14.ユーレイ博士
一台の車が僕たちの学校の校門をくぐる。
教員棟の前にカーブして横づけされた。
玄関に、校長先生と教頭先生、数名の学年主任の先生が出迎えている。
誰が来たのかと、生徒たちが見守る。
バタン・・バタン・・
ドアが開き、3人の大人が出てきた。
運転席から、ダウンジャケットを着た男の人。サングラスを掛けている。
助手席から女の人、後ろの左のドアから、器材を抱えた大柄な白衣を着た男の人・・
そして・・
助手席から降りた女の人が、小走りに後ろの右のドアを開ける・・
中から、白衣を着た小柄な初老の研究員らしき人が出てきた。
威厳のあるような、雰囲気のその人・・
車から降り立ち、ゆっくりと僕たちの学校の校舎を眺めまわした・・
「ユーレイ博士」
強敵、現わる・・・
「お待ちしておりました!博士・・」
教頭先生の声に振り向く博士。
「おお~!早乙女君か~!!久しぶりじゃ~!!」
「お元気そうで、何よりです!」
微笑む教頭先生。仲の良い知り合いのようだ。
「初めまして!校長の宇佐美です。」
校長先生が挨拶をしている。
「電磁波研究所から参りました、雁金と申す者です。
こちらは、助手の大平君です。」
「大平です。よろしくお願いします。」
大柄の助手の人が挨拶をしている。
「有名な方がご訪問されるのは、この学校始まって以来です!」
感激している校長先生。
「ホッホッホ!ご協力感謝します。よろしくお願いしますゾ!
ウム??」
機嫌が良かった博士が、急に真剣な表情となった。
「どうしたんですか?」
「おお~!!反応が出ておる!」
ポケットから計器の様なモノを出して、叫んでいる・・
「今西君!ワシは少し、校庭を廻ってから行くよ!!」
「何か、感じるんですか?」
今西という人が答える。サングラスをしていた人だ。
「うむ!ワシの勘に間違いはない!!行くぞ、大平君!」
「はい!博士!!」
そのまま、器材を抱えた助手の大平さんと共に、校庭へと探査を始める博士・・
何か感じたのだろうか?この学校は、霊がうじゃうじゃいるらしいから・・
その様子を、半分呆れた感じで見送る一緒に来ていた今西さん・・
改めて、校長先生たちと挨拶を交わす。
「月刊『オカルト』編集者の今西です」
「同じく助手の、片桐です。よろしくお願いします!」
どうやら、編集者の人らしい。千佳ちゃんの憧れの人?
「私が、ここの校長を務めております。宇佐美です。
こちら、教頭の・・」
「早乙女です・・」
静かにお辞儀をしている教頭先生・・いつもと様子が違う・・
「早乙女・・って・・・
あの早乙女さん??」
編集の今西さんが、驚きの表情になっている。
「はい!覚えてましたか?先輩!」
高校生の時の部活動で一緒だったという。何て奇遇なんだろう・・
聞けば、二人とも「オカルト同好会」という部活動の部長をしていたそうだ。
1年先輩の今西さん・・
「高校卒業してから、もう15年も経つのか~」
「ええ・・先輩も、この中学校卒でしたよね・・」
「ほお・・母校なのですか・・」
校長先生が聞いている。
「はい。ここで勉強したのが、つい昨日のようですよ。」
「月日の経つのは早いものです。」
「そうですね・・
最近は特に早く感じるようになりました・・」
「所で、博士は、あのまま探索を?」
校長先生も心配になったようだ。
本来は、挨拶を交わしてから改めて探究するのが筋なのだろうけれど・・
学年主任の先生達もあっけに取られて、何もできずに立ち尽くすのみだった・・
「はい・・おそらく、そうですね・・」
「研究熱心なのですな・・」
「後で、博士と改めて、お伺いしますよ。」
「では、教務室にて詰めておりますので、お声をかけてください。」
「すみません」
「それまで、教頭先生に校舎内を案内してもらいます・・」
「はい。では後ほど・・」
今西さん達にお辞儀をして、教務室へと帰っていく校長先生、学年主任の先生たち・・
玄関前には、今西さん達と教頭先生が残る。
「へぇ~。今西さんもこの学校卒業してたんですか~?」
改めて、助手の片桐さんが驚いている。
「ああ・・懐かしいよ!」
校舎の隅々まで見渡している今西さん。
「先輩が、プロの編集者で活躍してるのは、私も嬉しいです。」
教頭先生が話しかける。
「オレも早乙女さんが、教頭先生になってるとは思わなかったよ。」
「あの・・先輩・・」
教頭先生が、改まっている。
「ん?何だい?」
「今西さんって・・ご家庭は?」
「はは・・!
恥ずかしながら、まだ独身なんだ!」
「幸子・・先輩ですか?」
ポツリと言う、教頭先生・・
「ああ・・
まだ、忘れられない・・・
それに・・」
空を見ながら、答える今西さん・・
「え~?幸子さんって・・誰ですか~?」
助手の片桐さんが聞いている。
「遠い、高校時代の想い出さ・・」
「あ~その言い方!意味深~・・何か隠してますね~。」
「どうでもいいから、仕事仕事!!」
「はいはい!」
そう言って、博士が何やら探索している校庭の方へと駆けて行った・・・
教頭先生と今西さんの二人になる。
校舎の中へと入り、廊下を歩き出す教頭先生たち、何処かへ案内しようとしているらしい・・
「あの・・先輩・・・」
再び教頭先生が聞いている。
「どうした?」
「この間の雁金博士の記事・・読みました・・」
「ああ・・!、どうだった?」
「さすがですね・・ちゃんと要点は押さえてありますよ。」
「うん・・!
あの博士は、他の研究者と違うよ。ちゃんと理論を立てて、計測したものを分析している。
それに・・「霊」の存在を否定していない。
自然現象の一つとして、位置づけようとしてるよ・・」
話を切り出して、熱弁している今西を見守る教頭先生・・
「昔と、変わりないんですね・・」
「え?」
「あの頃、ガムシャラに突き進んでた時と・・
同じです・・」
「そうかな~・・これでも大人になったつもりなんだぜ!」
そんな今西を微笑んで見ている。教頭先生。
「あ!見せたいものがあるんです」
「見せたいもの?」
「ええ・・興味を示すんじゃないかって・・」
「へえ・・、何だろうな・・」
「ウチの部活の生徒が作ってるんですが・・」
「ああ・・、オカルト研究会って部活を組織してるって・・、その生徒たち?」
「ええ・・『霊感ケータイ』ってアプリを作ってるんです」
耳を疑った今西さん・・驚きの表情を浮かべる・・
「霊感ケータイ?
だって・・?!」
意外な反応をしている今西さんに驚く教頭先生。
「知ってるんですか?」
「・・・・」
無言で、立ち止まる今西さん・・窓の外を見る。
「先輩? どうしたんですか?」
「いや・・何でもない・・・」
「何か、知ってるんですか?」
「昔、そんな名前のガセネタがあったんだよ・・」
「そうなんですか?
でも、これは、ガセネタじゃないんですよ!」
「へえ・・
それは、期待しようかな・・」
「はい。」
それにしても、教頭先生・・何かいつもと様子が違うのだ。
いつもは、他人を寄せ付けないくらいに威厳の固まりのような人なのに、
今西さんに関しては、「少女」のように素直な感じになっている。
水を得た魚
の様な・・なんだか、嬉しそうにも映る。
それは、懐かしい人と再会したからなのだろうか・・
視聴覚準備室
オカルト研究会の部員全員が、ユーレイ博士や今西さんの到着を待っていた。
教頭先生が、有名人二人を連れてくるという事で、期待に胸を膨らませている部員たち・・
一般の人たちには、全く有名でも心ときめく事でもないと思う・・
ガラっと扉が開く・・
「みなさん!月間オカルトの今西さんですよ!」
教頭先生が歓喜の声を挙げて、紹介している。
「オオ~~~!!!!」
部員全員から歓声が湧きたつ。
そんなに・・有名人なのだろうか?
くどい様だが・・一般の人には、どうでもいい事なのであるが・・・これが、カルトという物なのか~???
この学校のOBで、更に、オカルト雑誌の第一線で活躍している編集者なのだ・・
有名人と言えば、有名人か・・
「ようこそ!今西さん!」
「いらっしゃ~い」
「お待ちしてました~」
「わあ~サイン下さ~い」
こういうリアクションは・・
異様だ・・・
その頃・・
校庭で計器を駆使して計測している博士の一行・・
博士と、助手の大平さん、記者の片桐さんが連れ添う・・
部活をしている運動部員達には異様な光景に映っている。
夏休みに、虎熊童子と遭遇したゴミ焼却炉に差し掛かっていた。
ピッ・ピッ・ピッ・・・・
「お!大平君~~!!
反応だーーーー!!」
「はい!博士!!」
棒状の探知機の先をあてがいながら進んでいた博士の足が止まる。
いったい、何に反応しているのだろうか・・
「博士・・何が反応してるんですか?」
助手の片桐さんがカメラを構えながら聞いている。
「うむ?」
・・・居たの~?・・
みたいな表情の博士・・・
「君・・マックスウェルの電磁気学は知っているのかね?」
「は・・はい???」
「クーロンの法則くらいは知っているだろう?」
「ク・・クーロン・・?」
「君は、大学、出てるのかね?」
「はい・・一応・・文系は・・
専攻は近代日本文学です・・」
帰って来た答えに頭を抱える博士・・
「あ~・・!今西君にあれほど言っておいたのに!
生半可な知識じゃ、説明する時間を取られるだけだって!!」
「す・・すみません・・」
「大平君!後で説明をしておいてくれたまえ!」
「はい!博士!」
足手まといの様な気がしている片桐さんだった・・
「き・・来たわよ・・!ユーレイ博士・・!!」
音楽室の窓から双眼鏡を覗く千佳ちゃん。何だか興奮気味だ。
オカルト研究会では編集者の人を会をあげて迎えている最中だ。
千佳ちゃんもそっちに興味があるんだろうな・・
ゴーストバスター部に所属していなければ、直ぐにも飛んで行きたいだろう。
千佳ちゃんの持ってきた雑誌を読んでいる沙希ちゃん。
沙希ちゃんにとって、ユーレイ博士などこれっぽっちも興味の対象にないようだ。
興奮している千佳ちゃんと、冷静にしている沙希ちゃん・・
対照的な二人・・
珍しく、音楽室には二人しか居なかった。
「そう言えば、千佳先輩、タクム君に最近会ってないでしょう?」
その通りだった・・
家庭科室で教頭先生に宣戦布告されて以来、ずっと会っていなかった。
「う~~・・何だか、最近、
欲求不満なんだよね・・・
あんたは、クラス一緒だから良いよね・・」
「そうでもないんですよ。
ガードが固くて話もできないんですよ~」
「そうか・・敵もやるな~」
「オカルト研究会に移籍すれば、
ユーレイ博士にも会えるし、タクム君にも会えますよ~。」
「うう・・でも、あの教頭の配下には付きたくないな・・・
肌が合わないわ・・私・・」
「そうですね・・私もかな・・」
たとえ、興味の対象のモノが手に入ったとしても、行きたくない所もあるだろう・・
二人にとって、ゴーストバスター部のほうが居心地がいいらしい。
「そう言えば、部長とかどうしたんですか?」
「ああ、ちょっと校舎の『霊』が心配だって・・」
「校舎の『霊』?」
「あの博士が何かしないか見てくるって・・」
「副部長と?」
「うん・・たまには、二人にしてあげないとね・・」
「優しいんですね~
先輩って・・!」
「えへへ~。
褒めても何も出ないからね!」
拓夢君がいれば。取り合いになるのだろうけれど、奪い合いの対象が居ないと仲が良いみたいだった。
このまま、拓夢君が来ない方が平和な気がするけれど、そんな事言えば怒られるんだろうな~。
その頃、校舎の廊下を歩く僕と彼女・・
彼女は、探索用に、眼鏡と髪止めを外して、カワイイバージョンになっている。
「そう言えば、二人で校舎探索するのって、夏休みぶりだね~」
「うん・・そうだね・・」
「なんか、ワクワクしない?」
「ワクワク?」
生返事の僕を見かねた彼女・・
「ヒロシくん!」
「はい!何でしょう?」
「帰って来れる所は私だって、翔子ちゃんの時に言ってたよね~!」
そ・・そうだった・・
浮気が発覚して、バレた・・・
いや・・そうではないような気もするが、そんな状況を許してくれた彼女だった・・
可愛い顔が僕の間近に迫る!
怒った顔も、仕草も・・
やっぱり・・カワイイ・・
「あ・・そう言えば、この先の階段の下に、女の子が居たよね~」
苦し紛れに、話題をそらす。
「ああ・・あの子ね!」
僕が初めて学校で探索した時の事を思い出す。
あの時は、一人で、校舎の「霊」をチェックして廻った。
悪霊退治の時だ。
階段の下の、三角のスペースにひっそりと座る少女・・
「あの子って、ここの生徒だったの?」
「うん・・たぶんそうだと思うけど・・」
「例えば、今回の博士が、あの子に気づいて、
何かすると、どうなるんだろう?」
「何かって??」
人間だったら、触ったり、声をかけたりもできるのだろう。
霊の場合は、どうなのだろう?
実体がないけれど、直接、触る方法のほかに、何かできるのだろうか・・
千佳ちゃんから見せてもらった装置を思い出す。
「あの博士、変な装置とか持ってたよね・・」
「電磁気学とか書いてあったけど・・」
「ああいった装置で、何かされるとか・・電気的??」
「うん・・」
しばらく考え込む彼女・・
困っているような・・物想いにふける彼女・・
その仕草も可愛い・・
カワイイバージョンだから、何をやっても可愛いのだ・・
向こうの階段の方を見つめる・・
「やっぱり・・危険かな~」
「危険?」
「『霊』って、無視していれば、危害は加えないんだよ。
波長も合わずに、出会う事がなければ、
全く、空気と同じ・・
でも・・
何かのきっかけで、その『霊』と接触してしまったら・・
取り憑かれたり、色んな現象を起こす事もある」
ひとくくりに「霊」と言って、得体の知れないモノだと思っていても、
案外、人間に近いような気もしてきた。
人と人の関係もそうなのだろう・・
赤の他人ですれ違う事が殆どでも、何かのきっかけで出会った時、
人と人の関係が始まる。
互いに、良い関係になる事もあれば、危害を加える関係になる事もある。
「何もしなければ・・
何も起こらないのか・・」
「『霊』は、言わば、『念』の固まりのようなものなの・・」
「『念』?」
「翔子ちゃんは、ヒロシ君の事が好きだった想いが強かったから、
地獄で修行して、霊力を高めて、ヒロシ君の役に立ちたかったんだって思う。
生前の想いが、その『霊』の性格を決めるのよ・・」
「生前の想い・・」
そう・・翔子ちゃんに関しては、病院で寝たきりになる前に、僕に想いを寄せていた。
その念の強さから、生霊となり、僕の前に姿を現わし、亡くなってからも、その想いからなのか、
僕の周りで、助けたりしてくれた。悪霊との対決の時も・・
時には、心の支えにもなってくれた翔子ちゃん・・
その、根源は、
僕への想いが、強かったこと・・
それにつきるという事か・・
・・・霊は過去にしばられ続ける・・・
住職の言葉を思い出した。
その人が生きていた「過去」の念が、永遠に続く「霊」・・
それに対し、生きている人間は、過去を忘れ、未来を切り開く事ができる・・
生きている者と死んでいる者・・
その違いは、肉体が存在しているかどうかだけでなく・・
「過去」に縛られ続けるか「未来」を切り開いていくかの違いもあるようだ。
ならば・・
現在を生きている人間が、
過去の事象に縛られ続け、
そこから
一歩も進めないのは・・
「霊」・・
死んでいるも同然なのではないだろうか・・・
生きていく人間
死んでいる人間
僕は、どっちなのだろう・・
「やっぱり、危険かな
あの子にとっても、博士にとっても・・」
彼女がつぶやいている。
「あのさ・・
例えば、あの階段の少女を、
あの博士から守るって・・
方法はあるのかな・・」
「守る方法?」
彼女が聞いてくる・・僕が知りたい方なんだけど・・
「一時、避難させるとか?」
「避難は難しいよ~。
地縛霊とかは、その『場所』自体に念が強いんだもん・・」
場所に固執する霊が「地縛霊」という事か・・
何故、そこに固執するようになったか・・
そこに念が強くなったかを断ち切らない限りは、
そこから動くということもできないのだろうか・・
「じゃあ・・どうすれば・・」
「一番良いのは、『浄霊』かな~
でも、この校舎全部の霊を浄霊するのは大変だよ~」
「そっか・・」
考え込む僕・・
その姿を見て、彼女が微笑んでいる。
「ふふ・・ヒロシ君って・・変!」
「え?」
「自分とは関係ない『霊』の事、考えてくれてるんだね!」
「変かな~」
「私なんか、関係しないように無視してるのに、
ヒロシ君って逆なんだもん。」
そう言われてみれば、そうだ・・
僕とは全く関係ないなら、無視すればいい。
でも、困ったりしている状況を、
黙って見ていられないのだ。
何とかしようって・・思ってしまう。
「好かれるんだよ!」
「え?」
「ヒロシ君って、皆から好かれるよ。
頼りになる。」
「そうかな~」
「ウチの部活でも、皆、ヒロシ君の事、頼りにしてるんだよ」
それは初耳だった。
「だって、オレ、一番『霊感』ないんだよ?」
頼りにならないはずなのだ。
一番霊力がない自分。
逆に僕のほうが足手まといだって思っていた。
でも・・
翔子ちゃんと別れた時の、翔子ちゃんやお母さんの言葉を思い出した。
『あなたには
霊力に負けない力がある』
紙より薄い言葉
その言葉を使う者の想いが、
人を導く。
未来を切り開く原動力
それは
その人を想う心・・
心に秘めた思い・・
その想いが、
自分を動かし、
人を動かす。
僕には、霊力はない。
霊感も無い。
でも、人を想う心は・・
誰にも負けない。
彼女を想う心。
家族を想う心。
仲間を想う心。
その想いの強さ?
それが、「霊力」をも、
上回るという事なのだろうか・・
生きている人間の「想い」、「念」には、底知れぬ力が眠っているのかも知れない。
「いいよ!」
彼女がきっぱりと返事をした。
「え?」
「この学校の浄霊・・
しちゃおうよ!」
「それは・・美奈・・
君の体にも負担が・・」
彼女の体は、悪霊との戦いの際に、かなりのダメージを受けている。
それまでの霊力は、半減し、普通の浄霊にも負担がかかるって聞いていた。
「ヒロシくんのためなら、何でも、やっちゃう!」
「でも・・オレのためじゃ・・」
「うふふ~」
不敵な笑みを浮かべている彼女・・
な、何か嫌な予感・・
「その代わり、ご褒美ね!!」
そのまま、廊下の向こうへ向かって歩き出す彼女。
何か、嬉しそうな後姿なのだ・・
何なのだろう?
ご褒美って・・・
何?
気になる・・
颯爽と廊下を歩いている彼女の後を付いていく僕・・
自信に満ち溢れている感じの彼女。
何処へ行くのだろう?
「そう言えば、さっき、変な気を感じた・・」
歩きながら彼女が僕に話してきた。
「変な気?」
「そうね・・
何か『悲鳴』みたいな?」
「悲鳴?」
その言葉とともに、足を止めて、振り返る彼女。
「ヒロシ君!」
何だろう?急に改まって・・真剣な顔をしている。
キッと目を見開き、こちらを見る・・
カワイイ・・・
彼氏の僕が言うのもなんだけど、
少し、赤い顔をして、
真剣な顔の彼女・・
「な、なんでしょう?」
「やっぱり、ヒロシ君の言う通りだよ!」
「え?何が?」
「あの博士・・校舎の霊に何かしてる!」
「何かって??」
「分からない・・
でも、何か胸騒ぎがするの・・」
僕たちの学校に忽然と現れ、何かをしている「ユーレイ博士」・・
その探査なのか研究なのか分からないけれど、得体の知れない器具で、「何か」をしているのだ・・
その影響が、出始めて、彼女が「何か」を感じているとでも言うのだろうか・・
僕には、何も感じる事も、見る事も出来ない・・
何が、起こっているのだろう?
校庭・・
先程まで探査らしき事を続けていた博士が、
「うむ~~・・・」
途方に暮れたような感じで、空と校舎を眺めている・・・
顎のひげを手で撫でながら、考え事をしているようだ・・
眼鏡に寄せた眉・・
「大平君・・・・」
「ハイ!」
「これは、本腰を入れなければならんようだの~・・・」
「そ・・それは・・」
「この校舎の磁場は、かなり乱れておる・・
電場も同じ傾向を示している・・
今まで計測してきた、どの場所よりもだ~・・」
「磁場・・ですかぁ??」
片桐さんが質問をする。
その質問に、チラッと目線をやる博士。
たじろぐ片桐さん・・
「磁界と電界は直行する。すなわち、磁場が乱れた場所では、電場も狂う・・・
地球は、大きな磁石だ・・・・北極がS極、南極がN極の大きな磁石・・
その極から発せられた磁界は地表では平均しているはずだが、
地中に埋まる鉱物などによって、僅かに変化をしておる・・
だが・・
時に、磁場が激しく狂う場所がある。
外的要因・・太陽風等の影響もあるが・・」
堰を切ったように滔々(とうとう)と語りだした博士。
「生物の活動によっても、乱れる。
特に大きな作用をするのが「脳」だ・・・
「脳波」・・これは脳のシナプスが引き越すとされる電界の変化を解析することで、
脳の局部的活動を推測する。
我々の脳は外界の様子を捉えて思考をする時に多大なエネルギーを消費し、
電界の狂いを生じさせる。
そして、
我々の考えでは、脳内のシナプス以外の第二の伝達因子・・
脳内に満たされた「水」も電界の変化を伝える重要な要素であると位置づける。
脳波はシナプスから漏れた電界の乱れではなく・・
脳内に満たされた液体そのものが、電界の信号を伝える、媒体・・・
細胞が無くても、「水」が電気的な記憶を司る。
その考えを延長すれば・・
人間の肉体が存在しなくても、
「水分子」そのものに、過去に生きた人間の記憶が宿るという考察に行きつく・・
それこそ我々が「霊」と一般に呼び、恐れる存在の正体だという事を・・
自然現象の一つであると、
科学的に証明するために研究を重ねておるのだ・・」
大平さんが、惚れ込んだような顔で博士の話に聞き入っている。
片桐さんは、何を言っているのか分からない顔をしている・・
話が終わったと感じた片桐さん・・
「あ・・博士・・シナプスって・・何ですか?」
全く予想外の質問をされて、唖然とする博士・・・
「君は、シナプスも分からんのか~~!!
ワシはちと、疲れた!休むぞ!!」
「ハイ!博士!」
頭を抱えている博士をなだめる大平さん・・
申し訳なさそうに見ていた片桐さんだったが、
ある事を思い出す。
「あ、博士!」
「なんじゃ!また質問か?」
頭を悩ませる質問がくるのかと、構える博士・・
「校長先生との挨拶がまだ終わってなかったんですが・・」
「おう!そうじゃった!
探索に夢中で、こんな時間になってしまった!!」
懐から出した懐中時計を見ている博士。
「教務室にてお待ちとの事ですよ!」
「だいぶ、待たせておるのう・・
急ぐぞ!大平君!」
「はい!」
3人が校舎に向かって歩き出す・・




