15.作戦会議
音楽室
ゴーストバスター部のいつものメンバーで音楽室の片づけをしていた。
散乱した楽譜やポスターを元通りに直している。
いや・・いつものメンバーではない・・僕は居ない。
それから、なぜか沙希ちゃんが残っていた・・・
「部長・・大丈夫でしょうか・・」
ポスターを貼り直している拓夢君が僕を心配している。
「童子の攻撃をまともに喰らってたからね・・」
楽譜を拾い集めながら、千佳ちゃんが答える。
「僕のお姉ちゃんをかばって・・」
画びょうを差しながら呟く拓夢君・・・
「そういうヤツなのよ・・自分より他人を優先する・・」
千佳ちゃんが呟く。
一同、しばらく言葉を失った。
その沈黙を破ったのも千佳ちゃんだった。
「まあ、ヒロシ君も、ああ見えて丈夫な方だからね!」
「え~千佳ちゃん、それ、ひどいよう~」
「ごめん、ごめん!・・大事な旦那様だったね・・」
「うう~・・」
彼女は、それ以上は千佳ちゃんに突っ込めなかった・・
千佳ちゃんの褒め言葉には、対抗できない彼女。
独特な重みがあるのだ。
「心配でしょうけど、片づけ終わったら今後の対策もしておかなくちゃね・・
・・て、沙希ちゃんは何でここに残ってるの?」
先生が、改めて沙希ちゃんに気付く・・
「あ・・何か・・私・・・」
「この部は、見た通り、危険な事もあるのよ・・」
「はい・・見てましたけど・・・」
「沙希ちゃん、僕たちは多少、霊感があるけど、
沙希ちゃんには、全くないから・・難しいと思うよ・・」
「でも、部長さんも霊感無かったけど、あんなに皆を引っ張ってましたよ・・!」
沙希ちゃんの言葉に、皆が顔を見合わせる・・
僕が意外に皆を引っ張っていた?
その言葉に、先生が答える。
「そ・・そうね・・ヒロシ君も、あれで、大分、場馴れしたみたいだし・・・
霊感ケータイも、あれだけ使いこなせるし・・
皆の能力も把握して、皆の心も掴んでると思うの・・・
知らないうちに、ヒロシ君は、皆の中心になってたのかも・・」
「そ・・そうですね・・
僕も、部長の言葉は、素直に聞きますよ・・」
「うん・・私も・・・
私の方が、霊感あるけど・・
一目は置いてるかな~・・
美奈ちゃんは、当然・・ヒロシ君を信頼してるよね!」
「うふふ~・・」
照れてる彼女・・
「何か・・いいな・・こういう雰囲気・・」
沙希ちゃんが語りだす。
「え?」
「部長さんもそうだけど、皆、それぞれが信頼し合ってるような・・
自分の居場所があって、皆が皆をを認め合ってる・・
そういうのって、良いなって・・」
「そうね・・知らないうちに、私達、いいチームになってたのかもね・・」
沙希ちゃんの言葉に、先生も改めて部活を見直している。
「あの・・
私も、
ここに、居させて頂けませんか?」
「え?」
沙希ちゃんが、この部に入りたいと言ってきた・・
「私、霊感も、霊の知識も無いけど・・
こんな部活に、入ってみたい・・」
「沙希ちゃん、得意な事はある?」
拓夢君が沙希ちゃんに聞いてみた。
確かに、皆、何かしらの得意分野があって、それぞれの役割がある。
「う~ん・・・
無い・・
かな・・・」
それを聞いていた千佳ちゃん。
拓夢君と沙希ちゃんが良い感じに話しているのに割り込む。
「でも、やっぱり、危険だよ!
さっきの騒動も見てたでしょ?」
急に、割り込まれて少し表情が硬くなる沙希ちゃん・・
「確かに、悪霊は、怖かったですよ!
でも・・
何か役に立ちたいんです!!」
ちょっとムキになってるな・・
沙希ちゃんと千佳ちゃんが言い合いになってる・・
そんな空気を、いち早く察知した先生・・
「まあ、沙希ちゃんも、『仮』入部って事でどう?」
「仮入部?」
「様子を見て、ついてこれなければ、辞めてもいいってことで・・」
仲を取り持とうとする先生・・
なんとか入れそうでニコニコしている沙希ちゃん。
少し不満そうな顔の千佳ちゃん・・
拓夢君には、この状況がどういう事なのか・・全く分からないんだろうな~
「え?でも、拓夢君は?」
沙希ちゃんが、思い出したように聞いている・・
「あ・・僕・・そう言えば・・」
そうだった・・拓夢君に関しては、「オカルト研究会」に籍を置いている。
ゴーストバスター部には、遊びに来ている形だ。仮入部どころか、正式な部員でもないのだ。
でも、既に、この部活で重要な位置・・いや、居場所がちゃんとある。
「そうね・・お姉さんも、移籍は認めない勢いだったし・・」
「タクムもあの部活辞めちゃえば?」
「でも、教頭先生は許してくれないと思いますよ・・
特にこの部には敵対心があるから・・」
「あ・・
あの・・
教頭ね・・・確かに・・」
夏休みの合宿所の除霊の件を思い出す先生。
校長先生の後見の元、除霊を認めてはもらったものの、教頭先生に関しては、認めてはいないという事だ。
「霊」の世界を科学的に研究するスタンスの教頭先生やオカルト研究会にしてみれば、さっきの先輩の意見の通り、非科学的な方法で「鎮める」という行為自体が理解できないし、そんな部活が認められることも許せるものでもない。
「雨宮先生は居ますか?」
その言葉に、振り向く一同・・
話題の先輩が、音楽室の入り口に立っていた・・
噂をすれば影??
彼女と千佳ちゃんは、少し、表情を硬くした。
「ヒロシ君の様子は・・どうですか?」
先輩の方へと歩いていく先生。
「部長さんは意識が戻りました。
保健室で診てもらってます・・」
「そう!・・良かった!」
音楽室の中をちらっと覗き込む先輩・・
拓夢君がまだ居るのを確認する。
少し、分が悪そうな拓夢君。
「あの・・
保健の先生が、用があるって・・
言ってました。」
「あ・・分かりました・・
後で行きます・・」
先輩の報告に答える先生。
「それから・・・」
「?」
彼女を見る先輩・・
二人の視線が合う・・・
「いえ、
何でもありません・・
失礼します!」
そう言って、先輩は、足早に去って行った・・・
先輩が帰っていくのを見送る先生。
さっきと感じが違っているのに、ちょっと疑問を感じたが、今はそれどころではない・・
皆の集まっている場所へ戻る。
「ヒロシ君、気が付いたって!」
「良かったね!ミナちゃん!」
「うん!」
「良かったですね!部長さん・・」
「さて・・部長も無事だって事だし、作戦会議をしますか!」
拓夢君が提案する。
「作戦会議?」
「はい・・これを見てください!」
拓夢君がピアノの上にノートパソコンを開いている。
「ナニナニ? 童子四天王?」
千佳ちゃんが画面を覗き込む。
「童子四天王について調べてみたんです。」
「童子って、さっきの悪霊?」
拓夢君の隣で沙希ちゃんが質問する。
「うん。もう僕たちは2体の童子を鎮めているんだ。」
「そ、そうなの?」
「そうよ!すごいでしょう?」
沙希ちゃんと拓夢君の間に割り込む千佳ちゃん。
二人の目が合う・・
「童子四天王と呼ばれているのは、
熊童子、虎熊童子、星熊童子、鉦熊童子だよ。」
パソコンの画面に文字のみの表示が映し出される。
熊童子は合宿所で、虎熊童子はこの音楽室で僕たちゴーストバスター部が退治した。
星熊童子は、先ほど遭遇し、鉦熊童子は先生のコンクールの時、彼女を奇襲し、その2体がまだ僕たちを狙っているはずだ・・
「この鉦熊童子って、この間、私と戦った相手だよ!」
「え?ミナちゃん、狙われたの?」
「うん・・翔子ちゃんが来なかったら、やられてたカモ・・」
「この鉦熊童子って、一番手ごわいと思いますよ!
四天王の中でも統率力を持っているんです。
さっきの星熊童子も知略に富んだ参謀的な存在だって・・」
「この間の敵よりも更に強いってワケね・・」
「力だけでなく、頭脳とチームワークで挑んでくるのか・・」
「さっきの星熊童子は策略家ですよ。さっきのはほんの様子見だったのかも・・」
「そうか・・・みんな気をつけないとね・・」
「私とミナちゃんとタクムは、霊感あるけど、先生と沙希ちゃんは無いしね・・」
「なるべく、一緒に行動するようにする?」
「私は、ヒロシ君と一緒だね!」
「ハイハイ・・あんた達には、いい機会ですよ!」
「帰りは、先生とヒロシ君で一緒に帰るわ!」
「いざとなれば翔子ちゃんも来てくれるしね~」
「あの・・翔子ちゃんって?」
沙希ちゃんが訊ねた。
「先生の娘さんなの・・もう死んでるけど、あの世から助けに来てくれるんだよ!」
「え????それって・・幽霊って事ですか?」
「そうね・・幽霊なのかな・・見た事ないけど・・」
先生は、亡くなってからは翔子ちゃんの姿を見たことが無い。
霊感ケータイを僕から借りている時は、声だけだったという。
カメラで映せば、姿も見れたのに・・
もったいない話なのだ・・
「何か・・この部活って・・凄い事になってるんですね・・
あ・・私は・・・タクム君と一緒が・・いいです・・・」
「う!そうくるか・・・クラスも一緒だし・・」
「帰り道も一緒ですよ~」
楽しそうな沙希ちゃんを、羨ましそうに見る千佳ちゃん・・
「や・・やっぱり、
タクム・・危ないかも・・」
「僕は、大丈夫だよ。
帰りも眼鏡して帰るから・・
沙希ちゃんを家まで送ってくよ・・」
「いや・・そうじゃなくて、
あんたが危ないのよ・・・」
「え?」
「千佳ちゃんは私とクラス一緒だし、
帰りも、一緒に帰ろうよ!」
彼女が千佳ちゃんに話しかける。
「そ・・そうだね・・」
「何か・・嫌・・?」
「いや・・!そんな事ないよ!
仕方ない・・一人の時はポケベルのスイッチ入れっぱなしにしておくか~」
「ポケベル?」
沙希ちゃんが質問する。
「うん、これだよ!」
腰のポケットからポケベルを取り出す千佳ちゃん。
このポケベルは、霊のメッセージを受け取る事ができるが、霊感のある人しか使えない。
「何か、皆さん、
それぞれ不思議な道具を持ってるんですね・・」
「僕には、サスマタっていう武器もあるんだよ」
音楽室の片隅のロッカーの中に、サスマタがしまってある。
「家も危ないんじゃないんですか?」
「あ、私が皆の家の敷地に結界を張るわ!」
「結界?」
「ここもそうだけど、結界を張っておけば、ある程度の霊は近づけないのよ・・」
彼女が各家に結界を張れば安心といったところか・・
それぞれ、登下校の時のパートナー、学校や家で注意すべきことを確認し合った。
視聴覚準備室
未来先輩が、自分の部活に戻ってきた。
オカルト研究会の部室として使われている視聴覚準備室。
その部屋の真ん中で机が寄せられ、5~6人の生徒が集まって何やら会議をしているようだった。
「ただ今、戻りました・・」
「副部長!良い所へ!待ってましたよ・・」
部員の一人が先輩に声をかけてきた。
「え?どうかしたの?」
「作戦会議ですよ!」
「作戦会議?
何の?」
「ゴーストバスター部との対決です!」
「対決・・・」
「霊感ケータイってアプリ、作ってみたんです!」
「そんなのできたんだ・・」
「見てみてください!」
先輩に、携帯電話が手渡される。
ピ・ピ・・
渡された携帯を操作してアプリを作動させる先輩。
『霊感ケータイ・アプリ』
そのアプリを開いたら、背面にあるカメラからの映像が画面に映し出された。
「何も変わらないけど、どうなるの?」
「ちょっと廻りを見てみてください。」
携帯電話を持って、そのままぐるっと回ってみる。窓の方を見たとき、見慣れないモノが写っているのに気づく・・
「あれ?」
「見えました?」
通り過ぎた場所を、もう一度見てみると、そこに人影らしきモノが見えた。
窓の脇にたたずむ人影・・
CGで描かれた人影は、カメラが動くと位置が固定されているらしく、背景と共に動いていく。
当然、携帯の画像から目を離すと、その場所には何もない・・
「まだ、この部屋のデータしか入っていないんですが、校舎まで広げてみる予定です。」
「影は動かないの?」
「携帯のアプリですから・・限界がありますよ・・」
中学生で、携帯アプリが作れる事自体、凄いと思うのだけれど、それに注文をつける先輩も凄い・・
「サーバー経由でCG処理すれば、リアルタイムでもっとダイナミックな世界が作れそうなんです。」
「でも、そんなプログラム書けるの?」
「僕には限界がありますよ。
でも、最近、知り合ったフリーの人は凄い腕を持ってるみたいなんです。」
「フリーのプログラマー?」
「SNSゲームとか手掛けた事があるって・・
元は大きな会社に居たみたいなんですが・・」
「ウチの部活のサーバーを貸してもらえれば、基本モジュールから入れてくれるって言ってきてるんです。」
「そんな・・
経費は?
部活の活動費、そんなに無いのよ!」
いくら教頭先生がバックに居るといっても、部費で出せる金額にも限界はあるだろう。
プロのプログラマーに依頼すればあっという間に数十万の世界である。
「他に開発したいゲームもがあるから、タダでやってくれるって・・」
「SNSゲームの基本モジュールも入れてもらえるみたいですよ。
学校内で色んな事ができますね~」
「何か、楽しそうで・・その人・・」
「それは・・」
先輩は少し不安だった。
セキュリティーの問題や、このサーバーは他のOBや研究機関とリンクもしている。
「この件は、少し、考えさせて・・
部長や教頭先生にも相談しなくちゃならないし・・」
「わかりました。」
「じゃあ、次の話題に入りますか~」
次の話題は、校舎に噂されている心霊現象の話だった。
先輩は、その話を聞きながら、先ほど起きた一連の事件を振り返っていた。
ゴーストバスター部では、既に校舎内の地縛霊の位置を掴んでいることは拓夢君から聞いている。
さらに悪霊が徘徊しているという事も周知され、対策も練られ、対抗手段もあった・・
それに比べて、科学的探究意識が強く、学力も高いメンバー・・携帯アプリも作れるレベルの頭脳を持つ面々ではあったが、実際に行われている調査や成果物は、ゴーストバスター部の足元にも及ばない・・
この活動の存在自体・・
疑問に思い始めていた・・
そして・・
悪霊との対決で、自分を守ってくれた・・
ゴーストバスター部の部長の行動・・
敵であるはずの人物が、自分を助けた事・・
そんな人を部長で適任ではないと指摘した事・・
本当に部長としての才覚が無いのか・・
---悪霊を前に、敵も味方も無いですよ・・---
脳裏によぎる・・・
自分の身を削ってまで他人を救おうとする姿勢・・
そんな人に会ったことも無かった・・
保健室で、自分の取った行動・・
今までのどの感覚とも違う・・
初めての感覚・・
これって・・・
「副部長!どうしたんですか?」
「え?」
「ぼうっと窓の外ばっかり見て・・」
「あ・・ごめんなさい・・考え事して・・」
「副部長でも、悩む様な重大な事があるんですか?」
「そ・・そういうわけじゃ・・
ないんだけど・・」
「あ!
じゃあ・・あれですか?」
眼鏡を掛けた女子の部員がたずねる。
「あれ?」
「好きな人でもできたとか?」
「え!?副部長殿が?」
「副部長さんだと、かなりハードル高いと思いますよ!」
「部長や生徒会クラスでないとね~」
からかわれて、少し顔を赤らめた先輩・・
「そんなんじゃ・・
無いわよ・・
そういえば、部長は何処へ行ったの?」
先輩が、話をそらす。
「あ・・教頭先生と一緒に用があるって・・」
「用事?」
「その間、会議を開いててくれって言われたんです。」
「そう・・
じゃあ、会議を続けましょうか・・」
「はい」
先ほどの携帯電話をいじりながら、会議に半分意識を傾け、半分は物想いにふける先輩だった・・
ゴーストバスター部とオカルト研究会・・
水と油の様な二つの部活が・・
この学校を舞台に、対決する事件が始まろうとしていた・・




