15.遭遇
視聴覚準備室
オカルト研究会が今西さんを囲んで雑談をしている。
部員は、皆、今西さんの話に聞き入っている。
「・・じゃあ、高校時代から怪奇現象に取り組んでいたんですか?」
部員の一人が質問している。
「ああ!オレも、あちこち飛び歩いたよ。
夏休みは、全国の幽霊スポットとか巡ったな~。
部員も大変だったと思うけどね・・」
「そ・・そうですね・・」
苦笑いしている教頭先生。
「へえ~」
関心を持って聞いている部員達・・
「あ、そう言えば、見せたいものがあるって・・」
今度は今西さんが、思い出したように、部員に聞いている。
「あ、はい、そうなんです。」
部長が返事をする。
「おい・・大谷・・」
大谷先輩の方を見る。
大谷先輩は、皆と離れて、机に座っている。
何か、心配事でもあるのか、上の空だった・・
少し、顔色が悪いような感じもする。
「おい!! 大谷!」
部長が少し、大きな声で呼ぶ。
「え? あ・・ 」
何が起きているのかきょとんとしている大谷先輩。
「どうしたんだよ!朝から変だぞ!」
「ああ・・済まない・・考え事してて・・」
「せっかく、今西さんが来てるんだ!
例の物を見てもらえよ!」
「ああ・・」
そう言って、胸のポケットから携帯電話を取り出す大谷先輩。
「それが、教頭先生が話してた・・例の?」
今西さんが聞いている。
「はい・・『霊感ケータイ』っていうアプリが入っているんです。」
今西さんの手に渡される携帯電話。
「どれどれ・・」
ピ
スイッチを入れる。
画面いっぱいに映し出さされた『霊感ケータイ』のタイトル。
それを作動させてみる・・・
「ほぉ~・・アプリ作れるんだ~」
感心している今西さん。
その携帯電話を左右に振って画像を見る。
「何も映らないみたいだけど・・」
そう言っている間に、部員達の間に、見知らぬ人影がうっすらと写っているのに気が付く。
「あれ?」
携帯の画面から目を離すと、そこには居ない・・・
そして、再度、携帯の画面を見ると、
その人影が、少しずつ動いているのだ・・・
「これは・・・」
部員達の間を、すり抜けるように動いている人影・・
透明感があるので、本当の幽霊の様にも見える。
CG処理された画像だが、その仕草が自然に映っている。
未来先輩が初めて見た時の映像より遥かに進歩していた。
フリーのプログラマーによるものなのだろうか・・
今西さんが、その映像に唖然とした・・
何年か前、
やはり、得体の知れない携帯電話と遭遇し、
奇怪な体験をした記憶が、
にわかに込み上げてきたという・・・
「香織さん・・」
「え?」
教頭先生が、その言葉に反応した・・・
「先輩・・?」
今西さんを見つめる教頭先生。
「え?・・
あ、
いや・・・
あ!このアプリ、凄く良くできてるじゃないか!
このレベルなら雑誌で紹介できるよ。」
「オー!!」
部員から歓声があがる。
「やったな!今西さんから太鼓判押されたぞ!!」
部長が嬉しがっている。
「ああ・・」
少し、顔を赤らめ、眼鏡に手をやる大谷先輩・・照れているのだろうか・・
教頭先生の励ましの言葉が続く。
「これは、凄い事ですね!
この学校から発信するのですから・・
大谷君、頑張ってね!」
「あ、はい!」
そう言って、嬉しそうな顔になる大谷先輩。
でも、直ぐに窓の方を向いてしまう・・
何か、気になっている事でもあるのだろうか・・
部長がその姿を不思議そうに見ていた。
「大谷・・」
そして、
教頭先生が振り向くと、
携帯電話の画面を見ながら、上の空の今西さん。
今西さんの言葉が引っかかっていた・・
「先輩・・・」
トゥルルルル・トゥルルルル・
今西さんの胸元で鳴る電話。
ピ
「もしもし?」
片桐さんから、呼び出しの電話だった。
「わかった。直ぐ行くよ!」
ピ・・
「これから博士達が校長室へ向かうって・・
行かなきゃな!」
「え~?もう、行っちゃうんですか?」
部員達から残念な声がする。
「すまない。
博士のお相手をしなきゃなんで・・
また、来た時に寄ってみるよ!」
「ちゃんと来て下さいね~」
「ああ!
今日はありがとう!」
「私が校長室へ案内します。」
教頭先生が案内するという。
「あ、水島さん・・」
未来先輩が呼ばれている。
「はい?」
「あなたも、同席してくれる?」
「は・・い・・」
どうしたのだろうという顔の未来先輩・・
その言葉通りに教頭先生たちと共に校長室へと向かう。
「じゃあ、あとはよろしくね。
部長。」
「はい・・」
部員達に見送られて、部屋を出る今西さんと教頭先生、未来先輩だった。
僕と彼女は階段の下の三角のスペースに彼女と一緒にやってきた。
彼女は何だかやる気満々だ。浄霊をするとの事だったが・・
「ねえ、ヒロシ君、霊感ケータイで見てみて!」
「うん・・」
彼女の言うとおり、僕はポケットから霊感ケータイを取り出し、スイッチを入れた。
カメラモードに切り替える。
ピ
階段の下を見る。
ここには、膝を抱えた少女がいたはずだ。
夏休みの探索で、悪霊に取り込まれていた少女が、この場所に戻ってきていた事は確認していた。
案の定、
携帯電話の画面には・・
膝を抱えて、
前を、ボウッと見ている
少女が映し出されていた。
生気が無い表情。
うつろな目は、
遠くを見ている・・・
この学校の生徒だったのだろうけれど、いつ、なぜ、この場所に居つくようになったのかは、全く分からなかった。
「浄霊」の儀式では、その霊が言いたい、内に秘めた想いを吐き出させて、成仏をさせるという方法を採る事が多い様だけれど、この少女には、どんな想いがこもっているのだろうか・・・
彼女が手を、少女の方へかざし、目を閉じる。
彼女には、少女の居る場所が見えている。
霊感ケータイなど使わなくても「見えて」いるのだ。
しばらく、目をつむっている彼女。
精神統一でもしているのだろうか?
よく耳をこらしてみると、彼女が何やらぶつぶつと念仏のようなものを唱えている。
霊感ケータイ越しの少女は、何も変わったところは無い。
いや・・・
彼女の方に目を向いて、じっと見つめだした。
彼女に気づいたのだろうか・・?
その時・・
「あ、そこの君たち!」
男の人の声が聞こえた。
振り向くと、博士たちの一行だった。
僕たちの敵となる存在・・
大平さんという人が僕たちに尋ねている。
「校長室へは、どう行けばいいのかな?」
「あ、校長室なら、この廊下を真っ直ぐ行って、次の通路を右です。」
僕が説明をする。
「そうか。ありがとう!」
そのまま通り過ぎようとしたが・・
「うむ??」
博士のポケットの装置が反応した。
僕と彼女が不思議そうに見つめる中・・
「ちょっと、そこの子!
そのままで!!」
「え?私ですか??」
彼女に反応があるらしい・・
博士が、黙って立っている彼女の周りを器具で探査している。
制服の上から
腰や、背中、胸の辺りをくまなくかざす・・
「な・・何ですか・・
それ・・」
「黙って!
今度は、手を挙げて!!」
その言葉通りに、手を上にあげる彼女・・
蛇に睨まれたカエルの様な・・
こわばって、動けない彼女・・
脇の下から胸元をくまなく探査している博士・・
「うむ~・・
ほお~・・」
何やら、怪しげな仕草ですが・・
変態オヤジ??
「君!!!」
「はい!!」
「君の周りはゼロ磁場になっておる!!」
「ゼロ磁場~??」
「極めて貴重な体質じゃ!」
「き・・貴重ですかぁ~?」
「うむ!君の名は?」
「望月 美奈子といいます」
「望月!!」
その名に、反応した博士。
「え?」
「うむ~・・・」
眼鏡に眉のしわを寄せる博士・・
顎鬚をしきりに手でむしる・・
何かを想い出しているようだった。
彼女には、何が起こっているのか、分からない・・
「博士!早くいかないと!」
片桐さんが見かねて博士を呼ぶ。
「おう・・そうじゃった!
また、会うとしよう。望月君」
「はい・・」
そのまま、その場を立ち去る博士達・・・
僕たちは唖然として見送った・・
あれが・・「ユーレイ博士」か・・・・
「な・・
何だったの?アレ・・」
彼女が歩いていく一行を見ながらつぶやく。
「あの人が・・
千佳ちゃんの言ってた『ユーレイ博士』みたいだね・・」
ブルッと身震いした彼女。肩を抱えている。
「何か・・背筋に寒気が~」
「大丈夫?」
「う・・
ん・・・
大丈夫・・
じゃない!
何か・・
やる気
無くした・・・」
涙ぐんで僕を見ている。
博士の一連の行為によって、
一分にも満たない計測(?)によって・・
彼女の浄霊の意気込みが一気に冷めてしまったようだった・・
お・・恐るべし・・ユーレイ博士・・
「ヒロシ君・・・」
彼女が、ちょっと甘えた声で話かけてきた・・
「どうしたの?」
「あのさ・・
ご褒美・・
なし・・
だよね・・」
ご褒美って何なんだったのだろう?
だいたい、目標も達成していないのだから、ご褒美どころでもないのだけれど・・
彼女の意気込みは評価したい。
あんなアクシデントがなければ、彼女の思惑通りに事が運んだのだろうから・・
なんだか、可愛そうになってきた・・
「いや・・美奈も、努力したんだから・・」
「うん・・」
「何が欲しかったの?
やっぱり、甘いもの?」
何が欲しいと言われて、いきなり「ヒロシ君が欲しい~!」とか言われて、飛びつかれたら、どうしようかと思った。
先生ならやりかねない・・
甘いもので我慢してもらおう・・
「あ!
アイスクリームが良いな~・・
帰りにさ・・
駅前のハンバーガー屋へ寄って行かない?」
ハンバーガーショップで「甘いもの」を食べようというのも、ちょっと変だと思った。
普通はポテトとかジュースとかだろう・・
駅の方面は、先生のマンションへの帰る方向だ。
彼女の家とは反対になる。
「ちょっと遠回りになるけれど・・」
「いいよ!
ヒロシ君と一緒なら!」
「じゃあ・・行こうか・・」
「やった~!
何トッピングしようかな~」
何だか、元気になってる彼女・・
無邪気に、はしゃぐ仕草も可愛い・・
でも・・
元気になったのなら・・
浄霊しても、いいんじゃないのかな・・




