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霊感ケータイ  作者: リッキー
霊感ケータイ6 上
123/450

7.香織さんのアパートで・・


「雨か・・」


ポツポツと振ってきた雨を手で受け、空を見上げる今西。


香織さんのアパートへ向かう道中だった。

夕方と言っても、まだ日は暮れてはいない。


明るい時間で駅前の商店街は買い物客が往来している。

夕食の買い物をする主婦の姿が多い。


商店街を抜け、幾つかの坂を上り下りして香織さんのアパートにたどり着く。

1、2階合わせて5~6部屋の小規模なアパートだ。







鉄製の階段を登り、チャイムのボタンを押す。


  ピンポーン


ガタッ


重いドアが開く。

ドアノブにかわいらしい模様のリストバンドをした手首が現れる。


ドアチェーンが掛かって、半開きの状態で、香織さんが顔を覗かせる。

少し、暗い表情だった・・・


「今西さん・・」


「あ・・・

 どうも・・」


バタン!


今西の挨拶が終わる前に、勢いよく閉められたドア・・


直ぐにドアを開けてもらえるものだと思っていたが、しばらくそのままだった。


「やっぱり・・帰って下さい!」


ドア越しに香織さんから意外な言葉が返って来た・・・




「え?」

動揺を隠し切れない今西。


「私・・何だか・・怖いんです・・・」


「怖いって・・」


「今日も、本当は仕事だったんです・・

 でも、無断で休んでしまった・・・」


「香織さん・・・」


昨日の様子とは、全く違う香織さんの言動に驚く今西だった。

一日中家に閉じこもっていた様子なのだ。


このまま、一人にしておくわけにもいかないと思った今西・・


「お母さんが話したいって・・・」


「え?」


「昨日の夜、私の部屋に来たんですよ・・

 あなたのお母さんが」


「母が・・」


「『霊感ケータイ』で話をしたいって・・

 お母さんがメッセージを残していったんです。」



ガチャガチャと音がする。ドアチェーンを外している音・・


キー・・・

ドアが静かに開く。


「香織さん・・」


「お入り下さい・・・」


目が赤くはれている香織さん。表情は暗く、昨日の明るかった面影は全くなかった・・

部屋に通される今西。






半袖のトレーニングシャツにホットパンツ姿の香織さん。

動きやすいのか、軽い服装が多い。

手首には、相変わらずのリストバンドを着けている。


「座ってて下さい・・今、お茶を入れます・・」


パチンとコンロの火を着ける香織さん。


女の子の部屋に入るのは、初めての今西。

ワンルームのアパート。


玄関の脇に一間くらいの長さの流しがあり、その反対にトイレ付のユニットバス、脱衣室。

流しの前を通り抜けると、部屋に入る。


整理整頓された部屋。

ベットの脇に小さなテレビ。本棚。


掃き出し窓の前が比較的広がった空間。小さな机と座布団。

チェアーダンスの上に置かれた花瓶。

部屋の真ん中の座布団に座る今西・・


「コーヒーが良いですか?お茶にしますか?」


「あ・・お茶で・・」


ちゃぶ台の上にアルバムが開かれていた。

香織さんの小さい頃からのアルバムだろうか・・


お母さんと写っている写真。

大学の卒業式らしく、袴姿の香織さん。


その脇に立っているお母さんの顔に見覚えがある。

昨晩、自分の部屋に出てきたケータイ越しに見えた顔にそっくりだった。


「この方が・・お母さんですか・・・」


「はい・・3年前に、他界するまで、ずっと私の事、心配して・・

 週に2度は電話をかけて来たんですよ!」


お茶の道具を、小さなちゃぶ台の上に置きながら、話し込んでくる香織さん。

ティーカップを置いて下を向くと、トレーニングシャツの襟もとから、胸の下着が覗く・・


目のやり場に困る今西・・目線を上に逸らす・・








「この方ですよ・・昨日・・私の部屋に現れたんです・・」


その言葉に、ハッとなって、今西の方を向く香織さん・・


「その話・・・本当なのですか?」


「はい・・

 霊感ケータイ越しで話をしたのですが・・」


「霊感ケータイ・・」


今西が胸ポケットから取り出し、ちゃぶ台の上に置く。

二人で、見つめる。


「そのケータイで・・母と・・」


「ええ・・亡くなった人と話せるんです。

 お母さんも、あなたと話したいことがあるって・・・」


「母が・・・」








 ピーーーーーー


コンロにかけたヤカンが鳴っている。

流しの方へ駆けていく香織さん。


 パチン


コンロのスイッチをひねって火を消す。


「母が私に・・話したいこと?」


「何か、心当たりでもありますか?」


「いえ・・

 でも、私は母の死に目に合えなかったんです・・

 その事かもしれない。」


「それは・・」


「私・・

 母の電話が来る事が嫌になって・・


 いつまでも子ども扱いで・・・

 母に内緒でアパートを移ったんです・・」


香織さんが住所を移転して、連絡が取れなくなって間もなく、お母さんは病気で入院したそうだ。

お母さんも、心配をかけまいと、連絡もしなかったという。


「母の死を知ったのは、葬儀の日でした・・

 弘子から電話があって・・・」


「そうだったんですか・・」


「私・・母が苦しんでいる時も・・

 友達と、遊んでいた・・


 母が逝ってしまう時も・・

 ずっと、その事を後悔してました・・・」


「香織さん・・」


「私・・母と話すのが・・怖い・・

 あの時の事を、問い正されるのではないかって・・」


流しの前で泣き崩れる香織さん。その場に座り込んでしまう・・

ずっと、一日、この部屋で後悔の念に打ちひしがれていたのだろうか・・・


今西は、香織さんの元へとゆっくりと近づく。


肩にそっと手を添える。


「大丈夫ですよ・・・

 私が付いて居ます・・」


見上げる香織さん。


「はい・・

 でも、もう少し・・

 気持ちを整理させて・・・」








山道を降りる弘子さんの運転する車。

先ほどより雨が激しくなっている。


フロントガラスに降る雨をワイパーがかき分けるが、間に合わないくらいだ。


「だいぶ、降ってきましたね・・これは、大雨ですよ・・」


「そうね・・予報だと、それほど降らない筈だったのに・・」


「学校までは、まだあるんですか?」


「いえ・・もう少しなんだけど・・」


そんな会話をしていたら、目の前に立ちつくす一人の少女の姿が・・


「あれ、美奈ちゃん?」


「美奈子!」


車を止める。

雨に叩かれてびしょ濡れの美奈子。学校から歩いてきたようだった。


「お母様・・」


半分放心状態だった。


傘を差して車の中に入れる弘子さん。


「大丈夫?美奈ちゃん!」


「私は、大丈夫だけど・・この先の橋が・・」


「え?」


この大雨で、学校より先の川が氾濫し、橋が渡れない状態だという・・・


「う回路はないんですか?」


「無いわ・・」


急いで香織さんのアパートまで向かいたいのだが、その道が断たれてしまった。


「お母様・・寒い・・」


雨に打たれて、全身が濡れている。体もすっかり冷えきっていた美奈子。

仕方なく、神社まで引き返し、シャワーを浴びさせる事にした。







香織さんのアパート


サーーーーーー

霧雨。


都心でも雨が降り始めていた。

辺りは薄暗くなっている。


部屋の電気は、消したままだった。


暗い部屋の中。


流しの前で、二人が抱き合っている。



まだ、香織さんの決心がつかない・・


いや・・

昔の母への想いが強く、そこから這い上がれず、思い悩んでいた香織さんを、慰めるかのように抱いている今西・・


「今西さん・・」


「私も、同じようなものです・・

 過去に囚われている・・・」


「幸子さん・・・

  ですか?・・」


「それもあります・・

 私も、幸子の事を、今でも追っているって思ってた・・


 でも・・

 それだけでない事に気づいたんです・・」


「それだけで・・

 ない?」



「あの頃の・・高校生だった時の自分・・


 幸子の想い出は・・

 自分自身の思い出だった・・


 あの頃の幸子に会いたい・・


 それだけでなく・・


 私も・・

 あの頃に戻りたいって・・

 ずっと思っていたんだって・・


 気づいたんです」


抱く力を強める今西・・


「あっ・・・」

思わず声をあげる香織さん・・







「高校の頃に・・・

  戻りたい・・?」


「そうです・・

 全ての事に好奇心を持って・・


 挑戦できた・・

 あの頃に・・


 光り輝いていた・・

 あの頃に戻りたいって・・」


「今の・・ あなたは・・」


「そう・・今の私は・・


 ただ、単に、

 毎日の仕事をこなしているだけだ・・


 与えられた仕事・・

 それを、こなしているだけ・・


 ただ・・

 淡々と・・」


今西の背中に伸ばした、香織さんの手が、優しく今西の背中をさする・・


「大丈夫ですよ・・

 あなたは、ちゃんと、仕事をしていますよ・・


 誰でもできる事ではない事を・・

 あなたは・・やってのけています・・


 私に親身になってくれたじゃないですか・・」


背中をさすっていた手が、頭をなでる。


「それは・・

 あなたが


 気になったから・・」


目と目があう今西と香織さん・・


「過去を振り掃う・・・


 それは・・

 勇気のいる事なのかも知れませんね・・」


「香織さん・・」


「あなたと一緒なら・・

 できるかも知れないって・・


 母と・・


 過去と


 向き合います・・」


目をつむる香織さん。

自然に唇が触れ合う二人・・・


外の雨音が強まる。時が止まったような・・部屋・・・







神社に引き返した弘子さん達・・・


シャワーを浴びて、タオル姿の美奈子。

居間でテレビを見て、予報を確かめている弘子さん。


お茶を出している陽子。美奈子を温めようというところ・・


「お母様・・何か、この天気、変なんです・・」


「そうね・・私達の行くのを拒んでいるかのよう・・」


「何か、力が働いています・・」


「美奈ちゃん・・分かるの?」


弘子さんが聞いてきた。



「なんとなく・・

 わかるんです私・・・


 そう・・


 気になってる事があるんです・・

 おばさん・・」


「え?おば??」


弘子さんを『おばさん』と呼んだ美奈子・・まあ、小学生にしてみれば、26才の弘子さんはおばさんか・・・

だがその単語に、何故か抵抗感があった弘子さん・・


「あはは・・美奈ちゃん・・お姉さんって呼んでくれる~?」


苦笑いをしている弘子さん、顔が引きつっている。


「お姉さん??」


不思議な顔をしている美奈子・・童心の清らかな心は嘘をつけない。


「どうしたの?美奈子?」

改めて聞き返す陽子。


「そのハンドバック・・・」


「え?これ?」

弘子さんの持っているハンドバックを指さしている美奈子・・





「その中に、写真が・・」


確かに、朝、男性社員から渡された封筒の中に、写真が入っていたのだ。

それも、香織さんから預かっていた霊感ケータイに映った写真・・・

恐る恐る、陽子に写真を手渡す弘子さん・・・・


「これ・・なんですが・・」


集合写真や数名の写真だが、香織さんの背中や後ろに、黒い人影が写っていた。

気味悪いという事で、そこまで直視できなかった弘子さんだった。


「これは・・!」

陽子が、その写真を見て驚く。


「な・・何かわかるんですか~??」


「この人は、3年前に亡くなったお母さんですよ・・」

美奈子が覗いて、一声をあげる。


「え?」

驚きを隠せない弘子さん・・


美奈子には、当然、香織さんのお母さんが亡くなった事を教えてはいない・・

しかも、いつ亡くなったかもピタリと言い当ててしまった・・


「な・・ななな、な・・何でわかるの~?」


「え?だって・・そうでしょ?」


美奈子には、当たり前のようにわかってしまうのだ。

逆に、それを聞かれて不思議に思っているようだ。


「それに・・これは・・」


写真に手をかざして霊視をしている陽子が何かを察知したようだ。


「え?」


「弘子さん・・今西君に連絡しないと!

 香織さんが危ない!」


「え~~???」

何が何だか分からない。気が動転している弘子さん。





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