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霊感ケータイ  作者: リッキー
往生
107/450

17.病院で・・


病院・・


母の闘病生活を送った病院であり、翔子ちゃんが、何年も寝たきりで意識を取り戻さず、息を引取った病院だ。

多くの人が、この病院で、病やケガと闘い、時には希望に満ちて退院し、時には、亡き人となって後にする・・


人の生死が背中合わせの舞台。


最上階の病室に、女性のお父さんが入院していた。

何人かの相部屋で、各ベットがカーテンで仕切られている。

他に数人の、患者さんがベットに寝かされ、付き添いの人が看病していた。






お父さんが、ベットに寝ていた・・

点滴の管を付けられ、静かに眠っている。


住職と女性が、ベットの脇に座って、様子を見る。


「良く、寝ておられるようですな・・」


「はい・・でも、時々、痛みで起きては、騒ぐんです・・」


「そうですか・・癌の痛みは、かなりのものと聞いております。」



「う~」

カーテン越しに隣のベットからうめき声が聞こえる。痛みに耐えられないらしく、苦しそうな声だった・・・

その声に反応したのか、お父さんの表情が苦しそうになる。


「ううう・・ 彩華・・」

うなされるお父さん。


「お父さん!ここに居るわよ!!」

その声に気付いたのか、お父さんの目が、ゆっくりと開く・・


「あなたは?・・」


「お父さん・・お寺のご住職です!」


「いつもお世話になっております・・寺のものです・・」


「お寺・・

 いよいよ、私も、先が無いという事ですか・・・」


「お父さん・・」

お父さんの一声に心配そうな目で見つめる女性。






「いえ・・

 御嬢さんが、あなたに生きる希望を持ってもらいたいと、相談に来られまして・・」

住職は、女性に、死の恐怖を拭い去って欲しいと頼まれたはずだった・・

でも、そんな事を、直ぐに口に出すわけにもいかず、そういった言葉になってしまったのだった・・


「生きる希望??」

窓を見るお父さん・・


「そんなもの・・・

 こんな世に生きて居たところで・・

 私には、何の価値も無い・・」


「どんな人にも、生きる権利はあります。」


「私は、癌の宣告を受け、ここで死を待つのみなのです・・

 いつ死ぬか分からない状態で・・

 生きる希望など・・」

ため息をつくお父さん。


「ご家族がおられるではないですか!?

 病を治して、一緒に暮らせるではないですか?」


「家族・・」

しばらく、窓を見ていたが、ぽつりと話し出す・・







「私に、家族なんかおりません!

 私は、いつ死んでもいいんです!」


その言葉に、お父さんを、キッと見つめる女性・・

お父さんは窓を見つめ続け、娘さんを見ようともしない・・・


女性は、しばらく、お父さんの姿を、睨んでいたが、

静かに立って、病室を後にした・・

女性の頬に涙が溢れている・・


「お父さん・・・

 失礼します・・」

住職は、窓を見つめ続けるお父さんに挨拶すると、女性を追いかけて部屋を出た・・







階段の隣にある休憩室の椅子に、女性が泣き崩れていた・・



「すみません・・・私・・・」



「何か、事情がおありのようですね・・」




「はい・・

 私は、高校の時・・

 あの家を出たんです!!


 父を捨てて・・」


家を出てから、ずっとお父さんとも連絡を取らなかったそうだ。

病院から連絡があり、父が病に臥せっているという知らせが飛び込み、駆け付けた時は、もう手遅れの状態だったという・・・


「父は、私が家を出てから、お酒ばかり飲んでいたそうです・・

 それが原因で、病気になってしまうなんて・・

 私は・・迷惑ばかりかけていたんです・・」


「うむ・・」



「父は、私を許してくれないでしょう・・

 母が亡くなり、一人で育てた娘が、出て行ったのですから・・」



「でも、お父さんにとっては、

 たった一人の身内なのですから・・」


「許してもらえないんです!・・・私は・・・」

泣き崩れる女性の肩に手をやりながら、慰めてはみたものの・・

どうしようもなく、途方にくれるばかりであった・・・






夕食・・




彼女が帰って夕飯の支度をして、住職と二人で夕食をとっていた。


彼女は、家でも眼鏡と髪止めを外さない、ポニーテールと眼鏡のいつものスタイルだ。霊力を弱める髪止めと、霊を見えにくくする眼鏡。

学校でもそうだけど、お寺でも、色々な霊が居るらしく、意図的に遮断しないと身が持たないとの事だった・・


二人ばかりの、少し寂しい夕食。

畳の上に、ちゃぶ台が置かれ二人分の料理が置いてある。


料理の腕は上手くはないと言ってはいるけど、(先生や千佳ちゃんに比べて・・)

お母さんに代わって、毎日の食事を作る彼女も凄いと思う。

あ、僕も同じだったか・・


お母さんは、山奥にて修行をしているので、二人きりである・・

もう、慣れてはいるようだったが・・


「どうしたの?お父さん・・」

箸の進まない父を見て、彼女が話しかける。


「ん?」


「全然、食べてないじゃない・・」


「ああ・・昼間、ちょっとかわいそうな親子に会ってね・・」


「親子?」


「うむ・・」


彼女に、昼間の話をする。

あの後、病院で別れはしたが、帰るのには少し引けたそうだ。

他人の家庭に、深く入り込むことをしていいのかどうか、迷ってはいるけれど、やはり気になる・・


お父さんを想う女性と、

娘さんを受け入れられないというお父さん・・


このままにはしておけないと、思ったという。





「ふうん・・大変な事を引き受けちゃったんだね・・」


「これも、修行の内だ・・」


「でも、ひょっとして・・あれ?

 その娘さん、すごい美人なんじゃない~?」


「え?」

まあ、そう言われてみれば、確かに、美人の娘さんだった。

でも、どこか影があるような・・


それは、昔、家を出て行った事と父親に受け入れてもらえない事が関係しているのだろうけれど・・


「何?その間は~、」


「いや・・あの娘さん・・どこかで見た覚えがあるんじゃ・・・」


「?・・どこかで?檀家さんだったら見てるんじゃない?

 お母さんも亡くなってるから、葬儀の時に見たとか・・」


「うむ・・そうなんじゃが・・」

しばらく物思いにふけっていた住職だったが、


「なあ・・美奈子・・」


「な~に?」


「ワシが居なくなったら・・寂しいか?」


「え?お父さんが?

 どうして?」


「いや・・聞いてみただけじゃ・・」


とりとめの無い問いに、少し考え込んだ彼女だったが、

「う~ん・・いつも一緒に居るから・・

 わかんないけど・・

 お父さんが居なくなったら・・


 悲しいかな・・」


「それ、本当か~?」

半信半疑で、聞いている住職・・


「え~?疑ってるの?」


「大体、男親なんてもんは、娘からは毛嫌いされるって、言われてるからな・・」


「まあ、確かに、ちょっと、ウザいかもね~。」


「なんじゃと~!!」


「ウソよ~。冗談!

 大好きだよ!お父さん・・


 居なくなったら・・


 本当に・・


 泣いちゃうと思う・・」

少し、親身な顔になっている彼女・・眼鏡だけど、可愛い・・




その夜…


住職が不思議な夢を見た。



「美代子…お腹の子を産んだ場合、君の体がもたないって…先生の話だ。」



「あなた…、


私は…産みたい!


あなたと私の子を…


私とあなたの愛の証…


今度は、いつできるか…わからないのですもの…


これが最後かも知れない。

新しい命を、無駄にしたくないの…


私の命が、どうなろうと…この子を…産みます!」


「美代子…」



あの父親と母親の会話なのだろうか…



そして、出産を迎える…



オギャ~!


「元気な女の子です。」



「あぁ…、無事に産まれたんですね…


美代子は?」



看護婦がうつむく…


「それが…母体は危険な状態で…」


集中治療室で治療を受けている美代子さん…旦那さんが赤ちゃんを抱えて入ってくる。


「あなた…」



「産まれたよ!元気な女の子だ。」



「あぁ…、




 私の…



 赤ちゃん…



 あなた…



 この子を



 お願い



 します…」



「わかった!」



その返事に安堵の笑みを浮かべる美代子さん…



「私は…





  幸せ






  で





 す…」



「美代子!!!」


そのまま、息を引き取る美代子さん…






ガバッ…


飛び起きた住職…



時計を見ると2時を過ぎていた…



「夢?」



夢にしては、タイミングが良すぎる…


昼間、会ってきた親子のイメージがそうさせたのか…


「霊夢?」



今まで、霊とは無縁だった住職。お寺に勤めていると人の死を見るのは日常茶飯事で、中でも「お知らせ」と言って、亡くなる人が葬儀を頼みにくるという事もあるという。


そのような体験も、一切なかった。


ましてや、幽霊を見たり、心霊現象に出会った事もなかったのだ。





いずれにせよ、昼間の親子が気になる住職だった。


このまま、放っても置けない…


娘さんとの約束もある。


次の日も病院へ行こうと決意した住職だった。










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