12.三つ巴
拓夢君と沙希ちゃんが、音楽室へと向かおうとした時、
「タクム~」
聞き覚えのある声が聞こえた。
3日ぶりに聞く、懐かしい声・・・
「お姉ちゃん!!!」
笑顔の千佳ちゃんの姿があった・・
拓夢君も喜びを隠せない。ちょっと涙が出てる?
「お・・おねえちゃん???」
沙希ちゃんが、驚いている。
確かに・・噂では、ゴーストバスター部に、学校限定のお姉ちゃん代わりの2年生が居るって聞いてはいたらしいけど・・・
拓夢君の隣に居る沙希ちゃんに気付いた千佳ちゃん。
ちょっと、表情が重くなる。
沙希ちゃんも、いきなり現れた千佳ちゃんに、ちょっと難色を示している。
「この子・・・誰?」
千佳ちゃんが、拓夢君にとっさに聞いてきた。
「え?同じグループで一緒になった沙希ちゃんだよ!」
「1年1組の相沢沙紀です・・」
ペコリとおじぎをする沙希ちゃん。
かわいらしい仕草だ。
「2年2組の宮脇千佳です。」
千佳ちゃんはお姉さんといった感じで、挨拶をした。
そして・・・
顔を見合わせる
千佳ちゃん・・・
沙希ちゃん・・・
沈黙・・・
「?」
拓夢君はきょとんとして、何が起きているのか分からなかった。
とりあえず、研修で起こった事を報告する拓夢君。
「お姉ちゃん!合宿所で、座敷童見たんだよ!」
「座敷童?」
「うん。あやめちゃんって・・子だったんだけど・・・」
「はい。一緒に見ました」
沙希ちゃんが話に入ると、
「一緒!?・・・」
その『一緒』という単語に反応した千佳ちゃん・・・・
「タクム君、私の事守ってくれたんですよ!」
笑みを浮かべて話す沙希ちゃん。
一歩先を行ったという感じだ。
「守って・・・・!」
「ちょっと、来な!」
「あ、お姉ちゃん!何??」
そのまま、千佳ちゃんに手を引っ張られて行く拓夢君。
ちょっと離れた所で羽交い絞めされている。
「タ~ク~ム~???」
「は・・はい・・!
い・・痛いよ~!!」
「あの子は何~???」
「何って・・・・一緒のグループで・・・」
「一緒~って!どこまで一緒なのよ~??」
「え~?炊事とか~
食事とか~
オリエンテーリングとか~
キャンプファイヤーとか~」
「守ったって、何よ~??」
「あ・・・座敷童から~・・
でも、仲良くなったんだよ!」
「仲良く~???
誰と~???」
「座敷童と~・・
あやめちゃんって言うんだけど~・・」
沙希ちゃんが、心配になって拓夢君達を見に来た。
「あの!
お姉さん!
タクム君が壊れます!」
必死に止めに入る沙希ちゃん。
「何~???
あんたにお姉さんって呼ばれる筋合いは無い~~!!!
・・っは?」
我に返って、拓夢君を解放した千佳ちゃん・・
「あはは!
私とした事が・・」
「はぁ・はぁ・・
うう・・痛いよ・・お姉ちゃん・・」
「仲が良いんですね・・・」
微笑んで二人を見ている沙希ちゃん。
「うん。僕とお姉ちゃんは、学校では姉弟なんだ!」
「ふ~ん・・
姉弟なんだ・・・」
「何??どうかした?」
拓夢君が聞く。
「あ、いいなって思って・・・
私、兄弟いないから・・」
つぶやいている沙希ちゃんを見つめていた千佳ちゃん。
「そっか・・沙希ちゃんも、私と同じなんだね・・」
「え?」
「私も、兄弟いないんだ!」
バシ!
「ふふふ!楽しいよ~こいついじってると~」
再び拓夢君をつるしあげる、千佳ちゃん。
「うう!痛いって!!」
痛そうにしているが、半分、嬉しそうな表情の拓夢君。
その様子を羨ましそうに見ている沙希ちゃん。
「あ、沙希ちゃん、
ゴーストバスター部、見たいって!」
「え?」
「あ、はい。ちょっと興味が湧いてきて・・・」
ゴーストバスター部を見学したいと申し出ている沙希ちゃんに、
「この子、霊感はあるの?」
「う~ん・・・ないかな・・・」
沙希ちゃんをチラっと見る拓夢君・・
「わたし、あやめちゃんは見えたけど!」
座敷童を見たことを報告する沙希ちゃんだが、
「ああ・・あやめちゃんはサトシ君も見れたみたいだから・・・
完全な幽霊だったのかな・・」
完全な幽霊・・・そういう表現になるのか・・・
一口に「霊」と言っても、色んな種類があるようだ。
俗にいう幽霊は万人に見れる存在なのだろう。
波長さえ合えば、誰でも見れるのが幽霊と定義されているらしい。
お岩さんとか、座敷童に関しては、ほぼ全ての人が見れる。
こういった「幽霊」は「念」が強く、生きている人間と変わりなく、見る事ができるのだろうか・・・
それに対して、「霊感」を持っている人にしか見えない「霊」である。
彼女や千佳ちゃん、拓夢君はレベルが違えさえすれど、その存在を感じることが出来る。
僕は霊感ケータイを使わなければ見れない「霊」がそれに当たり、殆どはこちらなのだ。
翔子ちゃんは、「幽霊」と言っていたけれど、実際には「霊」なのだ・・
「そっか・・・霊感ケータイは使うの大変だしね~ あれはヒロシ君専用だし・・」
「え?れーかんけーたい?」
沙希ちゃんが質問をしている。
「ああ・・部長が持ってる携帯電話なんだ。
霊感が無くっても、霊と交信できるんだよ。」
「そ・・そんなのが、あるんですか?」
「すごいでしょ?」
半分信じられない沙希ちゃんだが、拓夢君と付き合っていて、そういう物もありそうだと、ますます興味が湧いてくるのだった。
「じゃあ~見学してみる?」
「うん!」
拓夢君が見学に誘うと、何の抵抗もなしに承諾した沙希ちゃん。
「え?来るの??」
千佳ちゃんは、少し難色を示していた。
見学・・・
いったい何を見学するのだろうか・・・
拓夢君は、相変わらず脳天気に沙希ちゃんを誘っているけど、密かに千佳ちゃんと沙希ちゃんの間には、拓夢君を争奪する意欲が芽生えていた。
この二人・・
嵐の予感が・・・
結局、源さんを迎えに行く話はどうなったんだろう?
音楽室
僕と彼女、先生の三人でピアノを囲んで話している。
「千佳ちゃん、一目散に飛んでったわね・・」
「3日も会ってないんですから~寂しかったろうな・・」
正確には、2日半なんだけど・・
「そうね・・何か、気持ちここに在らずって感じだったわね・・
望月さんも、ヒロシ君と2日も会わなければ、ああなるかもよ!」
「え~?2日も~???
それ地獄ですよ~!!」
地獄・・
彼女にそこまで言ってもらえるのも嬉しいものだ。
千佳ちゃんも、その地獄を味わって、今頃は天にも昇る気分になっているのだろうか?
「先生、毎日ヒロシ君と一緒で羨ましい~」
「あはは・・そうでしょう~?」
それは、いったいどういう意味なんだろう?
「あ~・・この3人、
いずれは同じ屋根の下に住むんでしょうか~?」
「え?」
「そ・・そうね・・・」
僕が赤面しているのを、二人で見て笑っている。
かなり、話が飛んでいるような気がするのだけど・・
「ただ今~」
そこへ、千佳ちゃん達が帰って来た。
「あ、千佳ちゃん帰って来た!」
「ただ今、帰りました!」
「お帰り、拓夢君!」
「あれ?その子は?」
僕が拓夢君の隣にいる子を見つける。
小柄な、かわいらしい子。ちょっと恥ずかしいそうな様子だ。
「あ、沙希ちゃんです。
研修旅行で一緒のグループだったんです。」
「1年1組の相沢沙希です。」
ペコリとお辞儀をする沙希ちゃん。
「ゴーストバスター部を見学したいんだって・・・」
千佳ちゃんが、少し嫌そうな顔で、そっぽを向いて紹介している。
「はい!拓夢君と『一緒に』居たら、ちょっと興味が出て・・」
沙希ちゃんは、『一緒』というのを妙に強調している。
何だか、この二人・・変な空気が漂てるぞ~
とりあえず、自己紹介をしなければならない・・
「僕が、部長のヒロシです!」
「私が、副部長の望月です!」
「顧問の、雨宮です!」
一通り、紹介が終わり、これから何を説明しようかと思った時・・・・
「拓夢!あんた、こんな所にいたの?」
その声に一同が振り向くと・・・
音楽室の入り口に一人の女生徒が腕組みをして立っていた。
眼鏡をかけて、如何にも勉強ができるタイプといった、大人しそうな感じの上級生。
中学生にしては美人なのだ・・
「お、お姉ちゃん・・・?!」
拓夢君が叫ぶ。
「おねえちゃん~???」
一同があっけに取られている。
拓夢君も眼鏡を外してコンタクトにしたら、美少年だった・・
そのお姉さんも、やはり美少女・・
というか、美人の部類に入る・・
「あなたは・・もしや!」
先生が聞き覚えがある様子で彼女に尋ねた。
知っているのだろうか?有名な人なの???
「私は、水島 未来・・
拓夢の姉です。」
「未来さん・・・って!
・・オカルト研究会の?」
驚いた様子で、聞き返している先生。
「はい・・副部長を務めてます。」
「頭脳明晰、成績優秀の?
学校でも3本の指に入るっていう?」
「はい・・・そうですけど・・・」
先生が素性を説明している。
それをあっさり認めている辺り、本物なのだろう・・
先生と千佳ちゃん、彼女が集まって、どう対処するのか作戦会議をしている。
「どうします?先生・・」
「私、あんなに自信のありそうな人・・
顧問になったことないから・・」
「見るからにエリートですよね・・」
「成績が落第スレスレな人を担当するのが私の役目みたいだったから・・」
「トップクラスは教頭先生の担当ですか・・」
「いわゆる暗黙の了解ってやつですね・・」
「噂によると、3組は成績が悪い人たちを集めたって・・・
ヒロシくんとか良い例ですよね・・・」
「それ、どういう意味よ!千佳ちゃん~!!」
彼女が聞き返すが、あっさりスルーされた。
「その噂・・聞いたことある!」
「やっぱり、ホントの話っぽいですよね・・」
「ああ・・私って不幸・・」
「い・・今はそういう事話してる場合じゃないんですが!」
話が反れているのを指摘する彼女。
「私・・あ~いうタイプ・・苦手カモ・・」
「先生!生徒を選ぶんですか?」
「だって~」
「ああ・・あんな人と毎日顔を会わせて生きていくなんて・・」
「拓夢君のお嫁さんは大変よね~」
「それは、まだ早いと思いますが・・!」
僕と拓夢君、沙希ちゃん、そして未来先輩が、その会話を聞いていた。
どうでもいい事を話しているようにしか聞こえない・・・・
未来先輩も、その様子をヒンシュクの目で見つめている。
「お姉ちゃん、何しに来たの?」
拓夢君が直に聞いている。
「あなたが最近、ゴーストバスター部に入り浸っているって噂・・
気になったから覗いてみたのよ・・」
「それって・・・」
「あなた、こんな人達と付き合ってたの?」
その・・『こんな人』に反応した先生と千佳ちゃん・・・
「それは、聞き捨てなりません!」
「私たちを『こんな人』でかたずけてもらっちゃ~引き下がれないわよ!」
「私は、別にいいんだけど・・」
彼女がポツリと言う。
「良くない!!」
先生と千佳ちゃん。
「はい・・・」
圧倒され、縮まっている彼女・・
「あなたたち・・掛け合い漫才でもしてるの?」
「これもレッキとしたコミュニケーションよ!」
「コミュニケーション?・・・」
「拓夢君はこういう雰囲気がいいんだって!」
「こんなバカ騒ぎするのが良いの?」
「バカ~???」
女子から総スカンを喰らう未来先輩・・
さすがに三人を敵に回したようだった・・
「いずれにせよ、拓夢は私の方の部活の部員なんです。
これ以上、あなた達に関わらせておくわけにはいかないわ!」
「お姉ちゃん・・」
「拓夢君は、ここが良いって、自ら来ているのよ・・」
先生が反論しだす。
「それに・・ウチの部をスパイさせていたんじゃないんですか?拓夢君に・・」
千佳ちゃんも反論する。
女の子三人・・・
もとい・・・女の子2人と大人の女性1人の言い争い??
「おねえちゃん・・」
拓夢君も心配そうに千佳ちゃんを見ている・・
「そうよ!この部が嘘くさい、
ペテンな部活だって、証明したいのよ!」
きっぱりと言い切る未来先輩。
「ペテンーーーーー????」
「私たちのどこがペテンなのよ~!!」
「そうよ!合宿所の除霊をしたのは、私達よ~!」
ありゃりゃ~・・さらに総スカンくらってますよ・・
「除霊?
そんな・・非・科学的な!」
毅然とした態度で反論する未来先輩。
「非・科学的~???」
「霊の世界に、科学も無いよ~!」
霊の世界と、科学・・どんな結びつきがあるというのだろう・・・
除霊を行う時など、憑依された人の頭に電極を付けた状態で、心電図や脳波を測定して、除霊前と後でどのような変化があったのかを調べるドキュメンタリー番組があったっけ・・・
あと、人魂はプラズマ現象とか、色んな霊的だと言われる現象を科学的な見地から探るという、本当なのか嘘なのか分からないような研究もされている・・
ニアデス体験も、生死の境の極限状態で脳の見せる映像であるとか・・
いずれも、「こうだ」っていう研究成果はない。
「教頭先生や私達は、科学的に霊の世界を追及しているのよ!
言葉だけとか『見た』とか『感じる』とか、訳のわからないモノで表現するから、
世の中からペテン呼ばわりされるのよ!」
「だって、未来先輩だって・・・霊感があるって!!」
千佳ちゃんが噂に聞いていた事、拓夢君から聞いていた事を思い出す・・
「霊感・・?」
その言葉に、今まで威勢の良かった先輩が言葉を失う・・
「噂だと、拓夢君より霊感があるって話ですよね!」
千佳ちゃんが、今度は威勢よく話し出す。
「お姉ちゃん・・」
「そんなの・・・忘れたわ・・・」
千佳ちゃんが、胸元から霊感眼鏡を取り出す。
「じゃあ、この眼鏡を掛けて下さい!」
「な・・何?・・・」
「この眼鏡は、霊感を増幅して、霊視能力を高めるんです!」
眼鏡を片手で突き出し、未来先輩に迫る千佳ちゃん。
「拓夢君は、オーラが見えました!」
「オーラ?」
「はい。人の周りにあるオーラです!」
先輩は、拓夢君の報告で既に聞いていた。
霊感眼鏡を掛けると、霊力が増幅されるという事を・・
自分が掛ければ、拓夢君以上にオーラが見えるのだろうと・・
「そ・・そんなの・・・でたらめな・・」
突き出された眼鏡に、少し後ずさりする未来先輩・・
千佳ちゃんが更に迫る。
「どうしたんですか?嘘だと思うなら、掛けてみたらどうですか?」
うう・・千佳ちゃん・・先輩を追い詰めている・・
つ・・強いな~千佳ちゃん。
まるで、嫁と小姑の戦い?
千佳ちゃんが拓夢君と結婚したら、頼りになるお嫁さんになるんだろうな~
その様子を皆が見守る・・・
ちらっと廻りを見てから、先輩が決断する・・
「わ・・わかったわよ!」
ぱしっと眼鏡を受け取る先輩。
自分の掛けていた眼鏡を外す・・
美人だ・・・
はっ?僕は何を考えているのだ?
確かに、拓夢君と同じく、美形なお姉さん・・
僕の周りには、彼女もそうだけど、眼鏡を取ったら、意外に美人の人が多い??
そんな話はさて置き、霊感眼鏡を恐る恐る掛ける先輩・・
度が入っていないので、像がボケている。
少し、薄目にして、凝らして見ると・・
「え?」
少し、驚いている先輩・・
廻りにいる僕達の姿。その巡らに色とりどりの光がまとわり付いているのが見えた・・
拓夢君が見るよりも更に鮮明で、色が鮮やかなのだ。
辺りを見回す先輩・・
「な・・・何?・・
これ・・・」
眼鏡を外してみると、そこには今まで見ていたオーラが、全く見えない。
再度、着けると、見える・・
眼鏡に仕掛けが無いのか、眺めまわす先輩。
どう見ても、普通の眼鏡にしか見えない。
「ね!見えるでしょ?」
「へ・・偏光グラスなんじゃ、ないでしょうね!?」
「まだ、疑いますか~・・」
辺りを見る・・きょとんと不思議そうにしている沙希ちゃんが眼に入る。
「沙希・・ちゃん・・だったよね・・」
「あ・・はい・・」
「これ、掛けてみて!」
先輩から受け取った霊感眼鏡を、沙希ちゃんに渡す・・
眼鏡を掛けてみる沙希ちゃん・・
「普通の眼鏡なんじゃないですか?何も変わらないですよ!」
「色とか・・見えないの?」
「お姉ちゃん・・・ホントの事なんだよ!
お姉ちゃんの方が僕よりも綺麗に見えたでしょ?」
「そんなの・・・アンタもグルなんじゃないでしょうね!?」
「え?私は、今、見学に来たばかりです・・・
あ、そう言えば、拓夢君から『霊感ケータイ』っていう不思議な携帯電話があるって・・」
「霊感ケータイ・・・」
「うん、持ってるよ!これでしょ?」
僕が霊感ケータイを上着の内ポケットから出して見せる。




