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霊感ケータイ  作者: リッキー
往生
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16.お寺で・・

小高い丘の上に建っているお寺が彼女の家だ。

ここに僕の母と、雨宮先生のご家族が眠るお墓がある。


彼女のお父さんは、この、お寺の住職だ。

お母さんは山奥で修行中(?)・・彼女と二人でお寺を切り盛りしている。


僕たちが童子に襲われ、ゴーストバスター部とオカルト研究会が、今後の対策を会議している頃・・住職は、てきぱきと本堂の掃除をしていた・・


脚立の上に乗って、少し高い所の埃を掃っていると、額縁に入れられた写真が眼に入る。


「おや?この写真は・・・」


少し古ぼけた写真には、父親らしき男性と女の子の二人が写っていた。


中学校の卒業式の写真だろうか・・

制服を着て、にこやかに写っている。

背景は桜が満開だ・・


「そう言えば檀家の方から預かっていた写真だったかな・・」

呟く(つぶやく)住職。


・・と、その時、





ピンポーン



玄関の呼び鈴が鳴る。


「はーい。今行きま・・

 う、ウワー!!」


振り返ったら、バランスを崩してしまった!


ドンガラガッシャーン!!


脚立と共に畳に倒れ込む住職。

頭を打ち、失神してしまった・・



  ・

  ・

  ・





「大丈夫ですか?」


住職が気が付くと畳に寝かせられていて、一人の女の人に介抱されていた。

二十歳前後の若い女性。大人しそうな・・。


心配そうに住職を覗き込む。


「あ・・あなたは・・?」


「あ・・本堂で凄い音がして、入ってきてしまいました・・

 ひょっとして、私の呼び鈴のせいで?」



「いや・・ちょとバランスを崩してしまったようです。」


起き上がろうとする。

腰の辺りや、肩が痛い・・


「いたた・・」


「大丈夫ですか?」


「何とか・・大丈夫のようです。

 あれ、あなた・・どこかでお会いしました?」

見覚えのある顔だったが、思い出せない。


「い・・いえ・・

 でも、このお寺の檀家ですから、

 会ってるかも知れません・・」


「そうですか・・

 あ、少しお待ちください、今、お茶をお出しします・・」


女性に心配をかけないように、痛みを隠しながら奥の勝手へ歩いていく住職。

その様子を見て、少し安心したのか、その場に座って待つことにした女性・・





本堂を見渡す女性。


この本堂は、僕も何回も入った。

畳の敷かれた先に、十一面観世音菩薩様が安置されている。

絢爛豪華な飾りを纏った(まとった)、美しい観音様だ。

ここのお寺の観音様は、特に煌びやかで、僕も見とれたのを覚えている。


そして・・


悪霊を退治したときに見た観音様にそっくりなのだ・・

この観音様を造った人は、ひょっとしたら実物の観音様に会ったのかも知れない。

  ・

  ・


その観音様に見とれている女性・・

観音様の目は半眼に見開かれ、慈悲深い表情を浮かべている。

その眼差しに吸い込まれるように見入っている・・


「十一面観世音菩薩様がお気に召しましたかな?」

住職がお茶の道具を持って、奥の方から現れる。


「はい・・この観音様・・綺麗ですね・・」


お茶を出しながら話し続ける住職。

「この観音様は、鎌倉時代より伝わるものと聞いております。」


「鎌倉時代ですか・・そんなに昔から・・」


「十一面観世音菩薩様は、この世に困った人があれば、直ぐ、その場に駆けつけ、難からお救い下さるありがたい観音様です。」


「どんな人でもですか?」


「はい・・この世に生を受けた者は、皆、平等にお助け下さる・・」


「そうですか・・」


その言葉と共に、表情が硬くなる女性・・

何か、あるのだろうか・・



「実は・・」






その女性が、訳のありそうに話し出す。


「私の父が癌で、余命があと少しと宣告されまして・・」


「それは・・何とも・・!」


「今、病院にて闘病生活をおくっているのですが、

 死ぬのが怖いと・・

 毎日、恐怖に陥っている姿が痛たまれず・・

 介抱している私も、どうしていいのかと、途方に暮れているのです・・」


癌は体を蝕んでいく・・

その痛みは、僕は体験したことはないが、死ぬほどの痛みだと聞いたことがある。

抗がん物質を投与しても、その副作用との戦いが長期に渡って続くという・・

治るか治らないか、分からない恐怖と不安と激痛に苛まれ(さいなまれ)、絶望と無力感が襲う・・

そして、「死」を覚悟し、向き合わなければならない。


余命が残り少ないと宣告された時・・

自分の命があと僅かだと知った時、人はどういう行動を取るのだろう・・

仕事をしていても、意味も無いと見切って、自分のやりたい事に専念する人もいる。

行った事の無い・・行ってみたい所へ旅行したり、若い時にやり残した事、

老後にやろうと思っていたことを繰り上げて行動に移す人・・


残された人生を、最愛の人たちと過ごしたいと願う人・・

残った人生も、今まで通り、何の変りも無く過ごしたいという人もいるだろう・・


または、何故、自分だけ、苦しまなければならないのか絶望に打ちひしがれていく人もいる・・


この女性のお父さんは、「死」に恐怖を感じていると言うが、普通はそうだと思う。


人は、死ぬと、何処へ行くのか・・

多くの宗教が示す通り、「魂」は存在し、永遠になるのか・・

それとも、全く「無」になるのか・・

「無」になったら、今ある「意識」というものは、どうなってしまうのか・・


それは、現在を生きている人間にとって、未知の領域なのだ。


そして、


できれば、その日が来ない事を望む・・・





「なるほど・・ それは、大変な事態ですな・・」


一通り事情を聞いた住職が聞き返している。


「・・せめて、父の不安を拭い去れればと・・」



「病院では、特に教会の牧師さんを呼んだりはしていないのですか?」


「はい・・特には・・」



ビハーラという、末期がん患者を収容し、死への恐怖を軽減する特殊施設もあるようだ。

近くの教会の牧師さんが派遣され、「聖書」を読んだり、「死」についての講義を行い、「死」の恐怖をやわらげる。

そういった試みが行われている反面、通常の病院では、治療や療養のみが行われ、精神的な苦痛からの解放をねらった所は少ない・・


「うむ・・人の抱く『死』の恐怖との対峙ですか・・

 全く、初めての試みですな・・」


「ご住職に、お願いするのは誠に恐縮なのですが・・

 何卒・・お力沿えをお願いしたいのです・・」


「私に、その大役が務まるかどうか・・」


「ワガママとは存じますが・・」


住職は、しばらく考えていたが・・ふと、脇の観音様を見た時・・


「人は・・未来を切り開くか・・

 何事も修行の一環・・やってみますか・・・」


「本当ですか?ありがとうございます!!」


女性のお父さんが入院しているという病院へ同行する事になった・・・







住職は、普段着に着替えて、病院へ行くことにした。

いきなり、闘病中の患者さんが、お坊さんの姿を見ればびっくりするだろう・・


病院へ歩いていく道中、住職が女性に訊ねた。

「ところで、あなたには、他にご家族は?」


「母は、私が生まれて間もなく他界しました・・」


「それは・・・大変、失礼な事をお聞きしました。すみません・・」


「いいえ。

 母は、私を生めば自分が助からないと、医者に言われていたそうです・・

 でも、母は・・私の命を選びました・・」


「そうだったのですか・・」


「ですから、私は、母の顔は覚えていません・・

 父は再婚せずに、私を育てる事を選んだそうです。

 最初は心配してくれてた親戚とは、もう遠縁になっています・・」


「あなたと、お父さんの二人暮らしだったのですか・・」


「はい。父は、ずっと一人で私を育ててくれました・・」








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