9.守るべきもの
香織さんの部屋に残された二人・・
並んでベットに寄りかかっている。
ハアハアと息が荒い今西・・
全てが終わり、達成感が込み上げる。
「う・・弘子達に・・」
連絡をしようと携帯に手をやるが・・・
電源が残り少なくなりました。
充電してください。
バッテリー切れのようだった・・
このまま待っていれば、そのうちに弘子達が駆けつけてくれるだろう・・・
ベットに寄りかかり、楽になる。
隣を向くと、香織さん・・
守りきったと、安心した今西・・・
その時・・
チャラララ・チャラララ・・
「霊感ケータイ?」
全てが終わったはずだった・・・
いったい・・なぜ、今頃、霊感ケータイが鳴るのだろう?
画面には今まで見た事の無い電話番号が表示されている。
誰なのだろう・・・
ピ・・
恐る恐るスイッチを入れる。
フフフ
不気味な声が霊感ケータイから響いてくる。
ヨウヤク邪魔者ガ消エタヨウダナ・・・
コノ時ヲ待ッテイタゾ・・
「誰だ!?お前は?」
我ハ地獄ニ巣食ウ
悪魔ナリ・・
「悪魔?」
人間ガ作リシ携帯電話ニハ、大ナリ小ナリ我々ト繋ガル性質ヲモツ・・
便利ナ道具ヲ作ッテクレタモノヨ・・・
ソノ中デモ、コノ電話ハ特ニ、我々ノ波長ト一致スル。
我々ガ食スハ、人間ノ命・・・
「人間の
命を
貪る
悪魔?」
コノ携帯ヲ使エバ
時空ヲ超エ、
人間界、霊界、天界、地獄、魔界・・
ヲ繋グ事ガデキル・・
ソノ代償ハ
使ッタ者ノ命・・生体エネルギーダ
「生体
エネルギーを
消費
する
のか!」
ソシテ
隙アラバ、我々ガソノ者ノ命ヲ奪ウコトモデキル。
「隙?」
契約ダ・・・
「契約?」
ソノ娘ハ、
実ノ母親ト合ワセル代ワリニ、命ヲ捧ゲルト契約シタ。
「何・・・だっ・・・て!」
驚いて香織さんを見る今西!
我々・・悪魔トノ契約ハ「絶対」。
我々ハ約束ヲ守ッタ。
今度ハ、ソノ娘ノ命ヲ頂ク番・・
霊感ケータイを使って、今西の意識も限界になっていた・・
もうろうとする中・・
お母さんとの約束を思い出す
香織さんを守る事・・
「その子を助けるには・・どうすればいいんだ?」
命ハ貰ッテ行ク。
ダガ
ソナタガ、代ワリニ命ヲ差シ出スナラバ
話ハ別ダ
香織さんの代わりに、自分の命を差し出せと言う悪魔・・
抵抗しても無駄だと察した今西・・
「オレの・・」
今西は、しばらく黙りこんだ・・・
霊感ケータイを使い、もう疲労も限界だった・・・
動くことすらできない体で、意識は朦朧とし・・
まともに考える事すらできない・・
ただ、このままでは、目の前にいる香織さんの命が危ない。
先ほど昇天していった母親に何と言えばいいのか・・
自分の命・・
まだ、家庭を持っていない自分
高校の時の彼女・・幸子さんが亡くなってから、ずっと
心の真ん中に、ぽっかりと穴が開いていた。
先ほど、霊感ケータイで再会し、懐かしい面影を見ていたら・・
できれば、一緒に、行きたかった・・
この先、自分が生きていて、何かの役に立つのであろうか・・・
毎日が同じ事の繰り返しで、飽き飽きしていたのは、自分のほうだった。
自分が死んで、悲しむ人が居るのかどうか・・
家族・・それくらいか・・
まだ、若い、これからの香織さん・・
これから未来のあるのは、彼女の方ではないか・・
その、命に・・自分の命を託そうと決心する今西。
彼女に出来る事は・・
その命をささげ、
若い、これからの女の子の人生を継続してもらう事・・
静かに、話し出す・・・
「わか・・
った・・・
オレの
命・・
お前
達に
さ
さ
・」
その言葉が終わらないうち・・
今西の持っている霊感ケータイが、その手からスッ・・と抜き取られた。
「・・・?」
その方向を見る。
今まで、気絶していたはずの、香織さん。
携帯電話を持つか細い手・・・
その手に、いつもしていたリスト・バンド・・・
テニスで使って癖になっていたというが・・・
そのリストバンドを外す香織さん・・
その手首には・・
何本もの・・
刃物で切ったような・・
傷が付いていた・・
「そ・・その傷は・・」
意識が朦朧とする中、今西が力の限り、話す・・
「今西さん・・
私・・
いつも
手首を切る刃は・・
もう一切りの所で・・
それ以上、斬る勇気が私には
・・無かった・・・
力が入らなかった・・」
「リ スト カッ ト・・・」
「私は、
もう・・
生きる気力も無かったのです・・・
母が死んで・・
仕事も・・
彼氏も・・
希望も無い毎日・・
私は・・生きる屍・・
生きる事も嫌になっていたのです・・」
「香 織 さん」
「あなたの・・・
勇気のおかげで・・
自分の命を捨ててまでも・・
人を救いたい・・
って・・
自分の命を捨てること・・
死を恐れない・・
勇気を・・
あなたから
教わりました。
私も・・
やっと・・・
その一切りができる・・
そして
この携帯があれば・・
お母さんの所へ・・
確実に行ける・・」
「だ めだ
やめ る ん だ」
力尽きてしまう今西・・
剃刀の刃を、持つ手・・
いきおいよく、
手首を
かすねる・・
鮮血が辺りに散る。
霊感ケータイを持つ香織さん・・・
横たわりながら・・
電話をする・・
「もしもし・・
お母さん・・
これから・・
そっちへ
行くね・・・
今まで・・
私を
守ってくれて・・
ありがとう・・
やっと
行けるよ・・
ねえ・・
お母さんの声を
聞きながら
逝きたいの・・
私が行くまで・・
話しかけててね・・
ずっと・・
ず
っ
と
・
・
」
雨は夜更け過ぎに、止み、山の神社から出られなかった陽子達が、
川の氾濫が治まって、麓まで出られるようになり、
朝が明ける頃にようやく、香織さんのアパートへ到着した。
「お兄ちゃん!」
兄の方へ駆け寄る弘子さん。
ベットに横たわる香織さんと、ベットに寄りかかっている今西の姿があった。
二人とも動かない。
二人に近づこうとした弘子さんを止める陽子・・
「弘子さん!
お兄さんたちに触らないで・・
急いで、警察と救急車を呼んでください。」
「あ・・はい!」
玄関を出て、電話をする弘子さん・・
そこに横たわる二人を、だた、見つめるだけの陽子だった。
「お母様・・?」
美奈子が陽子の隣へ来て話しかける。
歯を喰いしばっていた陽子が重い口を開く。
「この子は・・自らの命を・・・霊感ケータイで断った・・・」
香織さんの手にしっかりと握られた霊感ケータイ・・
「命を吸う・・電話・・ですか・・?」
「ええ・・」
「あの人は・・
お母さんの元へは・・」
「そうよ・・
天寿を全うしないで、自らこの世に受けた修行を拒否した者は・・
あの世へは・・
行けない・・
あの人の行き先は・・
地獄・・」
「何とか、ならないんですか?」
「祈る事よ・・
『供養』する事・・
若しくは・・
十一面観世音菩薩様の・・
ご加護を・・
祈りましょう・・・」
手を合わせる二人・・
今西は、しばらくして到着した救急車にて運ばれ、一命を取り留めた。
香織さんは・・帰らぬ人となった・・
この一件は、枕元から見つかった遺書によって、
香織さんの自殺と処理された。
陽子が機転を利かせ、警察と救急に処理を委ねた事によって、
その場に居た者の事情が明白になり、
一緒に居た今西や現場に居合わせた陽子達も取り調べが行われたものの・・
おとがめなしとなった・・・
そして・・・
霊感ケータイは、一時、警察に徴収されたが、念入りに調査される事なく、
今西の元へと帰ってきた。
香織さんのお墓を前に、線香を焚いている今西。
弘子さんも一緒に来ている。
「ねえ・・香織、お母さんの所へ行ってるのかな・・」
「どうなのかな・・
望月の話だと、自殺した場合は良い所へは行けないって・・」
「そう・・」
「だから、現世に残った者が供養するんだって・・言ってたよ」
「ご家族って言っても・・
オヤジさん一人だけでしょ?」
「ああ・・
望月たちも、あの後、祈祷したって言ってたよ・・
香織さんに、ご加護があるようにと・・」
「お兄ちゃん・・
香織と・・・」
ほんの数日間だが、心が通うまで付き合った香織さんと今西・・
今西にとっては、高校時代に亡くした幸子さんの代わりとして、守るべき人と位置付けた女性だった・・・
「オレ・・
お母さんとの約束を守れなかった・・
香織さんを守るからって・・
安心して欲しいって・・
約束したのに・・・」
墓を見つめる今西・・後悔の念だけが募る・・・
「頼りの無い・・
兄だよな・・・」
そのまま俯く(うつむく)今西・・
涙がポタリと落ちた・・
その姿を、見守る弘子さん・・・
「お兄ちゃん・・・」
バシ!!
今西の頭を叩く弘子さん。
「痛て!!」
「コラ!女々しいぞ!!」
「何だよ!いきなり~!」
「次の良い娘、紹介してあげるから!
今度は、ちゃんと、モノにしてよね!」
「え~?
少しは、たそがれさせてくれよ~!」
「それが女々しいって言ってるのよ!!」
「く~、妹のくせに!」
香織さんの墓前ではしゃぐ二人・・・
チャラララ チャラララ
「何?それ・・
トワイライト・ゾーンの音楽?」
「ああ・・
ウチの若い子が入れてくれたんだ・・」
「また、悪趣味な着信メロディーね~!」
「まあ・・そう言うなよ。
あの子も色々悩んでこれに決めたんだから・・」
ポケットから取り出す霊感ケータイを開く今西・・・
メールが届いていた。
それを読んで、弘子さんに渡す今西。
「よかったな!」
「え?」
渡された弘子さんが、画面を見る。
今西さん、弘子・・
お元気ですか?
私、お母さんと
幸せに暮らしてます。
香織
「よかったね・・・
香織・・・」
涙が溢れてくる弘子さん。
墓地を後にする二人・・
兄妹でなにやら、じゃれ合っている様子・・
「まだ、幸子さんの事気にしてるの?
幸子さんも困ってるんじゃない?」
「あのな~!」
「早く、身を固めないと~
私が家に入らなくちゃならなくなるんだからね!」
「お前、家に入れよ~!」
「やだ~!!
田舎なんてやだよ~!」
その後、
霊感ケータイの取扱いは厳重にする必要があると、陽子に諭され(さとされ)、
陽子が譲り受け、管理する事となり、
美奈子の転校と共にヒロシに受け継がれる事になる・・・




