12.大谷先輩
学校のサーバーの設定が終わり、早めに自宅に帰って来た大谷先輩。
「ただいま~」
玄関には、女の子の靴が二人分、脱いであった。
2階の姉の部屋で話し声が聞こえる。
台所に面した居間に入ると、お母さんが机の上におやつのジュースとお菓子を出していた。
「あら、昇・・お帰りなさい」
大谷先輩に気づいたお母さん。
「ただいま・・お姉ちゃん帰って来てるの?」
「ええ・・お友達、連れてきてるの・・
ちょうどいいわ、ミサキ達に、これ、持って行って・・」
渋々、おやつのお盆を持たせられる大谷先輩。
2階へ上り、姉の部屋のドアを開ける。
「お姉ちゃん・・」
「あら、ノボル・・お帰りなさい」
「あ、昇君・・おじゃましてます」
かわいらしい子が遊びに来ていた。
「あ・・いらっしゃい・・
こ・・これ・・」
恥ずかしそうにお盆を差し出す大谷先輩。
それを、荒っぽく受け取る姉・・
「ありがと・・
あ、もういいよ!」
「うん・・じゃあ・・」
ちらっと友達に挨拶して、パタンとドアを閉める大谷先輩。
「ウチの弟、相変わらず、オタクみたいでしょ~?」
「え~?ミサキちゃん、可愛そうだよ~」
姉が、自分の事を言っている。笑い声が聞こえる。
その声を横に、隣にある自分の部屋へ入る先輩・・
鞄をベットの上に放り投げ、ヘッドホンを付けて、机の上のパソコンに向かう大谷先輩。
パソコンを開いて、メールをする・・・
今日、
学校のサーバーの使用が
許可されました。
ノボル
先輩の眼鏡にパソコンの画面の光が不気味に反射する・・・
隣の姉の部屋・・
大谷先輩のお姉さん、美咲が友達の愛紗に携帯を見せながら話している。
「私さ、サッカー部の先輩とメールしてるんだよ!やばいよ~
超~カッコイイ~でしょ~やばいよ~」
「うん・・そうだね・・カッコイイね・・」
「愛紗もさ~、カッコイイ先輩とか見つけてメールとかすれば~?」
「わ・・私は・・」
うつむく愛紗・・
「あ・・ごめん・・愛紗・・まだ、剛君の事・・」
「い・・いいの・・気にしないで!」
気まずくなった二人・・
何を言っていいのか困惑する美咲。
その様子を見て、話題を変える愛紗。
「あ・・最近、携帯ゲーム始めたんだ!」
「携帯ゲ~ム~?」
「うん・・アンゴルモア・・ていうんだ」
自分の携帯を出して岬に見せる。
「ああ・・聞いたことある!」
「私の所属してる秘密結社のメンバーに優しい子がいるんだ・・・」
「秘密結社?」
「グループみたいなものよ・・」
美咲に携帯を手渡す愛紗。
美咲が画面を見ると、メッセージが書き込みされていた。
「Hijiri・・ヒジリさん?」
「うん・・毎日、メッセージくれるんだーレア・アイテムもくれるんだよ・・」
「ふう~ん・・
この人って、何処の人なの?」
「え?こういうゲームって、名前とかは伏せてるから・・
誰かは分からないよ・・」
「わかんないんだ・・」
ポン・・ポロロロン・・
その携帯から音楽が鳴る。
「あれ?何か来たよ・・」
愛紗に携帯を返す美咲。
メッセージが入っている。
「あ・・噂をすれば、ヒジリさんからだ~」
今日は。
ご機嫌イカガですか?
Hijiri
メッセージ欄に表示されている。
そのメッセージに返信し、その場でゲームを始める愛紗。
一心不乱にゲームをしている愛紗の姿を見て、目を細める美咲。
「おじゃましました~」
愛紗が、大谷先輩の家を後にする。
少し、歩くと、公園の上の開けた空に、沈みかけている夕日が見えた。
夕焼けが広がる。
立ち止まって、夕日を見つめる愛紗。
「剛君・・」
涙が頬を伝う・・
ポン・・ポロロロン
携帯から音楽が流れる。先ほどの音と同じだ。
「ヒジリさん?」
携帯を見る愛紗。
君に
見せたいアプリが
あるんだ
Hijiri
「見せたいアプリ?」




