十二. 対決
僕の家。
夕食が済んで、自分の部屋に一人・・
僕は昼間の少女のことを考えていた。
お父さんに、このことを聞いてみたけれど、記憶になかったようだ。
ベットに横たわりながら、うとうととする・・・
目をつむると、母のことを思い出す。
入院していた頃の思い出がよみがえってくる。
白い壁、
白いカーテン、
白いベットに母が座っている。
りんごの皮をむきながら、僕に話しかけている。
学校のこと、
友達のこと、
先生のことを聞いてくる。
僕も楽しそうに今日あった出来事を夢中で話す。
そのカーテン越しに、小さな女の子が絵本を開きながら、こちらを向いている。
可愛いお母さんが付いていた・・
そうか、
あの子だったんだな・・
確かに、その子と良く話した。
学校での出来事とか夢中になって聞いていた。
その頃から、ぼくのことを意識していたのだろうか・・
でも、
はっと気づく・・
あれ?
あの子、
そんなに小さくなかったぞ・・
確か同じ小学校だって言ってたような・・
年齢が合わないじゃないのか?
5歳くらい違うんだったら、その時は年少くらいのはず・・
どう見ても年長か小学1年生だ。
僕と、それほど歳は離れていない。
それならば、今は、小学生の高学年になっていると思う。
それに・・・
看護婦さんが、その子の名前を呼んでいたのを思い出した・・
「雨宮さ~ん・・
お熱計りますよ・・・」
僕は飛び起きた!
そんなことがあるのか?
僕には霊感なんてないんだぞ!
あの子が雨宮先生の娘さん?
でも、寝たきりって言ってたのに・・・
公園で、僕と話していた、あの少女は・・
時計を見る・・
まだ8時前だ・・
面会時間ぎりぎりだ。
ちょっと行ってみるか・・・・
その頃・・
例の公園に美奈子とあの少女の姿があった。
互いに向かい合って、双方一歩も譲らない感じである。
美奈子は眼鏡を取り、髪止めも外してロングの姿になって、少女と対峙している。
キッと眼を向ける。
「怪しいって思ってたら、やっぱりね・・
ヒロシくんをどうするつもり?」
少女も負けてはいない。
昼間の様相と変わっていて、小学校3年どころか大人の女って感じの迫力。
「あなた、
あのお兄ちゃんの何?」
「あなたこそ、何?!」
まるで、恋人を奪い合う彼女たちの激闘といったところ、
お互い女同士の醜い姿をさらしている。
「まさか、
ヒロシくんを連れて行く気じゃないでしょうね!」
「うん。
一緒に来て欲しいヨ!」
「そんなこと、
させない!!」
彼女の手が女の子に向けて差し出される。
何かをするのだろうか・・
その動作に、一瞬たじろぐ女の子・・
「あなた、
お母さんを苦しめているのがわからないの?」
「そんなこと、
分ってる・・
ずっと観ていて早く何とかしなきゃって思ってたよ!」
そこへ、僕が病院へかけていく姿が見えた。
二人は僕に気づいたようだ。
僕も公園に目をやると、外灯の明かりに照らされて、暗闇に浮かび上がる二人の姿が目に入ってきた・・
彼女がいる・・・
「望月さ・・」
そう呼ぼうとしたとき、一緒にいるのが、あの女の子だというのに気づく・・
「あ・・、
昼間の・・・」
全てが繋がったような気がした。
女の子が悲しげな顔でこちらを向いている。
僕があの頃の記憶を取り戻していることを察しているようだ・・・
女の子に近づきながら、やさしく声をかける。
「君・・
思い出したよ・・」
「お兄ちゃん・・」
一瞬、女の子に笑みが戻った。
でもまた、悲しそうな顔になっている・・
彼女が重い表情で話しかけてきた。
「ヒロシくん、この子・・」
「うん。
この子は雨宮先生の子だよ。
正確に言えばあの子の魂・・」
そう、
僕は全てを思い出していた。
病院に寝ていた時に、この子に付き添っていた女の人は、まぎれもなく雨宮先生だったてことも・・
女の子の額に手をやる・・
「ごめんね・・
直ぐに気づいてあげないで・・」
泣きじゃくる女の子・・
「何度も、元に戻ろうって、
私の体に入ったけど、全然動かないの!」
彼女の方を見る。
首を横に振った彼女・・
僕のお母さんが亡くなり、僕も病院に行かなくなって間もなく、病気が再発したそうだ。
蜘蛛膜下出血・・
一命は取り留めたが、植物人間の状態で、この子は現在、生命維持装置をつけて眠っている・・
霊感の無い僕が、生霊(?)を観ていられたのは、波長が合っていたのと、女の子の念が強かったから、とのことだった。
「あなたは、
これから自分の道を選ばなければならない・・」
彼女が、切り出した。
「待って!
もう少し、
ママやお兄ちゃんといさせて・・」
「これ以上、この世に居座ってると
念が強くなりすぎて、成仏できなくなるわよ!」
死者でもなく、
生きているわけでもなく・・
そういった場合は、いわゆる、あの世からの「お迎え」が来ないそうだ。
彼女が強制的にお迎えを来させる儀式を行うという・・
「霊は過去から逃れられない・・
でも生きている人間は未来を作っていくことができる。」
彼女のお父さんの言葉だ・・・
「あなたのお母さんにも未来と希望がある・・」
「ママ・・」
彼女の言葉を受けて、少し考えている少女。
こんな歳でお母さんと別れるなんて・・僕だって、小学3年生の時に母と突然別れたのだ。もっと傍に居たいって願うのは当然だと思う。
それは、雨宮先生にしても同じだろう・・
だが、
コクンとうなずいた少女・・
諦めの決心をしたのだろうか・・
彼女もその仕草を確認して、お迎えの儀式の準備を始めようとした。
「待って・・」
僕が、ポツリと言った。
お母さんに、最後の別れをさせてあげたいって思ったんだ・・
このまま、分かれてあの世へいってしまうのも辛いだろう・・
「ねえ、
霊感ケータイ・・・
持ってる?」
僕が彼女に切り出した。
「うん、あるけど・・」
「それ、貸してくれる?」
「何?
レーカンケータイ?」
少女が不思議そうに聞いてくる。
彼女が胸元から、携帯電話を取り出す。
それを僕に渡す彼女・・
何の変哲もない携帯電話を見つめる女の子。
この電話の説明をする。
この携帯電話を使えば、生きている人と死者が会話ができる事を・・
僕にこの子は見えるけれど、雨宮先生には姿が見えないし、話すことさえも出来ない・・
ならば、少しでも話をさせてあげたいと思った。
「行こう、お母さんの所へ!」