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霊感ケータイ  作者: リッキー
謎の少女
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九. 雨宮先生

次の日の月曜の朝、教室では例の猫騒動の女子生徒と除霊の話題一色だった。

僕がロッカーに隠れていたことも、当然、ばれている。

さすがに、昨日、彼女とデートにつき合わされていたことはバレてなかったが・・


友人達が僕の机の前に座って話しかけてくる。


「ロッカーで何やってたんだよ~・」


「へ?なんでもないよ・・」


「災難だったな~!

 あの娘、ちょっと変わってるからな~。

 弱みにぎられちまったな~」


「で、どうだった?」


「どうだったって、何が?」


「除霊の様子は・・?」


「ネコだったって、

 女子が言ってたぜ・・」


あちらのほうでも、女子が集まって、同じような話題で盛り上がっている。

僕としては、こういう状況のほうが災難に思えてならない。


 「あ、先生来たぞ~!」


一人の男子生徒の声とともに、それまでにぎやかだった声がぴたっと止まる。

急いで席に戻る生徒たち・・

すらりと伸びた髪のりりしい女の人の姿が教室に入ってくる。



 雨宮先生・・


うちのクラスの担任だが、全校男子生徒の憧れの的である。


 いかにも大人の女性・・


って感じで、他の女子生徒とは色気というかが全然違うのだ。

男としての動物的本能がくすぐられるとでも言うのか・・

しかも音楽担当でピアノが上手い。

市内のコンサートでも1・2を争うくらいの美人ピアニストで名が売れている。


かと言って、女子が敵に廻るくらい嫉妬しているのかと言えば、逆で、女子にも人気があるのだ。

親しく話してくれる先生がみんな好きなのだ。


「起立~!礼~!」


「おはようございま~す」


「おはようございます」


ペコリとお辞儀をする姿も、可愛さがある。


「着席~」


皆が椅子に座るのを確かめると、その視線がキッとなった。



「先週、このクラスで色々と問題が出たようです。

 これ、やってた子は立ちなさい!」

キューピットさんだ。


あいうえおの文字とハートの模様が書かれた大きな紙を取り出して、クラス全員に尋ねている。

まるで水を打ったようにシーンと静まり返った教室。

怒った先生も、それはそれなりに色気がある。


数名の女子生徒が、すごすごと立ち上がった・・

この間、除霊に立ち会った子たちだ。

先生が睨み(にらみ)つけている。

ほんの数秒なのだが、長い時間に思えた。


何を言われるのか不安そうに立ちつくしている女子たち・・


「興味本位で、こういうことをしないように!

 以後気をつけて下さい。」


「はい」


反省しているところを見定めると、にこっとして・・


「よろしい。

 では、授業に入りましょう」


う~ん、こういうメリハリのあるところが良いのだな・・

女子もこれで当分は興味本位の儀式に手を出さないだろう。

何しろ、痛い目にあっているのだから・・


それにしても、彼女が居なかったら、どうなっていたのだろう?

身を削って除霊した彼女は尊敬に値すると思うのだけれど・・

そういった方向には、なかなか話が行かないのが、中学生の悪いところであり、良いところでもある。



昼休み、


僕は次の授業の準備で音楽室へ向かっていた。

音楽室は教室のある校舎と別棟の最上階の3階にある。

階段を登っていくと、ピアノの音が聞こえてきた。


  雨宮先生か・・


音楽室の戸を開ける。

部屋の中央に置かれたグランド・ピアノに座る先生と、それを脇で見ている一人の女子生徒の姿があった。


あれ?


彼女だ・・・


メガネをかけて、ポニーテール姿。


学校では相変わらず冴えない姿・・


彼女がこちらに気づいた。


「あ、

 ヒロシくん。

 昨日はありがとう」


「うん」


何で、ここに居るんだろう?

先生も気づいて、ピアノが止まる。



「先生、

 準備、

 何をすればいいでしょうか?」


「準備室から楽譜を出してきてくれる?」


「はい」


準備室へ向かおうとしたら、彼女が先生に向かって話し出す。


「先生、

 私にいい助手ができたんですよ~。」


「へ~

 ヒロシくんが助手なんだ。

 いいな~。」


「へ?オレ?」


「昨日も、大活躍だったんですよ~。」


「ふ~ん・・

 先生も観てみたかったなぁ」



二人の前で赤面する僕、

いつの間にか、助手ですか・・


それにしても、


和気藹々とした、二人の関係・・

何なんだ?



「この間、教務室の除霊してくれて助かったわ。

 はい、これ・・」


差し出された箱の中に、別府名物の温泉饅頭が、ぎっしり・・・


「あ、ありがとうございます~

 こ、これは絶品!」


「叔父が九州に住んでいるの。

 送ってもらってて時間がかかったけど・・」


今にも喰らいつきそうな勢いだ。

彼女が居たのは、これですか・・・


除霊のお礼の品を受け取りに来ていたらしい。

教室で噂になっていた教務室の足音を聞いたっていう女の先生って雨宮先生だったようだ。


「まだまだ、この学校には、色々と居るみたいなので、気をつけたほうがいいですよ!」


「まァ、怖い!

 でも、二人が居れば安心ね!

 頼りにしてるよ!」


僕達、ゴーストバスターズになったのか??


再び、先生がピアノに向かって、ポツリと言った。


「ねえ、望月さん。

 脳死状態の人の魂って、どこに居るのかな・・」


「先生の娘さんのことですか?」


それは初耳だ。

先生は独身だと思っていたのだけれど、小学校5年生の娘さんがいるという・・


僕達より3歳くらい年下なのだそうだ。

そんな子供がいたなんて・・・


旦那さんに、若いうちに先立たれ、一人でその子の世話をしているという話だ。

学校が終わると、ほとんど毎日、病院へ泊まりに行くらしい。


「私は、霊感はあるけれど、

 そこまでは分りません。」


「そうよね・・」


「でも、調べてみます。

 じゃあ・・」

ペコリと挨拶して、音楽室を出て行く彼女・・

その後姿は温泉饅頭を頂戴してうれしそうだ。


僕も、はっとして仕事に戻る。


ピアノの音が流れ始める・・



 シューベルト作曲


 Op.1 D.328

 魔王

(リスト編曲ピアノ独奏)



複雑な思いを秘めたような激しくも悲しげなメロディー、

先生の心を表しているかのよう・・


人生、色々だ・・

雨宮先生にも抱えている悩みがあるんだ・・


でも

彼女・・

何を調べるつもりなんだろう?


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