24.二人の行く道
気が付くと、
真っ暗な空の中に浮かび上がる雲の波間に僕たちは浮かんでいた。
輝いている翔子ちゃんの体は、みるみるうちに、元に戻って、健康的な姿を取り戻していた。
「お兄ちゃん・・」
「翔子・・・僕は、やっぱり、君の事を置いて行けない・・・」
「嬉しい・・・」
中空を漂う中、しっかりと抱き合う僕と翔子ちゃん。
「でも・・・お兄ちゃんは、もう・・帰れないんだよ・・・
ママの所にも・・
お姉ちゃんの所にも・・・」
翔子ちゃんの目の前で、ヘソの紐を切ってしまった・・
少し、表情が重くなっている。
「僕が決めた事だよ・・
悪霊退治も、何とかなると思う・・
僕が一番、霊力が無いんだから・・」
「そんな事・・無いよ・・
お兄ちゃんは、霊力に負けない力を持っているよ!」
「負けない・・力・・・?」
「私を助け出してくれたじゃない・・
パパにも、お母さんにも、鬼教官にも・・できなかった事・・」
「それは・・・」
そんな会話をしていると、向こうで轟々と音が鳴り出し、暗い雲間から光が差し始める。
これから、いったい何が起ころうというのだろう・・・
不安を抱いて漂う中、僕たちに語りかける声・・・
「よくぞ、申した・・・少年よ!」
その声の方を見る。
さっきまで、老婆の居た所だ・・・
そこには、
煌びやかな衣を纏い、
キラキラと光り輝く・・・・
十一面観音菩薩が立っていた・・・・
「あなたは・・・・」
「少年よ・・・しばらくぶりじゃな・・・・・」
「はい・・・・」
「そなたの成長・・
しかと見届けたぞ・・・」
十一面観音が手を振りかざす。
切断したはずの僕のヘソの紐が元に戻っている。
「そなたには、まだ、現世にて、やらねばならぬ事が残っておる・・
自らの命を絶つことは許さぬ・・・
さらなる精進をせよ・・まだ、この世界に来てはならぬ!」
僕の部屋・・
僕の体に乗って蘇生を行っていた彼女・・
「死なないで!ヒロシくん!!」
口移しで人工呼吸をする。
「ハア・・」
僕が息を吹き返す・・・
心臓も動き出している。
「ヒロシくん!!」
涙目で僕を見る。
思わず抱きつく彼女・・
「早く・・早く、帰って来て!
私・・どんな事になっても・・
ヒロシくんと一緒に居るから!!」
宙空で、十一面観音菩薩様と対峙している僕と翔子ちゃん
「そこの娘よ・・、
そなたを、この黄泉の国から解放し、
私の元での修行をする事・・
許そう・・・
既に答えは出ておろう・・・
その少年に与えられし、新たな命と体・・
救世の為に使う事が、そなたに与えられた使命である事を悟ったはずじゃ・・・」
「はい・・・」
翔子ちゃんが答える。
「翔子ちゃん・・!」
僕が驚いて翔子ちゃんを見る・・
「お兄ちゃん・・」
寂しそうだが、心に何かを決めた様子の翔子ちゃん・・
「それでは、しばらく別れの時を過ごすがよい・・・・
まだ、そなたには課題を残す・・・
そなたは、『人間本来の幸せ』を経験していない・・・
あらゆる幸せを知らぬ限りは、他の者たちを幸せに導くことはできぬ・・・
その少年と共に、
『生きる人間の幸せ、喜び』を心行くまで味わうがよい・・・
ふふ・・その歳のままでは、味わえぬか・・・」
十一面観音の手が振りかざされる
その手から光の波が降り注ぎ、翔子ちゃんの体を包み込む。
翔子ちゃんの体が、少しずつ成長していく。
背丈が少し伸び、胸は大きくなる。
小学3年生くらいだった翔子ちゃんの姿は、
中学2年の僕か、僕よりも年上くらいの姿となった。
あどけなさを残していた面影から、
雨宮先生を若くしたような・・・
美人の翔子ちゃんとなっている。
「翔子ちゃん・・・綺麗だ・・・」
「これが・・・私?・・・」
少し大人になった自分に驚いている。
僕は、急に意識してしまい、
ちょっと離れようとしたが、
翔子ちゃんがしっかりと抱きついてきた・・
「お兄ちゃん・・しっかり掴んでて・・!」
「う・・ん・・」
「しばし、快楽に身を委ねるがよい」
その声と共に、僕たちの着ていた服が、跡形もなく消えていった・・・
気が付くと、十一面観音の姿もなく、僕たちが宙を漂うのみだった。
僕は、目のやり場が無く、ただ翔子ちゃんを抱き寄せているまま、動けなかった。
そんな状況を破ったのは、翔子ちゃんだった。
「お兄ちゃん・・・お別れだね・・・」
「一緒には・・・行けないのか・・・」
「うん・・・
私・・このままだと、皆を傷つけてしまうだけだから・・・
いつか・・お兄ちゃんにも、危害を加えてしまう・・・
私の得た力を制するには・・
あの方の元で修行しなければならない・・・・」
「僕たちの事を忘れてしまうって・・言ってた・・・」
「うん・・・・」
翔子ちゃんがうつむく。
記憶が無くなってしまうのは、覚悟の上なのだろう・・・
「酷」な運命を受け入れなければならない。
「私は・・皆の事を忘れることが、嫌だった・・・
お兄ちゃんの事を忘れるくらいなら・・
『伊吹丸様』の隔離されていたような、『幽閉地』へ送られるほうがましだって・・
でも、そこでは永遠の孤独が待っている・・・
そんな一生は・・送りたくない・・・
お兄ちゃんにも、永遠に会えない・・」
幽閉地・・
たった一人で、孤独に生きていかねばならない・・・
何一つ不自由はないのだろうけれど・・・
独りで、ずっと居なければならないのは、最大の苦痛だろう。
「お盆」にも、現世に帰れないという・・
「それに・・
危険を冒してまで、助けに来てくれたお兄ちゃんを見てたら・・
私も、人の事を助けたいって・・誰かの役に立ちたいって・・思ったの・・・
お兄ちゃんが助けてくれたから・・今の私がある・・・
新しい・・私の体・・・・」
「ねえ・・・」
「なに?」
「この体に・・お兄ちゃんの記憶を刻んでおきたいの・・・
私の記憶が無くなっても・・・
この体が・・お兄ちゃんの事を覚えていれば・・・
私が忘れても・・体は・・思い出すかもしれない・・・」
それは・・・・
「私の体に・・お兄ちゃんの思い出を・・・刻んで・・!」
僕を見つめる翔子ちゃん・・
幼い頃の面影はあるけれど、綺麗になって、潤んだ瞳で僕を見る・・・・
「うん・・・」
僕と、翔子ちゃんは・・・・
宙を漂うまま・・・
抱き合い・・
愛し合った・・・
お互いの思い出を・・
その体に、刻み込むように・・・
お互いの魂が一つになるような感覚となった・・・
「お兄ちゃん・・私を忘れないで!」
「うん・・・忘れない・・」
翔子ちゃんの体から、ほのかな光が放たれはじめた・・・
「ああ・・・
お兄ちゃんが、私の中に満ちている・・・
翔子は・・・
幸せです・・・・」
その声を発したとき・・・
再び、十一面観音が姿を現わす・・・
「もう・・良いであろう・・・・
その、幸福で満ち溢れた心のまま、
私の元へ来るがよい・・・」
「はい・・・」
「そなたは、永遠に、その幸せに満ちた心のまま・・
私の元で過ごすのじゃ・・」
「嬉しい・・・」
翔子ちゃんが、気持ちよさそうに・・
目を半眼に開いて、
幸福感に満ちた笑みを浮かべている・・・
そのまま、
僕の元を離れ、
十一面観音の方へと漂っていく・・・
翔子ちゃんの体が徐々に光り輝き出す・・
僕は、別れの言葉を言わなかった。
ここで、何かを言ってしまえば、
悲しい想いが込み上げてくるような気がしたからだ。
翔子ちゃんには、幸せのままにしておきたかった。
「少年よ・・・
この娘・・
確かに預かった・・・
皆に、この事を伝えるがよい・・・」
慈悲に満ちた、その面影・・
翔子ちゃんも、同じ表情になっている・・・
二人の姿が、まばゆい光を放ち・・・
昇天していった・・・
僕は、いつの間にか、草原に立って、その光景を見上げていた・・
風になびく草、風を受けながら僕は、一人たたずむ・・・
観音様と翔子ちゃんが・・・
見えなくなっても、その場で見送り続けた・・・
僕も、翔子ちゃんとの「行為」で、幸せに満ちてはいるが・・・
何故か・・・
目に涙が溜まっていた・・・・
「行っちゃったわね・・・」
隣で女の人の声がした・・・
振り向くと、僕の直ぐ傍に母が立っていた。
なつかしい・・
母の姿を見るのは、悪霊との対決以来だ。
裸の僕の体に、やさしく毛布を被せてくれた。
「お母さん・・・」
「あの子・・幸せな顔をしていたわね・・・」
「うん・・・」
そう返事をしたら・・
涙があふれてきた。
「ヒロシ・・・」
「お母さん・・・オレ・・」
「おいで・・」
僕は、母の胸の中で、泣いた・・・
「寂しい想いが強いほど、その人への愛情が強かったという事なのよ・・
あなたは、あの子に出来る限りの事をした・・
その想いが十一面観音様に届いたのよ・・
あなたが、あの子を救った・・・
私達には出来なかった事・・・」
「でも・・元はといえば・・僕のせいだ・・原因は・・僕にある!
僕が、もっと力があれば・・こんな事にならなかった・・・」
僕の反論に、母が優しく語ってくる。
「自分を責めないで・・・
あの子は、地獄で修行をして、自らの霊力を高めてきたことが、
あの方に認められたのよ・・・
それは・・この上ない幸せ・・・
あなたには、霊力も霊感も無いけれど・・
人を思いやる心や愛する心を持っている・・・
それは・・・
どんなに強い霊力や霊感でも、かなわない・・・
強い力を持つものよ・・」
「霊感や霊力よりも・・?」
「言葉自体は、薄っぺらいモノなのかも知れない・・
でも・・
その言葉を使う人の「想い」が強ければ、
それは、
無力ではない・・・
人を幸せに導くことができる・・
強い力となるのよ・・
あなたには・・それがある!」
「お母さん・・」
僕は、見上げて、お母さんの顔を見た・・
微笑んで穏やかな表情・・
「あなたには、まだ、大切な家族や仲間がいる・・
彼女も、あなたを心配しているわよ!」
「みんなが・・・」
「これからは、私と翔子ちゃんのお父さんがサポートするわ・・・
翔子ちゃんほどとは・いかないけれどね・・・」
「ゴホン!ゴホン!」
わざとらしい咳をしている男の人がいた・・
「あ・・翔子ちゃんのお父さん・・(居たの?)」
「ヒロシ君!僕も力及ばずとも、加勢させて頂くよ!」
「ありがとうございます・・・」
涙を拭きながら、僕が答えた・・
「翔子の事は・・感謝してるよ・・・
あの子を・・僕の娘を、幸せにしてくれて、ありがとう・・・」
「でも・・僕は・・・」
「『何もしていない』・・か・・・
君は、いい子だよ・・
翔子が惚れるだけの事はある!」
赤面する僕。
気が付くと、お父さんの無くなった片腕が再生していた。
僕のお母さんの目も、治っている。
「あれ?みんな治ってる・・・」
「十一面観世音菩薩様のお力だよ・・」
「あの方の元で修行すれば、
皆を救う力が備わるのよ・・・
私たちの家族から、そういう人が出るのは・・
嬉しい事・・」
「翔子ちゃん・・・」
「さあ!ヒロシ君・・
君を送って行こう!
かわいい彼女の元へ!」
翔子ちゃんのお父さんが両手を広げる。
眩い光で目がくらんだ。
僕が目覚める。
僕の部屋。
ベットに寝ている僕。
僕の上に、彼女が覆いかぶさっている。
疲れ果てて、寝ている・・・
目に涙を浮かべながら・・・
「う・・ん・・・」
彼女が目を覚ます
「ヒロシくん!」
「美奈・・・」
「何処も・・何ともない?・・大丈夫??」
「うん・・大丈夫・・・」
でも、僕が涙ぐんでいる事に気が付いた彼女・・
「どこか・・痛むの?」
「いや・・」
僕は、彼女を抱き寄せた。
突然どうしたのか唖然となっている・・
でも、やさしく僕の背に手をやる彼女。
「翔子ちゃん・・・どうだった?」
「十一面観音菩薩様の所へ・・行ったよ・・・」
「そう・・・
私たちの事・・
忘れちゃうんだね・・・」
「もう・・
会えないって・・」
僕は、先ほど、翔子ちゃんを見送ったのを思い出した。
「そう・・
おめでたい事なのに・・ちょっと悲しいね・・・」
「うん・・」
そう言って、僕は彼女を抱く手に力を込めた・・
「あ・・・・」
彼女が、その力に反応して、声をあげる・・
震える僕の体に気づいて、彼女も、力を入れて、抱き寄せる・・
「思いっきり・・泣いていいよ・・・」
まるで、僕の母の様に振る舞う彼女・・・
僕の悲しみを受け入れてくれた・・・
しばらく、僕は、彼女の胸の中で泣いた・・・
「でも・・・黄泉の国から助け出したんだね!
すごいじゃない!!」
彼女から褒められた。
でも、それは、自らの命を絶った行為を伴った・・・
「僕は、君や家族を捨てるところだったんだ・・・
翔子ちゃんと永遠に黄泉の国に残ろうとした・・」
「そう・・・
その想いが通じたのよ・・・
正直な・・
ヒロシくんの想いが・・・
翔子ちゃんを助けたいって心が・・・」
その答えを聞いて、僕は安堵した。
「あの時は、大変だったのよ!!
急に、ヒロシくんの呼吸が止まるから・・
心臓マッサージとか・・人工呼吸とか・・」
「人工呼吸??」
「あ・・・
ヒロシくんと・・
口づけしちゃった・・・・」
少し、顔を赤らめる・・
僕が、死んでいる時に、そんな事があったなんて、知らなかった・・・
必死に、僕を蘇生しようと頑張っていたらしい。
その行為が無ければ、僕は今頃、脳障害を起こしているだろう・・・
「ありがとう・・・」
「い・・いいの?勝手に・・しちゃったのに・・・キス・・」
「うん・・帰ってこれたのは、君のおかげだよ・・」
「絶対、帰ってくるって・・思ってた!」
彼女が抱きついてくる。
ああ・・僕は・・帰ってきたんだ・・・
「そう言えば・・息を吹き返してから、
気持ちよさそうな顔になってたけど・・・
何かあったの??」
彼女が聞いてくる・・
僕と翔子ちゃんで愛し合った事を思い出す。
どうしよう・・・
いずれ、バレるのだったら、正直に言ってしまおうか・・・
「翔子ちゃんと・・しちゃった・・・」
「え?何を??」
彼女がきょとんとしている・・・
「あの・・・・
翔子ちゃんと・・
愛し合った・・」
「え~???!」
正直に話して良かったのだろうか・・
浮気がバレた夫・・・って言うか、自分からバラしてしまった・・
「愛し合ったって・・
どーいう事よ~!!!」
あーきた!きた!きた!
彼女が身を乗り出して、僕に問いただしている。
赤い顔の彼女・・
怖い!!
でもカワイイ・・
(この期に及んで何を考えているのだ?僕は・・)
「ごめん・・!!
君が居るのに・・!!」
もう平謝りに謝るしかない・・・・
その時、黄泉の国で会った老婆の言葉を思い出した。
---彼女が居るにも関わらず、
そなたにも気があるような事を申しては利用していたのだ----
あの時は、翔子ちゃんに対して、彼女が居るのに、翔子ちゃんに対しても好意があると指摘をされた。
僕は、その言葉に対して、返す言葉も無かった。
二股をかけていると言われても、それは、本当の事なのだから・・
そして、今度は逆に、翔子ちゃんと愛し合ったのに、
彼女にも気があるような・・
それも、つい先程の事なのだ・・
世の旦那さんは、浮気をして、その足で家に帰った時、直ぐに奥さんに「愛してるよ」とか言えるのだろうか?
同時に二人の人を愛する事など・・
それは、本当の愛情なのだろうか?
どちらかを裏切っているような・・それは、偽りの愛情なのではないか?
「う~~~!・・・」
彼女が僕を睨んでいる。軽蔑の眼差し・・・
蘇生までしてくれていた彼女に、申し訳ない。
「わたし・・
ずっと、ヒロシ君の事・・思ってたのに!!!
ねえ!
私と翔子ちゃんとどっちが好きなの??」
涙が溢れている彼女の目・・
そして、その答えは・・・
「ごめん・・・
美奈・・正直に言うよ・・」
「え?」
「翔子ちゃんに関しては、ずっと妹の様に思っていた・・
先生の娘さんっていう事よりも・・
前から、一緒に居るような・・
可愛い妹だって・・
僕の事を想って、地獄で修行して・・
悪霊との対決の時は助けてくれた・・
霊感ケータイでしか見れなかったけど・・
そこに居るのかどうかも分からない存在だったけれど・・
いつの間にか・・
僕は翔子ちゃんに魅かれていた・・
君という人が居ながら・・
黄泉の国に行って、翔子ちゃんと永遠に残ろうと決心した・・
君や家族や仲間を捨ててまで、
守ろうとした・・
そして・・
別れ際に・・
最後に、
あの子を、愛してるんだって・・
気づいたんだ・・
翔子ちゃんと・・
別れたくないって・・ 」
「ヒロシ君・・」
驚きの・・いや半分放心状態になっている彼女・・
そうだろう・・
僕の口から、彼女以外の人を愛しているなんて言葉が出てきたのだから・・・
でも、僕は、自分の心に正直に話を続けた・・
「美奈・・
でも・・
君の事は・・
もっと好きなんだ!!」
「え?」
「翔子ちゃんは僕にとって、特別な存在だったけど・・
君は、もっと特別な存在なんだ。
いつも一緒に音楽室に居るから、当たり前だって思ったけど・・
黄泉の国へ行った時・・
洞窟の中で、たった一人になった時・・
一番に思い出したのは君なんだ!!
僕は、一人では何もできない・・
いつも君が、僕の側に居た・・
僕の力になってくれた
僕が死にそうになっても・・
君は、諦めないで僕を助けようとした・・
僕を待っていてくれた・・
見えなくても・・
つながってる・・
そんな君が・・
愛おしい・・
僕が・・
帰って来る所は・・
ここなんだ!
翔子ちゃんの所でもなければ、
僕のお母さんの所でもない・・
それは、黄泉の国へ行って、
初めて気づいたんだ!
僕が帰ってこれるのは・・
本当に・・
一緒に居たいのは・・
君しかいないって・・・」
「ヒロシ君・・」
彼女の目に涙が溢れてきている・・・
「ごめん・・・
今は、それしか言えない・・」
「わたし・・何が起ころうとも・・ヒロシ君を信じてた・・
最後は・・私の所へ戻ってくるって・・」
目に涙を溜めているが、笑みが戻っている・・・
「美奈・・」
「翔子ちゃんを助けるためだったんでしょ?」
助けるためなのかどうかは・・
ちょっと迷うタイミングだった・・
助けた後の話なんだけれど・・・
「うん・・」
僕は、彼女に嘘をついた。
初めての嘘。
これ以上、不安にさせたくなかった。
その答えを聞いて、安心したのか、元の表情に戻る。
「いいよ・・・
ヒロシくんが、無事に帰ってこれただけでいい!・・・」
どうやら、許してくれたらしい・・
でも、僕には罪悪感が残った。
「言葉」・・それは、薄っぺらい・・紙よりも薄っぺらいモノ・・
黄泉の国のおばあさんにも、お母さんにも言われた。
「言葉」に乗せる想いが強いか薄いかで、伝わり方も違う。
それを使う人、受ける人によっては、人を幸せにもし、不幸にもする。
何とでも言える「言葉」。
想いを伝えたい「言葉」。
正直な言葉は、皆、人を幸せにするとは限らない。
正直に言ったが故に、傷つけてしまう事もある。
時には、真意を偽る事も、人を幸せにする事もあるのだろうか・・・
嘘をつく事は・・
その人への想いが強いから・・
傷つけたくないという想いから・・
ただし、偽りの言葉を放った本人には・・
大なり小なりの罪悪感が伴う・・
自分自身の心を偽り、
相手にも偽りの心を示してしまった・・
何よりも、
「彼女を騙した。」
そんな事は・・
もう・・
したくない。
彼女を騙すような、裏切るような事は、
しないって・・
心に誓った。
「ねえ
ヒロシ君・・
そのかわり・・・」
彼女が改まって話しかけてくる。
「え?」
「この体は・・・私の為に・・取っておいてね・・・」
僕の胸に指を一本、立ててなぞっている。
ゾクゾクっとする僕・・
「・・・うん・・・」
「約束だよ!!」
彼女の顔が近づき、アップになる。
か・・可愛い!
でも、蛇に睨まれたカエルの僕・・・
「わかったよ・・
最初は君と・・
する・・」
「うん!許す!!」
そう言って、笑顔になった彼女・・
気がつけば、ベットの上で、向かい合っている二人・・
彼女が僕の膝の上に乗っている・・
僕の心臓の鼓動が早まっていることに、気づいた・・
彼女も、少し、「キュン」となっている・・・
お互いに「意識」しあって、見つめている・・
「い・・今・・・
しちゃおっか・・・」
彼女がポツリと言う・・
「え?」
チャラララ・・・チャラララ・・
その時、霊感ケータイが鳴る・・・
「もう~!
いい所なのに~!!!
誰~???
KY~~!!」
彼女がケータイを手に取って、表示を見る。
メールが入っていた・・・
ピ・・
美奈チャン!マダ中学生ナンダカラ!早イ!!
響子
「怒られちゃった・・・」
舌を出して、反省している彼女・・
そんな会話が、おかしくて・・僕たちは・・笑っていた・・
幸せな僕たち・・・
でも・・
僕たちを取り巻く恐怖・・童子四天王による包囲網は・・
刻一刻と狭められていたのだった・・・




