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霊感ケータイ  作者: リッキー
霊感ケータイ6 上
121/450

5.お墓参り


幸子さんの墓前に、今西と香織さん、弘子さんの3人の姿があった・・・


都心から車を2時間ほど走らせた、海の近い町の小高い丘にあるお寺・・


そう・・


望月家のお寺に幸子さんが眠っていた。







墓前で手を合わせる今西・・

花束を供え、線香が漂う中、ジッと目を瞑って生前の幸子さんの姿を思い浮かべている今西と弘子さん。後ろに控えてそっと見守っている香織さん。



「幸子・・」

呟く今西。




「あ!今西君!来たわね!」

後ろから女性に声をかけられた。

その声に振り向く今西達。


「あれ?陽子・・何で?」

寺の板廊下に陽子の姿があった・・


「ここ私の旦那の家なのよ・・」


「え?ここが?」

驚きを隠せない今西。


そのまま本堂に通された3人。

十一面観音像が見守る前で、住職がお茶を出して、今西達の話を聞いている。


「ほう・・『霊感ケータイ』ですか・・・」

これまでの経緯を聞いて不思議な想いにかられている住職。


「はい!

 霊の世界が見れて、話も出来るっていう電話です。」

興奮気味に説明をしている今西。


「それは、珍しい物ですな・・

 そんな道具があれば、この世から亡くなった人と交流が続けられるということですか・・」



「そうですね・・

 怖いモノだと思っていましたが・・

 そういう考え方もあるんですね・・」

住職に言われて、改めて霊感ケータイを見つめる今西。


「幸子お姉ちゃんと・・話せるのかな~?」


「電話番号とかあるみたい・・

 私のお母さんとも・・話した事ないし・・」

弘子さんの問いに答えた香織さん。


「そっか・・」

少し残念がっている弘子さん。

今西が何かに気付く。


「あ、そう言えば、美奈ちゃんの姿が見えないけれど。

 何処へ行ってるの?」


「美奈子ね・・

 あの子は、ヒロシ君の所へ行ったわ・・・」

陽子が答えた。

久しぶりのヒロシ君との再会を楽しみにしていた美奈子。








病院




病院の隣の公園・・


ベンチに座っている一人の少年の姿があった。


小学校高学年のヒロシ・・


お母さんを亡くして、まだ数年・・


その死が、受け止められず、病院の公園に通っている。





草むらに隠れて、それを見ている美奈子・・


「ヒロちゃん・・」


懐かしいが、悲しみに暮れているヒロシに一声も掛けられないでいる・・






お寺。


「ヒロシ君には私から暗示をかけさせてもらったわ。」

陽子が意外な話をする。


「暗示?」

今西が聞き返す。


「オーラをシンクロさせて、美奈子に対する記憶を操作させてもらった。

 いずれ再会する時があるけど、その時に直ぐに気付かないように・・」


「オーラをシンクロして記憶が操作出来るのか?」


「ええ。

 響子の許可も得ての事よ。

 操作するって言っても、記憶を無くしたわけではないわ。

 記憶を和らげるように細工をしたのよ。

 でも、長時間一緒に居れば暗示も解かれてしまう。

 ちょっと見るくらいなら良いって美奈子には許可したのよ。」


「再会するって、ミナちゃんの修行と関係があるのか?」


「美奈子の予言よ。

 それ以上は、今は言えないわ。」

訳ありな説明をした陽子。




再び病院。


「おめでとうごさいます!」


「ありがとうございました」

「良かったね!ママが治って!」

「うん!」

病院の玄関から、親子が退院する姿を見つめるヒロシ。


あんな風に、お母さんが退院する日を・・

ずっと待ち焦がれていたのだった・・




「あんた、さっきから、元気ないね~!」


ヒロシの後ろから声がする。

振り向くと、


長い髪の少女・・

目がくりっとした・・

美奈子が腕組みして立っていた。

陽子の言いつけを破っていきなりヒロシと接触している・・


「そんなに、女々しい男の子なんて、見た事ないよ!」

威勢よく話す美奈子。



「何だい・・君は・・

 別に・・いいじゃないか!」


「ふん!・・それが、良くないのよ!」


「え?」


「そうやって、いつまでも亡くなった人の事・・

 くよくよ思ってると、あの世で幸せになれないよ!」


「幸せになれない?

 何で、その事がわかるの・・?」


「え?」

そう言われて、普通の感覚ではないと気が付いた美奈子・・


「あ・・・そ・・それは・・・」

答えに困ってしまった美奈子。


「それに・・どっかで、会った事・・ある?」

その質問に、幼い頃、一緒になろうって約束したって言おうとした美奈子・・

でも、それを言ったら、悪霊との対決まで、修行を続けられないと思った・・


離れ離れになる事に、やっと慣れたと思っていた美奈子・・


ヒロシは、陽子の言葉通り、幼い頃の記憶が薄れている様だった。

でも、いつ思い出すか分からない。

前みたいに、仲良くなったら、修行に戻れない・・


「そ・・そんな事・・無いよ!

 通りかかったら、めそめそしてる君を見て、

 注意しようと思っただけよ!」



「ふふ・・変だね・・君・・」

少し笑いながら答えるヒロシ・・

その笑みが、この上なく愛おしく見える美奈子・・


「変?

 わたし・・」




「うん。

 変だよ。


 でも・・

 ありがとう・・

 ちょっと、元気になったよ・・」



・・・ヒロちゃん・・・



その名前を、呼ぼうと思った・・

でも・・我慢しなくては・・・



「そうだよね・・

 僕が、いつまでも、めそめそしてたら・・

 お母さんも天国へ行けないよね・・」


「お母さん・・やっぱり、亡くなったんだ・・」

さりげなく知らないふりをする美奈子。


「うん・・2年前の夏に・・」


「そう・・まだ寂しいの?」



「寂しい・・

 この病院へ、お母さんの居た病院に、つい・・来てしまうんだ・・

 この病院の方が・・僕には思い出がある・・


 ここに来れば

 お母さんに

 会えるような気がして・・」


ヒロシの横に並んでベンチに座る美奈子・・


色々な話をする・・






お寺。


一堂が本堂にて話し込んでいる。



「陽子さんって、霊感があるんですか?」

香織さんが、陽子に聞いている。



「ええ。・・でも、悪霊退治の時に、殆どの力を失ってしまった・・

 昔は、オーラとか、手に取るように感じる事が出来たんだけど・・


 今は、霊感メガネが無いと感じられない・・

 もっと、修行しなければね・・」



「望月は、高校の頃は凄い霊力を持ってたんだよ。

 今でも、除霊をさせれば、右に出る者はいないけどね・・」

今西が口を挟む。


「ってことは・・、昔って、かなり凄かったんですか??」


「まあ・・

 そうなるわねぇ・・」

よくよく考えてみれば、昔の方が今よりも数段霊力があった陽子・・

悪霊との対決により、かなりのダメージを喰らい、当時の霊力は半減している。

先に見た除霊も、美奈子のサポート無しでは、なしとげられなかった・・



「高校生の時は、気迫に満ちてたな~・・

 何か、体中からオーラが出てるような・・

 如何にも『私がゴーストハンターよ』って感じだったな~!」


「今西君! 私、そんなに、自信家だった??」


「あの頃は、怖かったよ!

 あ・・今でも怖いけどな・・」


「ひっど~い!」

プイとそっぽを向く陽子。

勝ち気で、羽っ帰りなのは、昔も今も同じようだ。







「道中、聞いたんですが・・幸子さんも・・、一緒に悪霊退治をしたって・・」

香織さんが、更に聞いてくる。


「幸子・・」

今西がつぶやく。


一堂が静まり返る。



「あの子には・・私も助けられた・・

 今、私が生きていられるのも、あの子のおかげよ・・」

重い口を開く陽子。


「望月・・オレ・・幸子に、オレに巻き込まれたんじゃない・・って・・

 死ぬ前に言われたんだ・・」


「あの子は・・そういう子よ・・」


「何があったんですか?」


「あれは・・


 私達が・・


 高校の時よ・・」


陽子が十一面観音像を見ながら、高校の頃の事を思い出す・・




 ・

 ・

 ・


高校時代・・


教室の片隅で震えている響子。それを介抱している今西と幸子さん・・


「私・・だめだよ・・一人じゃ何もできない!

 陽子なしじゃ・・何もできないのよ!」


「一橋さん・・」


「今まで、私は・・陽子に頼ってた・・

 霊力だって、ずっと上だし、私はただ・・

 付き添ってただけなのよ・・」


「そんな事・・

 無いと思う!」

幸子さんが反論する。


「え?」


「私、ずっと一橋さんに魅かれてた・・

 突っ走っていく望月さんも魅力的だけど・・

 あなたの優しい所・・

 皆を気遣うところが私は好きだった!」


「幸子・・

 さん・・」

幸子さんの意外な言葉に驚いている響子。


「望月さんも、あなたに勇気づけられていたって・・

 一人では、何もできない絶望的な境遇になっても・・

 あなたが居れば、安心できたって・・

 言ってたわ!」


「陽子が・・」 

陽子が幸子さんに打ち明けていた事を話す・・

響子にはなかなか本心を明かさなかった陽子。

幸子さんの意外な告白に考え込む響子・・・


だが


「でも・・

 あの、悪霊は・・・」

再び恐怖にかられる響子。







「オレが行く!この事件に巻き込んだのは、オレのせいだ!

 悪霊から、望月を取り戻す!」


見かねた今西が意気込む。一人でも乗り込もうという勢い・・



「今西君・・」


「こうしてる間に、望月は大変な事になってるんだろ?」


「霊感が無いのに、どうやって戦うの?」


「これがあるだろ?」

般若心経の書かれたタオルを差し出す今西。護身用に陽子から渡されたものだった。


「頭を使って、作戦を立てるんだ!」


「そんな・・」

捨て身に近い方法で、返り討ちに遭うのが目に見えている。


「今西君!

 私も行くわ!」

幸子さんも声を上げた。


「幸子さん!」


「だめだ!君まで巻き込みたくない!」


「私だって何か出来る!

 陽子を救うために!

 私達、仲間でしょう?」


「仲間・・?」

幸子さんに問う響子。


「ええ!仲間よ!

 大変な時に助け合うのが仲間よ!

 陽子だって私のこと助けてくれた。

 今度は私達が救い出す番よ!」



「幸子さん・・

 ありがとう・・


 私・・

 やっぱり・・


 陽子を・・


 見捨てられない!」


立ち上がる響子。


「行こう!悪霊の巣へ!」

陽子が捕らえられている悪霊の巣窟へと乗り込む3人だった。






「あぁーーー!!!!!!」


倒れる幸子さんを抱きかかえる陽子。

陽子を庇って(かばって)悪霊の攻撃を受け、負傷した幸子さん・・



「幸子!!」

陽子の腕の中で、虫の息の幸子さん。


「望月さん・・


 私・・


 役に立ったかな・・?」



「幸子・・


 私・・


 あなたの事・・


 足手まといって・・」


涙ぐむ陽子。



「足手まといでも・・


 やれることは、あるよ・・


 望月さん・・


 まだ・・


 勝負はついてないよ・・


 私の・・


 分も・・」


手を差し出す幸子さん・・その手をしっかり握りしめる陽子。

涙を振り払い、幸子のオーラを取り込む。



「ふふふ・・・そろそろ、終わりにさせてもらおうか!」

背後で悪霊が不気味な声で威嚇している。







「そうね・・



 そろそろ・・



 終わりにしましょうか!!」



振り返る陽子。霊気が滾り(たぎり)、その顔に自信がみなぎっている。


「何!!」

その様子に怯む悪霊・・



「遥か古から続く戦い!そろそろ終わりにさせてもらうわ!!」




「陽子!・・

 私も・・手伝う!!!」


瀕死の状態だった響子が立ち上がって、陽子の元へとたどり着いた。


「響子・・その体では!」


「私とあなたは、一心同体でしょ!?」


「響子・・・」

涙を振り払う陽子・・

こくりとうなずく陽子・・





「行くよ!!響子!!」



「うん!」

悪霊に向き合って手を繋いで並ぶ二人。

繋いだ手を悪霊に差し出す。




「悪霊ーーーー!!!


 退散!!!ーーーー」


二人の声がシンクロする。


「ギャーーーーーーー」

光の渦が悪霊を取り巻き、祠に封印される・・・





かろうじて悪霊を祠に封印したものの、その結界の力は数百年も持ちこたえられるものではなかった。


響子と幸子さんは、この時のダメージで、寿命が大幅に減ってしまう。


幸子さんに至っては、その後数か月の命となり、響子はヒロシを生んで10年もしないうちにこの世を去る。




 ・

 ・

 ・




「そうですか・・・

 そんな事が・・・」

今西や陽子、幸子さんの高校時代の話を聞いていた香織さん・・

その、壮絶な悪霊との死闘を聞き、返す言葉も無かった・・



「今日は幸子の命日・・

 不思議ね・・

 こんな形で、あの頃の話をするなんて・・・」

本堂から幸子さんのお墓を見つめて話している陽子。


「ああ・・

 幸子が、俺たちを呼び寄せたのかも知れないな・・・」


「その『霊感ケータイ』・・

 ひょっとしたら、

 これからの悪霊との対決に重要な要素になるのかも知れないわね・・」

霊感ケータイは後に、美奈子からヒロシの手に渡る。

そして、霊感の無いヒロシにとって、悪霊との対決に欠かせないアイテムとなった。

陽子のこの時点での予想は、ある程度は当たっていたのである。



「霊感ケータイ・・・」

香織さんがつぶやく。


「そう言えば、あなたは・・・」

陽子が香織さんに気づく。


「はい。あの携帯電話は、以前、私の物でした・・」






「その後はどうですか?」

今西から聞いた香織さんの身の回りに起きた怪現象について問いかけた。


「はい。すっかり、変な現象は現れなくなりました。」


「あの携帯電話は、あの世とこの世を繋ぐ電話・・

 素人が所持するには、危険なんです。

 あなたから、あの電話を離す様にと進言したのは私です。」



「ありがとうございました。

 おかげで、私も安心して過ごしています。


 それに・・」



「それに?」


「あ・・何でもありません・・」


「陽子さん!香織はね~・・お兄ちゃんと!」

見かねた弘子さんが口を挟む。


「こら!弘子!!」


「??」

不思議がってる陽子。

顔が赤くなっている今西と香織さん。



「ふふふ・・

 今日は、幸子さんが、

 新たな二人の門出を祝福するために、

 呼び寄せたのではないですかな?」 

それまで話を聞いていた住職が、察して口を挟む。


「霊は過去に縛られ続ける・・


 じゃが・・

 人は、未来を切り開くのです。


 いつまでも、過去に縛られるのではなく・・

 新たな、未来を二人で歩み出して行く・・


 未来への道を、

 切り開いて行くのが、残された者の使命・・


 亡くなられた方にとって、

 それは、大変喜ばしい事だと思いますよ・・」


「ご住職・・」

その言葉に勇気づけられる今西。



「???良く分からないけど・・何の話?」

陽子には、全くその意味が分からなかった。恋愛には疎い陽子であった。






車に乗り込んでいる3人を見送る陽子と住職。


「望月!また、何かあったら、頼むよ。」



「ええ。何も無い方が平和なんだけどね!」



「そりゃそうだな!」




「どうも、お邪魔しました!」


「はい。またいつでもいらして下さい。」

住職が香織さんに返事をしているが、お寺にいつでもどうぞというのも、変な話だった。


「美奈ちゃんによろしく~」


「おみやげありがとう!美奈も喜ぶわ!」

陽子の手に東京名物「ひよこ」が手渡されていた。



ブーン・・・


行ってしまう今西達の車・・



「ただいま~!あれ?誰か来てたの??」


「あ・・美奈子、今西君が来てたのよ。」


「え~?今西さんが~??」


「あなた、大分遅かったじゃない。

 何してたの?」


「うん!ヒロちゃんに会ってきた!」


「そう・・

 元気だった?」



「う~ん・・

 ちょっと元気じゃなかったな~」



「そう・・ね・・・

 響子が、逝ってしまったんだものね・・」

響子の墓を見つめる陽子。

共に過ごした日々を思い返していた。







「ねえ・・お母様・・」



「何?」



「私も、ヒロちゃんのお母さんの元へ行くの?」



「美奈子・・・」


幼い頃、自分の最期を予期した美奈子。その寿命を少しでも長引かせるために、過酷な修行をしているのだった・・


悪霊と対峙するまで、あと、4年・・・


その間に、霊力を少しでも高めておきたいと、陽子も願っていた。



「そうならない為にも、あなたは努力しなければならないのよ!」



「はい!



 お母様!



 私・・



 ヒロちゃんの・・



 お嫁さんに・・



 なりたい!



 約束したんだもん!!」




目に涙が溜まっている美奈子・・


優しく抱きしめる陽子だった。


住職が見守る。










「あ・・

 ところで、お母様?」

何かに気づく美奈子。


「何?」


「今西さん達、おみやげ、置いてかなかった?」





「え?・・・

 ああ、これの事?」

手提げ袋があった事に気付いた陽子。


「わーい!東京名物ひよこだ~!!」



甘党全開の美奈子であった・・・・






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