21.再会
洞窟を抜けると、そこは、里山のような場所だった。
小高い山の林を抜けると、何件かの小さな庵が点在する村に出て来た。
一昔前の日本の里のような光景だ。
各庵には、庭がついて、そこで鶏を飼っていたり、畑を作っていたりしている。
長閑な(のどかな)・・なつかしい風景・・・
僕は、一つの庵の庭に翔子ちゃんの姿を見つけた。
着物を着て、庭に静かにたたずんでいる、翔子ちゃん。
僕に気づいたようだ。
「あ・・お兄ちゃん!!」
「翔子ちゃん・・」
僕は、庭へ入っていく。
「来てくれたんだ!」
「うん・・元気でやってた?」
「うん!翔子はいつも元気だよ!」
「ここは・・・なんか長閑で平和そうな所の様だけど・・・」
「ここの人たちは、みな、私に優しくしてくれるの・・・
こんな、平和な場所があるなんて・・思ってもみなかった・・・」
「お父さんが心配していたよ。」
「留置所って聞いて、最初は、独房みたいなところかと思ったんだけど・・・
魂を『修正』するための場所のようなの・・・
皆、色んな事で、ここへ送られたみたいだけど・・
みんな、いい人たちばかりよ・・」
他の庵も、この地に連れてこられた人達が暮らしているのだろうか・・・
「私は、この場所の方が性にあってるみたい・・・」
「でも・・ここから出れないって・・・」
「お盆には、戻れるって言ってたわ・・
皆に会うことも許されてるって・・」
「そうか・・・」
悪霊退治や地獄での修行は、幼い翔子ちゃんには大変だったのかもしれない・・
ようやく訪れた、安息の日々・・
この「黄泉の国」ならば、僕や家族の事も忘れずに済むし、寂しい思いもしなくていいようだ・・・
ここで、暮らすのが、翔子ちゃんには一番良いのかもしれないと思った。
「ちょっと、安心したよ・・
僕も帰って、パパやお母さんに伝えるよ・・」
「うん!
翔子は元気に暮らしてるって、皆に伝えて!」
縁側に座って、翔子ちゃんから出されたお茶を飲む・・・
このお茶を飲んで、みんなの所へ戻ろうと思った・・・・
「あ、御代わり、入れるわね!」
僕の飲んだ茶碗を取り、急須でお茶を入れている。
翔子ちゃんの袖から、ポトリと黒いものが落ちたような気がした・・
その黒いものが、うごめいている。
何だろう?
ゴキブリ?
「あ、ゴキブリ?!」
「どこ?」
翔子ちゃんが慌てて、そのゴキブリを叩く。
「ふふ・・やっつけちゃった!」
そのゴキブリを素手で持って、向こうへ捨てに行った・・・
戻ってくる翔子ちゃん・・
その口に、なにやら木の枝の様なモノがついている。
「何?それ・・・」
僕が、翔子ちゃんに教えた。
「え?」
口元についた、枝の様なモノを手に取る・・
「あ・・
茶柱・・
かな・・」
茶柱???
そんなに小さく、短いものではなかった・・
木の枝の様な、
何か、虫の足の様な形だったような・・・
・・・え?
ひょっとして・・
さっきのゴキブリ??・・・・
背筋に寒気が走った・・・
直ぐに、帰るには、翔子ちゃんの現況が分からない。
もう少し、様子を見ようと思った。
僕は、何気なく話をした。
「あ、君のお父さん、全治3か月だって・・・
手は治るみたいだよ!」
「そう・・・」
急に表情が暗くなる。
あの事件の事は思い出したくないのだろうか・・・
「私・・お母様にも、ケガをさせてしまった・・・
あの時、自分で自分が制止できなくなってしまったの・・・」
暴走したというのは、本当だったようだ。
「霊界でのケガは、いずれ、治るってさっきのお婆さんも言ってたよ。」
「お婆さん!? 一緒に来たの??」
急に、動揺した翔子ちゃん。
驚きの表情になっている。
「どうしたの?」
「い・・・いえ・・・」
何か、隠していることがあるような気がした。
それも、重要な部分を・・・・
「う!」
口元を押さえた翔子ちゃん。
少し気分が悪そうだ。顔が青ざめている。
「ちょっと・・
隣の部屋で、休むわ・・・
お兄ちゃん・・・」
「なに?」
「私が寝ている間・・
決して、部屋を覗かないでね・・・・」
そう言って、スーっと襖を開けて、隣の部屋へと休みに行った翔子ちゃん・・・
囲炉裏の部屋に一人取り残された僕・・・
決して隣の部屋を覗いてはいけないという。




