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双禍の朝廷  作者: 借屍還魂
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頓家の指南書

 朱修容が仕切り直してからというものの、私は、徐々に追い詰められていた。勿論、私は態度を変えたりしていない。だというのに追い詰められている理由は、朱将軍がお見合いだと認識してからは、積極的に会話を膨らませてきたからである。

「読書がお好きなのですね」

「……ええ。朱将軍は読書はされますか?」

 先程まで、趣味を話しても読書と鍛錬で一致しない。そして次の話題へと移行していたはずが、読書が好きなのですね、と言われてしまっては一応相手にも聞かない訳にはいかない。此処で読書をしない、と言ってくれれば楽だったがそれなら最初から読書について聞いてこないだろう。

「そこまで読書家と言う訳ではありませんが、職業柄戦術書は読み込んでいますよ」

「戦術書ですか、私はこちらの戦術書が好きなのですが、読んだことはありますか?」

 こちらの趣味と言ってしまっているので、本の話題が続く限り喋らないのは不自然だ。相手の話題から逸らしすぎない程度に、会話に付いてこれなくするのが一番だろうと判断し、二冊の本を差し出す。

「……これは、初めて見ました。戦術書は数・量共に相当読んでいる自信があったのですが」

 それもそのはず。この本は、喰家の書庫の中でも特に貴重なものだ。大々的に発表されているものではなく、著者が直筆で書いたものしか残っていない。見たことがあるわけないのだ。

「やはり戦術の基礎としてはこちらが……」

「そうですね、この本に書かれている内容は、かなり局地的な戦術ですから……」

 とはいえ、流石は将軍職。見たことのない戦術書にめげることなく、冒頭部分に書かれている基本的な戦術の話題で繋げようとしてきた。そのめげない心は一体、何でできているのだろうか。一般的な良家のお姫様はこんな会話しないだろうな、と半ば現実逃避しながら無難な答えを返していく。

「……すみません、手水を借りてもよろしいでしょうか」

 戦術の話は大いに盛り上がり、最早模擬戦を脳内で繰り広げつつ話をしていると、朱修容は物凄く小さな声で尋ねてきた。すると、朱将軍も突然動きを止め、朱修容と一緒に立ち上がる。

「あ、申し訳ありません。私も……」

「ああ、どうぞどうぞ」

 雅亮兄さんが笑顔で言うと、二人は連れだって部屋から出ていく。正直、話が盛り上がりすぎて印象を薄めるどころか相性がいい、と思われそうだったので助かった。脳内でこれからのことを考えていると、黎明が急に手を打った。その瞬間、大きく息を吐いて足を崩す。

「疲れた……」

「なんなんだ朱兄妹あの切り替えは。厄介すぎるぞ」

 手を叩くのは、昔から気持ちを切り替えるためにする合図である。つまり、休憩しよ、という事だ。遠慮なく姿勢を崩し、疲れを口に出す。雅亮兄さんも流石に疲れていたようで、いつもなら絶対しないだろうに足を崩している。

「「で、何を仕込んだのか報告しなさい」」

「何の迷いもなく私が何かしら『盛った』って認識するんだねぇ」

 何度か深呼吸して、気が休まったところで黎明を問いただす。雅亮兄さんと同時になったのは偶然である。黎明は驚いた様子もなく、ただ私達が疑った理由を聞き返してくる。やはり何か仕込んでいたらしい。

「お前が何かしら盛ってないと、二人揃って用を足しに行かないだろう」

「信用なくなぁい!?」

「お前だからな」

「まあ、黎明だからね」

 黎明の事なので、面倒くさい相手に仕込むための薬くらいは持っていそうだな、と思った。そして将軍と妃嬪である二人が同時に席を離れれば疑いもするだろう。黎明は言い逃れする気はないようで、懐から小さな包みを取り出した。

「……なんだ、これは?」

「茶葉」

「茶葉?」

 包みを凝視したが、薬ではないらしい。茶葉の中に薬が混ぜてあるという訳でもなさそうだ。が、何故、今、茶葉が関係あるのだろうか。

「利尿作用の強い茶葉」

「え、そんな茶葉ないはずだけど」

 厨房に、そんなものは置いていないはずだ。お茶は基本的には自分が何時も呑む分と、雅亮兄さんのお気に入りの分、陛下が勝手に置いて帰った分と、来客用のある程度有名な茶葉しかない。静は私と同じ銘柄を飲むし、勝手に追加しない。

「いや?私が常日頃携帯してるだけ。長話したくない相手の撃退、および時間稼ぎ用」

「どこでそんな知識……というかお前常日頃後宮にいるだろう。いつ使うんだそんなの」

「後宮だからこそだよー?」

 いまいち理由がわからない。長話をしたくないのなら、適当に仕事とか理由を付けて退席すればいいだろう。態々、相手側に作用する薬が必要なのだろうか。証拠が残ると面倒ではなかろうか。

「……えーっと、後宮あるあるなんだけど。『ああこの人明らかに妨害か嫌がらせしに来てるなー』とか『絶対厄介事持ってきたなぁ』とかあるのね。そういう時にこれ使うのー。大体の妃嬪は今から用を足すって気付かれたくなくて、『急用ができた』とか言って帰っていくし、そうじゃなくても用を足してる間は時間稼ぎになるでしょー?特にこれ残尿感が物凄く残るようにしてある奴だからぁ。あ、安心してね。あくまで全部茶葉の効果だから足がつくこと無いよお」

「……一応聞こう。発案者は?」

「大大大大大大大おばさまー」

「頓家送電の茶葉か、通りで徹底的に性格の悪い」

「特にこういう緊張する場って喉乾くでしょー?皆、無意識のうちに結構お茶飲むから効果てきめんなんですよねえ」

 足がつかないのは安心だが、客人にそんな茶葉を出したと知られるのは不味いのでこの情報は隠しておくべきだろう。

「お前のそう言った時の嗅覚と判断力はつくづく頓家直系だと思わされるよ」

「お褒めに預かりー」

「そうだな」

 かなり手段が強引とはいえ、助かったのは事実。それにしても、やはり頓家は歴代皇后を排出してきただけあって、後宮の事や男関係のことに関しては手練手管が伝わっているようだ。私にも若干頓家の血が流れているが、その辺りは教わっていないのでここは正直に教えを乞うべきだろう。

「ねえ黎明、やっぱり頓家には恋愛や男性の扱い方の指南書ってあるんだよね」

「あるよー、ずばり『性格別☆男の転がし方』」

「なんだその直球すぎて馬鹿らしい題名は」

「名づけに関しての文句は最初のおばあさまに言ってー」

「初代皇后相手に言えるわけないだろ」

 題名は兎も角、初代皇后様の指南書ともなれば効果は有るだろう。私は、一縷の望みをかけて黎明に尋ねた。

「朱将軍みたいな男のあしらい方、書いてない?」

 これ以上、私だけで対応するのは無理である。


次回更新は12月27日17時予定です。

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