りや頭痛に悩まされている様子だ。


大なり小なり霊感のある女子なのだろうか?

彼女が一番重症のようで、ベットに寝かされ、洗面器が脇に置かれた。


カーテンを閉める保健の先生。


「いったい、どうしたのかね・・・?」

保健の先生が不思議に思って首をかしげる。


何人もの女子が同時に駆けつけてきたのだから・・・

しかも、同じような症状だった。


耳鳴りがする生徒も居れば、頭痛に苦しんでいる生徒もいた。



「確か、この保健室、美奈ちゃんの結界を敷いてるはずだけど・・」


部屋の四隅に塩が盛られている。



「結界?

 望月さんの?」

隣にいた未来先輩が聞き返す。


「はい・・でも、この音は結界を超えてくるみたいです・・」


「霊的なもの・・

 じゃないの?・・」



「人工的な・・

 たぶん・・

 博士の装置です・・」


千佳ちゃんにはおおよその見当はついていたようだった。






「博士の・・」

呟く先輩。


「ええ・・

 校庭で、変な装置使ってましたから・・


 まだ使ってるんだと思います・・」


まだ音が鳴り響いている。



「他の女子達も・・」


「この人達も霊感があるんだと思います。

 この音は、

 霊感のある人にしか、聞こえない・・


 しかも、霊力が大きいほど、重症みたい・・


 たぶん・・

 タクムにも・・」




「そうね・・

 あの子は、私よりも霊感は弱いから、

 それほどひどくはないと思うけど・・」



「先輩は、苦しそうですよ・・」



「ええ・・

 ちょっと吐き気がする・・

 望月さんよりは、

 軽いみたいだけど・・」


カーテン越しの彼女の方を見る先輩・・



「凄いですね・・」



「え?」



「やっぱり、先輩、霊感強いんですね・・

 でも、美奈ちゃんが、

 一番、重症なんですよ・・・たぶん・・・

 髪止を着けてても・・」



髪止めは霊力を弱めるためのものだが、それを着けていても、彼女に影響が出ていた。




「う・・ うぅ!・・」

カーテン越しに苦しそうな彼女が、何かを吐いている音が聞こえた・・



「美奈ちゃん、大丈夫?」

カーテンを開けて、千佳ちゃんが入る。

彼女の背中をさすって、介抱する千佳ちゃん。


「ハア・・ハア・・・」

もがき苦しんでいる彼女・・



「ヒロシ君に・・

 会いたい・・・!」


「美奈ちゃん!」



「これは、ひどい状態ね・・救急車を呼ばないと・・」

保健の先生が、電話しようとした時・・





「あれ?」

千佳ちゃんが気づく・・


「止んだわね・・・」

先輩も、先ほどまでの音が急に止まって、静まり返っているのに気づいた。


他の女子も、耳鳴りや頭痛がピタリと止んだらしく、

彼女の容体も直ったようで、表情が和らいでいる。



「先輩・・」




「うん・・

 今のうちに、

 博士の所へ行ってくる!」


未来先輩が、保健室を出て、校庭の方へと向かう。


先輩を見送る千佳ちゃん・・

自分たちに敵対心が無い様な気がしていた・・











校庭では、博士達が休憩をしていた。

それでも、片桐さんがマイクを向けて、博士に見解を求めている。

器材をチェックしている大平さん・・


そこへ、未来先輩が血相を変えて、走り込んできた。


「博士!」


「おお、昨日のお嬢さんじゃないか。」


「どうしました?

 顔色が悪いようですが・・」



「博士の装置から、出てる雑音のようなもので、

 一部の生徒に異常が・・」



「何!?・・・」


「先ほどまで、何か、装置で、されていましたか?」



「うむ~~~」

考え込む博士・・



「大平君・・

 先ほどまで、『ハイサーチ』を使ってたな・・」



「はい。

 全校の歪を割り出すために・・

 『ハイサーチ』を作動させました・・」



「『ハイ・サーチ』って何ですか?」

片桐さんが聞いている。



「うむ・・『ハイサーチ』は独自で開発した新技術なのじゃ・・

 広範囲に電磁波の歪を測定できる。


 今回、初めて使ってみたが、

 人体に影響があるとは・・」



「私達には、全くありませんでしたよ。」

片桐さんも、大平さんにも異常は感じられなかったという。


「うむ・・それは、体質の問題じゃ・・

 『霊媒師』の体質のな・・」



「霊媒師?」



「おそらく、何かの波長が合っているのじゃろう・・

 『ハイサーチ』は多重帯域の電磁波を使っている・・

 高出力ではないが、

 霊媒体質の生徒に悪影響を及ぼすとは・・」



「博士、その方式を使うと、私も頭痛になるんです。

 他の生徒もそうみたいで・・」



「わかった。

 『ハイサーチ』は使わん事にしよう・・


 通常の計測に切り替える。

 いいな?大平君!」



「はい。博士」



博士との交渉に成功した未来先輩。ほっと一安心だった・・・










「済みませんでした・・・

 お嬢さん・・


 初めての事とは言え、

 細心の注意を払うべきでした・・」

 

博士がペコリと頭を下げ、謝罪している。



「あ・・

 いえ・・」



「校長先生には、この事をお話ししておきますが・・

 表立つと、都合が悪い事も出てきます。


 特に『霊媒』体質に関しては、

 内密にしないと、

 その子にとって不利になる事もある。


 いじめの対象にもなりかねません・・

 我々の研究は、

 そういう微妙な所もあるのです。」



「はい・・

 この事は、

 秘密裏にしておきます。」



「ありがとう。

 お嬢さん!」 

ニコリと笑う博士・・


博士も、単に研究を進めるだけでなく、

その研究が社会に及ぼす影響も、ちゃんとわきまえている事を知った未来先輩・・

紳士的な面も持ち合わせ、頼もしく、また親近感を覚えたのだった・・







昼休みの音楽室



弁当も終わり、音楽室へ入ると、部員が集まっていた。


先生と彼女、千佳ちゃん、沙希ちゃんだけだけど・・

拓夢君は、相変わらず監視されてるようで・・


彼女の様子が変な事に気づく。


「どうしたの?浮かない顔して・・」


「ヒロシ君・・」

泣きそうな表情の彼女。


「大変だったんだよ!ヒロシ君!」

千佳ちゃんが血相を変えているが、僕には何が起きたのか分からなかった。


聞けば、午前中の博士の計測機器によって、異常を訴えた生徒が続出したという・・

彼女が一番重症だったと言うが・・


「救急車を呼ぶところだったんだよ・・

 あれからピタッと止まったから、良かったけど・・」


「病院へ行かなくて良かったの?」


顔を見合わせる彼女と千佳ちゃん・・


「ヒロシ君に、会いたかったってサ~」


「え?」


「昼休みまで、学校に居たかったんだって・・

 ホント・・

 あんた、想われてるよね~

 この幸せ者が!」



彼女が赤くなっている。

眼鏡とポニーテール姿だけど、カワイイ・・・



「『ヒロシ君に会いたい~』  だもんね!」


「もう!千佳ちゃん!!」


彼女をからかってる千佳ちゃん。


「うふふ・・

 もう、それくらいにしてあげたら?

 千佳ちゃん・・


 望月さんも赤くなってるよ・・」


先生が見かねている。


「は~い」





 


「でも、あの作戦も成功みたいね!」



「はい。

 タクム君もはりきってましたよ」


先生が話題を変える。沙希ちゃんが嬉しそうに答える。

教室内の女子達の協力を得て行った手紙のやりとりの事だ。



「そっか・・

 文通作戦、上手く行ったんだ・・」


「はい。やっぱり、先生は凄いです。」


帰って来た文面を見せる沙希ちゃん。



「うふふ~。昔はね・・あれで、彼氏をモノにしたものよ。」



翔子ちゃんパパは、文通作戦で落ちたの?

でも、あのパパなら、ありえる・・・



「そうだったんですか~?

 先生、意外と積極的なんですねぇ~」



「沙希ちゃんも、早めにキープしなきゃね!」



「はい!先生・・」




「先生・・・

 変な入れ知恵・・


 しないで下さい!」

千佳ちゃんが、突っ込んでくる。


「あ・・

 そうだったわね・・」


「ただでさえ、会えない分だけ差をつけられてるんですから・・!」


「まあまあ・・会えない時が、心を育てるのよ。

 拓夢君も、会いたがってると思うよ」



「先生~・・どっちの味方なんですかぁ??」


和気あいあいと、会話が弾むゴーストバスター部・・

たあいもない話かも知れないけれど、それが、この部活の原動力になっていた。



本題は、博士の計測器への対応だと思うのだけれど・・・

本当に、大丈夫なのだろうか・・






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